「え、触ってもいいんですかー?」
「おらも触るだどー。」 「ひいおじーちゃん!あたしも触りたーい!」 ここはポルナレフの亀の中。 さっきから中等部の子供たちと徐倫が老ジョセフを とりかこんでキャーキャー騒いでる。 なぜ老ジョセフがこんなにもてはやされているのかというと それは彼の顎に生えている立派なひげにあった。 <父とは、夫とは。>前編 「こらこら、慌てるんじゃない。一人づつ触るんじゃ。」 その姿を呆れながら承太郎は遠巻きにながめる。 「・・・っつたく・・・下らねーことで騒ぎやがって。」 その嫌味が聞こえたらしく、少しムッとしながら 徐倫は承太郎に抗議する。 「だってー父さん、いつも顎のお手入れはしてたし。 あたしお髭にモジャモジャされるの 憧れていたんだもん。それに父さんあんまり そういう可愛がり方してくれなかったでしょ。 クールぶっちゃってさ!」 「だからそんなこと言われても知らねーってーの。 ・・・やれやれだぜ。」 少し困っている承太郎を挑発するように 老ジョセフが調子に乗る。 「どれ、モジャモジャしてやろうかい?」 「やだーーー!でも・・どうしよっかな? やって貰おうかな?」 戸惑いながらちらちらと承太郎を見やる。 きっと父である彼の承諾を貰いたいのだろう。 そんな二人に承太郎は舌打ちをすると 付き合ってられないとばかりにその場を離れていった。 ふとそんな老ジョセフ達をずっと見つめている 少年の姿がふいに目に入る。 この少年はDIOの息子であるジョルノの友達、 確かナランチャといっただろうか。 何やら羨望のまなざしで向こうを伺っている。 承太郎はため息をつきながら少年に声をかける。 「おめーも、触りたきゃ頼みな、あのじじいは 断ったりしねーよ。」 「え!!ち・・・ちげーよ!別にそういう訳じゃ・・ 俺そんなにガキじゃないし!」 そう言いながらクールぶるが、明らかに強がりを 言っているのだろう、承太郎の言葉に動揺しているようだ。 「・・・・あそこにいる女はおめーよりも年上だ。 別にいいんじゃねーの?」 「そ・・・そう?で・・・でもよ、あのねーちゃん あのじ〜さんと繋がりあるんだろ?俺・・・他人だし。」 「仕方ねーな、おい爺!髭触りたい奴がここにもいるぞ、 来てやれや。」 承太郎が呼ぶと老ジョセフがほいほいといった感じでやってくる。 驚きふためくナランチャを軽くたたいて承太郎はその場を去った。 一方別の部屋から他の二人がその様子を見ながら会話をしていた。 「ははは、あの老人モテモテだな。」 「髭とかそんなにいいかね?俺判んねー。」 そう言いながら指をワキワキと動かしているジョセフを 見つめながらシーザーは必死に笑いをこらえる。 彼も内心はきっと触りたいのだろう。 しかしいい年をして良いガタイを した男が触らせてほしいなどと口が裂けても言えないのだろう。 シーザーからしたらジョセフもまだまだ子供なので 触らせてもらったからと別に軽蔑したりしないのだが、 本人がそう開き直らなければどうしようもない。 そう言えばジョセフの父親は彼が生まれた時には すでに他界してしまったと言っていた。 だから彼はきっと父親というものに強く憧れを抱いているのだろう。 自分も父が好きだったから憧れを抱くのはよく判る。 しかしこの意地っぱりをどうやって動かすか。 もし彼より年上の自分が触りたいといったらどうするだろう。 ぜひ反応を確かめてみたくてシーザーが提案する。 「俺は触ってみたいと思うな、少しだけ。 ついでだ、お前も触らせて貰ったらどうだ?」 「ええーー!お前が?絶対嘘だろ!」 「どうしてそう思うんだ?俺も親父にそういうこと してもらったことがないからな、憧れてるんだ。」 「ふーん・・・変な奴!」 口を尖らせながら、いかにも無関心を装うが 結局ジョセフは老いた自分の傍へシーザーと 一緒についていく。 老ジョセフもようやく二人に気が付いたのか 自らも進みより声をかける。 「なんじゃ、どうしたんじゃ?」 「あのよー、じーさん!シーザーが 髭を触りたいんだって!!ガキみたいな事 言って悪いけど触らせてやってくれねーか?」 シーザーが口を開く前にジョセフが勝手に 老いた自分に説明をする。 悪戯っぽく笑うジョセフにシーザーはやれやれとため息を つくと、苦笑いしながら「そうです」と頷いた。 だが老ジョセフはそれが嘘だという事は とっくに見抜いている。 何せ昔の自分の事だ、判らないはずがない。 老ジョセフは昔の自分に気を使ってくれるシーザーに 謝りながらもにこりと微笑む。 「勿論いいともさ。(くぉおおおーー!!この馬鹿が! シーザーに迷惑ばっかりかけおって!!)」 「どうもすいません、へぇ・・・初めて触るけど こういう感触なんですね・・・・いい体験を させて貰いました。有難うございます。」 「うむ、こんなものでよければいくらでも触ってくれ。 そっちの若いのもついでに触ったらどうじゃ?」 「え?俺・・・?俺は別にどっちでもいいんだけど・・・。」 若いジョセフはあくまで無関心を装うが シーザーが触っている時の彼の好奇心に満ちた瞳を 老いたジョセフが見逃すはずがない。 額に青筋を浮かべながらも「いいからさわれ」と 老ジョセフはしきりに催促をする。 「そこまで言うんなら・・・よっと!」 素直に撫でてるだけと思いきや、急にジョセフが その髭を引っ張る、その行動にシーザーは驚き 老ジョセフは思わず声をあげる。 「いち!!」 「へー結構しっかりくっついているんだな・・。」 「ば・・・馬鹿!!す・・・すいません! こいつがひどい事を!」 「いいんじゃよ、はッはッはッ! (すまん!!シーザー!すまん! こんなわしで本当に!!)」 ガミガミとシーザーが説教している中、ふと誰かの笑い声が 背後から聞こえてきたので振り向いてみると そこにはジョナサンがにこやかに微笑んでいた。 「ははは、人気だね、ジョセフの髭は。」 「じい様・・・見てたのか?いやいや 恥ずかしいのう・・・。」 ぼりぼりと頭をかきながら照れる老ジョセフの髭を ジョナサンも感心しながら眺める。 「恥ずかしいだなんて、そんな立派な髭を見たら 誰しも触りたくなるよ。」 「じい様は、その・・・父親に・・・。」 言いかけて老ジョセフは昔祖母のエリナに 教えられたことをふと思い出す。 ジョナサンの父はとても寛大な人間で ジョナサンの事を深く愛していたと言っていた。 しかしディオの手により殺され、ジョナサンとエリナとの結婚を 見守ることなくあの世へ行ってしまったという。 明らかに申し訳なさそうにしている 老ジョセフをジョナサンは笑顔で慰める。 「ありがとう、気を使ってくれて。 確かに父さんを無くしてしまったけど 幸せな思いではずっと胸に残っているから大丈夫だよ。 ただ、父さんはね、口ひげは生やしていたけど 顎髭は生やしていないんだ。だからちょっと僕も 髭ですりすりしてもらうのには憧れていたんだよ?」 フフフと照れ臭そうに笑うジョナサンを見て 老ジョセフはどうしても髭を触らせてみたくなる。 しかしジョナサンに触るように促すと やはり照れているのか慌てて首を振る。 「いいよいいよ、僕みたいないい大人が・・ 恥ずかしいよ。あ・・・・。」 ジョナサンが急に会話を止めたので誰かいるのかと思い 振り返るとそこにはジョルノが立っていた。 別にジョナサンと老ジョセフのやり取りを伺っていた という訳でなく、どうやらどちらかに用があるようだ。 「あ・・・すいません、お話の最中に。 終わってからで構いませんので、それじゃあ・・・。」 そう気まずそうに謝って向こうに行こうとする ジョルノを老ジョセフとジョナサンが引き止める。 そしてジョルノにどちらに何の用があるのかを尋ねる。 「はい、ジョセフさんの方にです。あの・・・僕の 仲間のナランチャがお世話になったみたいで 彼、とても喜んでました。有難うございます。」 ナランチャとはさっき承太郎に紹介された少年の事だ。 しかしそんな事くらいでわざわざ礼に来るなんて なんて礼儀正しいのだろう、昔の自分に比べたら 雲泥の差だ。そういえばこの少年はDIOの血もだが ジョナサンの血もひいているのだ。 多分礼儀正しいのはジョナサンの血のせいだろう。 それとも彼の親が立派だったのか。 何も知らない老ジョセフはついその事を口に出してしまう。 「君は立派じゃな、親御さんはさぞかし 礼儀正しいのじゃろうな。」 「え・・、・・ええ。」 質問を受けるジョルノの顔がわずかに曇る。 きっとDIOである父親の事で気まずくなっているのだと 老ジョセフは慌てて訂正する。 「いや、あのDIOは抜いての話じゃよ?」 「判っています、あの父は僕が生まれた時には もういませんでしたから。」 「じゃあ片親だけで・・お母さん大変だっただろうね。」 同じ思いをしたジョルノに同情してジョナサンもつい声をかける。 ジョナサンも片親だけで育ったので両親がいない切なさは判る。 ただ、ジョルノが愛されていたかどうかは当然判らなかった。 「母はそのあとすぐ再婚しています。」 「そうか、良かったね。新しいお父さんは・・・」 「・・・・・・。」 その質問に再度黙り込むジョルノを見て二人は察する。 どうやらこの話題にはあまり触れて欲しくないようだ。 ジョナサンが困っているとそこは年の功か老ジョセフが 見事に話題を切り替える。 「・・・・爺様、まあ人にはいろいろある。 よし、この話はもう終わりじゃ。 それよりもジョルノ君だったかの! 今お髭おじいさんのお髭おさわりサービス期間中じゃ! さあ触れ、やれ触れ!」 「え・・・?いえ・・僕は・・・。」 突然の事に案の定遠慮するジョルノの耳に老ジョセフが ひそひそと耳打ちをする。 (そんなこと言わんでくれ、実は爺様に 髭を触らせたいのじゃが・・・どうにも 照れて触ってくれんのじゃ。遠慮深い 君が触れば触ってくれると思うのじゃ。 ダメかの・・・。) そう言いながら困った顔をすると ジョルノもこれ以上否定するのが申し訳ないと 思ったのかその髭にそっと触れ撫でてみる。 それに対して笑顔で受ける老ジョセフだったが その手から感じるわずかな震えで彼の心の内が くみ取るように判ってしまった。 (・・・この子の手から恐怖を感じる。 多分この子は自分では気づいていないと思うが 父親のような存在に対し恐怖心を抱いておるんじゃな。 可哀想に、親に愛されないどころか痛い目に 会わされていたのだろう。体が小さな頃に しみついた恐怖を覚えてしまっているんじゃ・・。) さっきナランチャという少年に触らせたときも 老ジョセフは気づいていた。 この子は父に全く愛されていなかったと。 だが彼の手から恐怖は感じてこなかった。 触る前は緊張していたが、触った時の感動と 喜びと望んでいたものが手に入ったような安堵感。 しかしジョルノにはそれが感じられない。 ジョルノはひとしきり触ると穏やかな笑顔で 老ジョセフに礼を言うが そのけなげな姿が余計に心に響き、そして痛む。 もしこの先ジョナサンと共にDIOに攫われてしまったら 彼は一体どうなってしまうだろう。 DIOに優しさなどない、いう事を聞かなければ それこそひどい目に合わされる、そして彼は 父親という存在を完全に否定して心を閉じてしまう。 同じ父親として、それだけは何とか避けたい。 何とかして父親というのも悪くないという事を教えたい。 (うむ・・・よし、いいことを思いついた。) ジョセフのたくらみなど判らないジョナサンは ほほえましくも見える二人の馴れ合いを 優しい笑顔で見守っていたが突如老ジョセフに 腕をひかれ慌てて態勢を崩す。 「ちょ・・ジョセフ、急にどうしたんだい!!」 老ジョセフはそのままジョナサンを引っ張って ジョルノの傍まで来るといきなり 二人の肩を抱き、奇妙なことをお願いする。 「二人とも!後生じゃ!わしにダブルすりすり されてくれ!!」 「え!?なんだいそれは!!」 いきなり訳の分からないお願いをされた ジョナサンとジョルノは驚いて開いた口が ふさがらない状態だ。 そんな二人の視線を浴びながら老ジョセフは その訳をしんみりと語りだす。 「実はな・・・わしは娘のホリィと承太郎に 挟まれながら髭をすりすりするのが夢なんじゃが ホリィはともかく承太郎があの通り「ツン」じゃろ? いくら言ってもやらせてくれんのじゃ・・・。 頼む!だからやらせてくれい!多分このままじゃ 永久に夢が叶えられん!老い先短い爺の夢を 叶えてくれんか!」 「し・・・しかし、僕たちで務まるんですか・・?」 「・・・僕はいいよ?ジョルノ・・君はだめかい?」 老ジョセフの意図がなんとなく判ってきたジョナサンも ジョルノにお願いをする。 必死で頼んできている老人と母親?であるジョナサンの 頼みを断れる訳もなく、いまいち納得できないながらも ジョルノはなんとか承諾する。 「ありがとう!!わしは幸せ者じゃ!!」 わははと豪快に笑う老ジョセフとくすぐったそうに 髭をこすりつけられる二人。 傍から見たらなんて微笑ましい映像だが そんな様子を不満顔で見送る人間が一人いた。 「・・・・不愉快だ・・。」 「はっ・・・誠に・・・。」 「あの二人に頬ずりされるのは俺だけの特権だ。 ・・・・違うか・・・?」 「全くその通りでございます、あんな死にぞこないの おいぼれの髭よりDIO様の頬ずりの方が 何百倍も至福の時を得られるというのに・・。」 あれから通信手段のモニターの電源は消されそれこそ 通信は出来ないものの、向こうの様子を伺う仕掛けは まだ発見されておらず、こうして情報と 画像は得ることはできる。 一部始終を見ていたDIOは面白くなさそうに サイドテーブルに置いてある酒を飲み干す。 「酒!!飲まずにはいられないっ!! ・・・ヴァニラ・・鏡を持ってきてくれ。」 何本か飲み干した酒のせいでDIOは少し ほろ酔い気味だ。 ヴァニラはDIOに返事をするとすぐに鏡を 部下に持ってこさせる。 DIOは鏡を受け取るとしげしげと自分の顔を見つめる。 (全く・・・あの二人め・・・。 こんないい男の傍にいられる事がどんなに 幸せか判らないとは・・・くっ・・・。) 苦虫を噛み潰したように表情をゆがめその顎を擦る。 自分の顎は綺麗なもので無精ひげの一本すら生えてない。 当然だ、あの醜い男は汚らしい髭をいつもはやしていた。 あんなくそ親父のような容姿にはなりたくないと DIOはいつも身だしなみには注意を払い 「美」を特に意識して生きていた。 そしてそれは今も変わらない。 しかしあの二人の嬉しそうな顔を見て正直心が揺らぐ。 自分の顎髭にうれしそうにすりすりされたら どんなに幸せだろう。 馬鹿馬鹿しいと思いながらも隣にいるヴァニラに尋ねてみる。 「お前、俺に髭は似合うと思うか?」 多分その質問がやってくるなと構えていたヴァニラは あらかじめ考えていた答えをDIOに伝える。 「DIO様、美しい者はどんな格好をされても 美しいものです。私はDIO様が望むなら 髭を生やされても・・・。」 「私は反対だな、少なくとも私は生やさないだろう。」 突然ヴァニラの意見を遮るように誰かが背後から口を挟む。 この声が誰だか判らないはずがない。 ヴァニラは思い切りまゆを顰め、声の持ち主を睨みつける。 「きさ・・・いえ・・・貴方には聞いておりませんが?」 顔を引きつらせながらヴァニラがプッチを睨む。 プッチはそんな彼などお構いなしにDIOに進言する。 「友よ、君はもう神なのだ、なぜ周りの為に 自分を変えようとする?変えるべきなのは 君以外の周りだけだ。そして周りを 変えるのは君自身なのだ。」 「ふむ・・・確かにな・・・。」 「(くっ・・・こいつ!)しかしDIO様。 自分のしたいようにするのが一番 DIO様らしいと思うのです。」 「うーーーん・・・そう言われるとな・・・。」 どっちの意見も最もで、結局は自分で答えを 見つけなければならないようだ。 DIOは後ろで火花を散らしている二人を 放っておいて次の行動へ移るべく、ある場所へと赴いていった。 そして時刻は九時を回ったころ亀の中では ジョナサンとジョセフはソファーに座りながら さっきの出来事について話し合っていた。 「そうか・・・・あの子・・そうだったんだ。」 そうとは知らず、ずけずけと親の事を聞いてしまった事や 慰めてあげることのできなかった自分を悔やみ ジョナサンは表情を暗くする 「わしはなんとかしてやりたいが・・所詮ただの爺じゃ。 何も出来んのが歯がゆくてな・・・。」 「そんなことないよ、ジョセフはちゃんと父親の 温もりを教えてあげたじゃないか・・・。」 「いや・・・あの子はわしや、じい様には 少しは心を開いてくれたが、まだ父親というものには 心を開いていない・・・。DIOなんかじゃなく じい様があの子の父親だったらのう・・・。」 DIOのからだはジョナサンの体だ。 それは老ジョセフが一番よくわかっている。 最初ジョナサンは自分の体がDIOに乗っ取られた という時はとても驚いたという。 それはつまり自分はディオに殺されるという未来が 待っているという事なのだから。 落ち込む祖父に老ジョセフは、エリナはとても長生きしたし なにより「ジョナサンとエリナの子がいるから わしがいるんじゃ。」といってジョナサンを慰めた。 「僕はいつでもあの子を受け入れたいと思っているよ。 ただ彼が僕を認めてくれるか・・・。」 「じい様は母親だからのう・・・。」 DIOが変な事をいったせいでジョナサンが「母」という事が 今ここにいるジョースター一族みんなが知っている。 ただ、亀の中の全ての人がそれを認知している わけではないので、ジョナサンとジョルノの体面を考えて 言わないようにしているのだが。 老ジョセフの「素」な呟きに、それはちょっと 違うだろとジョナサンが慌てて突っ込む。 「ま・・・また・・あんなのDIOが言った狂言だからね? 大体僕のどこが母親だというんだい? 全く彼はどうかしてるよ。」 そう言って自分の腕や胸を触る。 「女性にはどうしても見えないだろ?」アピールだろう。 その時二人の前を走りぬける仗助の後輩の 中等部の少年たちが目に入り、 ジョナサンは優しく少年たちをたしなめる。 「こらこら、二人とも。もう寝なきゃだめだぞ?」 「え・・・でもまだ九時・・・。」 「まだ九時じゃなくてもう九時だよ? ちゃんと寝ないと立派な男になれないぞ? 何かあったら起こすからちゃんと寝て。」 言いながら二人の背中を押すと、今度は近くを歩いている 承太郎と仗助に声をかける。 「其処の二人もあと一時間くらいで寝なきゃいけないよ? 子供のうちはちゃんと睡眠をとらないと。」 「え・・・子供って・・俺らもう高校・・。」 反論しようとしている仗助を遮るように 承太郎がそれに対して返事をする。 「了解・・・。あと一時間で寝る。それでいいだろ?」 「よしよし、偉いぞ。じゃあお休み、 歯はちゃんと磨くんだよ?虫歯になるからね。」 「・・・・なんて「母ちゃん」な人なんだ・・・。」 仗助が振り向きながらぼそりと呟く。 いや仗助だけではない、みんな思っていることだろう。 DIOが母親だと言い張る気持ちも分かるような気がする。 勿論本人は全くの無意識だが。 「・・・・・・?」 しかしにこやかに少年たちを見守っていた ジョナサンの顔が一瞬曇る。 そしておもむろに「外を見てくる。」と言い出すので 老ジョセフは一緒に行こうと申し出るが 何故か断られてしまう。 理由を聞いても話してくれないので、 これはなんかあると思い、老ジョセフはジョナサンに 危険が起きたらすぐ亀に戻ることを条件に一人で 外に出ることを許可する。 「ああ、そうそう、じいさま、ちょっと待ってくれ。」 老ジョセフはそういうとジョナサンをまたせ、どこかへ向かい 数分後戻ってきてジョナサンの前に手を差し出す。 「?」 「お守りじゃ、受け取ってくれ。」 なんだかわからないままジョナサンが手を出すと 老ジョセフはその手を強く握りしめる。 途端に体に流れていく力強いもの。 今まで感じたことのない程の強力な波紋だ。 「万が一何かあったら使ってくれ。」 「すごい・・・・ジョセフ、ありがとう。」 ジョナサンは老ジョセフの気づかいに感謝し 一人外へと出ていった。 |