ジョルノが入団してまだ数日も経ってないというのに
ブチャラティ達の元へは仕事がバンバン舞い込んでくる。 いくらジョルノが新人とはいえ、流石に見学という 訳にはいかない。 任務が来れば、ブチャラティの細かい指示のもと 動かなければならない。 ジョルノもブチャラティのいう事をしっかり聞き 命令通りにてきぱきと働いた。 他のメンバーも予想以上に働く彼を見て 取り敢えず文句を言う者は一人もいなかった。 【叱られて】 しかし、そんなある日の事。 「おい、待てよ。ちょっとおめーに話がある。」 ブチャラティとジョルノが廊下を歩いていると 背後からどちらかを呼び止める声がする。 「おめー」というからには二人にではなく どちらか一人に用があるのだろう。 二人で振り向くと、そこには不機嫌そうな 表情をしたアバッキオが突っ立っていた。 その表情を見て、なんとなくジョルノは察する。 多分自分に用があるのだと。視線も ブチャラティではなく自分に向けられているのだから。 しかしジョルノが尋ねる前にブチャラティが先に口を開く。 「なんだ?アバッキオ。ああ・・ジョルノ。 お前は先に帰ってくれ。」 ブチャラティもなんとなくアバッキオが誰に対して 「文句」を言いたいのかが分かるのだろう。 まるでジョルノをかばうようにして先に帰す。 ブチャラティの強いまなざしに、何かを感じたのか 最初はどうするべきか迷っていたジョルノも、 黙って素直に指示に従うことにした。 自分から遠ざかっていくジョルノにアバッキオが 止めようとするが、すかさずブチャラティが阻止する。 「おい・・・・!」 「何だと聞いているんだ、アバッキオ。用件を言え。」 「俺はジョルノに話があんだ。おめーにじゃねーんだよ。」 憎々し気に、遠ざかるジョルノの背後を見つめていた アバッキオだったが、ブチャラティの一歩も引かない その態度に負けたのか、悔しまぎれに舌打ちと 大きなわざとらしいため息を一つつく。 「過保護乙だな。」 「用件は?・・・まあ大体わかっているがな。」 「そうだ、リンチの件だ。まあ、あいつを庇うくらい だからおめーが関わっているんだろうがな。」 リンチの件とは、先日ブチャラティを襲おうとした 犯人を捕まえて、情報を聞き出すため、皆で リンチをしていた時の事で、その時何故かジョルノだけは それに参加しなかった事だ。 結局犯人は情報を吐かず、自分で自害すると言う ギャングらしい最後を遂げてしまっった。 ブチャラティはその責任について一切言及はしていないが アバッキオとしては納得いかないようだ。 もちろんリンチに参加した自分たちに 責任がないと思っている訳ではない。 しかしそれに参加しない奴はどうなのか。 アバッキオはそれについてジョルノに言及したいのだった。 「アイツは俺たちが「仕事」していた時に何してたんだよ?」 「俺が違う仕事を頼んでいた、それだけだ。内容を 聞きたいなら教えてやるが・・?」 「ケッ・・。それはお綺麗な仕事か?自分のイメージを 汚さなくて済むような・・・。」 「誰にでも適材適所というものがある。俺はお前らに 後は任せると言ったが、リンチを強要した訳じゃない。 しかし禁止したわけでもないから文句などない。もし お前らの誰かがリンチが嫌だと言うのなら 今度から参加しなくても構わないぞ。 他の選択肢があるならそっちを選んでもらっても 構わない。」 その言葉にアバッキオはまるで苦虫を かみ潰したような顔になる。 悔しいがブチャラティのいう事も最もで、リンチの方が 手っ取り早いからと勝手に実行してしまったのは アバッキオたちだ。 それについての議論はもはや無駄だと感じたアバッキオが ブチャラティに最後に一つだけと質問をする。 「ならこれだけは聞かせて貰おうか、 アイツが嫌だと言ったのか?」 「ああ、言った。人を弄るのは好きではないとな。 戦いでお互い傷つけあうのは仕方ないとしても ろくに抵抗できない人間を一方的に 痛めつけるのは苦手だと。」 「お美しい言葉だな、アイツなんでギャングになったんだよ。」 「弱いものが虐げられる世の中を変えたいからと 言っていた。上辺だけのきれいごとじゃないってことは 戦っててわかった。 顔には出さないがコイツは人一倍強い 正義感を持っている。正義感が強いという事は 優しいという事だ。優しいという事は 悲しみや虐げられる苦しみがどんなに辛いか 知っているという事だ。」 「つまりアイツはひどい目に会ってきたから、 自分がされたことをしたくないと言いたい訳か? 甘くねーか?それだったら皆だって そうじゃねーのか?なんでアイツだけ特別扱いなんだよ。」 「アバッキオ、お前がそこまでムキになる理由は、まだ ジョルノの事を信じられないからなんだろうな・・。 だがな、もし俺たちを出し抜く様な真似をするつもりなら 俺たちのいう事を何でも聞いて従順なふりをするはずだ。 上司である俺やお前たちの行動に意見などしないはずだ。」 「・・・・・・・・。」 「アバッキオ・・おれはイエスマンが欲しい訳じゃない。 お前たちも俺の指示した行動で、どうしても従えない時は 遠慮なく言えばいい。その理由が理不尽でなければ 俺は何も言わない。」 そう言って去っていくブチャラティに アバッキオは何も言えず、遠ざかる彼の背中を黙って 見送ることしかできなかった。 ところ変わって休憩所ではようやく帰ってきたアバッキオと ナランチャがジョルノの事で文句を言っていた。 「案の定の答えだったぜ、お前らも嫌なら断れだってさ。」 「えーーー!なんだよそれ!そんな事ブチャラティ 俺に言ったかなー!だいたいよ!俺、中学ちゃんと 卒業してから入団しろって言われたのに何でジョルノは 中学卒業していないのに入れたんだよ!そもそも そこが納得いかねーんだけど!!」 ナランチャはだいたいジョルノと同い年位で入団したのだが ブチャラティに学校をちゃんと卒業してからこいと 叱られた過去を持つ。 仕方なく言う通りに我慢して登校してやっと卒業できたのだ。 それなのになぜジョルノは中退でもあっさり許可されたのか 全く持って納得できない。 「それはお前がアホすぎだからだ。因みに僕はお前より 年下だったけど学業関係なく入団できたぞ。」 そう言うフーゴは確かにナランチャより年下だし ナランチャを初めてブチャラティに紹介したのもフーゴだ。 ナランチャも、あまりにもフーゴがしっかりしていたので その時は年下だなんて思っていなかったのだが。 「なんだよ!フーゴ!おめー誰の味方なんだよ!」 「あほの味方ではないことは確かだ。」 「よしな、ナランチャ。この二人には所詮関係ない 事なんだよ。」 アバッキオが厭味ったらしく言った「二人」の内のもう一人は ミスタの事だ。ミスタは周りのやり取りなど気にせずに 呑気に銃などを磨いていた。その態度が面白くないのか ナランチャがミスタの座っているソファーをけ飛ばす。 「ミスタ!おめーは何にも感じないのかよ!」 「おっと、あぶねーな。弾は抜いてないんだぜ? 途中で「ドカン」ってなっても俺を恨むんじゃねーぞ。 おめーらさ、なんでそんなジョルノの事で ムキになってんの? 別にいいじゃん、ブチャラティが良いって言ってんならさ。」 「そこがポイントですよね。ブチャラティの意向なら 僕はそれに従います、それにジョルノはまだ僕たちの 足を引っ張っていないし。 僕は基本的に足手まといにならなければ 何でもいいですよ。」 「お・・・俺だってブチャラティの意見に文句がある訳じゃ ねーけどさ・・・・。」 フーゴとミスタにブチャラティの事を言われてしまっては ナランチャも納得せざるを得ない。そんなナランチャに アバッキオは呆れ、唾を一つ吐きながら面白くなさそうに 休憩室を出て行った。 そんなアバッキオを何気なく見つめていたミスタが 急にナランチャに近寄り悪戯っぽく笑う。 「あいつ、なんでジョルノの事であんなに ムキになるんだろな。 いっつもジョルノに冷たく当たるしよ。なんかさー 好きな子に振り向いてほしいけど素直になれない 男子学生みてーー。」 「えーー?なんだよそれー!好きなら好きって 言えばいいじゃん! わっかんねーな、その心理が!」 「話が微妙にかみ合ってませんよ?僕が思うに・・・。」 残った三人はくだらない会話をひとしきり交わすと 明日の任務に向けて体を休めるべく各自室に戻る。 ミスタだけは自分のスタンドに食事を与えるために 食堂へと向かった。 ミスタはさっそく食事を頼むと部屋に持ち帰り スタンド達に分け与え始める。 スタンド達の食いっぷりは凄まじく, あちこちで 取り合いや奪い合いが始まる。 「だからみんなの分あるっていってんだろが!! なんでお前らは決められた分を 仲良く分け合えないんだよ!」 いつもと変わらないピストルズ達の食事っぷりに ミスタも毎度毎度の説教をたれる。ピストルズ達も 最初は言う事を聞くものの、ミスタがよそ見をしている隙に またやりたい放題始める。 「ほらァ!!bP!bQ!喧嘩すんな! bR!bTを苛めんな!」 食べ物がない訳ではないのにまさに弱肉強食の世界を みているようだ。結局bTはbRに食べ物を殆ど取られ 泣きながらどこかに行ってしまった。 「あーあ・・・bR!ちゃんと後で謝れよ!?」 ミスタも叱るもののこんなことはしょっちゅうなのか 特にbTを探す事もせず、ピストルズ達の食事の後片付けを やり始める。因みに彼ら(人間)の方の食事は自由で 買い物で夕飯を買うもよし、外で夕飯を食べるもよしで 各々好きな方法で食事をとっていた。 中でもジョルノは特に外で食べるようなことはせず、店で パンを買い本を読みながら頬張り、軽い夕食を澄ましていた。 たまたま読んでいた本が面白かったのか、 本を読み終えた頃には 辺りはすっかり真っ暗になっていた。 (・・・・もうこんな時間か・・そろそろ寝るか・・。) そう思い、ランプを消そうと手を伸ばすが、 ふいに引き出しから 物音が聞こえ、思わず手を止めて耳を澄ます。 (なんだ・・・?引き出しの中から・・ネズミ・・・?) 音をたてないようにそっと引き出しの取っ手に手をかけ 勢いよく引き出しを開ける。ネズミなら それで慌てて飛び出して逃げるだろうと思ったからだ。 しかしそれは逃げるどころかクッキーの箱にへばりついて 夢中で中身を取り出そうと箱を破いていた。 「・・・・え・・?」 「・・・・・ワッ!!」 ジョルノの声と存在におどろいたそれは、 思い切り跳ね上がる。その姿はネズミでも虫でもない 小さな布を被った「何か」だった。しかもそれは喋るらしい。 ジョルノは慌てて逃げようとするそれをそっと摘み上げる。 「わわわわ!は・・・はなせ・・!」 小さなそれはバタバタともがき始める。 どうもこれはスタンドらしい。ジョルノもスタンドを 持っているので触った感じで分かるのだろう。 ジョルノはそれに優しく語り掛ける。 「君はスタンドだろう・・?いったい誰のスタンドだい・・?」 「・・・・・・・。」 「言えないか・・・?じゃあこれだけは教えてくれ。 君は僕たちの味方の誰かのスタンドなのか、 そうでないのか・・。」 「・・・敵じゃない・・・味方のスタンドだ・・・。 でも誰のかは言えない・・。バレたら恥ずかしいし 怒られるから・・・・。」 その幼いが正直な物言いに嘘偽りがないと 確信したジョルノはさっきのクッキーの箱をあけ その一枚を小さな化け物の格好をしたスタンドに差し出す。 「良かったら食べなよ。勿論良かったらだけど・・・。」 「え?・・・いいのか・・・?」 「だって食べたかったんだろう?おいしいよ、さ・・どうぞ。 一枚でも二枚でも。・・僕に姿を見せるのが嫌なら僕は 後ろを向いているけど・・・。」 「・・・いい・・俺が後ろ向いて布の中から食うから・・。 でも約束してくれ、絶対布の中を覗かないって。」 その言葉にジョルノが頷くとその小さなお化けは 信用したのか後ろをくるりと向き、クッキーを ほおばり始める。 ジョルノは無心にクッキーをほおばるそれを しばらく眺めていたが 何を思ったのか黙って部屋を出ていった。 同時刻、ミスタはさすがに今だ戻ってこないbTを心配して ライト片手に食堂を探し回っていた。 (ったく・・どいつもこいつも世話が焼けるぜ・・。 しかしいないな・・・・いつもなら食堂で残飯でもないか 探し回ってるって言うのに・・・。) 薄暗い食堂を手探りで歩くミスタ。するとすれ違いざまに 誰かが出ていくのが見え、不審に思い思わず声をかける。 「・・・誰だ・・・?」 ライトを音がする方に向けるとジョルノがまぶしそうに 手で光を遮っていた。取り敢えず怪しいものではな いようなのでミスタは警戒を緩める。 「・・・僕ですよ。グイード・ミスタさん。」 「ミスタでいいぜ、みんなそう呼んでいる。まさか お前だと思わなかったからよ、悪かったな。」 「いいえ・・・それじゃ・・・。」 ジョルノは短く言うと手に何か小さなものをもって立ち去る。 どうやらコーヒーや紅茶を頼むときについて来る 小さな銀のカップミルクいれのようなものだ。 きっとコーヒーか紅茶にでも入れたいのだろう。 ミスタは特に気にせずに再び捜索を始めるが、ジョルノが いたあたりの場所に何か違和感を感じ、ライトを当てる。 するとさっきジョルノが持っていった銀の小さなカップの 横にまだ封を切ってないポーションミルクが 数個置いてあるのに気づく。 (・・・・変な奴だな・・。ポーションミルクがあるってのに わざわざ銀のカップを持っていくなんてよ・・・。) そう言いながら銀のカップを手に取る。 本当にそれは小さくて まるで小人の飲むカップのようだ。 (・・・ふうん・・・これいいな・・。アイツらに ぴったりサイズじゃねーか・・・。ん・・? ちょっと待てよ・・・?) ポーションが置いてあるのにジョルノが わざわざ持っていった銀のカップ。 アレは本当にジョルノが飲み物に入れて飲むための 物だろうか。 しかもジョルノがいたあたりには冷蔵庫があり 、先ほど中を開けて物色したのか 冷気がほんのりその場所に残っている。 (・・・冷蔵庫には飲み物ばっかりだ。 牛乳とかジュースとか・・。 ん・・?牛乳の口の所がちょっと濡れてんな。という事は ジョルノがあのカップに牛乳を入れて 持っていったという事だ。 まあ、生クリームが嫌いな奴だっているから 珍しくはねえ・・。) たかが銀カップに入れたミルクの事で どうしてそんなに気になるのか 分からないが、ミスタの足は自然とジョルノの 自室へと向かいまるでスパイの様にドアの外から 様子を伺い聞き耳を立てる。 ジョルノの部屋からはかすかだが何かをかじる音と何かを 話し合う声が聞こえてくる。 「これ・・・ミルク。嫌いじゃなかったら飲みなよ。」 「え・・・ミルク・・?持ってきてくれたのか・・。 あ・・・ありがと・・・。」 かすかににジョルノ以外の声がする。そしてその声に 心当たりがない筈がない、嫌というほど聞いている 聞きなじんだ声。 (あーーー!!やっぱりここか!!道理でいないと思ったら アイツ、ジョルノに世話になっていたのか・・・!) いなくなっていたbTの声だと確信したミスタは頭を抱える。 まさか自分のスタンドが新人にお世話になって しまっているなんて考えもしなかったのだろう。 不甲斐なさと情けなさに思わず顔をしかめる。 「クッキー美味しかったかい?」 「美味かった、お陰で腹が落ち着いたぞ。アリガト。」 (飯まで貰ってんのか!) 「お腹すいたらまたおいで。 今度は違うお菓子を置いておくよ。」 「ち・・・ちょっと待ってくれ。腹いっぱいで動けない・・。」 (情けねーーー!!) 箱に入ってあった新品のクッキーが 五枚ほどなくなっているので この小さな体でよくそれだけの量が入ったなと感心しながらも 本当に動けなさそうに横になっている小さなお化けを見て ジョルノは苦笑する。別に追い出したい理由もないし 好きにすればいいとジョルノはそっとしておくことにした。 しばらく流れる沈黙。しかしそれを最初に破ったのは お化けの格好をしたスタンドだった。 「あのさ・・・・。」 「・・・なんだい?」 「お前・・・仲間に苛められたことある・・?」 「仲間に・・・・?」 ピストルズの質問に外にいるミスタは何故かドキリとする。 ジョルノを最初紹介されたとき、確かに彼に嫌がらせをした。 悪戯に参加はしてなくても、その様子を 面白そうに眺めていたのは確かだ。 自分たちはからかいのつもりだが、 やられた本人にしたら立派ないじめだ。 あれから嫌がらせはしていないが、 やはり皆ジョルノに対して どこか冷たい所がある。人によってはそれを苛めと 感じる事もあるだろう。だがジョルノは 本心か見栄を張ってるのかわからないが ピストルズの質問に否定する。 「そうだね・・「仲間」にはないよ。」 (・・・?仲間って強調したように聞こえたけど・・。 どういう意味だろう・・・。) 「ホントか・・?でもお前あんまり皆と 喋ってないし付き合ってない・・・。仲良さそうにも見えない。 みんなの事が嫌いか?」 ピストルズの言う通り、ジョルノはブチャラティとは たびたび会話を交わすが、その内容はたいてい 仕事がらみの事だ。 仕事の事では意見する時もあるがそれ以外は 全く口を開かない。 というかジョルノの口から雑談というものを 聞いたことがない。 (・・・あいつ・・本人を目の前にして聞きづらい事を 聞いてんじゃねーよ・・・。) 「・・・嫌いなら一緒に仕事しないよ。」 「なら好きか?」 「・・・・好き?信頼しているじゃダメかい?」 「信頼?「好き」じゃないの?」 「みんなの事は信じてるよ。」 「うーーーん・・・。なんか違う。俺も仲間の事 信じてる・・。でもそう言うのじゃない・・・。」 ジョルノとしてもこんな小さなスタンドから いきなりそんなことを聞かれると思わなかったのだろう。 まるで難題でも出されたかのように まゆをひそめて頭をひねる。 「難しいな・・・・。」 (ええ?なんでだよ。) 「じゃあさ・・ジョルノは好かれるのは嫌か?」 「好かれる・・・?」 「好きだって言われたら嬉しいだろ?」 またもやジョルノは考え込む。 誰でもすぐこたえられる簡単な質問のはずなのに ジョルノは数十秒考えこむと、 ようやくその答えを出す。しかしそれは肯定とも否定とも とれる答えではなかった。 「一度も言われたことないから・・・・。ううん・・ 正確に言えば言って欲しい人達に 言われたことがないから・・ 好きって言われることの喜びがわからない・・・。」 「で・・でもこれから言われるかもしれないぞ? その人まだ生きてるんだろ?」 「もう遅いんだ、いまさらそう言われてもその言葉を 素直に信じられない。僕はね、上辺だけの「好き」なんて 言葉貰っても嬉しくないんだ。・・・確かに「好き」って 結構言われたことはあるけど・・ぜんぜん嬉しくなかったよ。」 ジョルノほどの風貌の持ち主なら当然女性の目もひくし 同性からでも好意を持たれるだろう。 ようするに彼は「モテる」人間の部類に入るが 彼にとってそういった人間たちからの一方的な 「好意」には喜びを感じられるものではなかったのだろう。 だったら彼は誰に好意をもってほしかったのか。 最初は片思いの恋人かとも思ったが ジョルノの言葉からしてもっと深い意味を もつものだとミスタは感じた。 さすがにマズい質問をしてしまったらしいと気まずい 空気に固まってしまったピストルズをジョルノが 逆に気遣うように優しく問いかける。 「君は・・・仲間の事が好きかい?」 「う・・・うん・・・意地悪されるけど・・・好きだ。」 「どうして好きなんだい?」 「えーと・・・みんな根はいい奴だから・・・・。」 「君が仲間の事が好きだと思うのなら 仲間だって君の事が好きなはずだ。 だって君の事が本当に嫌いなら、 君に「いい奴」だって思われる行動は しないはずだ。少なくとも僕はそう思う。」 ピストルズが直に愚痴をこぼしたわけではないのに、 ジョルノには彼が言いたいことが分かったらしい。 彼がどんな目に会ったのか、どうしたいのか誰かに 相談したかったのだろう。励ましと慰めの言葉を かけてあげると案の定ピストルズの声に張りが戻る。 元気が戻ってきたようだ。 「そうか・・・そうだよな・・・!」 ピストルズはまさにその言葉が聞きたかったのだろう。 しきりにうんうんと頷いている。そしてそのお返しとばかりに ジョルノにも助言を贈る。 「ジョルノももっと皆にアピールすればいいのに。 きっとみんなに好かれるぞ。」 「僕は皆にチームの一員として 認めて貰えればそれでいいんだ・・・。」 「お・・俺は好きだぞ!お前の事! 俺はお前と友達になりたい! 言っとくけど・・・これ・・・上辺の言葉じゃないぞ!」 「僕を元気づけてくれるのかい?ありがとう・・・。 そんなこと言ってくれたの君が初めてだよ・・。」 一生懸命な彼の態度に疑う余地などない。ジョルノは 微笑むと指を差し出し握手を要求した。 布越しではあるがピストルズも手を差し出し握手を交わす。 「ありがとう・・・君と話せてよかった。 でももうお帰りよ、君の仲間が待っているからね・・・。」 「ウン・・・またな。」 「うん、待ってるよ・・・・。」 ジョルノがドアに近づく気配がしたので、ミスタが慌てて 隠れられる場所に身をひそめる。ジョルノがドアを開けて ピストルズを出してやるとすぐにドアを閉めたので 出てきたピストルズをつかまえようと身を乗り出すと そこで意外な人物に会ってしまう。 「ブチャ・・・・・。」 「何をやってるんだミスタ、さっきから。」 さっきからという事はブチャラティに ミスタがジョルノのドアの前にへばりついていた 一部始終を見てたという事になる。 別に悪い事をしようと企んでいたわけじゃないので言い訳を する必要などないのだが、なんとなく気まずい気分になる。 「あっちで話そうか。ジョルノに聞かれるとマズいんだろ?」 完全に誤解されているようだが、 ジョルノに知られたくないのは確かだ。 ミスタは素直にブチャラティについていくことにした。 するとその二人のやり取りを見ていたピストルズが慌てて ブチャラティの前に立ちはだかる。 「待ってくれ!ブチャラティ!ミスタは俺の事 見に来ただけなんだ!悪い事してないぞ!ほんとだぞ!」 「五号!!・・・おめーには言いたいことがあるけど・・・ それは後回しだ!全く・・。分かっただろ?ブチャラティ。 俺は別にジョルノに何かしようとして あそこにいた訳じゃないんだ。 こいつとジョルノの話声が聞こえたんで 気になって聞いてただけだ。 あんたこそいつから何の用であんなとこへ?」 「別にお前のことを疑ってはないが、 ドアの前に張り付いている お前が不審すぎてな。さっきから百面相をしてたし。」 「え?マジで?」 「マジで?ミスタ今度やってくれ。」 「誰がやるか!あほ!」 「そう言う理由ならいいんだ。俺はたまたま見回りで この辺を回っていただけだ。 お前らも早く寝ろ、明日も早いぞ。」 ピストルズとミスタのふざけたやり取りにブチャラティは 苦笑を漏らすと、再び二人に背を向ける。 しかしその背後から何故かピストルズが 慌てて呼び止める。 「なあブチャラティ!」 「・・・なんだ?」 「ジョルノ頭良さそうなのに簡単な事が分からないんだ。」 「・・・どんなことを聞いたんだ?」 「皆に好かれたくないのって聞いたらよくわからないって。 皆の事信頼しているけどそういう気持ちは 分からないって・・。 なんでだろうな?簡単な事なのに・・・。」 ピストルズの質問にブチャラティもミスタも黙り込む。 いきなりの質問の内容に言葉を無くしたのだろう。 ミスタがその空気を誤魔化すようにピストルズを ひっつかみピストルの中に押し込める。 「人はそれぞれあんだよ!早く寝ろ!」 「ミスタに聞いてないぞ!わっピストルの中に 無理やり押し込めるなー!」 二人が騒がしくしている中、ブチャラティは まだ押し黙ったままだ。 思う所があるのか何かを考え込んでいるようだった。 「なあ、ブチャラティ・・・。」 「・・・なんだ?」 「俺さ、あんたがアイツに構う理由が なんとなくわかった。」 「・・・・そうか・・・。」 ミスタの言葉にブチャラティは特に「何が」と聞く事もせず フッと口元を緩めるとミスタとジョルノの部屋から 遠ざかっていった。 しばらくそれを眺めていたミスタだったが、何を思ったか 慌ててブチャラティを呼び止める。 「ブチャラティ・・!その・・今暇?」 「多少ならな、俺の部屋で酒でも飲むか?」 ただ話したいだけなのに、酒までついて来るとは ブチャラティもまんざらではなさそうだ。 ミスタとブチャラティはシンと静まり返った廊下を ただ無言でコツコツと歩いていった。 そしてここは、ブチャラティがプライベートで使っている部屋。 特に飾り気はないが、ここには大事な書類やら 資料やらがたくさんしまってある。 ブチャラティはキャビンからワインを出すと 何も言わずにミスタのグラスへ注いだ。 二人とも最初は核心にはふれようとせず、 軽い近状報告などをして時間をつぶした。 そして何も話す事がなくなると、ようやく ブチャラティがジョルノの事について語り始めた。 ジョルノの両親、そしてジョルノの不幸な生い立ち。 何一つ笑えるところがなくて 確かにミスタは それを聞いて哀れとは感じたがよく考えれば、 そう言う人生を送ってきた奴は他にもいるわけで ジョルノが特別哀れとは思わなかった。ブチャラティも ジョルノが恵まれていたとは思っていないが 特別哀れだと思っている訳ではない。 「うーーん、可哀想だけどそこまで可哀想って訳じゃない。 アンタもそう思ってるんだよなー・・。でもかまいたくなる んだよな・・?」 「ああ・・・構うと言うか・・なんだろうな。 人は人の心を読めないと不安になるだろう? 例えば赤ん坊なんかいい例だ。 赤ん坊の鳴き声は人を不安にさせる。何故か? 彼等には言葉がない、泣いている理由が判らないからだ。 どうすればいいかよく分からないからだ。 分からないから人は不安になる。人は不安から心配や イライラを引き起こす、 アバッキオの奴はイライラするようだが、 俺は心配になるんだ。 何をしたら満足してくれるのだろうかと。」 「どうしてブチャラティはジョルノに満足させたいんだ?」 「人には褒美が必要だ、それがどんな小さなものでも。 言葉だけだっていい。お前らだってそうだろ? 頑張った時に褒められるとまんざら悪い気しないだろ?」 どうだ?と聞かれると確かにそうだ。 頑張りを人に認められたり称賛されたりするのが 嫌いな人間がどこにいようか。ミスタは素直にうなずく。 「そして褒美を与えた方も相手が 喜んでくれれば嬉しいものだ。 ただの自己満足と言えばそれまでだが。しかし・・・。」 ブチャラティの表情が少し沈む。多分ジョルノの事を 言いたいのだろう。黙り込んでしまったブ チャラティのかわりにミスタが話を続ける。 「・・・あいつは喜ばないのか・・?その・・褒められる ことに対して・・・。」 「礼は言う。だが別に俺は褒美に対しての 礼を言って欲しい訳じゃない。 俺はただ喜んでほしいだけだ。はにかんだり笑ったり・・・。 あのひねくれたアバッキオでさえ褒めれば、 照れ臭そうに笑う。しかしジョルノにはそれがない、 微妙に表情を和らげるだけだ。 アイツにはそういう感情が欠けている・・。 まるで喜びの感情を 表に出す事を誰かに禁止されているみたいに・・・。」 寂しそうに笑うブチャラティにミスタは少し違和感を覚える。 理由がどうであれ表情を表に出さない人間は他にも 沢山いるはずだ。それが本人の個性であることもあり得る。 何故ブチャラティはジョルノだけ そんなに気になるのだろう。 「ブチャラティはジョルノの事気に入ってんのか?」 「・・・ん?まあ気に入ったからメンバーとして 迎え入れたんだが・・・。」 「いや・・・そういうじゃなしに・・・。 好き・・とか・・。あ、別に俺そう言うの差別しないから・・。」 ミスタからの意外な質問にブチャラティは ワインをのどに詰まらせる。 拭きこぼしたりはしないものの、少しむせ込み 苦笑いをしてミスタを見つめる。 「お前もずいぶん聞きずらい事を聞くな。 ・・・・だが答えは「わからない」だ。分からないんだが なんか放ってはおけないんだ。理由は聞くな。」 「・・・ブチャラティ、アンタ恋人は?」 「いない。父親が心配でそれどころではなかったからな。 父親が死んだ後も、ギャングの仕事で忙しくて・・・。 ふふ・・・俺は意外にモテないのかもな。」 ブチャラティは謙遜しているが、実際ブチャラティ宛の ラブレターはしょっちゅう来るし、女の子たちが彼を見て 頬を染めているのをミスタは何度も見たことがある。 ブチャラティほどの容姿と人徳のある人間なら当然だろう。 悔しいが自分はブチャラティに勝てる気はしない。 (いや・・・モテるモテないとかじゃなくて・・・。) 肝心なのは恋をしたことがあるかだ。しかしブチャラティの 口ぶりからしてあまりないように思える。 因みに自分にはある。 しかも数回付き合ったこともあるが、 今を見れば分かるように どれも長続きしなかった。嫌な事を思い出してミスタは 気持ちが落ち込む。 この話を持ち出したのはミスタ自身なので 誰も責めることはできないが。ミスタの気持ちを察した ブチャラティが気を利かせて話題を変える。 「ミスタは何故、ジョルノが気になるんだ?」 「え?お・・俺?」 突然の質問にミスタはどもる。いずれ聞かれると 構えていた筈だったのだが、すっかり出鼻を くじかれたらしい。 慌てて用意しておいた答えを思いだす。 「そ・・・その・・俺は興味があるんだよ。 アイツに・・。」 「どうして?お前はそんなに他人に 入れ込む性格だったか?」 ブチャラティの言う通りミスタは他人には余り干渉しない。 今いる親しい仲間たちにさえ、信頼はしているものの 興味を抱くなんてことは今までなかった。 「ど・・・どうしてって・・・。まあ、確かにそうだよな。 実は今夜の事が起こるまではあいつに 軽い興味しか持ってなかったんだ。 でもよ人間ってよ、謎が多いものに惹かれる傾向ないか? それが少しづつ解明されていくとよ、もっと知りたいもっと 知りたいってならねー?」 「お前の言いたいことは俺もよくわかる。 しかしほかの奴らも謎めいた所はあるぞ? 何故ジョルノだけ気になるんだ?」 さっきの仕返しと言わんばかりの意地悪な ブチャラティの質問にミスタは言葉を詰まらす。 そんなミスタにブチャラティは再度苦笑いを 浮かべながらグラスにワインを継ぎ足す。 「…俺もお前も、もしアイツが女だったら もっと素直に答えを出すんだろうな。」 「…え?」 「違うなら否定してもいい。ただ… 俺の方はそうかもしれない…。」 今だ遠回しな言い方をしているが ミスタはブチャラティの言いたいことがよく分かった。 多分、いや間違いない。彼はジョルノに惹かれている。 そして自分も。まだ認めたくないのかもしれないが 本心はそうなのかもしれない。 二人は照れ隠しするようにグラスの中の酒を煽った。 そして数日後。 ブチャラティチームはポルポの隠し財産を 見つけるために本格的に動き出す。しかし 早速渡航するも突然現れた刺客に苦戦を強いられる。 なんとか刺客のズッケェロを倒し、ジョルノが島へ渡ろうと 提案したが、誰も彼の話に乗りたがらなかった。 それどころか冷たくあしらわれ、白けた空気が 辺りを包んでいた。しかし一人の男が ジョルノの前に歩み出る。 「俺はジョルノの案に賛成だ。皆が行かなきゃ 俺が行くぜ。」 重い沈黙を破り最初に名乗りを上げたのはミスタだった。 元々じっとしていられない性格でもあるのだが ジョルノをもっと知りたいと言う好奇心が 彼をつき動かしていたのかもしれない。 「ミスタだ。よろしくな…。」 「はい、では行きましょう。」 今更よろしくなんて白々しい気もするが ジョルノと一緒に行動するのは初めてなので 一応型通りの挨拶を交わし、ミスタはジョルノと島へ渡る。 敵の出方を待ちつつミスタは何故か食事の用意をする。 彼の場違いな行動を見て ジョルノはいぶかし気にミスタを見つめる。 「…ミスタ。そんなことをしている場合では…。」 「…んなこと判ってるよ。でもアイツらが拘るんだ。 飯も食わせて貰えないなら働かないってよ…。」 ミスタはそう言うとピストルの装弾部分を開き 切ったサラミを数枚ちらつかせる。 「おーい、お前ら飯だぞ。トスカーナのサラミはうまいぞ!」 「わーー!くれーー!」 まるで餌にたかる小動物のように小さなそれは 続々とピストルの中から飛び出しサラミにかぶりつく。 どうやらミスタのスタンドらしいが、装弾出来る弾の数 だけいるらしい。 「えーん!えーん!」 「こらっ!!bTを苛めるんじゃねーって 何度言ったら…。」 ふとジョルノは泣いている小さなスタンドと目が合う。 見た事ない筈なのに何故か会った事がある感覚を覚える。 bTというスタンドもジョルノと目が合うと一旦泣くのを 止める。しかし声をかける前にミスタが彼らを ピストルの中にしまい始める。 少し気になったが、今の優先事項は任務の遂行だ。 今からジョルノは待機してミスタは小屋付近を捜索 しなければならない。ぐずぐずしてられない、すぐ始めよう。 ミスタはジョルノと別れる際に一言、背をむけたまま 「…よろしくなジョルノ。こいつらとも仲良くしてやってくれ。 多分この中の誰かがお前の事気に入るだろうからよ。」 とだけ言って一人小屋へと向かっていった。 その時は彼が何を言っているのかよく分からなかったが 後にbTは確かにジョルノに懐くことになる。 だが二人とも初めて会った時の小さなお化けの ことについては最後まで触れようとはしなかった。 そして時はさらに過ぎ、多くの仲間の犠牲の元 全ての元凶ディアボロを成敗し、 とうとうジョルノがボスの座に君臨することになった。 僅かに残った仲間のミスタとトリッシュ、そして 再び部下として戻ったフーゴとジョルノの元に集う 部下たち。若輩ながらも見事に組をまとめていく ジョルノに周りの者たちは少しづつ惹かれていった。 しかしそんなある日の事。 ジョルノの部屋から、銃声と共に爆発音が鳴り響く。 慌てて部下たちが駆け付けるが、もうすべて済んだと ばかりにミスタがジョルノの部屋から出てきた。 人だかりを押しのけフーゴがミスタに近づく。 「ミスタ、終わったのか?」 「ああ、もう済んだぜ。ジョルノを呼んでくれ。 それから人払いもな。」 「その必要はありません。」 物静かな声があたりに響き、周りの部下たちが さっと道を開ける。ジョルノは背後にいる部下たちに 速やかに自分の持ち場に戻るよう命令をした。 「さてと…フーゴ、お前もちょっと向こういってて くれねーか?ジョルノとサシで話がしたいんでな。」 「…ジョジョ、いいんですか?。」 「そうしてください、フーゴ。」 ミスタの表情が余り穏やかでないのが フーゴは気になるらしい。 元仲間だったのでミスタの性格は嫌というほど知っている。 この男は例え上の者でもへつらったり媚びを売ったりしない。 怒る時は怒るし、殴る時は上下関係関係なく殴るだろう。 それでもジョルノが良いと言っているのならフーゴは それに従うしかない。チラチラと背後を心配しながら フーゴも自分の持ち場へ帰っていく。 「嫌な事を頼みましたね、ミスタ。」 「俺はお前に頼まれてねーよ。俺が独断でやったんだ。」 そう言いながらジョルノの部屋をクイクイと指さす。 入れと言いたいのだろう。確かに自分の部屋で 起こった事件だ。自らで確かめなければならない。 ミスタが慎重にドアを開けるといきなり血生臭い匂いと、 焼け焦げたような匂いが 混じったような耐えがたい匂いが当たりに充満していた。 そしてそこに横たわる男が一人。焼け焦げていて 前は見えない。いや、きっと見えない方が いいかもしれない。 しかしジョルノはボスの立場である以上、誰だかを 確認しなくてはならない。傍により手を伸ばすと ミスタに止められる。 「止めとけ。」 「どんな悲惨な状態でも確認しなくては…。」 「見てもわかんねーよ。頭蓋骨がこんにちわって 顔を出しているだけだ。腹部も胸部も内臓なんか なくなっちまってら。」 ミスタの説明からしてどうやらこの男は自爆したようだ。 体内に爆弾でも入れていたのかもしれない。体が 四方散りじりに飛び散らなかっただけでも幸だ。 肉片が辺りに飛び散っては部屋が二度と使えなくなる。 ミスタが言う事には、この男はミスタが銃をうつ前に 自爆したのだと言う。名前を聞くと自爆したこの男の正体は ジョルノの忠実な部下の一人だった事が判明した。 「どうする?どっかの川にでも捨てとくか?」 「…どんな理由があるにしろ、元僕の部下だった 人間だ。墓に入れて弔ってあげてください…。」 そう言いながら俯くジョルノの顔はミスタには見えない。 多分泣いてはないだろう。ボスになったからには こんな事は起きても珍しくない事なのだから。 「どうする?この部屋。」 「…仲間に綺麗にしてもらいます。業者に頼むのは 気がひけます…。怯えてしまいますから…。」 「使うって事だな。」 「権力を笠にして無駄使いをするような 人間にはなりたくありませんから…。」 言いながら早速部下を呼ぼうとするジョルノの腕を 何故かミスタがつかんで止める。 いぶかし気にミスタを見ると、なぜか椅子に座る様に 促されたので黙って座る。それを見たミスタは 爆風で飛ばされたテーブルを直し、自分の椅子を 持ってきてジョルノと向き合う形で座る。 「ミスタ、君は僕に何か言いたいらしいけど…。 まず、この部屋を片付けてから…仏さんもいますし。」 「その仏さんの事でお前に聞きたいことがある。 お前、この仏さんの事どれだけ知ってる?」 「生い立ち、出身地、特技、性格、履歴… 全て調べてありますが…。」 「どんな奴だったか分かる?」 「真面目で忠実な人でした。」 「何で裏切ったか分かる?」 矢継ぎ早に来る質問にジョルノは頭に疑問符を 浮かべながらも自分の答えを出す。。 「分かりません…。彼への待遇が悪かったのか 誰かに何かを吹き込まれたのか…それとも 脅されてやったのか…これから調べない事には…。」 「俺が知ってるよ、俺が教えてやる。」 にこやかに話すミスタの目は笑っていない。 どうも変だと思いながらもジョルノはミスタに答えを聞く。 「…そいつな…お前に惚れてたんだよ。」 「…え?」 「惹かれて…でも、尊敬して…でもねえ。 単に惚れてたんだよ。ゾッコンって奴だ。」 「…君が何を言ってるのか…。」 「もっとストレートに言ってやろうか? お前を犯りたいっていつも思ってたんだよ。 犯りたいの意味をもっと詳しく教えてやろうか?」 「…じ…。」 「冗談じゃねェ。本当だ。」 はっきりと断言するミスタの顔は至って真顔だ。 普段はふざけることの多い男だが今の彼は 嘘偽りなど言っていないだろう。 それでもジョルノは何故ミスタがそんなに 不機嫌なのか理由が判らなかった。 「それが本当だとして…君は何故そんなに 怒っているんですか?」 「…お前さ、自分の下着やズボン…最近 少なくなったと思わねえ?」 「ミスタ!僕は君が怒っている理由を…!」 どうやらミスタはまだ言いたいことがあるらしい。 仕方がないのでジョルノは取りあえず ミスタの質問に素直に答えることにした。 「そう言えばそうかもしれません。 でもただ単に破いたり汚したりして 捨てているんだと思っていました。」 なくなっているのは下半身に身に着ける 衣服だけで、悪用されるとも考えずらく 例えなくなっても焦る理由など 何もないので特に気にしないでいた。 予想通りの答えにミスタは呆れたように溜息をつき ジョルノの前に衣服を何枚か放り投げる。 それはなくなっていたと思ったジョルノの ズボンや下着だった。 「これ、どこから?」 「奴さんの部屋からだよ。よく見て見な。」 ミスタの促されるままにジョルノは衣服を見る。 衣服には必ず同じ場所に穴が開いてあり その周りには白いガビガビとしたものが付いていた。 「…ソレ、分からなくないよな?精液だよ。」 「え…でも。」 「お前のなんて思っちゃねーよ。 奴さんのだよ。そしてその穴は ケツの部分の穴だ、奴さんが開けたんだろうよ。 これ以上の説明をしてほしいか?」 「…結構です。」 性に疎いジョルノでもこれを何に使っていたのか分かる。 この男はこれで自慰をしていたのだろう。 俯くジョルノにさらに追い打ちをかけるようにミスタは 何か質量のあるものをテーブルの上に置く。 それは何とも奇妙で下着の中に枕を 押し込めたようなものだった。しかも 驚いたのはその裏でそこには先ほどと同じ場所に 穴が開けられ、そこには男性器の形をした 棒のようなものが深々と刺さっていた。 そのおぞましい光景に思わず息をのむ。 「悪趣味の極みだな…。」 「…。」 いままで無表情だったジョルノの顔が歪む。 きつく瞳を閉じそのまま押し黙る。 口を押えて吐き気を堪えているようにも見える。 そんなジョルノにお構いなしに ミスタはそれのスイッチを入れ 動かしてみる。ブーンといびつな音を立て それは激しく震え始める。よく見ると尻の部分に 無数の白い液体のようなものが飛び散った跡があった。 「…これも、彼の部屋から?」 「これはここにあった…。正確に言えば俺の来る前にな。」 そもそも何故ミスタがこれを最初にを発見できたのかというと この男の不審な行動にいち早く気付き、 後をつけて言った所に、この男がこれをベットの中に 入れていたというのだ。 どういう事か問い詰めたら、すぐ後に男は自爆をしたらしい。 「…これはお前に最初に発見して欲しかっただろうな。」 「…何故こんな軽蔑されるようなことを?仮に 僕が誰かに好意を抱いていたとしたら こんなことしないのに。」 「人の好意は時に凶悪なものになる。嫌いだからじゃない。 叶わなければ叶わないほど狂っていく…。 こいつ散り際に俺に言ったよ、 「お前にばっかりボスは心を許している。 俺とはろくに口を利かないくせにお前にばっかり口を 聞いている!さっき大事そうに持ってた手紙は何だ! どうせ恋文なんだろう!」ってよ…。」 「…あれは…そんな貰って嬉しいものじゃないのに…。」 確かにジョルノはミスタだけに手紙を渡した。 いや、手紙なんて可愛らしいものじゃない。 アレはミスタに頼んだれっきとした依頼書だ。 きっとミスタにしか出来ない、 そう思って彼だけに渡したものだ。 「それからな…ジョルノ…。」 「…ミスタ、僕が不甲斐ないばっかりに君に不快な思いを させたね…。許してくれなんて言わない…。でも… 今は一人にしてほしいんだ…。」 「…。そうかよ、じゃあな。」 まだ食い下がるのかと思いきや、これ以上責めても 可哀想かと思ったのかミスタはジョルノの部屋から 出て行った。それと入れ代わり立ち代わりに 他の部下が清掃道具をもって入ってくる。 ミスタが呼んでくれたのだろう。 部下たちが懸命に掃除している様子を ジョルノはだたじっと眺めていた。 その夜、すっかりとまで言わないが 大方片付いた部屋にフーゴを呼び、これからの 対策について話し合う。魔女狩りなどしたくないが 仲間たちの行動の異変、それがどんな細かい事でも 構わないのであれば報告して欲しい。 そうフーゴから幹部たちに通達して貰うと言う事で 取り敢えずこの件はこれで収めることにした。 お陰でフーゴが帰るころには深夜を回り 流石に限界がきたのかおおきな場ベットに 疲れた体を投げ出す。ふと枕に違和感を覚え 枕カバーを剥がすとそこに小さな一枚の 紙が入っていた。それを開くと 簡潔な文字でこう書かれていた。 「死んでもあなたを愛し続ける。」 何か指に不自然な感触を覚え、慌てて指の腹を見る。 そこに赤い血のようなシミがべたりとついていた。 慌ててくしゃりと握りつぶしゴミ箱へ投げ入れる。 らしくもなく取り乱す自分に「気にするな」と言い聞かせ ベットの中に潜り込む。気になって一睡もできないのでは と心配していたのもつかの間、余程疲れていたのか すぐさま夢の中へと落ちていった。 「ボス…ボス…。」 誰か自分を呼ぶ声がする、もう朝かと思いきや 目を開けるとそこは薄暗い一室。 豪華な自分の部屋と違い灰色が支配する 冷たい牢獄のような部屋。 慌てて身を起こすがすぐバランスを崩し倒れてしまう。 両手足には鎖、いつの間にか自分は囚われの身に なってしまっていたようだ。 どういう訳かスタンドも出す事が出来ない。 絶体絶命という奴か、いや、まだ望みはある。 「ボス」と声をかけた誰か、きっと仲間が傍にいるのだろう。 ジョルノは慌てて辺りを見回し、そして絶句する。 何故なら目の前に立っているのは あの自爆した男だったからだ。 「ああ、ボス…いや…ジョジョ。…いや、やっぱり ジョルノと呼ぼうか。」 「…!」 何故君が、その一言が口から出ない。ジョルノは 何故か言葉を発することが出来なくなっていた。 体もろくに動かず、動けるのは逃げるのには役に立たない 筋肉だけだった。それを見た男は相変わらず相手に されていないと思いこみ、皮肉めいた笑みをこぼす。 「また、だんまりか…。ジョルノはアイツらとはよく喋るのに 俺らとは喋ってくれないんだな。」 アイツらとはきっとミスタたちの事を言っているのだろう。 男は不気味な笑みを作ると鋭利なナイフを手に持ち ジョルノの服を綺麗に裂いていく。 やがて最後の一枚まできれいに引き裂くと男は うっとりとした表情でジョルノの体を撫でまわした。 「綺麗だ、まるで汚れてない。体にまだ残る 幼さがまた一層俺の欲情を掻き立てるよ。」 男はナイフは邪魔だと言わんばかりに放り投げ 代わりに金色に光るリングのようなものを取り出し ジョルノの局部にはめる。軽く局部に圧迫を覚え 思わず表情を歪める。 「ジョルノには俺の苦しみを知って貰わなきゃ。」 そう言ってジョルノをうつ伏せにすると尻に 何か硬いものをあてがう。次の瞬間 それは激しい振動と共に奥までねじり込まれる。 「!!!!」 もし声が出せたなら絶叫しているだろう。 それ程耐え難い痛み、そして屈辱。 だが声が出せない今、ただもがき苦しみ続ける しかなかった。 「大丈夫、痛いのは最初だけだから。」 そう言いながら男がジョルノの臀部を撫で始める。 痛さに加えおぞましさが体を駆け巡る。 しかし何の冗談か、痛みはすぐに消えていき だんだんと快感が体を支配していく。 その姿を愉しみながら男は息を荒げジョルノの臀部に 精液をかけていった。きっとこの姿を見て 自慰をしているのだろう。 「ジョルノ?俺はいつもこうしてアンタを辱めていたよ? さっきの枕見ただろ?白くてふっくらしてて こいつをぶち込むとブルブル震えるんだ。 本当の尻みたいにさ。丁度今のアンタの尻と同じだ。 見える?尻の肉がブルブルと震えてるよ…。 アンタが泣いて俺に許しを乞う所を想像して俺はいつも イクんだ。ふふ…その顔、誰が許しを乞うかって 顔だな。いいよその分苦しみが増すだけだから…。」 男はニタニタしながら今度は自分の手を ジョルノの局部にあてがい優しくこする。 ただでさえ後ろを責められて苦しい所に 新たな快感がジョルノを苦しめる。 だがどんなに快感が押し寄せても 熱を解放する場所をせき止められてる。 苦しくて快感をやり過ごせずに身をよじり 生理的な涙を流す。 「ああ、ヤバいよその顔、ぞくぞくする。 ねえ言ってくれよ。 俺のをくださいって、おねだりしてみてくれよ。」 「…!!」 やはり言葉が出ない、男はさらに手を動かす スピードを上げ、機械の振動を強くさせる。 狂ってしまいたくなるくらいの快感に、男の 欲情を仰ぐことになることも構わずに激しく 身もだえる。 「言え!俺のをぶち込んでくださいってな! 白いのを奥に一杯ぶちまけて下さいと! 言ったら前を解放してやる!」 怒鳴りながら男は双丘を痛いぐらいに 揉みしだく。不快な感覚のはずなのに 何故かそれさえも快感に変わる。 「…!!…た…!」 ようやく言葉が出るがそれが男に伝わる訳はなく いよいよ待ちきれなくなった男が、おもちゃを引き抜き 自分の物を一気にねじり込む。無機質なものとは 違い、熱く熱を持ったものが入り込み思わず悲鳴を上げる。 異物を追い出したくて、内壁がそれを締め上げる。 だが結局その行為は男と自分の快楽を助長 するものでしかない。 男は腰を掴み無慈悲に激しく打ち付ける。 今のジョルノの状態などお構いなしな ただただ自分の情欲を満足させるためだけの行為だった。 「俺を愛していると…おれに全てを捧げると! 俺の他には何もいらないと!」 男のため息とともに熱いものか勢いよく奥に放たれる。 その感触にみぶるいし、また新たな快感を引き起こす。 しかしこれで終わりではない、ジョルノの中の熱い塊は すぐ硬さを取り戻しまた激しい挿入を繰り返す。 「気持ちいいッ…何度でもイケそうだ… お前の腸も胃の中も全部俺の精液で いっぱいにしてやるよ。子供にはミルクがお似合いだ。 さあ、沢山のみな。こぼしたらお仕置きしてやる。」 もはや愛など何も感じられない男の言葉に 攻められながら、ベットに爪を立て、身もだえ 必死に耐える。この快感地獄はいつまで 続くのだろう。終りの見えない行為に助けを 求めずにいられない。 「たす…け!!」 「ジョルノ!」 「!!」 突然激しく体を揺さぶられ我に返る。 目の前には険しい顔をしたミスタが 自分を覗き込んでいた。。 「あ…あ…。」 パクパクと口を開くが声が出ない。これは 先ほどのものとは違い、突然のショックに 一時的に声が出なくなってしまったようだ。 ミスタは傍にある水差しをジョルノの口に あてがいゆっくりと飲ませる。 ジョルノはひとしきり飲むとようやく落ち着いたのか 深く深呼吸をする。 「夢…。」 額に滲み出た汗と涙をシーツで拭い、 今だ震えの納まらない手を 片方の手で止める。気のせいか体の震えも止まらない。 なぜだろう、ただの夢なのに。そんなことより今は目の前の ミスタだ。彼は何故ここに来たのだろう。ジョルノは 気を取り直してミスタに何故ここに来たのかを尋ねる。 「ミスタ、何故ここに?」 「なんか嫌な予感がしたんでな、案の定だったけどな。」 「すいません、たかが夢でまた君に 迷惑をかけてしまった。」 素直に謝るジョルノに何故かミスタは拳骨をかます。 お世辞にも痛くないとは言えない拳骨を食らい ジョルノは思わず頭を擦る。 「痛いです、ミスタ。」 「ただの夢だって?ただの夢でこんなに汗かくのかよ。 ただの夢でこんなに泣けるのかよ。ただの夢で 下半身が汚れるのかよ。」 いきなり恥ずかしい事を言われて慌てて下半身を見る。 そこにはうっすらとだが濡れているが失禁したのではない。 多分夢精という奴だろう。 「っつ!!」 思わずミスタを押しのけシャワー室へ駆け込む。 しかしミスタに両肩を掴まれ引き戻される。 「は…放してください!」 「バカやろう!シャワー室に何があるのか 分からないのにいきなり飛び込む気が!」 間近でどなられジョルノは一瞬我に返る。 一応部下に安全は確認して貰ってはいるが 確かにいきなり駆け込むなんて自殺行為だ。 ジョルノはそのままフラフラとベットに座り込み ミスタに背中を向ける。 「…ミスタ…いつからここに…。僕は 何か言っていましたか…?」 「言っていいのかよ。」 「はい。」 「…早く解放してくれ…早くイキたい… 早く入れて欲しい…奥に沢山いれていいから 楽にしてほしい…。」 隠さずに教えろと言ったのは確かに自分だが 歯に衣着せぬその言い方に思わずジョルノは激昂する。 「嘘だ!そんなこと言った覚えはない! 「…。」 「…う…!」 ミスタは真剣な面持ちで自分を見つめている。 その様子からしてふざけてないのは分かる。 思わず振り上げそうになった手を下ろす。 何をしているんだ自分は、みっともないことこの上ない。 ジョルノは自嘲気味に笑うと再びミスタに背を向ける。 「…すいませんでした。君の前でこんな醜態を…。」 「…。」 「さぞ軽蔑したでしょう?当然ですよね…。」 「…。」 重い沈黙が当たりを包む。相変わらずミスタは 何も言ってくれない。耐えられずに彼の方を 振り向くと憐れみを含んだ目でジョルノを見つめていた。 しかしそんな姿にいたたまれなくなったのは むしろジョルノの方だった。 「…そんな顔!…しないでください。」 「…。」 「ミスタ…すこし弱音を吐いていいですか? ボスのくせに情けない奴だと嘲笑っても構わない…。 でもね、僕だって普通の人間なんです…。 気持ちが爆発してしまうことだってあるんです…。」 「…。」 相変わらずミスタは無言のままだ。 気っと失望したのだろう。彼が組を脱退しても 文句は言えない。取り敢えず彼を失望させた 謝罪はしよう、ジョルノはうつむいたまま重い口を開く。 「…すいませんでした…。もう二度と君の前で 弱音を吐きません。第一君はそう言うの 嫌いですものね…。というか愛想つかされて しまっても…文句は言えません。あとは君の 好きにしてください。」 「勝手に決めるなよ、誰がそんな事いった?いや、むしろ 俺だけには弱音を吐け、だってお前だって人間なんだから。 それによ、俺より年下のケツの青いガキなんだから…。」 「ミスタ…。」 ミスタがベットに腰を下ろしジョルノの肩を組む。 真面目なようなふざけているようないつもの彼の顔が ジョルノを覗き込む。 「ボスの立場がどうした、偉い立場がどうした。 俺から見ればお前はただの年下の 経験不足な未熟なガキだ。 どんなに頭が良くても行動力や判断力が 人並み以上に優れても完璧でもな。 第一俺はそんな理由でお前についてきたんじゃねェ。 いや、むしろそんなモンどうでもいいね。俺はお前の 人柄に惚れてんだ。仲間を思う優しさや思いやりに 惚れてんだ。威厳とか能力うんたらなんて マジでどうでもいい。 ぶっちゃけ俺には組よりお前の方が大事なんだよ。」 「酷い言われようですね…。」 「最初の部分なんか聞き流せよ。大事なのは 後の部分だろうが!あー…それとよ さっきは言い過ぎたな…悪い。」 さっきのというのは思い出したくもないが 悪夢を見ている時に晒した自分の醜態だろう。 言われた時ははショックだったが正直に 言えと言ったのは自分だ。恨むのはお門違いだ。 「…いいんです。言えって言ったのは僕…。」 「いや、アレ嘘なんだわ。」 「…!ミスタ!!」 「おっ!怒ったな!俺それが見たかったんだよ!」 「冗談にも…程があります!!」 いつものジョルノらしくなく声を裏返らせて ミスタの背中をたたきながら責める。 どかどかと叩かれながらミスタは苦笑いを浮かべる。 「いててて…。でもよ…お前にも そんな感情があったんだな…ちょっと 嬉しいぜ。」 「…変わった…人です…。」 「お互い様ね。」 「じゃあ、僕はうなっていただけなんですね。」 「…ん…まあ…な…。」 さっきと違って言葉を濁すミスタ。 間違いない、醜態を見られていたことには 代わりはない様だ。ジョルノは今度こそ 覚悟を決めてミスタに尋ねる。 「正直に言ってもらっていいですよ。 でもさっきみたいにふざけたらスタンド お見舞いします。」 「さすがにそれは困るな…。 ちょっと…てゆーか、しきりに喘いでた。 助けて助けてって…苦しそうにもしてたぜ。」 「!!」 覚悟はしていたものの本当は聞きたくなかった現実。 再び羞恥が沸き上がる。まっすぐな彼の瞳が 途端に見れなくなる。 「最初に来たのが俺でよかったかもな。他の男なら ちょっとマズかった…。どういう意味か 聞きたい?」 「結構です。」 「取り敢えず、風呂入れよ。気にならないんなら いいけどさ。俺が見張ってやるからよ…。」 ミスタの言う通り汗に濡れ、体液で濡れた下半身で いるのは確かに気持ちのいいものでない。ジョルノは ミスタの好意に甘え、バスルームへと向かった。 キュキュとシャワーを捻ると一気に水が出てくる。 熱い時期でもないのに水を被るのは羞恥に 火照った頭と体をリセットしたいからだろう。 しなやかな体が余すことなく濡れていく。 夢中で浴びていると背後からミスタがぼそっと呟いた。 「なるほどね、こりゃあ欲情抱くわ。」 「ミスタ…?何か言いました?」 「なんにも?水なんかかけて水ごりかって言っただけ。」 「よくそんな言葉知ってますね。それとなるべく 外で見張っててほしいんですが…。」 男同士なのでとやかく言うのも変だが やはり一方的にみられているのは恥ずかしいのか ジョルノはミスタを追い出した。 ミスタもこれ以上いると水をかけられそうなので すごすごと表でに出る。 暫くのち髪を拭きながらジョルノが バスルームから出てくる。その姿はワイシャツ一枚で 下は何もはいていなかった。 「おッ?」 「安心してください、履いてます。」 ペロリと裾をめくると色気のないトランクスが 露わになる。それを見てミスタはわざとらしく ため息をつく。 「何を期待しているんですか、僕のなんか 見たっておもしろくないでしょう?」 「そうでもないぜ?」 「うーん、スタンドを呼びましょうか… それともフーゴでも…。」 「説教もパンチもごめんだぜ。それよりよ お前が風呂入っている間に紅茶頼んでおいたぜ。 それとさっきのみょうちくりんなメモの分析もな。」 さっきのメモ…そう言われジョルノは 思い出したようにゴミ箱を見つめる。それは さっき握りつぶして捨てたあのメモの事だろう。 しかしあんなもの調べてどうする気だろう。 ふと自分の指を見やると赤いインクのようなものが 消えていた。 石鹸だけで落ちるものだったのだろうか。 その時タイミングよく部下が現れ、ミスタに 紅茶セットとメモの分析結果を教える。 ミスタはにこやかにそれを受け取ると、部下を下がらせる。 「こんな時間にお茶なんて…。」 「リラックスするには一番だぜ、それとも何か? 俺と茶は飲めねーってのかよ。」 「またそんな言い方をして…。そう言うつもりで 言った訳じゃありませんよ。」 まるでチンピラのように文句を垂れるミスタの前に ランチョンマットを敷く。因みに御毒見を するのは慣れっこなのかミスタがその役を買って出る。 「菓子もうまい、茶もうまい、いうことなし!」 「遅効性の毒かもしれませんよ?」 「そん時はお前も飲め、一緒に仲良くあの世行こうぜ。」 「あの世迄君のようなやかましい人とはご免ですよ。」 苦笑いしながらジョルノは紅茶を二つのカップに 注いでいく。紅茶の優しい香りに包まれながら ジョルノはさっきのメモの事をミスタに尋ねる。 「ミスタ…さっきのメモの事ですが。」 「…ああ、あれな、自白剤と強い催淫剤の成分が 検出されたとさ。直接口内に入れなくても 皮膚に触れれば毒が回る厄介な奴らしい。自白剤は お前の罪悪感を引き起こす為に、催淫剤は… 言わなくてもわかるよな?それがうまいこと 重なって、エロい悪夢を見たんだろうな。」 確かにあの時ジョルノの指に赤いものが付いた。 一応得衣服の裾でこすったがそれだけでは ダメだったのだろう。死ぬことはさすがにないと しても、あのままミスタが起こしてくれなかったら どうなっていたか考えると恐ろしい。 爪を噛もうとして慌てて引っ込める。 もう手遅れかもしれないが、 またあんな悪夢を見るのはご免だ。 「ミスタ…薬の効果は…。」 「残念ながらそれは分からねーんだ。 また見るかもしれねーし、もう見ないかもしれないし…。」 「…。」 「添い寝してやるよ。どうせお前を守るのは 俺らの役目だ。子守唄つきでw」 「傍にいてくれるだけでいいです。」 「俺にベットに入るなって事かよ…。 ソファーで寝るなんていやだぜ、俺はシルクの ベットで寝る!嫌ならお前がソファーで寝ろ!」 まるで子供の用に駄々をこねると、ジョルノの 了承も聞かずベットに寝転がる。大の字になり そのままシルクのベットの寝心地を堪能していたかと 思うと、急に真顔になり身を乗り出しジョルノに尋ねる。 「…ジョルノ、あの「手紙」の事だけどよ…。」 「アレは依頼書ですよ、ミスタ。」 今回のことの発端ともいえるミスタに渡した あの手紙。あの男は勝手に恋文と勘違いしたみたいだが 実際そんな浮ついた内容のものではない。 アレは暗殺依頼、内容はこうだ。 「もしディアボロのようにおかしくなってしまったら 君の手で確実に殺してください。 僕が君たちを手にかける前に ジョルノ」 ジョルノからのまさかの自分の暗殺依頼。 フーゴもトリッシュもいるのにミスタにだけ 渡した手紙。ジョルノはミスタならできると信じているから 渡したというが頼まれた当人はたまったものではない。 「お前ディアボロのようになるつもりかよ。」 「あの男のようになりたくない。でもあの 男が最後の時に言った言葉が忘れられなくて…。」 あの男が散り際に放った負け台詞。 アレが今も耳に焼き付いて離れない。 「ジョルノ・ジョバァーナ…ククク…ついに 貴様がボスか…。せいぜい頑張るんだな。 嘘にまみれ裏切りにまみれた闇の世界を お前がどうしきるか見ものだ。」 「僕はお前のようにはならない。」 「経験もしてないくせによく言えるな。 皆最初はそう言うのさ…しかし結局自分を取り巻く 厳しい現実に耐えられなくなり、それに順応するために 止む無く自分を醜く変えていくんだ…。 恐ろしい事に最終的にはそれがおかしいと思わなくなる。 正当化って奴さ…。自分は正義で 周りは全て悪しき存在…悪しき存在は生かしておけない それがギャングの…ボスの性なんだよ…。」 「…。」 「先に地獄で待っているぞ…。」 負け台詞を言って倒れたディアボロは今や地獄より 恐ろしい所にいる訳だが。 あれからジョルノはボスになって正しい世の中を 作り直している訳だが、いつ心が折れるか分からないのも 事実だ。何しろジョルノはボスになってからまだ日が浅い。 今回だって信じていた仲間に裏切られた。そして それはこれからも増えるかもしれない。 疑心暗鬼になっておかしくなるくらいならとミスタに 暗殺依頼を頼んだのだ。 「ちゃんちゃらおかしいですよね…覚悟を決めて ボスになった人間が…。でもねミスタ。 僕も人間です…絶対なんてものは存在しないんです。」 「…。」 「僕は完ぺきな人間ではありません。」 「それはよくわかるぜ、お前にはまだ ボスとしての自覚が足りない…ちょうどいいや さっきの説教の続きだ…。」 「今度は…逃げません。いいたいことを言ってください。」 さっきは頭の中が整理しきれなくて ミスタの言及から逃げてしまったが 今となっては聞くしかない様だ。 ジョルノは黙ってミスタからの説教を待った。 「説教の前に…俺はな…ブチャラティに 遺言を受けていたんだ。俺にだけの遺言を…。」 「ブチャラティがミスタだけに…。」 「妬いたか?」 「少しだけ…妬けます…。」 ジョルノもブチャラティから最後の言葉を 受け取ったが遺言のようなものは何も聞いてない。 ブチャラティは新人の時のジョルノに随分 親身にしてくれた。まるで幼い頃にあった あの人のように遠くからでも見守ってくれた。 そんなブチャラティにジョルノも無関心ではいられない。 密かにブチャラティに惹かれ、ブチャラティも ジョルノに惹かれていた。だからこそブチャラティから ミスタにだけ伝えた遺言がとても気になるのは当然だろう。 「アイツはな…お前の事をとても心配していた。 お前の行く末を…。、身の危険の事じゃないぜ? お前がもし、ボスになって組全体をまとめる ようになった時の身の振り方にだ。」 「…どんな?」 「…アイツはお前がボスになる素質が十分ある というのはよくわかっていた。自分より優れている という事もな…。だけどよ…お前にはどうしても 欠けているものがある、そこがとても心配だと言っていた。」 「…経験がたりない…ということですか?」 「それはしょうがねーよ。体験して学んでいくしかねーし。 そうじゃなくてよ…お前…ブチャラティと自分を 比べて何が足りないと思う…?」 「人徳…ですか?」 「お前だって人徳はあるぜ。そこはお墨付きだ。 俺やブチャラティが言いたいのは仲間との距離のことだ。 なあジョルノ、思い出してみろよ。ブチャラティって いつも俺たちの傍にいたよな?くだらない雑談を している時にでさえ、いつも…。」 そう言われてジョルノは思い出す。 確かにブチャラティは皆より身分が上なのに いつもそばにいた。仕事の話でもない時も くだらない話をしている時でも いつでも仲間の中心に入り参加していた。 「…分かったか?アイツは自分の立場関係なく いつでも俺たちの傍にいた。どんなくだらない 話でも耳を傾け俺たちの事を知ろうと努力していた。 別におめーが仲間の事を思ってないって言ってんじゃ ねーぞ。だけどよ、ジョルノ、 お前の今の立ち位置はどうだ?」 「…。」 ミスタに言われて改めて気付く。ジョルノだって 仲間の存在をガン無視していたわけではない。 ジョルノなりに仲間のタイプを分析し その人間の事を理解しようと努力していた。 時には労り仲間を励ました。 しかし踏み込んだところまでは入り込もうと しなかったのは事実だ。 そしてボスになった今、仲間たちとは ますます距離が離れていってしまっている。 「ブチャラティはそこをすげー心配していた。 ボスになるには仲間の一人ひとりを良く知る 必要があるって…そしてそれは決して一日や二日で 分かることじゃない、何日も何日もそいつらと 触れ合って分かる事だって…。」 「…。」 「…ジョルノはさ、仲間と雑談することが苦手だよな? 確かに意味はねーよ、雑談はくだらない話が多いし。 でもよ、それってスゲー大事な事だぜ? 自分から上手い事はなせなくたっていいじゃねーか。 笑わせられなくたっていーじゃねーか。皆いつも 言ってたぜ、お前の事もっとたくさん知りたいけど 話してくれないから分からないって…」 最初は冷たかった仲間も、ジョルノと戦いを 共にすることで彼という人間のすばらしさを知り 仲間全員が次々に彼を認めていった。しかし彼と共に すごせた時間はあまりにも短く結局お互い 深く知り合えることなどできなかった。 「みんなさ、お前と戦ってスゲー奴、いい奴 だって事はよく知ってる。でもよ皆はそれ以外の事が 知りたいんだよ、何が好きとか苦手とか… 俺らの事本当はどう思ってるのかとか…。 能力とかそんなのよりも素のお前が知りたいんだよ。」 「僕なんて面白くない人間ですよ? 知ったところで…。」 「それは自分が勝手に思いこんでいる事だろ? 俺たちは違うんだよ。そしてお前の元に 集う仲間たちもな。」 「ミスタ…。」 「もっと俺たちの傍にいろよ、ジョルノ。 もっと俺達に身近な存在になれ。ブチャラティの ようにさ。親しみやすいボスになれ。 遠くから耳を傍立てばかりじゃ、また今回のような 事故を起こすぜ。」 今回の事。そう言われジョルノはあの男が横たわっていた 辺りを見つめる。もっとこの男を知っていれば もっとこの男と話していればこんな事には ならなかったはず。 ジョルノはまだほんのりシミの残っている部分に 手を合わせ、男の冥福を祈った。 (ホントにこいつがディアボロみたいになるのかね…。) ギャングのボスになるには余りにも優しすぎる 目の前の少年を見ながら先ほど貰った手紙を開く。 「ミスタ…それ…承諾してくれますよね?」 その動きを察したのかジョルノが後ろを向いたまま ミスタに尋ねる。やはり意思は変わらないらしい。 どうせジョルノは頑固者だ。はいと言うまで 引き下がる気はないだろう。 「…引き受けた。だがよその後の俺の身の安全は いったいどうしてくれんだ?」 「信頼できる誰かに保証してもらいます。 僕が正気のうちに…。」 「…信用できねーな。よし、決めた! 俺、その時はお前と心中するぜ!」 「え?」 ジョルノが振り向いた途端ミスタが腕を引っ張る。 ベットの中に引きずり込むとそのまま抱きしめる。 少しだけ驚いたが特に何かする気ではないようだ。 黙って様子を見て見るとミスタは指で銃の形を作る。 「こうやってお前を前から抱きしめて、お前の背中から 心臓の位置に…ズドン…ってな。」 背中に指を押し付けるようにしてはじく。 顔を見上げると二カッと笑ったミスタの顔があった。 「そして最後にキメ台詞を言うんだ。」 「なんて?」 「死んでもお前を愛し続ける…てのはどうだ?」 「砂を吐きそうです。」 「砂を吐くのはアサリで十分だ。とにかく俺は そうやってケリをつけるぜ。いいな?承諾しろ。」 「ミスタ…それは承諾できません。貴方は 生きなければならない…生きてこのパッショーネを…。」 「それは断る、俺のパッショーネはお前がいてこその パッショーネでもあるんだ。お前がいなきゃ 俺はここにいる意義がない。俺はな、パッショーネが すきなわけじゃない、お前が好きなだけだ。 だから俺はここにいる。じゃなきゃ、ギャングなんて めんどくせーあぶねー仕事、とっくに止めてる。」 「問題発言ですよ?今の…。」 「こんなにお前に忠誠を誓ってるのにか? いや、今のは嘘だ。単に好きなだけだったな。」 「まったく、貴方という人は…。」 「このまま抱きしめてねてやろうか?」 「結構です。」 「つれないねェ、あんまりつれないと 俺もあの男のようになっちまうぜ?」 「君は違うでしょ?」 「違わねーよ。やれやれ…やっぱりお前 分かってねーな。」 「…え?」 「ま、いいや。とにかく明日から昼飯は みんなと一緒だ。心配するな危険からは 必ず俺たちが守ってから。分かったな?承諾するな?」 「毎日は無理ですけど…なるべく…。」 曖昧な返事にミスタは苦笑いすると ジョルノから少し離れ目を閉じる。 ジョルノもミスタが傍にいると安心なのか すぐ眠りについた。 その寝姿を見てミスタは思う。 こいつは本当にボスがやりたかったのだろうか。 町を平和にしたいから止む無く目指したのでは ないだろうか。 ブチャラティも言っていた。上に立つものは 重圧も苦労も並外れた物ではないと…。 少なくとも年若い少年のすることではないと…。 ジョルノにはもっと自由に生きていてほしい。 楽しい事もくだらない事をもっとたくさん経験してほしい。 もしアイツがボスになったら必ず誰かの支えが必要だ。 時には優しく、時には厳しく出来る父親のような存在が。 傍にいて助けてやれないのが一番心残りだと。 (俺がその役やってやるって言ったら… アイツ…凄く嬉しそうな顔してたっけ…。) フーゴもトリッシュもジョルノの事をよく理解しているし 誰よりも力になってあげたいと思っているだろう。 しかしジョルノは今や組のボスだ。 以前より意見をいいずらくなったのも確かだろう。 だがミスタだけは考え方が違うようで 上下関係なく失礼な事でも平気で言える男だ。 おそらくジョルノをガツンと叱れるのは ミスタしかいないだろう。 ブチャラティもそう確信し、安心して自分の役目を ミスタに託したのに違いない。。 そして今、ブチャラティの予想通り、ボスが 相手でも言いたい放題している訳なのだが。 (ジョルノ、お前がもし全てに疲れたなら 俺は一緒に何処へでも行ってやるぜ、地の果てでも あの世でもな。) ミスタは心の中でそう呟きながら金の髪を自分の 指にまく。まるで指輪のようにそれは指の中で 小さな光を放つ。 (ブチャラティよ、悪いな。俺がこいつを守る 理由は…。) きっと天国にいるであろうブチャラティへの 懺悔はジョルノの寝返りによって途切れる。 そのうなじを見つめながらミスタも やがて眠りについていった。 そしてその後ジョルノはもう悪夢を見ることはなかった。 終 戻る |