早朝のジョジョ病院。いつもはジョナサンの方が先に目覚めるのだが
今日に限ってはDIOの方が目覚めが早い。
何故ならば彼は普段の仕事の他に最近始めた
独自の研究にとりかかるために張り切っているのだ。
無論DIOだけでは出来ないことなので
ジョナサン達には内緒で優秀なスタッフを何人か
雇っているが、その姿を見たものはDIO以外誰もいない。

この病院にはSSS室というDIO以外入れない
部屋があり、彼らはそこで働いているのでは
ないかという噂があるが、そのことについても
DIOはジョナサンにでさえ教えないという。
SSS室の扉は一トンの重さであかないように
なっているので、ただの人間のジョナサン達が
より集まっても開けられる代物ではないのだ。
取りあえず「触らぬ神にたたりなし」と思うようにして
皆、そのことについて触れなくなった。

そんな訳で早く起きたDIOがまずやることは
今だベットで眠りこけている伴侶を起こすことから始める。

「ジョナサン、俺は少し研究所にこもる。
 飯の心配はせんでいい、血液が何本かストック
 してあるからな、というわけで重大な問題でも
 起きない限り俺を呼ばないようにな。
 ただお前の体が疼くときは・・・うーん
 そうだな、どうしても我慢できないなら
 少しだけ時間を割いてやるから、その時は
 遠慮なく・・・。」

それはない。研究頑張ってね。

「ちっ、可愛げのない。ところでジョナサン。
 ダンナがしばらくお前の元からいなくなるというのだ。
 ベットから起きて抱擁ぐらいしてもいいだろう?」

DIOの言葉に生返事を返すとジョナサンは
まだ眠いとばかりにシーツを頭までかぶる。
彼は男なので女性のようにかわいらしく甘えなくても
当然なのだが、DIOには気に入らないようだ。
しつこくジョナサンの体を揺する。
このままでは投げ飛ばされそうなので、しかたなく
ジョナサンはシーツから顔だけのぞかせる。

「しばらくって・・・一年も二年もいないわけじゃ
 ないだろうに・・・。」

判った、そのまま寝ていろ、抱擁より
 濃厚な事をしようじゃないか。

起きるよ!全く・・・
 ほら・・・これでいいかい?

ギシ・・と音を立てて伸し掛かろうとしたので
慌てて上半身を起こしDIOを抱きしめる。
彼の事だ、朝でも構わずプレイを強行するだろう。
結局彼のせいで半分も眠気が吹っ飛んでしまったようだ。
それでもジョナサンがベットから降りようとしないのは
意地と言うよりも半分残っている眠気のせいだろう。
だがDIOもそんなわがままを許すような甘い男ではない。

「ベットからおりろ。それとも朝勃ちでも
 しているから俺に知られるのがまずいのかな?」

「朝くらい爽やかな会話が出来ないのか!?
 判ったよ!もう・・・!ほら!」

挑発とは判っているものの、これ以上の面倒は
避けたいとジョナサンは飛び起きてDIOの背中に手を回す。
DIOもそのお返しとばかりにジョナサンの
背中から尻のあたりを撫でまわす。
因みにDIOの股間が硬くなっているのは気のせいではない。
その硬くなっている物を相手の股間にぐいぐいと押し付け
うっとりと耳元で囁く。

「ああ・・・ジョナサン。」

ギャース!!朝っぱらから欲情むき出しなのは
 君のほうじゃないか!!もういいだろう?
 ご飯食べて、研究所に向かいなよ!
 ・・・朝ごはん付き合ってあげるから。」

「そうか、なら家族で朝飯でも食うか、 ジョルノも呼ぼう。
 ふ・・・こういうのもたまにはいいな。」


ふわムチジョナサンの憂鬱 前編


二人は白衣に着替えると食堂へ向かっていく。
ここで働いている皆の朝はバラバラだ。
特にDIOは朝に弱く、いつも一人で遅くに朝食をとることになる。
ただ彼はジョナサンとは違い毎日朝食を食べなくても
なんら問題はないようだが。

因みに食堂に働いている人間はいない。
普通の家庭の台所のように、食べ物などごっそり
用意してあるが、実際に作るのは自分たちだ。
無論患者たちの食事は宅配業者任せだ。
患者によっては仲間から差し入れが入るときもある。
その他にも、パンやお菓子やラーメンや飲み物などの
販売機も置いてあり食べ物で困ることはない。
ジョナサン達も自分で作れないほど忙しいときは
近所の店に出前を頼む。
今朝も近くのなじみのレストランに朝食の出前を頼んだ。
テーブルに届いた朝食を並べているとジョルノが
食堂にひょっこり顔を出す。
ジョナサンは起きてきた息子にさわやかな笑顔を送る。

「おはようジョルノ。ゴメンねこんな朝早く。」

早朝にジョナサン達に呼び出されたジョルノだが
もう眠気はすっきりとれているようだ。
しゃんとした成り立ちで二人の前に現れる。
そして朝のあいさつ代わりに抱擁を交わしていく。

「おはようございます、母さん。
 良いんですよ、事情はわかりましたから。」

「おはよう愛息よ、父さんは少し離れるが
 泣くんじゃないぞ。」

DIOの一家は必ず朝に挨拶の抱擁を交わす。
早くみんなが仲良くなれるようにとジョナサンが
いいだしたことだった。
最初「年頃」のジョルノは、それに対して消極的だったが
それをしないと、ジョナサンは傷つくし
何よりDIOがふてくされて面倒なことになるので
何とか努力して積極的にするようになった。

「おはようございます、父さん。
 泣くなんて・・・僕を子ども扱いしないでください。
 あ、お尻は撫でないでくださいね。
 朝でも容赦しませんよ。

子ども扱いするなといっておいて、その言い草か。

わが子にセクハラするなんて問題外だよ。
 ジョルノが正しいよ、さ、早くご飯食べよう。」

三人はさっそくテーブルを囲む。
朝食のメニューはお決まりの物でパンとコーヒーか紅茶。
サラダに卵、ウィンナーかハムだ。
日本で生まれ育った承太郎やジョルノは
たまに白米や焼き魚やみそ汁などに替えるときもある。

「皆、朝は本当に食欲ないんだね。
 僕なんか朝っぱらからステーキ出されても
 なんともないんだけど・・。」

パンとサラダと飲み物くらいにしか手を付けない
二人をジョナサンは不思議そうに眺めつつも
すべての食べ物を口に運んでいく。

「母さんは胃が丈夫なんですよ、健康な証です。」

「ジョルノ気を使うな、ジョナサンは食い意地が
 張っているだけだ。お前は本当に昔と変わらん。」

「えーー・・昔と比べると少し食欲は
 落ちたんだけどな・・・。君だって結構食べてただろ?」

そう言いながらも、パンにジャムをベタベタと
つけて口の中に放り込むジョナサンの姿に説得力などない。
確かにジョナサンだけでなくDIOもがっちりした体つきだ。
よく食べなければこんな体にはならないだろう。
小さい頃から食べ物に不自由しなかったことが容易に伺える。

「昔はそんなに食べていたんですか?
 スポーツでもやっていたので?」

「そうそう!ラグビーをね、DIOも一緒に。」

父さんが?信じられませんね・・・。
 だって父さんって・・・その・・・
 青春を追い求めるような人に見えないし・・。

「悪かったな、俺は確かにスポーツなんぞ
 アホアホしくて嫌いだったんだが、
 こいつがやるなんて言い出すものだから仕方なく・・。」

「やっぱり嫌いだったんだね、何であんな事いったんだ?」

ジョナサンの質問にDIOは溜息をつくと
百数年前のことをぼつりぼつりと語りだした。

※(ディオの体重増加防止大作戦を参照してください。)

「・・で、結局は石仮面の力で俺はジョナサンを圧倒できる力を
 手に入れたんだ、ついでにこいつの体もな。
 しかし・・・思えば無駄な時間だった。
 有意義だと思えたのは、練習中こいつに
 ナチュラルにセクハラできたことだけだ。」

君という男は、怒りを飛び越して呆れるよ。
 もう時効だから、いいけどさ。

その当時は気のせいだと必死に思い込んでいたが
そう言えば思い当たる節がありすぎるなと
改めてジョナサンはDIOに怒りを覚える。
しかし今恨み言を言った所で何もならないし
ジョルノの前でみっともなく愚痴をいいたくない。
思いっきり冷たい目で睨むが、当人は全くのスルー状態だ。

「じゃあ父さんと母さんはほぼ同じ体型なんですね。
 でも・・・不思議だな・・。」

ジョルノが二人を見比べ、自分の手のひらを見つめる。
一体何が不思議なのだろうか?
ジョナサンは聞いてみることにする。

「何がだい?」

「いえ・・・抱きしめられた感じが全然違うので・・・。」

毎日親子で抱擁を交わしてきたが
そんなことを言われたのは今日が初めてだ。
確かにDIOの体は元の自分の体である。
だから本来なら違和感などないはずだ。
ジョナサンがDIOと自分を見比べて考え込んでいると
DIOからジョルノに説明をする。

「ああ、それは簡単だ、俺は筋肉が多い
 こいつは脂肪が多い、それで俺の方が
 硬く感じるんだ。」

人を太ったみたいにゆうな!

DIOの言い方に怒りを覚えるものの
たしかに彼の言う通りかもしれないとジョナサンは押し黙る。
ジョナサンもよくDIOに抱きつかれるので
判るのだが、明らかに自分の体より硬いのだ。
裸になった時も筋肉の割れ目が自分よりはっきりとついていて
抱かれなくても一目瞭然だ。
まさに彼の体は魅せる体といっても過言ではない。
だがどんなに受け身だろうがジョナサンも男なわけで
まだ男らしさでは負けたくない所がある。
しかし現実では自分より彼は硬くたくましい。
止めに彼はジョナサンにはない野性味を帯びた
肉食獣のような顔つきをしていて「雄」そのものだ。
それだけはさすがに認めざるを得ないだろう。
きっと吸血鬼の力のせいで、筋肉が頑丈になっているのかも
しれないと思い込むようにしてきたが
確かにジョナサンより「食」に執着の無いDIOの体には
脂肪などつきにくいかもしれない。
少し落ち込み始めた様子のジョナサンを見て
慌ててジョルノがフォローに入る。

「太ってるなんて、そんな・・。
 僕は母さんが太っているだなんて露ほど
 思っていませんよ。それに僕は
 母さんの今の体の感触が好きです。
 だから無理に変えようとはしないでください。」

「子供にそこまで気を使わせるとは
 お前も罪な男だなジョナサン。」

・・・どういう意味だい?

父さんの方が僕は百倍気を使っていますが?

当たり前だ、偉大な父親に気を使わんでどうする。

「全く、嫌味が全然通用しないんだから・・・
 早く食べて研究とやらにとりかかりなよ。」

今だゆっくりとコーヒーを啜っているDIOを急かすように
ジョナサンはテーブルの上の後片付けをし始めた。

そしてDIO抜きの午前の仕事が始まる。
今日はDIOがいないため彼と共にやるはずの
共同作業をジョセフに頼むことにした。
ジョナサンはジョセフに仕事の内容を軽く説明しながら
今朝の出来事をジョセフに聞かせた。

「て、いう事があったんだ・・・。」

「はははは、でも院長が暫く顔を出さないんなら
 平和でいいや。」

「あんまり期待しない方がいいよ、諦めるときは
 彼凄く早いから・・・。ああ、ここ、ここ。
 今日手伝ってもらいたいのはこの患者さん。
 本当はDIOに手伝ってもらうんだけど
 彼ご存知の通り不在だからね。」

「そんなに乱暴ものなの?」

乱暴者なの?と聞いておいて愚門だったなと
ジョセフは口をつぐむ。
もともとここには乱暴者しかいないのだ。
だがわずかだが、穏やかになった者たちもいる。
ジョナサン達のやさしさによって改心したものもいるし
力づくで改心させられたものもいる。
ジョナサンは黙りこくったジョセフを安心させるように
にっこりと笑ってその患者の人物像を教える。

「ううん。物静かな穏やかな人だよ。
 ただし・・・その・・体が尋常じゃないくらい大きくて・・・・。
 でも「太っている」ってその患者さんの前で
 いっちゃ駄目だよ。男の人だって
 気にする人は気にするんだから。」

「OKOK、看護師としての心得は
 ばっちりだから心配しないで。
 よっしゃー、失礼しマース!」

いつものように明るく元気よくジョセフは
病室の扉を開けるが目に飛び込んできたものは
想像をはるかに超える見たこともない巨体の患者だった。

「こ・・・こんにちわ(でけーー!!
 北○の○にでてくるハー○様みてー・・。)」

「ブフー、こんにちわ、いつもすまないねえ
 副院長、今日は君と院長ではないんだね。」

「はい、院長は事情がありまして暫く
 担当を外れます。次回から彼と僕が
 しばらく担当するかもしれないのでよろしく。」

その患者は部屋の半分は占めていそうな巨体をなんとかねじり
ジョセフを見つめにっこりと笑う。
対するジョセフは、見えない汗を飛ばしながら
必死に愛想笑いで答える。

へへ・・・、ども。マジでーー!?)」

「はいはい、よろしくね。さっそくだけど
 頼むよ。ブフー・・・ダイエットしなきゃ
 ならないのは判っているんだが・・・・
 つい・・・ほら食欲の秋だろ?」

「判ります。この時季はおなかが空いて空いて
 僕も困っているんですよ。ね?」

多分季節関係ないだろと心の中で
突っ込みを入れるジョセフにいきなりジョナサンが
同意を求めてくるので慌てて愛想を振りまく。

そ・・・そりゃあもう!

「ぶほほほほ、君達は細いから気にしなくても
 いいじゃないか!何キロあるんだい?」

「えーと・・二人で二百二キロかな?」

自分の体重だけでなくジョナサンの体重も
なぜか知っているジョセフは素早く答えを出す。
その時一瞬ジョナサンの表情が硬くなったが
ジョセフはそのことには気づきもしなかった。

「振り分けるとどうなるんだい?」

か・・・彼が百キロで僕が百二キロです。

!?

ジョセフが言う前にすかさずジョナサンが申告する。
そのことに関しては別に問題はないのだが
あのジョナサンが偽りをいう事にジョセフは驚きを
隠せず、思わずジョナサンを見つめる。

「ブフー、軽いじゃないか。でも三桁の数字の
 人間が二人もいるとなんか安心するよ。
 二桁の人間に来られるとコンプレックスを
 感じてしまうからね。ブホホホホ!」

「そ・・そうですか?へへへへ。」

よく判らないが、患者が安心して結果オーライと
いうことで、ジョセフはジョナサンと患者を持ち上げる。
かなり重たかったが、なんとか作業は終わり
二人は何事もなく無事に病室を後にする。
だが問題はそのあとだった、
二人の間に気まずい空気が流れる。
それはジョセフの周りからでなくジョナサンの周りから
発せられていた。

「副院長・・・あの・・。」

ゴメン!ジョセフ!僕はなんて最低なんだ!
 君との差をつけたくないばっかりに・・・!
 軽蔑してくれ!!わぁーーーー!

え・・・ちょ・・・俺は別に気にして・・・
 副院長ーー!!カムバーック!!

ジョナサンは泣き叫ぶと、超ダッシュして
廊下を走り去っていった。
いきなりの事にジョセフは驚き、ジョナサンを呼び戻すが
その声も聞こえないのかあっという間に彼の
姿はみえなくなっていた。

そして休憩時間になりジョセフは承太郎とさっきの
出来事について話し合っていた。

「てなことがあったんだ。」

「些細な事じゃねーか。
 オメーは気にしてないんだろう?」

女じゃあるまいし、と承太郎はため息をつく。
もともと痩せている彼にとっては全く無縁の話だ。
まさか男ばっかりの職場でこんなこと聞かされる
なんて思っていなかったのだろう。
ジョセフだってまさかこんなことで大事になるとは
思っていなかったはずだ。
そもそも本人はまったく気にしていないのだから。

「たかが3キロかさましされたくらいで
 怒るようなチンケな男じゃないぜ俺は。
 ただ副院長もそう言う嘘をいうんだなって
 ちょっと人間らしさを感じて安心したっていうか・・。」

「そのことを伝えてやったのかよ?」

「いったけど自室にお隠れになっちゃった。
 どうする?院長呼ぼうか。」

あれからジョセフはジョナサンを追いかけていったが
自室の鍵をがっちりと閉めて中には入れてくれなかった。
仕方ないので、再度気にしてないことを伝えて
もやもやした気分のまま仕事に戻ったのだ。
真面目な副院長の事だから、仕事をさぼってまで
閉じこもったりはしないだろうがいつも現れる
休憩時間に現れないので少し不安になる。
こうなったら院長に何とかしてもらうしかないのだが
呼べば呼んだで今度は周りにも騒ぎを起こす。

「呼びたくねーな、折角平和になったのに。」

「お疲れ様です。二人とも、差し入れでケーキが
 あるんですが食べませんか?あれ・・・
 副院長はいないんですか?」

今しがたやって来たジョルノが
何やら菓子箱をぶら下げて休憩室を見渡す。
いつもいるジョナサンがいないことに違和感を感じたようだ。
菓子箱のいい匂いを嗅ぎながら、ジョセフはジョルノを
座らせ、ジョナサンについて知っていることを教える。

「副院長ならかくかくしかじかで・・・。」

「・・・そうなんですか。気にしているのかな?
 やっぱり体重の事・・・・。」

「なんかあったのかよ。」

「ええ、かくかくしかじかで・・。」

今度はジョルノが今朝の出来事を事細かく二人に教える。
二人はお茶の用意をしながら話に耳を傾けた。

「そっか・・・気にする事ないのになぁ。
 副院長別に太ってないじゃん。
 ムチッとはしてるけどおデブではないよな。
 俺はガリの副院長より今の体型の副院長の
 ほうが好きだな。」

「僕もそうだって言ったんです。」

相槌をうつジョルノの隣に座る承太郎を
ジョセフが何気なくちらりと睨む。
正当な理由もなく睨んでくるジョセフに承太郎は少しムッとする。

「・・・・なんだよその目は。
 俺が今の副院長の体型の事で文句言った事が
 あったかよ・・・。」

「だってお前って俺と身長はかわんないけど
 俺より痩せているじゃん・・・。
 痩せた奴って、自分より太った奴見つけるとさ
 馬鹿にしてくるじゃん?」

「確かに俺の方がオメーより体脂肪率は
 少ないだろうな。」

ジョセフが棘のある言い方をしてくるので
お返しに承太郎もさらりと嫌味を返す。
大したことのない嫌味を言ったつもりだったが
ジョセフにはカチンときたらしい。
思い切り承太郎をギリっと睨んで恨み節を呟く。

ムカつくーー!!結局お前も
 あいつと同じ事・・・・。

「・・・「彼」と何かあったんですか・・?」

あっ・・・・。

普段その位では怒らないジョセフの異変を
ジョルノが気づき、悪気もなく指摘をする。
要するに「言われたくない誰か」に言われて
気にしていたことに承太郎が触れてしまったのだろう。
しかし承太郎は謝るどころかそんなジョセフを鼻で笑う。

ぷっ、恋人に指摘されてやがったのか・・。

てめー!よくも言ったな!表に出ろい!
 あ、ジョルノ、紅茶入れるときシュガー
 とミルクをお願いな。

そんなんだから、おデブ呼ばわりされるんだ。

そんなこといわれてねェーー!!
 ちょっと細いからっていい気になりやがって!

二人が喧嘩することはしょっちゅうあるが、
表に出てまでの喧嘩は滅多にない。
この一件に少なくとも自分にも関わりがあると感じた
ジョルノが慌てて止めに入る。

「落ち着いてください!ジョセフさん別に
 太ってないですよ?それとも「彼」に
 太っている貴方は嫌だとか言われたんですか?」

「い・・・言われたわけじゃないけど・・・。
 たまに結構重いなお前って・・・・。
 あと・・ちょっと食いすぎじゃないかって・・。」

ふくれっ面をしながら愚痴をこぼすジョセフを
刺激しないように言葉を選び、ジョルノなりに彼を一生懸命に慰める。

「そう言われても彼とは相変わらずあって
 いるんですよね?彼もいつもの通り
 貴方を愛してくれるんですよね?
 嫌われている訳じゃないならいいじゃないですか。
 何のかんの言っても今の貴方が好きなんですよ。僕はそう思います。」

「聞いたか!?心優しい今の言葉!
 よし、ジョルノの為にケンカはやめる。
 それに引きかえお前と来たら・・・年下の分際で・・・・。」

「悪口は言ってねぇ、真実を口走っただけだ。」

今だ納得は出来ないのか素直な言い方は
出来ないようだが、年下の人間に迷惑をかけたくないと
思ったのか、二人は再びソファーに腰を沈め、停戦をする。
ジョセフは謝らない承太郎に内心ムカつきながらも
口笛を吹きながらケーキ箱を開ける。

そうかいそうかい。今度廊下を
 一人歩くときは背後に気をつけな。
 頭上から何か落ちてくるかも知れねーからな!
 ま、そんなことよりケーキケーキ。」

ジョセフは目を輝かせながらケーキの数と周りの人間を見比べる。
承太郎とDIOは食べても一つが関の山だろう。
だとしたらジョナサンと自分とジョルノが食べる量だが
場合によっては自分が一個にしなくてはならない。
うーんと頭をひねっているとジョルノがジョセフに
自分から欲しい個数を申し出る。

「僕は一個でいいです。少し目方が増えたので。」

「またまたー、気にすんなよ。恋人は嫌がって
 ないんだろう?」

「そ・・それはそうですが、いいんです。
 僕なりのけじめをつけたいんで。」

「俺も一個でいいぜ。太ってないけどな。
 ん?ブランデーケーキがあるな、
 あんましでかくないしこれ頂くか。」

承太郎は誰も手を付けなさそうな
ブランデーがたっぷりしみ込んだケーキに
手を伸ばすが、ジョルノの次の一言でその手をとめる。

「あ、それ院長のです。」

「やめとけやめとけ、それにお前未成年じゃん。
 アルコール入っているのを食うなんて三年早いんだよ。」

「うるせー・・・オメーだって未成年だろうが。
 仕方ねぇ、院長のモンに手ェ出したら
 何されるかわかんねーし・・・このタルトでも貰うか・・・。」

「なら僕はこのレアチーズを。」

承太郎もジョルノもさっぱり系のケーキを一つ貰うと自分の皿にのせる。
残る四つはジョセフとジョナサンの分だが
どれとどれがいいかジョセフは今だ悩んでいる。

「うーーーん・・副院長はチョコ好きだから
 それは残してあげるとして・・・・
 残るはショートケーキと、モンブランとシフォンか
 なあ、ジョルノ、副院長どれが一番すきか判る?」

「ごめんなさい、ケーキの好みは知らないんです。」

「ジョナサンは生クリーム好きだから、
 ショートケーキを残したらどうだ?」

「そっか、さんきゅ!って・・・あれ?」

突然頭上からふってきた助言に一瞬喜ぶも、
本来ならこの場にいないはずの人間の声だと分かり
ぎょっとして頭上を見上げる。
そこにはいつの間にか入ってきたのか
DIOが上から三人を覗いていた。

・・・もう諦めたのかよ・・・。

承太郎が嫌味っぽく言うも、DIOはまるで気にせず
辺りをキョロキョロと見回す。

「バカ言え、ちょっとジョナサンに
 聞きたい事があったから席を外してきただけだ。
 奴を探していたらこの部屋から甘いにおいがしたのでな。
 どうせここだろうと来たらいないではないか。
 あの食いしん坊万歳がここにいないとは
 一体どういうことだ、一大事ではないのか?」

DIOはジョセフとジョナサンとの一件を知らないので
どうしていないのかが判らないようだ。
どうせ根掘り葉掘り聞かれるだろうと思い
ジョセフはDIOにジョナサンの事について説明する。
だがDIOは休憩室から動こうとせずその場にどっかり座り込んだ。
ジョナサンを探しに来たのに出ていかないDIOを
不審に思いつつも、ジョセフは辺りの空気をクンクンと嗅ぎまわる。
そう、さっきDIOが言った「匂い」のことで気になったのだ。

「ひどい言い草だなー、でもそんなに匂う?」

「俺をお前ら人間の嗅覚と一緒にするな。
 因みにお前らやジョナサンの匂いも
 遠くから嗅ぎ分けられるぞ。」

「こえーー・・でも院長の匂いも
 副院長の匂いも基本一緒じゃないの?
 香水をしているかしていないかだけで・・。」

ここにいるメンバーはみんなジョナサンの体が
DIOの体であることを知っている。
だからジョナサンもDIOも同じ体で同じ体臭だと
勝手に思い込んでしまっているようだ。
そもそも異性ではないし、目立つ体臭でもないので
考えたこともなかったが。

「違いますよジョセフさん。確かに母さんの体は
 父さんの体でもあることは判っているんですけど、
 感触も匂いも違うんです、何故か判らないですけど。」

「そういや、副院長に触られたときと
 院長に触られたときの感触は確かに違うな。
 (まあ、院長の方は下心があるからなんだろうが。)」

承太郎もジョセフもたまにDIOに襲われることがあるので
彼の体の感触が全く分からないはずはない。
できれば忘れたい出来事なので鮮明に思い出さないだけだ。
DIOは勝手に自分のケーキを取り出し、空のティーカップを
ジョルノの前に黙って差し出す。
実に偉そうな態度だが、実際彼は偉いポジションにいるので仕方ない。
ジョルノは心の中でぼやきながらも黙って紅茶を注ぐ。
 
「お前ら何を言っている?俺とジョナサンでは
 食うものも違えば生きている環境も違う。
 食うものが違えば匂いは変わるし
 俺の吸血鬼である不朽の細胞が皮膚や体を変えていく。
 確かにこの肉体の基礎はジョナサンだが
 今ではジョナサンの肉体とは全くの別物だ。
 ・・・ジョナサンとジョルノはよく判るはずだが?

えっ・・・?

ち・・・違います!父さん!誤解を生むような
 言い方しないでください!

二人の「もう食われたの!?」的な意味を含めた視線に
ジョルノが慌てて否定をする。
言葉足らずな父の説明に「親子としての抱擁」と
つけたし、家族愛を強く強調した。

「あーーびっくりした。でも考えたらそうだよな。
 そうじゃなきゃ自分と同じ体の人間を
 抱いてもつまらないだろうしなー。」

ここに子供とノンケがいる事を忘れねーでくれねーか?

ジョセフが無神経なことを言い始めたので
承太郎が眉を寄せ、不快をあらわにする。
一方DIOはそんな過剰な反応をする承太郎を
ニヤニヤと面白そうに見つめる。

「ほう・・・承太郎、お前はノンケだと
 言い張る気か・・・?ならさぞかし
 周りについていけなくて寂しかろう。
 そうだな、今は少し忙しいので
 一時間だけなら悦びを教えてやっても
 いいんだぞ?」

バカヤロウ!キメェこというな!
 ケーキご馳走さん!俺は仕事に戻るぜ!

これ以上いると面倒臭いことになりそうだと感じた
承太郎は残りのケーキを無理やり口の中に頬張るとすくっと席を立つ。
その様子を見たジョセフが間一髪承太郎に頼みごとをする。

「ついでに副院長呼んできてよ。」

俺をパシらせるのかよ・・。ち・・・
 まあいい、呼んで来てやるぜ。」

「良かったな、俺から逃げる口実ができて。
 まあ、その気になったら遠慮せず
 言いに来い。相手をしてやる。」

野郎・・・覚えてやがれ・・・。

いまだ続くしつこいセクハラ攻撃に業を煮やし
キッとDIOを睨みつけるとそのまま勢いよく
扉を閉め承太郎が遠ざかっていく。
相変わらず無神経なふるまいの父にジョルノがため息をつく。

「言いすぎですよ、あんまりではないですか。」

「何か悪い事でも言ったか?親切心で
 言ったまでだ。おまえらも他の男を
 知りたいのなら遠慮せず俺に頼みに来い。」

紅茶を啜りながら妖しい笑みを浮かべて二人を見つめる。
彼がいい男なのは認めるが、二人も別に
いい男が好きだから「彼氏」と付き合っているわけではない。

「ちょ・・・俺達は男が無差別に好きなんじゃねーよ!
 この前も言ったけど!」

「好きな人がたまたま男性だっただけです!
 父さんだって前いったじゃないですか。
 誰でもいい訳ではないって。」

誤解を受けるような言い方をされた二人が
必死になってDIOに抗議をする。
確かにこの二人は無節操に男を好んでいるわけではない。
それはDIOもよく判っている。
しかしDIOもそれに関しては彼らと同じなのだ。

「まあな、確かに両刀使いと言われても
 仕方ないが、俺は別に無節操じゃない。
 女にしても男にしても好みでないタイプは
 お断りしているからな、ああ、失礼。
 お前らは一途だったな、博愛主義の俺とは違って。
 だが俺だって一番愛しているのはジョナサンだぞ?
 その想いは決して変わらん。
 そして二番目に我が息子を愛し
 三番目にはお前ら親戚を愛している。
 あとは順位などはどうでもいい連中だ。」

DIO曰くジョナサンの血を受け継いでいる
ジョースター一族は特別に愛しくてたまらないという。
決してジョースター一族にひどい目に遭わされたから
仕返しに苛めている訳ではないというが信憑性は
怪しいものである。

あんたの博愛主義には本当に泣きそうになるよ。
 でも・・・あんまし気を使わないで・・・?
 いや・・・マジで・・・。

「僕は息子として普通に愛してくれればいいんです!」

「その奥ゆかしい所が、俺をそう言う気持ちにさせるのだ。」

クク・・となめまかしく笑うと、誘うように二人にずいと詰め寄る。
身の危険を感じた二人はお互い抱き合って
かばうようにして助けを呼んだ。

「副院長ーーー、早く来てーーー!」

誰もいない廊下にジョセフの叫びが木霊した。

つづく


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