朝だと言うのに薄暗く、飾り一つない殺風景な廊下。
奧はさらに薄暗く、地獄にでも繋がって
いるのかと思うくらいの不気味さを
漂わせる。
ドアもみんな似たようなものばかりで、
どこに誰がいるかなんて分からない。
いや、実際に人はいるのだろうか、
こんな廃墟のような所に。

だが、彼はここにいる筈だ。
確信があるからには探さなくては
ならない。
囚われ、孤独な思いをしている
大事な仲間の二人を。


【汝の敵を愛せ〜その後 ジョルノ編】


一つ一つ、慎重にドアを調べていく。
どれもこれも頑丈でとてもじゃないが
自分たちの力では開けられそうにない。

途方に暮れていたその時、
一人の男がある部屋へと何かをもって
入って行くのが見えた。
これはチャンスではないだろうか。
あの部屋が当たりでも外れでも
何か分かるかもしれない。
彼等は素早く男の入っていったドアの
傍まで移動し、ドアから何か
聞こえないかと耳をそばだてる。

「・・・・ノ様・・・・・す・・。」

誰かの声が聞こえる。知らない声だ。
今入っていった男の物だろうか。
しかし男の言葉への返事はなく、
間もなくしてさっきの
男が出てくる。今がチャンスだ。
彼等は素早く部屋の中に滑り込んだ。

部屋の中は薄暗くよくみえないが、
かなりいい部屋のようだ。
高そうな調度品やベットやテーブル
など置いてある。
そしてそのベットには誰かが
寝ているようだった。

全員息をのむ、寝ているのは誰だろう。
願わくは「仲間の一人」であって
欲しい。しかし、もし敵対する側の
ボスだったら?
息を殺しベットに近づく。その人は
自分らから顔を背けるようにして
寝ているので誰かはまだ分からない。
慎重に慎重にそーっと
ベットを覗くと、チラチラ
見える金の髪。

仲間だ!間違いない。
彼等の一人が喜んで手を伸ばすが、
他の仲間に止められる。

金の髪を持つ敵は数人いたはずだ、
油断するな。

しかしあの癖のある金髪には
見覚えがある。

分かれる意見、ついには仲間同士で
言い争いを始める。
その時、背後のベットからむくりと
起き上がる人物にいち早く気付いた
仲間の一人が叫び声をあげる。

「ギャアアアアアアアア!!!」

その悲鳴につられ、一斉に仲間たちが
後ろを振り返る。
そこにいたのはまるでホラー映画に
出てくる様な顔を髪の毛で全て覆い
つくした女が自分らのすぐ
真後ろにたっていた。

「ひいィィイ!!」

「お化ケダーーー!!」

こっそり忍び込んだ癖に途端に
辺りに響くような大声で騒ぎだす
仲間たち。その騒ぎを止めたのは
意外にも真後ろにいた金髪の女だった。

「シー―――――!!静かに!!」

聞いたことのある声に、一同押し黙る。
女性にしては少し太めの声だ。
そしてよく見ると
女だと思っていたその人物には胸がない。
仲間の一人が、恐る恐る金髪の
人物に話しかける。

「・・・ジョル・・・ノ?」

「・・・・何故・・ここが・・?」

ジョルノはいいながら前髪を
かきあげる。既に彼らの声で誰だかは
分かっていたようだ。
目の前にはミスタのスタンド
「ピストルズ」がジョルノをじっと
見つめていた。

「ヤッパリジョルノだ!!」

「丸イノガナイカラ分
 カラナカッタゾ!」

「マテ!コイツ本当にジョルノか?
 偽物を使って、俺たちを
 騙シテルンジャナイカ?」

口々にワイワイと騒ぎ立てる
ピストルズ達をジョルノは再び
黙らせると、自分が本物だと
分かってもらう為に、今までの出来事を
彼らに話して聞かせた。
するとようやくジョルノ本人だと
いう事が確信できたのかピストルズ達は
本題に入り始める。

「ジョルノ、俺たちはミスタに言ワレテ
 ココマデ来タンだ。」

「モチロン手助ケスルタメダゾ。」

「そんな事言ワナクテモワカッテラ。」

「・・・そうですか、でもお礼を
 言う前に教えてくれ。どうやって
 ここを突き止めたんだ?」

「実はミスタとナランチャが
 ブチャラティとフーゴに
 喧嘩を挑ンダンダ。」

ピストルズ達は喧嘩などと言っているが
実際は生きるか死ぬかの
戦いだったのだろう。
少なくとも闇に堕ちたブチャラティと
フーゴなら躊躇なくミスタ達を
殺すだろう。
ピストルズ達は、その時に
ブチャラティ達にバレないように
くっ付いてここまできたのだと言う。
最悪の結果になってないことを祈りながら
ピストルズ達に恐る恐る尋ねる。

「・・・なんだって・・?
 そ・・それで皆は・・その・・
 体とかは・・・。」

例え敵になろうとも
ブチャラティもフーゴも大事な仲間だ。
もちろんナランチャやミスタも
大事な仲間だ。
しかし今の自分は仲間たちの安否が
何も分からない。ジョルノは
皆の安否がとても気になっていた。
自分がいれば、
治してあげられるのに・・
何もできない今の自分がどれだけ
不甲斐ない事か。

「怪我ハシタケド仗助が
 治シテクレテル。」

仗助は自分と同じ血を引く一族で、
ジョルノと同じ「治す」能力を
持っている。
取りあえずミスタとナランチャの
怪我だけは治ったことを知り
ジョルノは安堵のため息を漏らす。

「彼には・・改めてお礼を
 言わなければならないな。
 (・・・・・ここから出られればの
 話だけど・・。)」

「でも仗助一人で大変ミタイダ。」

「「ハモン」を使える
 兄ちゃん達と姉ちゃんが
 頑張ッテイルケド、回復は
 不得意ナンダッテ。」

「ジョナサンって人ガイレバ
 助カルノニッて言ってた。
 後、ツェペリって言うオジサンと。」

ツェペリという人はあまり
聞いたことがないが
スピードワゴンという人が元仲間だと
言っていたのを聞いたことがある。
きっとブチャラティたちと同じように
闇に引きずり込まれたのだろう。
そしてもう一人のジョナサン。
この人は自分らの始祖ともいえる人で
DIOとも深いかかわりがあり
ジョルノにとっても非常に
気になる存在だ。

しかし彼がいないとは
どういうことなのだろう。
実はジョルノを助ける為にジョナサンは
ここに赴きジョルノと同じように
囚われの身になってしまったのだが
ジョルノは今だジョナサンの事を
聞かされていない。
そうとも知らずピストルズが
ジョルノに尋ねる。

「ジョルノ、ジョナサンには
 会ッタノカ?」

「ジョナサンも囚ワレテイルンダロウ?
 ジョルノを助けに行クッテ
 飛び出シタッテ言ってたぞ。」

「え・・・!?」

ピストルズ達の発言に耳を疑う。
ジョナサンがここに来たという
事さえ初耳なのに。
しかもその理由が自分の為とは。
もしそれが本当なら
自分は一刻も早く彼を助けなければ
ならない。急ぐ気持ちを抑えつつ、
ジョルノはピストルズ達に質問する。

「何故彼が?ミスタ達なら
 わかりますけど・・。」

ジョナサンは確かに優しさと
強さを併せ持った正義感溢れる青年だ。
一緒に戦って感じ取ったあの温かさと、
慈愛に満ちた精神。
しかし彼とは血は繋がっているらしいが、
それ以外は自分とは
縁も所縁もない人間なはずだ。

でも疑問も残る。自分の血は何処で
彼から受け継いだのか。
自分の父はDIOだ。
ジョースター一族とは関係ない。
もしかして母親からとも考えられるが、
あの女にはジョースター一族に
絶対に受け継がれると言われる
星の痣がない。しかしDIOの肩には
何故か星の痣がある。
だからこそ、敵でも自分と
繋がりがあると感じているのだろう。

(・・・分からないことだらけだ・・。
 僕はあの男について何も
 わかっていない。
 話さなければ・・・。)

「ジョルノ・・・?」

「・・・すまない・・考え事だ。
 早速だが
 君たちはそのジョナサンって言う人の
 場所を確認してきてほしいんだ。
 出来るかい?」

無理を承知でピストルズ達に
頼み事をする。
元よりピストルズ達はジョルノを
助けるためにやってきたのだから
断るようなことはしないだろう。
本来なら自分が行くべきだとは
分かっているが
もし、ジョナサンを見つけたとしても
スタンドがいない自分に何が
できるのだろう。出来ることといえば
彼の足手まといになる事だけだ。

「本来は僕が行くべきだと思う・・
 でも・・。」

「・・・俺達も協力シタイケド、
 その兄ちゃんスタンドが
 見エナインダッテ・・・。」

波紋使いではあるがスタンドを
操れることのできない
ジョナサンやジョセフ(若い方)達は
彼らの攻撃を受けても、
肉眼で彼らを見ることはできない。

でも上手くいけば、スタンドの声なら
聞こえるかもしれない。
それが出来なくても場所がわかれば
解決の一歩に繋がるかもしれない。
そこをピストルズ達に言い聞かせると
ようやく納得したのか、
六人のうちの三人が偵察に
いくことにした。。


「危なくなったら無理をせず
 逃げてきて・・・。」

「ジョルノ・・。あの・・
 言イヅラインダケドヨ・・。」

「なんだい・・?」

「この果物食ベテ良いか!?」

そう言って一斉に指を指した
テーブルの上には瑞々しいフルーツが
盛っている皿が置いてある。
もともとジョルノが食べる為の物だが、
どうせこんなに食べられないし、
彼等に食べさせてはいけない理由など
ない。ジョルノが頷くとそれを合図に
皆一斉にそのフルーツにかぶりつく。

「ウメエーーーー!!」

「静かに・・・!!」

DIO達の用意したフルーツが余程
美味しかったのか凄まじい勢いで食べる。
そしてようやく満足したのか
内三人は、早速ジョナサンの部屋を
探しに出て行く事にした。
ジョルノはシーツを体に巻き付けたまま
移動するとドアを開け、
誰もいないことを確認して
ピストルズ達を外に出した。
実はジョルノは確かに囚われの
身ではあるがドアを開けるだけなら
許されていて、例え聞かれても
空気の入れ替えをする為に
ドアを開けたという事にすれば
問題はない。

「いいかい?決して無理はしないで・・・。
 それとここにはスタンド使いが
 うようよしているから
 見つからないように慎重に・・・。」

「任セトケ!!」

勇ましく返事をして飛んでいく
ピストルズ達を見送りながら、
ジョルノは再びドアを閉めた。
そして振り返り驚く、テーブルの上の
惨状に。

「ちょ・・・・!!」

まるでネズミの集団が
来たのかと思うくらい
テーブルの上のフルーツが
食い散らかされていたのだ。
食べてもいいとは言ったが
食い散らかすなとは
いわなかった自分に激しく後悔する。
ため息を深くつき、それを片付けようと
手を伸ばすが途中で何を思ったのか
慌てて手を引っ込める。
その表情は険しくなり、ドアの向こうを
キッと睨む。

「・・・如何シタンダ?」

「・・・・あの男が来たようです・・・。
 みんな・・隠れて・・いいかい?
 何があってもしゃべっちゃダメだ。
 何があっても出て来ちゃダメだ。」

心配そうに顔を覗き込むピストルズ達に
強く言い聞かせ、額縁の裏へ
隠れるように促す。
そして彼らが隠れた数秒後、
言葉もなくドアが開かれる。

「・・・起きていたのか。」

自分から顔を背けるように
ベットのふちに座っているジョルノに
DIOは声をかける。
本来なら無視か、つれない返事をして
終わらせるのだが今日はDIOに
どうしても聞かなくてはならない
ことがある。
意を決して口を開くが、先にDIOから
質問を受ける。

「これはお前が食ったのか・・?」

「これは」とはフルーツの事だろう。
確かに一、二個食べるときはあるが、
DIOにそんなことを改めて
聞かれたのは初めてだ。疑問を抱きつつ
振り返るとテーブルの上の無数の
食べかすが目に映り、ギョッとする。

(しまった!!片づけておけば
 よかった・・!!)

「・・・・いや違うな・・小さな生物が
 食い散らかしたようだ・・・。」

DIOが果物を手に取りながら
辺りを見回す。
瞬間冷や汗が流れる。スタンド使いで
ある彼ならもちろんスタンドも見える。
ここでもしピストルズ達の存在が
バレたら彼らの命が危ない。

「・・・ネズミでも出たかな・・?」

だがDIOは特段興味もなさそうに
ぼそりと呟くと果物を皿に戻す。
どうやらこの場は凌げたらしい。
だがさすがにこれ以上は不審
がられるだろう。
後で彼らに言い聞かせないと、
などと思いながらDIOを見つめる。
ところでこの男は一体何をしに
来たのだろう。
また自分を蹂躙しに来たのか。
理由がなんであれなんとかこの男から
話を聞き出さなければならない。
しかしDIOはジョルノに
用があった訳ではないようで
イスにかけてある上着を羽織り
部屋から出ていこうとした。

「まっ・・・!!」

「・・・・・なんだ・・・?」

身を乗り出してDIOを
呼び止めたものの
何をどう聞いたらいいのだろう。
いきなりジョナサンの事を
尋ねるのはマズい。
だが遠回しな質問に彼が答えてく
れるだろうか。

「質問か?後にしろ。
 俺を求めたいのなら
 時間を割いてやってもいいが・・・?」

「誰が!!」

からかわれ、ついムキになって
手元の枕を投げる。
含み笑いと共にDIOがいなくなり
後悔の念に晒される。

(チャンスだったのに・・・!!)

がっくりとうなだれるジョルノの傍に
ピストルズが心配してやってくる。
声をかけられようやくピストルズ達が
そばにいたことに気付く。
そうだ、彼等がいたんだ。彼らの
いるときに情事などされたら
たまらない。もし見聞きでもされたら
そう思うと体中から血の気が
ひくような思いがした。

「帰ッテキタミタイダゾ。」

不意にピストルズの一人がつぶやくと
ドアの方へ近づき、耳をそばだてる。
そしてジョルノを手招きすると
ドアを開けさせる。
その瞬間なだれ込むように
ピストルズ達が入ってくる。
どういう訳か手に何かを持って
いるようだが、なんだろう。

「ジョルノただ今。」

「ジョナサン見つからなかッタ。
 ゴメン。」

「また探シニイクカラナ、
 ソレトこれお土産。」

そう言って、ピストルズ達から
丸い何かを受け取る。
全部で三つ、一見ドーナッツのような
それはよく見ると髪の毛をくるくると
丸めた物のようだった。

「え・・・・これ・・・?」

「ジョルノ!コレツケロ!」

「髪の色、同ジダゾ!良かっタナ!」

どうやらピストルズ達はジョルノの
前髪の「巻き」の代わりになるような
ものを持ってきたようなのだが
問題はどこからそれを持ってきたかだ。

「ちょ・・これどこから・・・!」

「髪の長い兄ちゃんがジョルノの
 前髪ミタイナノ
 いっぱいツケテタカラ貰ってきた!」

「ええっ!!な・・なんでそんな事を!
 まさか交渉貰った訳では
 ないでしょうね!」

「その兄ちゃん寝テタカラ勝手に
 切ッテキタ!」

「男ダカラ気にシテナイゾ、
 心配するな。」

「気にします!!どうしてそんな
 勝手な事をしたんだ!君たちは
 隠密できたんだろう!?
 だったら身勝手な行動は
 慎まなきゃダメだ!」

ジョルノに叱られしょぼくれる
ピストルズ達。
彼等は決して悪気があって
やったわけではないのだが
いけない事はいけないと教えないと
またやらかす恐れがある。
怒られたピストルズ達は皆肩を落とし、
ドアの方へ飛んでいく。

「ごめん・・戻シテクル・・。」

「も・・戻してこなくてもいいです。
 逆に怪しまれますから・・・。
 君たちが僕の事を
 気遣ってくれたのは嬉しい・・。
 でも・・頼むから僕が頼んだ事以外を
 するのは止めてくれ。
 君達だって見つかったら
 ただじゃ済まなくなるんだから。」

終始優しく言い聞かせると、
ジョルノはピストルズ達に
他に何か手掛かりはなかったか
聞いてみる。
だが、残念ながらヴァレンタインに
会った以外は何の進展もなかったようだ。しかも周りにはスタンドが
何人か徘徊していたせいで
行動範囲も広げられなかったようだ。

「そうか・・・ありがとう。
 また明日頼めるかい?」

「ウン、明日はキットイイ情報
 持ってクル。」

そう言うとピストルズ達は眠そうに
目をこする。
ピストルズ達はこう見えても
規則正しい生活をしている。
彼等にとってはもう寝る時間なのだろう。
ジョルノは自分の枕の中に彼等の寝る
スペースを作ってあげることにした。

そして翌日。
ヴァニラがいつものように果物と
飲み物を持ってやってくる。
そして挨拶だけ済ませると足早に
部屋を去っていく。
最もジョルノが彼に対して何の
反応もしないので当然だ。
例え皮肉でも礼を言えるほどジョルノも
まだ大人ではなかった。
しかもこの男は自分が父と肉体関係を
持った事を既に知っているだろう。
そんな男と話どころか、
顔を合わせることができようか。

ジョルノはむくりと起き上がると
辺りを見回し安全を確認すると、
ピストルズ達を呼ぶ。
ジョルノの呼びかけに
待ってましたとピストルズ達が
一斉にテーブルに飛びついた。

「ご飯が来ましたよ。急かしたく
 ないけどなるべく急いで
 食べて下さいね。それと食い
 散らかさないでください。
 昨日はあの男にその事を指摘され
 ひやひやしました。」

「ワカッテら!頂キマス!」

ちゃんと分っているのだろうかと
思う位の勢いでピストルズ達が
食べ物にがぶりつく。
どうやらまた自分が後かたずけを
しなくてはならない様だ。
ピストルズ達が美味そうに食べ物を
ほおばっているのを見てるせいか
自分もお腹がすいてきたようだ。
こんな状況でも食欲がわくのは
仲間のスタンドが傍にいてくれる
安心感からなのだろう。
ジョルノも何を食べようかと
皿に手を伸ばすがふといつもと違う
違和感に気付く。それは
いつも果物しか乗ってない皿に、
明らかに果物ではないものが
混じっている事だった。

「チョコ・・・と・・プリン・・・?」

「良カッタナ!ジョルノ好きダロ!」

「好きですけど・・・
 なぜこんなものが・・?」

「ブチャラティとかに
 聞イタンジャナイカ?あの二人ナラ
 ジョルノの好物知ッテルゾ。」

確かにブチャラティ達ならジョルノの
好物くらい知っているだろう。
しかし闇に染まり、自分たちを
敵だとしか見ていないあの二人が
ジョルノの好物の事なんか
覚えているのだろうか。
だからと言ってDIOが
ジョルノの好物を知っているとは
思えない。
自分だってあの男にそんな情報を
漏らした覚えはない。
いつまでも口にしないジョルノに
ピストルズの一人がけしかける。

「ジョルノ!食ワナイナラ
 俺タチ食うゾ!」

「・・・どうぞ。」

別にピストルズに対して意地を
張っている訳ではないのだが
なんとなく敵からの「好意」を
受け取りたくないジョルノはあっさりと
身を引く。すると何故かけしかけた筈の
ピストルズが慌て始める。

「えっ!?それはダメだゾ!
 ダッテセッカク・・・。」

「シッ!ジョルノは毒とか
 入ッテイルノガ怖いんだ。
 ジャア俺たちが毒見スルカラ
 大丈夫なら食え。」

「・・・え?・・・わ・・
 わかりました、僕が食べますから。
 でも全部は食べないかもしれないんで
 後は君達にあげます。」

毒の事は一切考えていなかったが、
もしピストルズ達に
なんかあったらミスタに申し訳が
たたない。
それどころかミスタ自身にも
影響が及んでしまう。
気は進まないが、どうせ自分が
食べようがピストルズ達が食べようが、
相手には「ジョルノが食べた」と
思われるだろうし。

一口食べた好物の味は元々上質なもの
なのか、とても美味なものだった。
その後の残りはピストルズ達が
殆ど頂いたのは言うまでもない。
食後、早速探索に出かけようとする
ピストルズが今更な事を
ジョルノに尋ねる。

「ジョルノ、服ハ?」

「取り上げられました。」

「スッポンじゃ出ラレナイモンナ。」

「じゃあ・・俺タチガカワリノ・・・。」

「いいですっ!頼むから窃盗の類は
 しないでください!
 君たちはあくまで、囚われた
 もう一人の居場所と
 僕のスタンドの居場所を探り当てて
 くれればそれでいいのですから!」

ピストルズ達がまた同じ過ちを
繰り返しそうになったので
慌ててジョルノが釘をさす。
そしてピストルズ達が出ていき、
ようやく辺りが静寂に包まれる。



(ミスタも大変だな・・・・。)

他人事のように見てたミスタと
ピストルズ達のやり取り。
親子とはああいうものなのかもしれない
などと少し羨ましく思っていた。

(親子・・・か・・・。)

今、親子と言われて思い浮かぶのは
昔の両親などではなくあの男の顔。
あれからDIOはジョルノを二回抱いた。
他の人間に抱かれたことなどないので
分からないがあの男は二回とも自分を
優しく抱いたような気がした。
「愛している。」「俺の愛しい息子。」
と耳元で何度囁かれたか分からない。
最初はただの煩わしい雑音にしか
聞こえなかったが回を重ねるごとに、
何故かその言葉が切ない響きに
変わっていくような気がした。
言われるごとに何か泣きそうになる
ような気分にもなった。
その度に「惑わされるな。」と自分に
何回喝を入れたか分からない程だ。

そう言えば囚われてから
どれだけたったのだろうか。
一週間はたっているだろうか。
ここではあまりにもやることがない。
娯楽と呼べるものが何一つないのだ、
やれることと言えば物思いにふける事。
仲間はぶじだろうか、どうしたら
ここからでられるだろうか・・・。

あの男はいつくるのだろうか。

別に期待している訳ではない、
だからと言って恐怖している訳ではない。
ならなぜ気になるのだろうか。
決まっている、どちらかの理由が
嘘だからだ。いや、両方嘘を
ついているのかもしれない、ただ
それを素直に認めたくないだけで。

ふと、シュンとドア側から音がする。
振り向かなくてもわかる、この時間帯に
来るのはあの男だけだ。
DIOは手に何かをもってジョルノの
いるベットの上にそれを
投げてよこす。それの正体は出来れば
もう見たくもない
精子採取の容器だった。反射的に
逃げるジョルノをDIOが冷たく
見下ろしながら命令する。

「また必要になった、取れ。」

「断る・・・・。」

「却下だ。」

「・・・あんたは僕の父親なんだろ?
 ならなぜこんなことをする?
 父親って子供の嫌がることを
 するのか?
 それじゃ前の親と全然変わらない!!
 子供の気持ちも分からないなんて、
 あいつらと同じなんて・・・!
 あんたに親の資格はない!」

つい感情的に怒鳴りつけるがすぐ
後悔する。きっと今のでDIOに
ジョルノの本心が見透かされて
しまったのではないだろうか。
ジョルノはどんな敵と対峙しても
今まで取り乱したことはない。
敵に怒りを感じていない訳ではないが、
どこか冷静な自分がいつもそこにいた。
それなのにどうしてもこの男の前では
本心が出てしまう。気まずさに
ジョルノは唇を噛み、DIOから
目を反らす。するとそんなジョルノに
同情でもしたのかDIOは表情を
和らげながら息子に優しく耳打ちする。

「・・・俺もこんなことはしたくない。
 だから今日は お前自身でとれ。
 そうすれば俺は手を出さない。」

いつも嫌だと言っても無理やり
取っていくのに今日は自分でやれなどと
いうのはどういう風の吹き回しだろうか。
とにかくDIOの気が変わらない内に
自分でとった方がいいだろう。
ジョルノは仕方なくベットの上のそれに
手を伸ばした。

「・・・取ったら果物の皿にでも
 のせておけばいいのか?」

「いや、今とれ、ここでな。」

「!?」

DIOの言葉にジョルノは耳を疑い、
手の中の試験管を落とす。
自分のきき間違いではないのかと
思わずDIOを凝視する。

「今日は取りたてが必要なんだ。
 急げ、今すぐほしい。」

「そ・・そんな・・今すぐ
 ここでなんて出来る訳ない・・!」

「そうか、なら手伝ってやる、
 心配するな、行為をする訳じゃない。
 ちなみに俺の見てる前で取って
 貰うのは、変なものを入れられない
 ためにだ。」

この男は何を言っているのだろう、
そんな事する訳がない。
そんなことをしたらまたこの苦しい
作業を強いられるだけだ。
反論しようにも目の前の男の硬い
表情からしてきっとジョルノの
意見など受け入れないだろう。
だからといって断って引き下がる
相手ではない。
急かすように時計をちらちら見つめる
DIOにつられてジョルノも思わず
時計を見る。
真っ先に頭に浮かぶのは
ピストルズ達の事。
彼等は規則正しい生活をしているので
昼頃には昼食を食べにやってくるだろう。
それだけならまだいいが、もし敵に
追われていたら自分がすぐに彼らを
かくまってあげなければならない。
そうならない為にはとっととこの
行為を終わらすことだ。
この男の前でやらされることは
屈辱的だが、もう今更だろう。

「・・わかった。とればいいんだろう?」

「ほう、どうやってとるんだ?」

「?どうやってって・・あんたがこの前
 やった通りに・・・・。」

「どうやって勃たせるんだ?俺は
 薬なんか持ってないぞ?」

確信を突かれてジョルノは口ごもる。
これは尿意とは違う、
自然と待ってれば来る生理現象
などではない。卑猥な事をしたり
妄想したりしてやっと勃たせることが
できるものだ。

(・・・この男・・・最初から
 それが目的か・・・!)

ぎり・・・と奥歯を鳴らして目の前の
男を睨みつける。
しかし目の前の男は表情一つ変えず
自分を見下ろしてる。
きっとこの男は自分を求めるように
仕向けたいのだろう。
そんな思惑に乗ってたまるか。
取り敢えず先に痛い事は済ませて
しまおうと先端に管を差し込み
鋭い痛みに耐えながらも奥まで入れる。
こんなもの今までの闘いの痛みに
比べたら大した事ない筈だ、
必死にそう言い聞かせる。
後は自分で局部でも刺激すれば
きっと出す事が出来るだろう。
そう思ってぎこちなく手を伸ばすが、
何故かDIOにその手を止められる。

「何を・・・・!」

「手伝ってやる。時間がない。」

「自分でやれば手は出さないと
 約束したはずだ・・・・!」

「約束通り行為はしない。だからお前が
 おれの手を掴んで行為を阻止しろ。」

そう言いながらDIOはジョルノの
手を握る。一応身じろぎをして
拒否するが、その手はピクリとも
動かす事が出来ない。
相変わらず諦めの悪い息子を無視して、
DIOは首筋にキスをする。
少しきつい位に吸われジョルノは
ビクッと体を震わせる。

「今からお前の体にキスをしてやる。
 心配するなキスをするだけだ。
 だが局部と感じやすい部分には
 一切触れないと約束しよう。」

「どうしてそんなことを!」

「行為はしないと言っただろう?
 しかし俺はキスだけでお前をイかせる
 自信があるからな。もしお前が何も
 感じなければ途中で止めてやろう、
 どうだ?」

挑戦状ともとれるDIOの挑発に
ジョルノは結局乗るしかない様だ。
要はこの男の思い通りにさせなければ
いい、この男の鼻を明かせてやれば
いいのだ。ジョルノは黙って
なすがままにされることを決めた。

「返事をしないという事は
 了承したという事だな?
 けなげなお前が可哀想だから
 なるべく早く済ませてやる。」

そう言ってDIOはジョルノの体の
あらゆる所にキスマークを付けていく。
腕、背中、鎖骨・・。
そこまではあまり何も感じない、
しかし唇が胸に差し掛かると
途端に心臓の鼓動が早くなる。
それに抵抗するようにジョルノは
目を瞑って耐えるが前回抱かれた
ことがフラッシュバックして、
いやでも快感が蘇ってくる。
しかしDIOは胸の一番敏感な部分には
あえて触れずその周りにだけ
キスを落としていく。その度に
意識が下半身に集中していく。

(な・・・なんで・・・!)

感じやすい部分はあえて
避けられているというのに
下半身は熱を持ち、勝手に先端を
もたげていく。
いう事を聞かなくなった下半身を
目の当たりにして羞恥に耐えきれず、
体と顔がほてっていく。
そのうち唇は下半身におり、やはり
あえて敏感な部分には触れず
その周りに執拗に唇を落とす。
ジョルノは訳の分からない
刺激に耐えられず体をぶるりと震わす。

「・・・んっ!!」

ジョルノが短くあえぐと同時に
白いものが管へ入っていく。
それと同時に両手が解放され、DIOに
素早く管を抜かれる。

「・・っ!!」

瞬間だが鋭い痛みにジョルノが
短く悲鳴を上げる。
そのショックでか分からないが興奮
していた自身は次第に萎えていった。

「よし・・・よくやった。」

DIOからの誉め言葉に放心していた
ジョルノはようやく我に返る。
そしてすぐに知る、自分は勝負に
負けたのだと。
鼻を明かされたのはDIOではなく
自分だったのだと。
自分はまんまと彼の計略にかかり
彼の思惑通りになった訳だ。

ジョルノは自嘲気味に笑うと、
DIOを再び睨みつける。

「満足か?全てアンタの思い通りに
 なって・・・。」

「ああ、満足だ。お前の体は俺に
 愛される喜びを知っているようだ。
 お前はともかくお前の体は俺の事が
 好きらしいからな。
 それが今日でよくわかった。」

「あ・・あれはそう言うことじゃ!!」

必死に反論するが、確かにDIOの
愛撫に体が反応してしまったのは事実だ。
図星を突かれ、ジョルノはDIOから
目を反らす。いつまでも素直になれない
息子にDIOは皮肉を漏らす。

「ほう?なら男にキスされただけで
 イってしまうお前はただの淫乱か?
 素晴らしい体だな、女より感度がいい。
 一体どんな男に開発されたんだ?
 ・・・ん?」

「・・・・・っ!!用はもう
 済んだんだろ!出て行ってくれ・・!」

耳元でDIOにえげつない言葉を
囁かれ我慢できなくなったのか
ジョルノは怒り任せに手元の花瓶を
投げつける。DIOはそれを片手で
軽く受け止めると含み笑いをしながら
部屋を出ていった。

(最悪だ・・・!!)

ジョルノは悔しまぎれに自分の頭を
掻きむしる。
こんなに心を乱されたのは何年
ぶりだろう。いつでも冷静になって
自分を見失わないようにしていたのに
この男に会ってからというもの
自分を見失ってばかりだ。
なんてみっともないんだろうか、
もしもう一人の自分がいたら
きっとこんな自分を蔑むだろう。
だがピストルズ達にはこの事が
バレなかったのだけは救いだ。
ジョルノは気を取り直すと
様子を見るべくドアを開ける。
その瞬間待っていましたとばかりに
ピストルズ達が滑り込んでいく。

「ジョルノ!ジョルノのスタンド
 見ツケタゾ。」


「え・・・?」

「アノナ!G・Eの居場所は・・・。」

突然のピストルズ達の吉報に
心にかかっていた霞が全て晴れていく。
仲間のスタンドの頼もしさ、それが
とても身に染みた瞬間だった。
ただ、どこにいるかは分かったが、
恐ろしく厳重な警戒態勢がしかれて
いてアリの子一匹入れないと言う。

(・・・なるほど・・。よく考えれば
 大事なものを隠している場所は
 どんな所でもだいたい厳重になって
 いるものだ・・・。)

「・・・ゴメンな、ジョルノ。
 場所は分カッタケド今の所俺達じゃ
 ドウニモデキナイミタイダ。あと
 まだ・・ジョナサンの居場所も。」

「いいんだ。最初に言っただろ?
 君たちは危ない事をしなくて
 いいんだと・・・。君たちは情報を
 教えてくれればそれでいいんだ。」

申し訳なさそうなピストルズ達に
優しく微笑む。
礼の言葉だけでは物足りない、
何かプレゼントをして彼等の仕事ぶりを
労ってあげたい。
彼等の喜ぶものは何か。ジョルノは
ふと、食べ物を美味そうに食べている
ピストルズ達を思い出す。
彼等はとても食いしん坊で食べる
ことが大好きだ。なら、好きな食べ物を
彼らにプレゼントしてはどうだろう。

「君達・・果物ばっかじゃ飽きるだろ?
 何が食べたい?
 ・・・あ・・でも・・食べたいものを
 持ってきて貰うには敵に口頭で
 お願いするしか・・・・。」

ジョルノにとって敵に頼みごとを
するのは耐えがたい事だ。
さすがにそれはさせられないと
思ったピストルズの一人が提案を
持ちかける。

「あ・・アノサ!リンゴとかに
 メッセージ入レタラドウダ?
 俺達も前にソレヲヤ・・・」

「シー―――!!ジョルノ。ソコの皿
 白いぞ。チョコレート茶色いぞ。
 チョコレート溶かして
 皿に書クノハドウダ?」

ピストルズ達の言う通りチョコは
少し残っていて文字を書く位の量は
あるだろう。とっさにしては知恵の
回るピストルズ達に感心しながら
ジョルノは皿から果物をどける。

「なるほど・・やってみるか。で?
 君たちは何が食べたい?あんまり
 色々はダメだよ?
 食べきれないだろうから・・。」

「え!!急に言ワレルト・・うーん
 うーーん・・。アレも食イタイシ、
 コレも食イタイぞ・・?」

必死に悩んでいるピストルズ達を
急かすのも可愛そうなので
皆で話し合いをしてもらって、
代表して誰かが皿に書いて貰う
ことにした。
ああでもないこうでもないと
言い合いしているピストルズ達を
見て気持ちが和んだのか、ジョルノに
眠気が襲い掛かってくる。
この部屋に囚われてやることはなくても、仲間やスタンドが心配で
ジョルノは最近眠れていない。
瞼が半分ほど降りて、目をこすると
その先には心配そうに見つめている
bTの姿があった。

「ジョルノ、大丈夫か?」

「ありがとう、大丈夫だよ、
 少し眠いだけ。」

「イヤ・・ソノ・・体中に痣が
 ・・・・。」

突然そんな事を言われて慌てて
体中を確認する。
bTが指摘している痣はDIOが
さっきつけたキスマークだ。
慌てて毛布で体を隠し、bTから
目を反らす。

「こ・・これは・・大した事ないんだ。
 たいして痛くないから気に
 しないでくれ。び・・病気って
 訳でもないから大丈夫・・・・・。」

「サッキの奴がヤッタノカ?サッキ
 怖い奴がジョルノの部屋から
 出テイッタケド・・・。」

ピストルズ達が出ていってから
入ってきたのはDIOだけだ。
ピストルズ達でも感じたらしい、
DIOの恐ろしさを。
まさか見つかってないだろうかと
心配になるがこうして彼らが無事に
帰ってこれたという事は多分
大丈夫だったのだろう。

「ジョルノ、スタンド使エナイノニ
 一方的ニ攻撃シテ酷い奴だ。」

bTはすっかり敵の仕業と思い込んで
しまったようだ。
しきりにジョルノの同情をする。

「・・・戦いなんて・・悪党なんて
 そんなものだよ。この事は皆に
 内緒にしてくれ、心配させたくない。
 御免・・ちょっと僕は眠るよ・・
 疲れたみたいだ。」

「分カッタ、絶対黙ッテオク。」

bTの気遣いにジョルノは再度
礼を言うと、浅い眠りについた。
仲間が来たことでの気の緩みも手伝って、
今まで溜まっていた疲労感がどっと
押し寄せてきたらしい。G・Eが
傍にいた時はこんな疲労感など
一日で治っていたのに。

(僕は・・・G・Eがいないと、
 こんなに非力なんだな・・・。)

いつもなら、どんな無茶をしても
G・Eが必ず傍にいて治してくれる。
だからこそ恐れずに敵に
立ち向かえるのかもしれない。
皆だってそうだ、ジョルノのG・Eが
何とかしてくれるからこそ
どんな無茶でも出来るのだろう。

(僕たちは・・少しスタンドに
 頼りすぎていたのかもしれない。)

自分たちは何でもできると自信を
持つのは結構だが決してその力を過信
してはいけないと今度の事で
思い知らされた気がする。
残された仲間と、囚われた
ジョナサンの事を考えながら
いつしかジョルノは眠りについた。



そして夕刻ピストルズ達のお喋りと、
辺りを包むいい香りでジョルノは
目覚める。テーブルの上を見ると
そこにはいくつかの「料理」が
置いてある。

「ジョルノーー!!来タゾーー!」

「ウマソーダゾ!お前も食えー。」

きっと頼んだものが届いたのだろう、
上機嫌のピストルズ達に
誘われてジョルノも席に座る。
テーブルの上には、ステーキ、
フランク、ピザなどいかにも彼らが
好きそうなものが置かれていた。
早速食いつくのかと思いきや
ピストルズ達はおかれた料理以外の
何かを探し始める。

「アレ?オカシイナ、アレがナイぞ?」

そんな所にある訳ないと言うのに
テーブルクロスをめくりながら
ピストルズの一人がぼやく。
その時ドアから誰かの気配を感じ、
ジョルノは慌ててベットの中に
ピストルズ達を隠す。
そして自分はいかにも今から食事でも
とる様にナイフとフォークを手に取った。

「・・・おい、コックがこれを渡し
 忘れたそうだから届けに来てやった。」

そう言って手に料理をもって現れたのは
誰でもないDIOその人だ。
DIOは持ってきた料理をテーブルの
上に置く、それはアツアツトロトロの
ホワイトグラタンだった。

(・・・え・・・?)

「注文通り、グラタンのマカロニは
 細いタイプにしたらしいぞ。
 同じくフランクフルトも中にチーズが
 入っている奴だ。以上で間違い
 ないな?」

(ええ!?)

ジョルノはホワイトグラタンも
チーズいりフランクフルトも別に嫌いな
ものではない。しかし余りにも
「アレ」を連想させる食べ物が続いて
出て来たので言葉を失ってしまった。
DIOは何も返事をしない
ジョルノのフォークを取り上げると
フランクフルトの先端をプツリと刺す。
その先から液状のチーズがとろりと
滲み出る。

「・・ふっ・・面白い奴だなお前は。
 免疫をつけるためにこんな料理を
 注文したのか?
 それともアレにハマって
 しまったのか?」

DIOの皮肉にジョルノは反論
できるわけがない。
何しろこれは自分が頼んだことに
しているからだ。

「本当はお前がフランクフルトに
 しゃぶりつく様を見たいが・・・
 おれはどうせ招かざる客だ。
 睨まれない内に退散するとするか・。」

ニヤリと笑うとDIOはいまだ
固まったままのジョルノをおいて
部屋を出ていく。1分間の沈黙の後、
気まずそうにピストルズ達が出てくる。

「ジョ・・ジョルノ、
 それ・・嫌イダッタカ?」

「ジョルノ「アレ」ッテナンだ?」

「キタ――(゚∀゚)――!!俺達それ
 待ッテタンダ!」

口々に言いたいことを言って
ジョルノの傍に集まるピストルズ達。
勿論彼らに悪気はない筈だ、しかし
尋ねずにはいられない。
ジョルノは身も心も真っ白に
なりそうになりながらも彼等に質問する。

「何故・・チーズ入りの
 フランクに・・・?」

「俺達チーズ大好きダシ!
 あとフランクフルトも!」

「マカロニは何で細いタイプに?
 そして何故ホワイトを?」

「俺達イタリアっ子ダカラマカロニ
 頼んだ。細いのを頼ンダノは太いと
 マカロニの味シカシナクナルカラ。
 白イノを頼んだノハ、ピザが
 トマトソースベースだから。」

「・・・・丁寧な説明・・
 どうもありがとう・・・。」

匂いを嗅いだ時点で沸いていた食欲も、
見事に失せてしまったようだ。
とにかくこれは彼等へのご馳走だからと
言い聞かせ、作り笑顔で彼らに贈呈する。
しかしピストルズ達はご馳走を
うまそうに眺めはするが食べようと
しない。気を使っているのかなと
ジョルノは再度勧めるが・・。

「ジョルノ!フーフーシテクレ!
 熱くて食エナイ。」

「ミスタはイツもフーフー
 してクレルゾ。」

「!?・・じ・・じゃあ、
 冷めるまで待って・・・。」

「それじゃあ美味くナイ!
 ジョルノだってフーフーして
 食ベルダロ?ソノ方が美味イダロ?」

ピストルズ達のいう事は最もで、
ジョルノも息を吹くのが面倒臭い
訳ではない。ただ物がアレを
連想させるので口に近づけたく
ないだけだ。
しかし喜んでもらう為に用意した
美味しい食べ物を美味しいうちに
食べさせてあげないなんて、それでは
ただの恩知らずの意地悪な奴に
なってしまう。
ジョルノは観念してマカロニを
口に近づけた。

「わ・・・分かりました。ふーふーー。」

「俺達も吹クゾ、フーフ・・・・。」

(・・色んな意味でたくましく
 なれそうです・・・。)

結局マカロニだけでなく、
フランクの方も息を吹くように頼まれ、
息を吹かなくてもよかったのは
一番最後に食べた、「アレ」とは
無関係のステーキとピザだけだった。
とにかくピストルズ達は満足して
くれたようだ。
訳の分からない疲労感とお礼は果たせた
達成感に包まれながら、ジョルノは
再び眠りについた。



そしてピストルズ達が尋ねてきて
3日目の朝。
ジョルノは再びピストルズたちに
ジョナサンの事を頼むとベットの中に
潜り込む。本来なら寝てられる身分では
ないのだが、今日はどうにも具合が悪い。
あれから幸いにもDIOはジョルノを
抱きに来てないが
今まで蓄積してきた疲労感からうまく
抜け出せないようだ。

(・・・ゾクッとする・・・
 風邪かな・・・。)

身をブルりと震わせ、両腕で体を
抱きしめる。
どうせ何もできないのなら、体を休めて
早く回復した方がいい。
その時扉の向こうから足音が二つ
聞こえてくる。
最初DIOかと思ったが彼にしては
足音が軽い。
足音は扉の前で止まるとシュッと開き
二人の姿をさらけ出す。

「!!!!!」

その二人の姿に思わず心臓が
止まりそうになる。
そこにいたのはDIOでもヴァニラでも
なくブチャラティとフーゴだったからだ。
ブチャラティは無言でジョルノの前に
歩み寄るとその手に握られていたものを
見せる。

「そ・・それは!!」

驚いて口を開けた瞬間「ソレ」は
口の中に勢いよく飛び込んでいく。
慌て手を口で抑えるがもう遅い。
信じられないと言った表情でジョルノは
ブチャラティを見つめる。
しかしブチャラティは険しい表情を
変えず、ジョルノに命令する。

「ジョルノ、腕を出せ。」

上司からの命令、本来ならた
めらいもなく腕を出すだろう。
だが彼らはもう自分の知っている
二人ではない。
しかしジョルノはいわれるが儘に
腕をのばす。
勿論本人の意思には反して。

(こ・・・これはナランチャを
 苦しめた・・!)

ジョルノの口の中に入ったのは
トーキング・ヘッドというスタンドだ。
以前ナランチャの舌に引っ付いて
散々彼を振り回した。これに取り
つかれると自分の意志とは反対の言動や
行動をする。結局ナランチャは舌を
切り落としてその呪縛から逃れたが、
それはジョルノが舌を作ってくれた
からできた事であって、本来なら
そんなことをしたら誰でも死ぬ。
つまりジョルノも同じことをしようと
すれば、スタンドのいない今の彼は
たちまち死んでしまうという事になる。
頭の中に浮かぶ疑問の嵐、なぜ
こんなことを?誰に頼まれて?
ジッパーの開く音に不意に意識を
呼び戻される。
ブチャラティがいつの間にか
ジョルノの腕の血管の部分にジッパーを
作り、フーゴから渡された液状の
薬のようなものをそこに入れていた。

「!!!」

「・・・心配しなくても
 麻薬の類じゃないらしい、俺は麻薬は
 嫌いなんでな、ボスの頼みでも
 それだけは断る。」

硬い表情のままブチャラティは
ジッパーを閉める。
そしてそのジッパーは跡形もなく
ジョルノの腕から消えていった。

「苦痛を伴う薬ではないらしいですけど、
 どうなるかは僕らは知らない。
 僕たちはただボスに言われたことを
 やり通すだけだから・・・。」

言葉を失い固まっているジョルノに
二人はそれ以上何も言うことはなく
部屋を去っていった。もっと
話したかったのに、もっと質問
したかったのに。
後悔が押し寄せるが、どうせ今の
ジョルノでは二人を
呼び止めることはできない。
それよりも二人が言っていた
ボスの存在も気になる。
彼等が言う事を聞き、ボスと呼ぶのは
他でもないディアボロだけだ。

(あの男がっ・・・!!)

あの男ならやりかねない、
問題はどんな薬をジョルノに
投与したかだが、悩む間もなく
その効果は現れる。

「あっ・・・あ・・・!」

突然体を襲う強烈な快感。体の震えが
激しくなり座っていられなくなる。
ジョルノはシーツにうずくまり
必死に耐える。

(・・・く・・・苦しいっ・・・!
 薬でこんなになってしまうなんて!)

早く苦しみから解放されたくて
股間に手が伸びるがもう一つの手が
それを阻止する。敵のスタンドが
楽にさせることを拒んでいるようだ。

(そ・・・そんな・・・
 誰か・・誰か・・・。)

助けを呼びたいがこんな状態で
助けを呼ぶなんて自分の
プライドが許さない。しかしその口
からは絶対口にしないであろう男の
名前を勝手に呼んでしまう。

「父さん!!助けて・・父さん!!」

(・・・っ!!違う!僕は何を
 言っているんだ!!)

口を押えては叫び、口を押えては叫びを
繰り返し苦しみもがいていると、
皮肉にもその声が届いたのか
DIOが部屋を訪ねてくる。

「・・・?ジョルノ・・・?」

「父さん!お願いです!抱いて・・・!
 苦しくて切なくてたまら
 ないんです・・・!」

「・・・・・・?」

潤んだ瞳と紅潮した頬でDIOを
見つめる。さすがのDIOもジョルノの
異変に気付いたらしい。
ジョルノの体を抱き起すとシーツを
剥ぎ取り体をくまなく調べる。
しかし興奮している下半身以外には
何も異変は見つけられずDIOは眉を
顰める。そんなDIOなど
お構いなしにジョルノは思い切り
しがみつく。

「ああ・・父さん・・抱いてください。
 貴方が欲しいんです・・。
 貴方しか嫌なんです・・・。
(な・・なぜアンタが こんな
 タイミングで・・・!!)」

「・・・・薬か・・?しかし
 いつの間に・・・。」

「早く・・!早く来て下さい!
(こ・・こないで・・誤解しないで、
 僕はスタンドのせいでこんなこと
 口走っているんだ!。)」

しがみつきながらジョルノは
上目遣いでDIOに迫る。
DIOも一度はその両腕をはがそうと
するが、思いとどまる。
自身が痛そうなくらい腫れあがって
熱の開放を求めている様を見て、
仕方なく上着を脱いでいく。

「・・・仕方ない、本来なら
 こんな状態のお前を抱きたく
 ないのだが・・まずこの状態から
 解放しなくてはならないようだ。」

ジョルノの誘いに負けた訳ではないが、
苦しんでいる息子を放っても置けないと、
DIOはさっそく自身を埋め込み
腰を動かす。薬のせいも相まって
ジョルノの吐精のスピードも早く、
回数もいつもより多い。ジョルノは
DIOにしがみつきながらあられもなく
乱れる。

「あああっ!もっともっと!
 突いて・・激しく突いて!
(もう・・・もうやめて下さい!そん
 なに激しくしたら耐えられない!)」

いつもは一方的にに揺さぶられるのに、
今回に限ってジョルノは自分から腰を
打ち付けている。スタンドのせいで
体が勝手に動かされているのだ。
内壁はぎゅうぎゅうとDIOの自身を
締め付け、射精を促す。
しかし打ち付けながらも時折
苦悶の表情を見せ、必死に何かに
耐えているようなジョルノの仕草が
DIOは気になっていた。

「まだ足りない!まだ足りない!
(も・・もう止めてください!!
 か・・・体が・・・もう限界
 なんです!!)」

ジョルノの体はもう限界に近づき
これ以上やると命に関わるという
所まで来ているというのに、
咥えこんでいる内壁が勝手に動き快楽を
求める。DIOもつられて二度その中に
精を吐いた。言葉とは裏腹に激しく
痙攣して、息も絶え絶えになっている
ジョルノにやはりどこかおかしいと
感じたDIOは途中で行為を止める。
しかし口だけは相変わらずしきりに
DIOを求め、表情だけは今にも
死にそうなほど疲労しきっている。

「おねがいです・・もっと・・もっと・・父さんの
 熱いので・・・中を満たして
 ください。一杯いれて・・もっと・・
 飲ませて・・・。」

いくら催淫剤を投与されたとはいえ、
あの真面目な息子がこんな遊女のように
淫らな言葉を口にするだろうか。
これではまるで別人だ、DIOは
ジョルノの唇に自分の唇を重ね、
言葉を塞ごうとするが、その途端今まで
DIOを求める事しか言わなかった
ジョルノが急に拒否を始める。

「き・・・キスは嫌だ・・・!!
 キスは止めて・・!」

まだどこにそんな力が残っていたのか、
ジョルノは激しく抵抗する。
DIOはそんなジョルノにお構いなしに
強引に口を開け舌を入れて口の中を
まさぐる。そして何かを感じる、
妙な手ごたえを。

(コイツか・・・!)

すぐジョルノから唇を離すと素早く
舌の代わりに指を突っ込む。
そして二本の指を引き出すと、
そこには見たこともない
スタンドが現れた。そしてそれは
DIOの指の中でねじり潰され
命を終えた。これがジョルノに変な事を
口走らせた元凶だろう。
どうやらDIOの勘は的中したらしい、
それ以降、ジョルノは
何も喋べろうとせず、ヒューヒューと
苦しそうに呼吸をした後
そのまま彼の腕の中で意識を手放した。
ジョルノの体は全身汗で濡れて、
本来なら体は冷えていくはずなのに
未だ熱を保ったままでいる。不審に思い
DIOが額に手を当てると
その熱さが普通でないことがわかった。

(これは高熱だな・・・。
 さすがにこのままではマズいか・・。)

DIOはジョルノを抱えると
体を綺麗にし、ベットのシーツなどを
全て替え、寝間着を聞かせ再び
ジョルノを横たわらせる。
そして自身で凍らせた氷を洗面器に入れ、
冷水に浸したタオルをジョルノの額に
あてがう。

(・・・やれやれ・・・多分これ
 だけでは治らないだろう
 薬を持ってくるか・・・。)

そう言うとジョルノはヴァニラに
頼んで薬を持ってきてもらう。
DIOはその薬と水を一口含むと
ジョルノに口移しで水を飲ませた。
それを後ろで黙って見ていたヴァニラが
ぼそりと呟く。

「DIO様の遺伝をもってしても
 病気には敵いませんか。
 人間とは脆いものです。」

「そう言うな、俺達も一度は
 通ってきた道だ。」

DIOもヴァニラも生まれた瞬間から
吸血鬼だった訳ではない。
今はもう病気などに恐れることはないが
その代償に日光が最大の弱点に
なってしまった。

「愛するものをご自分と同じに
 しようとは思わないのですか?
 その方がこんな病や死などに
 苦しめられる心配などないのに・・。」

ヴァニラが言う「同じ」とは吸血鬼に
するという事なのだろう。
確かにDIOがしようと思えば
いくらでも出来るチャンスは
あった筈なのに今に至るまで何も
しない、ヴァニラにはそこが
分からなかった。
確かに愛する者には永遠に
傍にいて欲しい。
しかし吸血鬼にすることによって
彼等の魅力を大きく損ねてしまう
ことは確かだ。
果たしてどちらを取るか、
永遠の命を得た彼等を選ぶのか
人として生きる彼らを選ぶか、
その答えは未だ出てこない。

「もし無理にでも吸血鬼にしたら、
 自ら日光を浴びて自滅する道を
 望むだろう、こいつらはそういう
 奴らだ。ヴァニラよ・・
 すまんが・・少し二人に
 してくれんか?」

「仰せのままに・・・。今後不審な
 ものが入らない様見張りでもつけて
 おきましょうか?それと犯人捜しを
 なさいますか・・・?」

「今の所は探さなくていい。見張りも
 付けないでいい。
 以前ジョルノに部屋につけた
 モニターの事がバレて怒られて
 しまってな。
 「僕は確かにアンタたちに囚われて
 いるが、悪い事をして囚われている
 訳じゃない、囚人扱いはするな」と。」

ここから脱出することしか考えて
ないジョルノにとって、部屋をくまなく
探すのは当たり前の事だ。モニターは
その時に見つけたらしい。
DIOに猛抗議したその日から
監視モニターはなくなった。
だからこそピストルズ達と大っぴらに
部屋で騒ぐことができたのだろうか。
部屋の外もしかりで、見張りが付いて
いないのはジョルノの申し立てが
あったからだ。

「さすがあなたの息子ですね、
 ふふふ・・。では緊急時以外は
 お呼びしませんのでゆっくりと・・。」

微笑を浮かべながらDIOに一礼し
ヴァニラは去っていく。
残されたDIOは苦しそうに眠る
ジョルノを時間の許す限り
ずっと看病してていた。


「シクシクシク・・・・」

(・・・誰か泣いている。
 ・・・。誰・・・?)

あれから何時間熱にうなされて
いたのだろうか。誰かのすすり泣きで
ジョルノはまどろみから目覚める。
ぼやけた視線の先に映る小さな背中は
ピストルズだ、この泣き方は多分bT
だろう。一体どうしたのか。
ひょっとして仲間の誰かが
捕まったのだろうか。
なまりのように重い体を起こし
ピストルズに声をかける。

「・・・ど・・どうした・・
 き・・君の仲間が・・まさか?」

「あっ!ジョルノ!寝テナキャダメだ!」

「そ・・そんなことより・・・
 君の・・・」

「・・・俺の仲間ナラ・・まだ
 探索シテル・・・。ソレより
 ジョルノ・・大丈夫・・か・・・?」

とても心配そうに見つめているbTに
まだ具合が良くないなどと言えない
ジョルノは無理して笑顔を作り
「大丈夫」と答えた。
そしてbTにさっき泣いていた理由を
尋ねる。ひょっとしたらミスタが
恋しくなったのかと思ったが
そう言う訳ではないらしい。

「え・・と・・ソレハ・・・。」

いつも素直で言いたいことははっきりと
いうピストルズにしては珍しく
言い淀んでる。
そう言えば彼だけ残って他が全員
いないと言うのも妙な話だ。
そもそも彼はいつ戻ってきたのか。
自分は確かスタンドのせいで
変な事を口走りDIOに抱かれた。
抱いた後DIOはすぐ出ていき、
その時にbTだけ入ってきたの
だろうか。

起きたばかりで気づかなかったが
部屋の様子がいつもと違う事にふと
気付く。サイドテーブルには洗面器が
置かれており床には湿ったタオルが
落ちていた。タオルは今さっき
ジョルノが体を起こした拍子に落とした
ものだ。
そして何よりの変化は自分が
寝間着のようなものを着てる事だった。
少なくともこれらの仕業は
ピストルズ達によるものではない。
分かってはいたが、あえてジョルノは
聞いてみる。

「これは君たちが・・全部?」

「ウウン違うぞ、全部アノ
 金髪の男ガ・・・・アッ・・。」

あまりにもジョルノが普段通りに
尋ねたので、ついいつものように
ありのまま起こったことを喋ってしまい
bTは慌てて口を押える。
もしこれが本当なら、bTはDIOが
いる間ずっとここにいたという事になる。
何故いたことを黙っていたのか、
てっきり皆で出かけたと思ったのに。
しかしそんな事よりもジョルノは
いつから彼がここにいたのかが
気になって仕方なかった。一方険しい
表情をしているジョルノが自分に
怒っているのかと勘違いした
ピストルズが泣きながら謝る。

「ウエー――ン!!黙っテてゴメンよ!
 本当はオイラモイクッテ言ったん
 ダケド・・他の仲間がお前ダケ
 残っテヤレッテ・・オイラも・・
 ナンカ今日に限ってジョルノが
 心配で・・・ゴメンヨーー!」

ピストルズ達の事だ、ジョルノの事が
心配でそうしたのだろう。
怒ってはいけない、彼等は何も悪くない、
そう自分に言い聞かせて心を
落ち着かせる。しかし体はわずかな震え
すらも抑えきれない。
それは決して体調のせいだけではない。

「過ぎた事は仕方ありません。
 でも、も・・もう二度と
 しないでください。
 ところで君は・・いつからここに?
 ・・怒らないから正直に話して。」

「・・・ブチャラティとフーゴが
 入ってきたことは知ってる・・。」

彼等が来たという事を知っていると
いう事はその次に起きた悪夢のような
出来事も知っているという事だ。
なんとなく覚悟はしていたが、
その言葉だけは聞きたくなかった。
震える声で「それから?」と質問を
続ける。本当なら聞きたくない、
しかし聞かずにいられない。

「アノ金髪の男が・・来テ・・・
 ジョルノト・・。」

「!!!」

まるで心臓を突きさされるような
一言にジョルノは頭が真っ白になる。
まるで冷水の中にでもいれられたように
体中から熱がひいていく。
もう終わりだ、彼等に見られてしまった。
絶望的な気分の中bTはありのまま
聞いたことをジョルノに打ち明ける。

「・・・でもオイラ、何ヲシタノカハ
 見てナイ・・。
 ブチャラティとフーゴが来て何ヲ
 シタノカモ見テナイ・・。
 ジョルノが関与スルナッテ言っタ
 カラ・・・。何ガアッテモ
 表に出ちゃイケナイッテ言っタカラ
 ・・・。本当に何シテタカハ
 分カンナイ・・。何言ってタカモ
 ワカンナイ・・・。タダ
 ブチャラティとフーゴはジョルノに
 悪いコトシタノハワカル。
 金髪の男も何シタカ分かんナイケド、
 ジョルノ苦シソウダッタカラ
 苛メタンだと思ッテタ・・・。
 デモアノ男ジョルノを介抱シテタ。
 シバラクジョルノの看病もシテタ・・・。ダカラアノ男が
 意地悪をシテイタカドウカ、
 本当の所分はカンナイ・・・。」

「・・・・っ・・!」

bTがそう言い終わると同時に
ジョルノがベットの上に倒れる。
どうやらジョルノとDIOが何を
していたかは分からなかったようだ。
それを聞いて緊張の糸が一気に
解けたのだろう。
慌てて飛びよるbTにジョルノは
何故か小指を差し出した。

「・・・・それは全部・・
 本当の事だね?」

「オイラ嘘ハツカナイゾ!
 全部本当の本当だ!」

「今喋ったことに嘘偽りがないと
 言う事と他のピストルズやミスタや
 仲間に君が聞いたことは
 絶対言わないとを僕と指切りして
 証明してくれるかい?」

「絶対言わナイ!!bRに苛メラレテモ
 絶対言わないぞ!
 ミスタに怒ラレタッテ
 絶対言ワナイゾ!約束スルゾ!」

bTはそう力強く断言すると、
ジョルノの小指を掴み揺さぶり
指切りを交わす。因みに何故さっき
彼が泣いていたかというと
黙って居残ってしまった事の罪悪感と、
苛められていたジョルノを
助けてあげられなかった悔しさで
泣いていたという。
これ以上彼を疑う余地はないだろう、
ジョルノは心配してくれた
bTを慰め再度礼を言った。

そして十分後、bTはジョルノに
外に出してもらい仲間の元へ飛びだって
いく。病気のジョルノも心配だったが
本人たっての願いだったので
渋々ではあるが部屋から出ていった。

(これでいい・・・。)

ピストルズを見送ったジョルノは
ふら付く足取りでベットへ戻る。
ベットに腰かけ、ピストルズが
教えてくれたことについて
自分なりにまとめてみる。


(・・・自分があの男に体を求めたのは
 覚えている・・。でもそれは僕の意志
 じゃない・・スタンドのせいだ・・。
 そしてそのスタンドと変な薬を
 仕込ませたのはディアボロだ。
 多分どこかで僕が囚われていることを
 知って、僕に仕返しするために
 元部下だったあの二人に命令
 したんだ・・。
 でももうあのスタンドの気配は
 感じない、誰かが取ったんだ。
 ピストルズが取ったという訳では
 ないだろう・・なら・・
 あの男しかいない・・でもなぜ?)

DIOはジョルノをからかったり、
人権を無視した扱いをしたりと酷い男だ。
そんな男が悪いスタンドを取るだろうか。
逆に初めての反応を楽しむのでは
ないだろうか。しかしDIOは
自分を抱くまえに「こんなお前を
抱くのは本意ではない。」
と言っていた。いつもは抱きながら
自分を挑発するようなことばかり
言うのにあの時はずっと真面目だった。
さらにピストルズの
最後の証言では、自分の看病をしていた
というのだ。

(・・・あの男がそんなことする
 わけ・・・。)

あの男は自分を見捨てたうえ、世界を
支配しようとする冷酷な男だ。
仲間をこんなにした許せない存在だ。
しかし抱かれながらも何故か感じた
親らしさ。
最初は不器用だったジョルノの扱い方も
だんだんと慣れていき親らしく
なっている。
確かに親子の間で性行為すること自体
普通の親子関係ではあり得ない
事ではあるが。
つまり極論だが、あの男は子供の愛し方
が分からないのではないからこういう
行動をとったのではないか。
それに愛し方が分からないと言う事は
愛されたことがないと言う証拠だ。

(・・・似ている・・僕と・・・。)

似ていると言っても、ジョルノは愛を
得るために人を蹂躙したり束縛したいと
は思わないが、親に愛されて
いないという点ではDIOと同じだ。
彼がこんな変貌を遂げるまでに一体何が
あったのか。
聞きたい事が頭の中に一杯浮かんでくる。

(なぜ・・僕はあの男の事を・・
 知りたいんだ?)

そう言えばジョルノは皆に自分の
父の事について聞いて回ったことが
ある。あれはどうして知りたいと
思ったのだろう。
生きていれば一言いいたいから?
今まで放っておいた仕返しを
したいから?真実をはっきり
させたいからと自分では思っていたが
今はどうだろう。こうして触れて、
彼の事を少しづつ知って
何が変わった?

(僕は・・・一体どうしたいんだ・・?)

考えがよくまとまらない、
頭がのぼせているせいだ。
熱を冷ましてもう一度考え直そうと
洗面器に手を伸ばす。
しかしバランスを崩し倒れてしまう。
その時洗面器と一緒に
水差しが落ちて割れた。

「!!」

ほんの一瞬手首に痛みが走り、
その後暖かい何かが流れていく。
その何かは見る見るうちに
赤い血だまりを作っていった。

(しまった・・・!こんな時に・・・。)

慌てて血を止めようと辺りを見回すが
高熱のせいで視界がぼやけ、
うまく態勢を整えることもままならない。
しだいに血だまりもじわじわと
広がっていく。
なんとか血は止められたが、意識が
なくなるのは時間の問題だろう。
無論このまま放っておいてはいずれ
死がやってくる。

(・・・っ・・意識が・・・・。
 僕は死ぬのかな・・・。
 こんなところで死ぬなんて、
 仲間はどう思うかな・・・。
 父さん・・あんたはどう思う?
 笑って僕を蔑むのか?それとも・・・
 本当の父親だって言うのなら・・・・。
 病気の僕を本当に心配だと思って
 いるのなら・・早く・・。)

もう目も開けていられずジョルノは
そのまま瞼を固く閉じた。



「まったく・・・
 君という男は・・・・・。」

ジョルノが倒れてから数分後、この
部屋には二人の男がいた。
一人は勿論DIO、しかしもう一人は
ヴァニラでもプッチでもない。
ジョルノの手を握る優し気な青い瞳を
した男はDIOに囚われていた
ジョナサン・ジョースターだった。
労わる様に優しくジョルノを見る反面、
時々険しい顔つきでDIOを睨む。

「なぜもっと早く僕を呼んで
 くれなかったんだ!」

「もうその質問はよせ、聞き飽きた。」

ジョルノの意識が途絶えてから妙な
胸騒ぎを覚えたDIOが血を流して
倒れているジョルノを見つけ、
ジョナサンを呼んだのだった。
ジョナサンもつられるように急いで
ジョルノの部屋へ行き彼の治療に
あたってようやく一命をとりとめたと
いう訳だ。
しかしジョルノをここまで放っておいた
DIOに、怒りが収まらない
ジョナサンはしつこく説教を
繰り返していた。

「・・・確かに彼は強いよ・・・
 スタンドがいなくたって
 精神力も行動力も人並外れている。
 でもね・・・・・
 スタンドのいない彼らは普通の
 人間から見たら強くても
 僕たちから見たらとてもか弱い存在
 なんだ・・・・。しかもこの子は
 まだ少年だ、しっかりしているようで
 もまだまだ体も心も未熟なんだよ?
 わかる!?」

「フ―――・・分かった分かった。
 以後気を付ける。」

「・・・全然君の反省が伝わって
 こないよ・・・相変わらずだ君は。
 まあ、でもこれだけは言っておく。
 ねえDIO・・・。
 君も一流のプライドがあると
 言うのなら彼にスタンドを返すべきだ。
 本当は皆の元に返せって声を大にして
 言いたいけどどうせしたくないんだ
 ろう?だったら彼にハンデを
 つけるのは間違っている。
 勿論僕にもだけどね!」

ジョナサンもジョルノを盾されて
動けない状態だ。
ジョナサンはその束縛を解けと
言いたいのだ。
自分はダメでもせめてジョルノ
だけでもといつも嘆願していたのだが
今日まで無視され続けていた。
しかし今日という今日は
受け入れて貰わなければならない。
この治療もその条件と引き換えだ。

「・・・DIO・・・。
 彼が何故倒れたか分かるかい?
 それはスタンドがいないからだよ?
 スタンドがいないから不審者の
 侵入を招き、変な細工を体にされた。
 スタンドがいないと彼は戦いたくても
 戦えない自分を守りたくても
 守れないんだ・・・。」

「俺を頼ればよかったんだ。
 それなのにこんなになるまで
 我慢してこのザマだ・・。
 意地っ張りにも程がある。」

「意地?僕は違うと思う。
 君が看病してくれた事で
 ほんの小さなものだけど、信頼が
 生まれたんじゃないかな。
 君を信じて待ってたんじゃないかな?」

ジョルノはDIOに抱かれた後、
殆ど意識を失う形で倒れた。
だからDIOが看病したことは
分からないはずだ。
しかし解放した後の痕跡は残したままだ。
あんな小さなスタンドにそんな真似は
出来ないとジョルノも気づくだろう。
今回の侵入者の件はともかく、
DIOは他の部下とジョルノとの
接触を硬く禁止している。
だから自分を介抱できるのは
DIOだけと言う事はジョルノも
分っていたはずだ。
だとしたら、また自分の様子を
見に来るはずだ。
ジョナサンはそこをDIOに
指摘しているのだ。

「バカな、俺が治せるかも分から
 ないのに。一歩間違えば死ぬんだぞ?」

「・・・彼は僕が囚われていたことを
 知っていた。君はそう言ったね?」

「ああ、細かいスタンドがウロチョロ
 してそんなことをジョルノと話して
 たのは知っているからな。」

DIOは実はピストルズ達の存在には
とっくに気づいていた。しかし
ジョルノの暇つぶしにでもなればと思い
あえて放っておいたのだった。

「君も少しはいい所あるんだね。
 ねえ、DIO。
 実は僕は彼と一緒に戦った事が
 あるんだ。だから彼は僕がどんな
 能力を使えるか知っているはずだ。 
 いざという時は僕を呼んで
 助けてくれるってそう思ったんじゃ
 ないか?本当の父親なら息子の命を
 守るのを最優先してくれる、
 そう思ったんじゃないか?
 実際君は僕を呼んだしね。」

「ふん・・理由を話したわけでも
 ないのによく黙って俺についてくる
 気になったな。」

DIOに呼ばれたとき、彼は表情には
出さないものの有無を言わさぬ強い
口調でジョナサンを連れて行った。
途中で「遅い!」とジョナサンを
しかりつけた場面もあった。
ジョナサンも何故急かされているか
分からなかったが彼の顔にただならぬ
「焦燥感」を感じ、黙って一緒に
ついて行ったのだ。

「だてに君とは長い付き合い
 してないよ。ポーカーフェイス
 していても僕にはわかる。」

「ふん・・・俺としたことがな・・
 とんだ失態だ。」

「そうかい?僕は君が悪に
 染まってから見た中では
 今が一番かっこよく見えるけどね。」

「だったらその思いを態度で
 示したらどうだ。」

DIOがぼそりとぼやくが勿論
ジョナサンはそれに反応せず
ジョルノの体を優しくポンポンと叩く。

「さ・・・もう大丈夫だろう。
 ディオが暴れるからもう戻るよ。
 ・・・DIO・・最後にもう一度
 言うよ。頼むから「僕たち」を
 失望させないでくれ・・。
 君は確かに悪党だけど弱いものに
 枷をはめるような奴じゃないはずだ。
 自分は強いと自負するのなら
 尚更だよ?」

「煩い・・お前に言われんでも
 わかっている。スタンドは返せば
 いいのだろう?お前の束縛も
 解いてやる。ただし勘違いするな?
 逃がしてやるとは一言も言って
 ないぞ。逃げたかったら
 命がけで逃げるんだな。」

「彼とタッグ組んで君に挑むかもよ?」

「かまわん、二人まとめて思い
 知らせてやる。」

ニヤリと笑うDIOに苦笑いすると
ジョナサンは部屋を去っていく。
残されたDIOはジョナサンの
真似をしてジョルノの体を
ポンポンと優しくたたく。

(そう言えば母がやってくれた・・・
 なぜかこうされると
 妙に落ち着いた気分になれる。)

「とうさん・・・。」

とても小さなつぶやきだが
間違いなくジョルノの口から聞こえた
ようだ。
しかし彼は寝ている、きっと
無意識のうちに言ったのだろう。
口元は少し上がっていて、まるで
微笑んでいるようにも見えた。

「明日からお前の相棒を返してやる。
 だがハンデを無くした分
 厳しくしてやるからな、
 覚悟しておけよ。」

ジョルノと同じように口角をあげ、
鼻で笑う。明日からどんな戦いが
繰り広げられるのだろう。
煩わしくもあるが楽しみでもある。

「もちろん、お前たちが歯向かわずに
 考え直してくれるのも一向に
 かまわないが?」

DIOはジョルノに意地悪く呟くと、
もう用は済んだとばかりに
椅子から腰を上げる。
本当はもう少しいよう、とも思ったが
いずれあのチビ達がきっと心配して
ここにやってくるに違いない、
ジョルノだって奴らの安否が気になる
筈だ。みんな無事だと分かれば
ジョルノもきっと喜ぶだろう。

とにかく俺がいては奴らも
入れないだろうから出て行ってやるか。
いつになくらしくない自分にDIOは
少し戸惑う。
理由は分からないが何故か自然と
そういう気持ちになった。
きっと、これこそがジョナサンの言う
「親心」なのかもしれない。
DIOはそう思った。






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