「今日はダーリンの為に精のつくものたくさん作ったの! 
いっぱい食べてね?」

可愛らしい嫁が裸エプロンで旦那の前に湯気の出る料理を差し出す。
旦那はにやけながら目の前の料理と妻を見比べる。

「でもこんなに食べちゃうと、
 君を美味しくいただけるかなァ?」

「やだー!ダーリンのえっ・・・」

プツン。

くだらん。
俺はテレビのスイッチを切って寝転がる。
別にわびしいから切ったわけではない。
なぜなら俺も立派にリア充だからだ。
同性同士のリア充なんてあり?と世間は偏見の目で見そうだが、
お互いに愛し合っていればなんでもリア充だ。
同性同士はリア充ではないなんて言う奴がいたら
見つけ次第ズッキュンしてやる。
今から嬉し楽し、恥ずかし(は主にジョナサンが)の夜がやってくる。
俺も俺の息子(※暴れん棒の方)も準備満タンなのだが
肝心のジョナサンが「ちょっと待ってて」と言ったっきり戻ってこない。
そんなもんだから、つまらんテレビを見て待つ羽目になっているわけだ。

因みに俺はジョナサンは絶対逃げないと確信している。
以前はちょくちょくバックれようとしたが、
結局は俺に捕まり懲らしめられるので、もう懲りたようだ。
その都度その都度、お仕置きを考えるのは楽しいのでいいのだが
諦めて素直になるのも悪くない。
万が一バックれたらスタンドも参戦させて、3pにでもしてやろう。
いかん、想像したら息子がまた元気になってしまった。
その時、タイミングよくジョナサンがドアを開けて入ってくる。

【料理オブへブン】


「お待たせ。」

「待っていたぞ、早く食わせろ。」

「待っていたのかい?・・なんか嬉しいな・・。」

俺の言葉に意外にもジョナサンがはずかしそうに微笑む。
なんて初々しいんだ・・・。
ブリッ子ぶるさっきの女とエライ違いだ
そういう役回りなだけかもしれないが。
俺は計算高い奴は嫌いだ、世間では「小悪魔」というらしいが。
例え不器用でも気取らない奴の方が好きだ、このジョナサンのように。
俺が手を差し伸べると、ジョナサンも手を・・・ではなく・・・。

「はい、これ・・。」

そう言って笑顔のままジョナサンは俺の手の上に
何か温かく、重たいものを載せる。
どうも食い物の匂いがするが、俺の手の上に乗っている物は、
料理とはとても言い難い形状だ。
何故俺に渡すのかわからんが、きっと甘えて俺の愛を試しているのだな。

「これは・・・・?ああ、そうか判った、俺に捨てろというのだな。
 しかし甘えるのなら、違う所で甘えて欲しいものだな。」

「え?」

これゴミだろ?

ズームパンチ!


※ただいま不適切な映像と音声が入っている為
 落ち着くまでしばらくお待ちください。


・・・俺の手を塞いでからの、ズームパンチを繰り出すとは
 なかなか姑息な手を使うじゃないか・・・。

「君こそ酷いじゃないか!人の料理をゴミ扱いなんて!!
 大体湯気がたっているゴミってあるかい!?
 そりゃ・・見た目は悪いけど・・。」

まるで賊が入って格闘したのかと思うほどの惨状の部屋の真ん中に
ポツンと料理(とジョナサンは言い張っている)物が落ちている。
こんだけ派手に争って壁も家具もボロボロだというのに
皮肉にもその料理らしきものは全くの無傷だ。

「酷いよ・・・。」

ジョナサンが料理らしきものを拾い上げて悲しそうに呟く。
まずい・・・このままだと夜の営みがお流れになるのは火を見るより明らか。
食いたくないが食うしかないのか・・・?
謝りたくないが謝るしかないのか・・・?
仕方ない、俺は悪くないが(←※自己中)愛の営みの為に謝ろう。

「・・・悪かった、その・・・料理には見えなく・・いやその
 初めて見るタイプの料理だったものだから・・・。」

「そりゃ・・・僕の初めて作った料理だから・・・
 コックさんのようには上手くできないけど・・。」

俺が謝った事でさっきよりは機嫌は戻ったようだが、ジョナサンの
マジコメ(真面目なコメント)に俺は言葉を無くす。
コックさんてお前・・・・そんな言い方は普通に一般の料理が
作れる奴が言う言葉であって、お前の様な
料理を初めて作る超初心者が言う言葉ではないと思うのだが・・・。
確かにこいつは超お坊ちゃまで、家事や
料理など今までしたことがないだろう。
だから俺にわざわざ「初めて」と言わなくても、
ずぶの素人だという事はよーく判る(見た目もアレだし)。

それにしても初めての料理か・・・ああ・・とても嫌な響きだ。
食べたら死ぬクラスのフラグがビンビンたっている。
初めてこいつと交わった時の「僕は初めてなんだ・・。」の
響きの素晴らしさとは雲泥の差だ。
あの時はそりゃあ息子がビンビンしたも・・・ゲフンゲフン。
考えてみれば少年時代からこいつと暮らすようになってからは
ご馳走攻めで俺も随分と舌が肥えた。
そんな中で、超素人級のジョナサンの手料理・・・・。
舌と腹が拒絶しないだろうか・・・。
幸い俺には「死」というものはないが、生き地獄は味わいたくない。
一方のジョナサンは料理を持ったまま、
真剣な眼差しでじっと俺の事を見ている。
まずい・・・これこそ真の愛が試される時だ。
躊躇している時間はない・・・そうだ時間だ!
時間を止めて、料理をどっかに捨てて食べたことにすればいいのだ。
そうすることで、ジョナサンも幸せになり、喜んでさせてくれることで
俺も幸せになれる、めでたしめでたしだ。
よし・・・これで行こう。
俺は笑顔を作ると、もう一度ジョナサンに慈悲と言う名の手を差し出す。

「頂こう。」

「DIO・・・!」

俺のナイスガイぶりに、ジョナサンの顔が一気に綻ぶ、うむいい笑顔だ。
何だ楽勝じゃないか、一体何を悩んでいたんだ、全く馬鹿らしい。
ジョナサンはエプロンのポケットからフォークを取り出し、
それを料理に差し込み俺に近づくと、いきなり・・・・。

はい、あーん。

!?

「な・・・なんだよ・・。君、よく僕に言うじゃないか。
 たまにはお前が食べさせてくれって・・。」

俺の表情が一瞬固まったのが腑に落ちないのか
ジョナサンがいぶかしげに俺を見る。
そう、確かに俺はよくジョナサンにそれを要求する。
しかし半分は冗談だし、ジョナサンもそれに対していつもすげなくする。
下手すれば一生こんな機会はないだろうなと思っていたことが
まさかこんなタイミングでやってくるとは・・・。
おのれ神め・・・貴様はとことん俺を敵に回すらしい。
これでは一口ごとに何回も時間を止めなければならないし非常に面倒だ。
俺の心の天秤が揺らぐ、憧れていたジョナサンからの
「あーん」を犠牲にするか、俺の舌と腹を犠牲にするか。
俺としては先(行為)の事を考えると舌と腹を犠牲にしたいが
これには強靭な精神力とアカデミー男優並みの演技力が必要だ。
男は外部からの攻撃には強いが、内部からの攻撃は弱いと聞いた。
人間をやめた俺だが、内部からの攻撃を
受けたことがないのでどうなるか判らない。
ん?波紋攻撃は内部から来たのではないかだと?
そんなこと覚えていないな、俺は不快なことは思い出さん主義でな。

その時、いつまでも開かない俺の口に、ジョナサンがしびれを切らしたのか
強引に料理を口元まで持ってくる。
しかしその料理は俺の口に入ることなくそのまま俺の太ももへ落ちた。

「ああ、ほら、口を開かないから落ちちゃったじゃないか。」

少し俺を責めながら、ジョナサンは料理を掬い取り自分の口へと運ぶ。
おお、今のでいいシュチュエーションを閃いた!
大事な所にものせてジョナサンに食べてもらうのはどうだろう。
よし、興奮してきたぞ、それじゃあ早速やってみよう。
そんなことを夢中で考えていた俺の顔の前に、突然何かが差し出される。

「はい、あーん。」

「ん?ああ・・・。」

完全に次なる欲望に浮足立っていた俺は、料理の内容などすっかり忘れ
ジョナサンの言われるがままに口を開く。
気付いた時にはもう遅し、口いっぱいに料理を詰め込まれる。

「!!」

「どうだい・・・?」

ジョナサンは少し緊張しながら俺の様子を伺う。
どうってお前・・・なんと卑怯な!って・・・・・ん・・・?
俺は口の中に広がる料理の味に頭をひねる。
・・・変だな・・・マズくない・・・。
そのまま無言で咀嚼をし、ごくりと飲み込む。
うむ・・・やっぱりマズくない、
飛び切りうまいという訳ではないが普通に美味い。
何故なのだろう・・あんな見た目なのに・・。

「意外だが美味い。」

「意外は余計だよ・・・でも良かったー。マズいって言われたら
 僕の舌がおかしいってことになるしね。」

「どういう事だ?」

「だって味見しながら作っているもん、自分がイケるなって
 思ったからDIOにも勧めたんだよ?」

・・・・・・。
ジョナサンの言葉に俺は愕然とする。
味見・・・・そうかジョナサンはちゃんと味見したのか・・・。
見た目がグロいからつい全力で警戒してしまったが、最初から
ちゃんと味見したかを聞いておけばよかったんだ・・・。
確かにこいつはウマい食い物を食べ続けてきただけあって
俺と同様に舌が肥えている。
よく食べる奴は初めての料理もそれなりに食えるものを作れるというが
ジョナサンもまさにそれなのだろう。
はあ・・・余計な気を使って疲れた・・・しかしこれで問題はない。
さっさと食って「ガンガン行こうぜ」だ。
俺はジョナサンから料理を受け取ると、
早々と口の中に掻っ込み全て平らげる。
ジョナサンはそんな様子の俺を見て大層上機嫌だ。

さあ食ったぞ?次はお前の番だ。
にやりと笑って皿を返すと、ジョナサンはそれを受け取り
足早に台所へと戻っていく。
後片付けなどせんでいいのに、とことん焦らす奴め、だがそこがい・・
おっと戻ってきたようだ、ん?何か持っているな?

「はい、どうぞ!他にも一杯あるんだ!沢山食べてね!」

そうにこやかに笑いながら別の料理の乗った皿を出す。
しかも先ほどより料理の量が多いようだ。

「あーーー・・・ジョナサン?」

「はい、あーん。」

「・・・・・・・。」

味についてはもう恐怖はない、しかしこいつの言った、
「まだいっぱいある」に恐怖を感じるのは何故なのだろうか。
目の前のジョナサンは至って無邪気に俺に食べ物を勧めてくる。
よく食べる奴ほど、サービス精神が旺盛だというが、これは有難迷惑という
ものか?
これも乗り掛かった舟。
これも俺に降りかかる愛の試練とでもいうのだろうか。
いいだろう、こうなったら受けてやる。
一杯食って好感度を上げればいいのだろう?

そして俺はくだらない見栄を張ったことを後で後悔する羽目になる。
ぽっこり出た腹がジョナサンの笑いを誘い、
エッチどころではなくなってしまう。
何という侮辱だ、この俺のスーパームキムキセクシーボディが
笑われる日が来るとは。
いくら不死身の吸血鬼だろうが、食べ物を胃に詰めれば
詰めただけ腹が膨れる。
腹なんか関係ない!・・・と言いたいところだが、
もう一人の俺が無様な裸をさらした上での行為など許さんと
責め立てる。(※プライドが高いとも言います。)

結局腹がへこむまで待つことにするも、
今こうして朝になった今でも大して変わらず腹は膨れたままだ。
急いで食ったため胃を悪くしたのだろう、不死身の吸血鬼だというのに。
あいつめ、料理にふくらし粉でも入れたのではあるまいな。
ジョナサンと言えば、すっきり目覚めてさわやかな笑顔で俺を朝食に誘う。
食えるわけないだろが!この腹を見れば解るだろ?
だが、断ると「男のくせにだらしないな。」とか
「朝食べないとか女性みたい」とか言われる。
お前は俺を朝食に誘いたいのではなく、怒りを誘いたいのか?
額に青筋を浮かべるも、ジョナサンはそれに気づくこともなく今度は
「パンがゆ」でも作ってあげると優しい言葉をかけてくる。
全く・・・腹は立つが、こいつのこういう所は割と好きだ。
ふん、まあいい。
朝は俺の出番はなくとも、夜になれば俺の出番がくるんだ。
今夜は笑いなど起きない超真面目モードで攻めてやるぞ。
俺は台所に行くジョナサンに、忘れないようにひと声かける。

「パンがゆは超少なめでな。」







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