※文章中に出てくる「かまいたち」とは風妖怪の事です。
三匹のいたちが「転ばす」「切る」「治す」をそれぞれ行います。
※2 作者様によっては他のバージョンもあります。


黄金(きん)の魚は水の中。
冷たい冷たい水の中。
冷たいのには慣れている。
水の中は気持ちいい。
たまに流れがきついけど
それは皆もおなじこと。


黄金の魚は群れたがらない。
たまに過ぎかう他の群れ。
するりするりとよけていく。
流れのように過ぎていく。
自分以外は流れと同じ。
一人が好きな黄金の魚。
広い世界を自由に泳ぐ。

 

{黄金の魚は誰の物?}



とても静かな水の中。
ぼそぼそひそひそ誰かの声。

「綺麗」、「素敵」。

黄金の魚を褒める声。

「生意気」、「気に食わない」。

黄金の魚を疎む声。


黄金の魚は気にならない。
誰かの言葉は気にしない。
褒める声は外から聞こえる鳥の声。
疎む声は外から聞こえる荒ぶる風の音。
風と鳥に返事はいらない。
黄金の魚は気にしない。


黄金の魚は騙しが上手い。
生きる為の騙しが上手い。
黄金の魚は優しく騙す。
転ばして、切っては治すかまいたちのように。


黄金の魚は苛めは嫌い。
だから他を苛めない。
苛めを見ると痛いから。
苛めを見ると悲しいから。
痛みが判る黄金の魚。
悲しみが判る黄金の魚。
孤独が判る黄金の魚。
優しさが判る黄金の魚。
何でも判る黄金の魚。




でも愛され方は判らない。




黄金の魚は一人ぼっち。
小さいころは黒い体。
闇に溶け込む黒い体。
母はいない、育ててくれた女性はいるけれど。
父はいない、養ってくれた男性はいるけれど。
友はいない、知っている者はいるけれど。

声の小さな黒い魚、自分の願いは届かない。
体の小さな黒い魚、誰にも映らぬ自分の姿。
関わるものに傷つけられる。


温もり知らない黒い魚、一人の世界が心地いい。
体をつつむ水草が母親代わり。
隠れる岩場が父代わり。
耳に囁く穏やかな水の音が友達代わり。

望みを捨てた黒い魚。
涙を捨てた黒い魚、
心を閉ざした黒い魚。
氷のように閉ざした心。
太陽の日差しはもう入らない。


仲間のいない黒い魚。
一人きりはもう慣れた。
痛い思いはしたくない。
悲しい思いはしたくない。
孤独の代わりに貰った平穏。
寂しい気持ちはひた隠し。


ある日寂しい者を見た。
自分と同じ者を見た。
寂しさ判る黒い魚。
小さな体で匿った。


一人が好きな黒い魚。
神など信じぬ悲しい魚。
だけど神は現れた。
閉ざした心をこじ開けた。
光を浴びる凍った心。
春の日差しのように暖かい光。
生きる力を与えてくれる。
戦う力を与えてくれる。
黒い魚は生まれ変わり、やがて輝く黄金になる。


勇気をもらった黄金の魚。
優しい心の黄金の魚。
不思議な不思議な黄金の魚。

だけど愛され方は判らない。
愛は求めぬ黄金の魚。
自由な自由な黄金の魚。



光り輝く黄金の魚。
光を増してく黄金の魚。
不思議な魅力の黄金の魚。
まわりを魅了し続ける。
黄金の魚は気づかない。
自分の魅力は判らない。



彼を見つめる二つの目。
黄金の魚は気づかない。
二つの目には気づかない。
黄金の魚は気に入られた。


黄金の魚が囚われた。
暖かい手に囚われた。
冷たい水に慣れた体。
暖かいのは慣れてない。
火傷しそうに痛くなる。


暖かい手はその身を撫でる。
包むようにその身を撫でる。
黄金の魚はなすがまま。
どうしていいか判らない。
黄金の魚は鉢(うで)の中。




自由を失う黄金の魚。
代わりに愛を手に入れた?
それとも主を手に入れた?
自分を見つめる二つの眼。
黄金の魚は逃げられない。
二つの眼から逃げられない。

暖かい手はその身を撫でる。
包むようにその身を撫でる。
熱いその手でわが身を撫でる。
火傷しそうにひりつく体。
黄金の魚はなすがまま。
どうしていいか判らない。
   





黄金の魚は誰の物?


撫でるその手は何の為?


囁く言葉は何の為?


黄金の魚は火傷する。

撫でられるたびに火傷する。

黄金の魚は涙をながす。

黄金の魚は痛いだろうか。

黄金の魚は怖いだろうか。

耐えられなくて戻るだろうか。

もといた場所(こどく)に戻るだろうか。

それとも熱さに慣れるだろうか。

やさしい痛みを喜びに
変えることが出来るだろうか。

水の中と同じように心地いいと思うだろうか。
  


愛されていく黄金の魚。


黄金の魚は嬉しいだろうか。


黄金の魚は幸せだろうか。


撫でるその手は幸せを
ずっと約束するのだろうか。



先は誰にもわからない。



黄金の魚は愛され方を
知り得ることができるだろうか。





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後書き
ピクシブさんにも載せていますが
めちゃくちゃアウェーな状態での出発になりそうで
幸先不安です。カプなしでのデビューがこんなに不利とは
(多分9割がたは文章力と知名度の問題)思いませんでした。
でも書いてて楽しかったので後悔はしてません。
誰がなんと言おうが好きなものは好きなんで。
最後まで読んでくれた方、有難うございます。
採点とかつけてくれた方はもっと有難うございます!


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