第三章 DIOの章 (悪魔のささやき)
夕食が運ばれてくる時刻、ようやくジョナサンも目覚め
すきっ腹を抱えながら匂いのする方角を ちらちらと気にし始める。 実は俺は、人間の時のように毎日は食事はしない。 食いたいときにだけ食い、食いたくないときは 何日も抜くときもある。 渇きを覚えれば生き血を啜り、美酒と美食に 酔いたければ食事や酒を持ってこさせる。 食うも食わないも気分次第だ。 しかし今は育ち盛りの人間がここにいるのだ。 食わさないわけにはいかないだろう。 そんな訳で今日から朝昼晩と飯の 用意をさせなければならない。 そうそう、間食も必要だろうな。 元々食う奴だし、この頃の小僧の胃袋はブラックホールだ。 やがて部下が料理を持ってやってくる。 しかし何故か料理は三人前だ。 いや、何故かなどと思うのは野暮だな。 どうせアイツが来るんだろう。 ジョナサンも料理の頭数が合わないことに 疑問をもったようだ。 俺の衣服を引っ張り心配そうに尋ねる。 「王様と僕以外で誰が来るの?やさしいひと?」 優しい人と聞かれて俺は言葉に詰まる。 優しくはないだろう、何せ過去の俺だ。 しかし奴は優しい自分位平気で演じるだろう。 自分で言うのもなんだが口のうまい奴だ。 時間をかけてジョナサンをゆっくり騙していくだろうな。 かくいう俺も似たようなものなのだから。 「さっき会ったもう一人の俺だ、だが安心しろ お前にひどい事はしないと誓わせた。」 「王様がそういうなら信じる。けどなぜくるの?」 「来たら悪いのか?俺だけ仲間はずれか? ひどい奴だな。」 突然横からとんできた声に俺たちは振り返る。 そこには過去の俺が壁に寄りかかり不敵な笑みを 浮かべながら俺たちの様子を伺っていた。 ジョナサンといえばマズい事を聞かれたとばかりに 俺の後ろに隠れ、もごもごと口ごもる。 「余り苛めるな、約束しただろう?」 「すっかり保護者だな、ただ質問しただけだ。」 肩をすくめるとずかずかとテーブルの前に進みより 食事の並んだテーブルの椅子にドカッと座り込む。 俺は戸惑うジョナサンにも席に着くように促し 自らも席に座る。 もともと食事時にしゃべるのはマナー違反であるが 余りにも気まずい沈黙にジョナサンが硬直してしまう。 最初は緊張してナイフとフォークに手を付けなかった ジョナサンだったが空腹に負けたのか 一口づつだが食事を口に運んでいく。 そして口に入れた途端目が大きく見開き その目が「うまい」と表現していた。 「美味いだろう?」 俺が尋ねると大きくうなずき 最初のしおらしさはどこへやら、大口を開けて 次から次へと食べ物を放り込む。 俺は「慌てなくてもいい」と一言付け足すと ついでにそばで呆れて見ているだけの 過去の俺にも食うように促す。 「お前たちが食ってきたものより味が 洗練されているはずだ。食って損するものはない。」 奴は促されるままに一口食べ物を口に入れ、酒を煽る。 「ふん・・・。悪くない。」 ジョナサン程ガツガツは食べないものの 次から次へと料理や酒を口に運ぶ。 因みにジョナサンの飲み物はジュースだ。 ワゴンに色々なジュースを並べて置いている。 確かガキの頃、ワインは飲んでいたのは知ってるが 酒になれると俺たちの飲む、度数の強い酒にも 手を出しかねないのでアルコールはあえて避ける。 ジョナサンにとって色々な味のするジュースは とっても魅力的らしい。 何回空になったか分からないコップを持って 次はどんな味にするか迷っている。 どれもこれも甘ったるくて飲む気はせんが ジョナサンは特に茶色いココアのようなジュースが 痛く気に入ったようで、何杯もお代わりしている。 「おいしー、甘くておいしー!」 ご満悦の表情を浮かべるジョナサンだったが 何故かその頬が赤く紅潮しているのに違和感を感じ 俺はジョナサンのコップを奪い取り匂いを嗅ぐ。 ・・・なんてことだ、これはリキュールではないか・・。 酒はジュースのワゴンには混ぜるなと言って おいたのだが、間違えて置いてしまったのか? 「わーーん!王様の意地悪!」 俺がコップをひったくったのが気に入らないのか 横からジョナサンが俺の肩を叩いて責める 「全くだ、ひどい王様だな?ジョナサン。」 笑いながらジョナサンの味方をする 過去の俺をみて、やっと気づく。 どうやらこいつの仕業らしい、 どうりで静かだと思ったが 本当に抜け目のない奴よ。 「そんな怖い目で睨むな、 小僧の緊張を解いてやっただけよ。」 クククと笑いながらジョナサンの頭を撫でる。 ジョナサンはというと、すっかり気を許したのか 昔の俺とべらべらとしゃべり始める。 「悪魔なのに優しいね。」 「悪魔だと?俺が?」 「だって王様がそういったもん。」 ・・・・・。 これだから酒は飲ませたくなかったのだ。 ため息をつく俺を過去の俺は楽しそうに眺めながら ジョナサンに言いたい放題デマを吹き流す。 「それはな、ジョナサン、 お前が俺に取られるのが怖いんだ。 だから俺の事を悪魔などと言って お前から遠ざけたいだけなんだ。」 「え?僕が?どういう事?」 「お前がアイツより俺を好きになってしまうのが 怖いんだよ、焼きもちという奴だ。」 「王様も焼きもちを焼くの?でも大丈夫だよ。 僕は王様は好きだよ。」 にっこりと(いや、ヘラヘラか?)笑って 俺に微笑みかけるジョナサンに俺はどう答えればいい? ありがとう、とでもいえばいいのだろうか? いかん・・・どうも流されているな。 ジョナサンが俺の方ばっかり 向いているのが気に入らないのか 自分にも気を向かせようと奴はわざと 悲しそうな表情と声色で、ジョナサンの気をひく。 「俺は嫌いか?少なくとも俺はお前が大好きだ。」 「うーん、酷いことしないって いうんなら嫌いじゃない。」 「俺は子供にひどい事はしない。 それに王様にも命令されているしな。 だってお前は王様を信じるんだろう?」 「・・・うん。そだね!」 「愛してもいいか?」 「うん、いいよ。」 昔の俺はそういうと俺に見せつけるように その頬にキスをする。 ジョナサンの方も酔っているのか返事をキスで返す。 俺が呆れかえって二人を眺めていると 仲間外れにして申し訳ないと思ったのか ジョナサンが俺にも「ついで」のキスをしてくれる。 結局ジョナサンはチョコレートリキュールを 飲み尽くし、ベロンベロンになって ベットに突っ伏し大きないびきをかいて眠り始めた。 ・・・明日二日酔いになっても俺は知らんぞ。 全く怒る気にもなれん。 ジョナサンにも過去の俺にも。 過去の俺は席を立つと上半身の衣服を脱ぎすて、 ジョナサンの寝ているベットに腰かける。 「どうするつもりだ?」 奴の意味深な行動に 食事もそのままにして俺は奴に近づく。 奴は俺の言葉も気に留めず、そのまま添い寝する 形でジョナサンの隣に寝ころぶ。 「一緒にベットを利用させてもらうだけだ? いったはずだろう?特別な用事があるとき以外は お前たちと一緒に過ごすと。」 言いながらジョナサンの胸あたりを怪しくさする。 ジョナサンは少しくすぐったいのか笑いながら 身をよじる。 「寝ていながらいい反応をするな。」 ニヤニヤと笑いながら奴は胸のあたりに指を滑らす。 その指が服の中の小さなふくらみを挟もうと すると同時に俺は奴の手首をつかんで止める。 「そういうことは止めてもらおう。」 「相変わらず保護者面か?俺ともあろう者が どういうつもりだ?」 「こいつの身を案じているのではない。 物事には順序がある、慌てて事を起こして 失敗したのでは元も子もないからな。」 そうだとも、俺がこいつに対して過保護なのは 優しく騙して虜にするためだ。 流れ的にいずれこういう関係にはなるだろうが 今がその時かどうかが、まだ見極められない。 奴はそんな慎重な俺の様子に鼻で笑い、 うっとりとした表情でジョナサンの輪郭を撫でる。 「酔っているんだ、こいつも俺たちもな。 もしもの事があっても酒がすべてうやむやに してくれる、。俺から言わせればこのチャンスを 利用しないなんて愚か以外の何物でもない。 もし小僧が俺たちのしたことにショックを受けても 言い訳なんていくらでもできる。 例えば子供のくせに酒を飲みすぎたお前に 罰を与えてやったんだとかな・・。」 文字通り悪魔のささやきが俺の意思をぐらつかせる。 思い付きで俺の中の悪魔とは言ったが、 まさかその通りになるとはな・・・。 「どうせ騙すんだろ?行為の後も騙してやればいい。 「愛していると」・・・。どんな奴も 大体これで全てを許す。伊達に何度も 実践していないだろ?」 「・・・・・・。」 「煮え切らない男だな、それでも俺か? 仕方ない、全責任は俺がとってやろう。 それでもお前は手を出さないというのか?」 はっきりしない俺の態度に奴は業を煮やし大口をたたく。 自分を信用しないのも情けない話だが 多分こいつは責任なんか取る気はさらさらないだろう。 しかし確かにこいつのいう事には一理あるのは違いない。 少しくらいなら試してもいいかもしれない。 要は止め時を間違えないことだ。 無理強いをしないという条件で俺はその提案をのむことにする。 「俺はお前の失敗から色々学んでいるんだ。 慎重にもなるさ、だからこそ今の俺がいる。 ・・・だが・・まあいいだろう 挑発に乗ってやっても。」 「そうそう、遅かれ早かれお前は そうするつもりなんだろう?」 「だが・・・優しくだ、手荒は許さん。 こいつが行為に恐怖を覚えたら途中で止める。 文句は言わさないぞ?いいな・・?」 「勿論、未来の俺に従うさ・・・。」 奴はそういうと手早くジョナサンの服を脱がす。 酒のせいで少し赤みをおびた幼い裸体が露わになる。 「それじゃ、順番は俺が決めてもいいな? 俺が先だ、様子を見たいんでな。」 「ふん、気に食わないがお手並み拝見と行こうか。」 結局俺たちは初日にいきなりでジョナサンに初体験を させることになった。 だましだましで何とか最後まで乗り切ったが、 何と言おうか、この「昔の自分に負けた感」はなんだろう。 勿論テクニックでではない、誘惑にだ。 昔の俺はたいそうご満悦で、「また来る」といい残し 部屋へと戻っていった。 俺も満足はしたはしたが・・・自分の意志の弱さに 少し自己嫌悪だ。 俺は気絶したのか眠ったのか判らないジョナサンの体を 綺麗に洗ってやる。 腰の痛みなどが残るかもしれんが酒のせいで 転倒したとかいえば何とかごまかせるだろう。 途中で泣かれたが多分怖がられてはいないと思う。 全く、今日は眠れる気がしない、いろんな意味でな。 続く |