ある良く晴れた青空の下、路地裏でジャブジャブと衣服を洗う音がする。
今の時代、洗濯機くらいはあるのだが、わざわざ手で洗うのは 夜間で音を出したくないときか、デリケートな下着類を 洗う時だけだろう。 「・・・・・・・(だめだ・・取れない)。」 ジョルノがブチャラティチームに入ってからまだ日は浅く しかも彼が一番年下だという理由で雑用は主に彼の仕事だ。 別にこき使われている訳ではないのだが、もともと こういう事には無頓着な性質の持ち主ばかりなので 自然とジョルノがやる羽目になっている。 ふと背後に気配を感じ、振り返るとミスタが後ろに立っていた。 {赤い渦} 「あ?丁度いいや、下着洗ってんの?俺のもいい?」 悪びれなく笑いながら、彼は下着をタライの中へ 放り込もうとするが、下着はジョルノが直に キャッチしてタライに入れようとする事を阻止する。 「え・・・?」 「・・・待ってください、綺麗にしたタライで洗いますから。」 そういうとジョルノは素早く排水溝に汚水を流しいれ、 手早く桶を洗うとミスタの下着を入れる。 再び黙々と洗うジョルノに、不思議そうに首をかしげる。 「えーー?ついでに一緒に洗ってくれりゃーいーのに。」 「・・・綺麗なタライで洗った方が気持ちがいいでしょう?」 言いながら丁寧に下着をあらうジョルノを 見てミスタは心底感心する。 「気にしなくてもいいのに、お前細かいねー。 ナランチャとはエライ違いだぜ、ナランチャなんか この前たわしでガシガシ洗ってくれてよ! そのお陰でシースルーなパンツになっちまって! まったく参ったぜ!」 ハハハと笑いながら何気に地面に目をやると 泡のついたパンツが転がっているのに気付く。 もう一つのタライに移してやろうと手を伸ばした瞬間 すごい勢いで手首をつかまれる。 「!?」 「い・・・いえ・・、それ・・まだ濯ぎしてないんで。 汚いから触らない方がいいと思います・・・。」 「そ・・そうか?」 「・・ミスタ?ここにいても面白くないですよ? それに油売ってると思われてしまいます。 もう戻った方がいいですよ?」 「わかったよ・・・じゃ、頼んだぜ?」 何か追い払われる感がしてならないが 余りにも真剣なさっきの表情を思い出し ミスタはそれ以上追及はせず、皆の元へと戻っていく。 (・・・さっきの汚水、ピンク色してたな。) ジョルノはわざとタライで隠すように水を捨てていたが ミスタはしっかりその色が見えてしまった。 ピンク色だが下着の色落ちではない、多分血の色だ。 そしてあのグレーの下着は多分ジョルノの物だろう。 何故ならジョルノは他人の下着を汚いもの呼ばわりはしない。 ケガをしたかあるいは返り血なのだろうが、あんなところまで 返り血がつくものだろうか。 色々な想像が頭をめぐるが、今はただ憶測でしかない。 所詮は赤の他人だが、今彼はメンバーの一員でもあるのだ。 メンバーの小さな異変からチームが何かに 巻き込まれることも決して少なくはない。 だが憶測だけで大事にして、チームに亀裂を走らせたくない。 ミスタは遠巻きに彼の様子を伺おうとできるだけ 共に行動する機会を作り見張ることにした。 そして夜になり、ブチャラティチームの縄張りの巡回が始まる。 不貞を働く輩、縄張りを犯すチンピラ、違法な商売を営む者など 見つけ次第制裁を加える様な事を毎日やっている。 彼らが見回る所は大体が物騒な所で、 危険な目に合うことなどしょっちゅうだ。 なのでよほどのことがない限り、見回りは 二人一組で回ることにし、一人で見回るときは なるべく大人のブチャラティかアバッキオ、比較的 大人っぽく見えるミスタが担当するようにしている。 そしてその夜、フーゴとナランチャがさっそく見回りに行き ボロボロになって帰ってくる。 「ヤローーー!!舐めやがって!!」 キレながらナランチャが壁を蹴りまくる。 フーゴは乱れた髪を整えながらブチャラティに 今夜の出来事を報告する。 「ナンパされたんですよ、あいつが女と間違われて。 それであいつカッとなっちまって・・。」 「なるほど、しかしそこまでボロボロになるとは 相手は余程手ごわかったのか?」 「いいえ、よくいる軽そうな男共でしたから。 ナランチャがナイフ取り出した時点で 尻尾巻いて逃げていきましたよ。 でも問題はそのあとです。どこの組の者か判らないけど そっちの方とのひと悶着が正直手こずりました・・・。」 「そいつらは何をしたんだ?」 「あんまり楽しくない話ですよ?ダイレクトに言うと 体を求めてきたんです、力づくでね。 それで空き地まで連れていかれて・・・この様です。 まあ、わが身はちゃんと守りましたけどね。 あっちもそれ相応のダメージを受けてもらいましたし。」 フーゴが説明している隣で さっきまで無表情のまま話を聞いていた ジョルノの瞳が大きく揺れる。 ミスタはそんなわずかな変化を感じ取りながら 気づいていないふりをして話に参加する。 「多いからなァ・・・、そっちでもイケるやつが・・。」 「とにかくお前らが無事でよかった、だが当面そこら辺は うろつかないようにしろ、代わりに俺たちが回る。 ジョルノ、お前も行くなよ?お前はよく知らないだろうが ここらには女だけでなく少年を食うやつらも多いからな。」 「・・・・はい・・・。」 ブチャラティに言われて素直に返事をするも その心はここにあらずといった感じで その後もジョルノは一切口を開こうとはしなかった。 夜皆が寝静まる頃、ジョルノはベットに寝転がりながらも 体には何もかけない。 暑いからではない、すぐ飛び起きれるようにかけないのでもない。 体にのしかかる感覚が嫌なのだ。 つい最近までは何ともなかったのに、いや二日前までは 普通にシーツにくるまり寝ていたのに。 それは一日前のことだ、夕方に差し掛かる頃。 各自自由な時間帯で、ジョルノは一人町をぶらぶらしていた。 少しでもこの町の状況を把握したい。 そんな思いから見回りもかねて町を散策していた。 そんな時だった、一台の車が彼の傍による。 「すいません・・道を尋ねたいのですが・・・。」 おとなしそうな老夫婦が地図を差し出して ジョルノに道を尋ねる。 だからこそジョルノも騙されたのかもしれない。 丁寧に教える彼の背後から忍び寄る何かに気付かなかった。 そして再び目が覚めたところは暗闇、 いや目が見えなかったのかもしれない。 ただ自分は何かの柔らかい布の上に うつ伏せに寝かされていた。 両手首は金具のようなもので固定され 囚われの身になっていることは容易に理解できた。 「あんたたちは誰だ・・そして何の真似だ?」 まわりに誰かいることを察しジョルノが見えない 相手に向かって口を開く。 ギシ・・・と音を立てベットがへこみ「誰か」が応える。 「俺たちはお前のリーダーの敵、何の真似かはご想像に任せる。」 「まあ、お前にとっちゃ愉快な事じゃないかもな。」 二人の男が淡々と言葉短くジョルノに教える。 ああ、罠にはまってしまったようだ。 警戒はしていたつもりだがまさか老夫婦を使っての 手の込んだ罠を仕掛けてくるとはうかつだった。 だがこちらも大人しく敵に従うほど馬鹿ではない。 スタンドの用意をするべく神経を集中させるが、 なぜかいつもの感覚が体を支配してくれない。 そんなジョルノの行動を見越してか一人の男が 冷たくジョルノに告げる。 「ああ、お前のスタンドは使えないから・・・。」 「・・・!?」 何故かと聞こうとするも、突然意識が乱れ始め 心がざわざわしはじめ、頭にもやがかかったようになる。 意識が集中できない、呼吸が乱れ体がなんか変だ。 「お前らが全員スタンド使いだって事は判っているんだよ。 何の対策もせずに拉致るとでも思ってたのか?」 「・・・何が狙いなんだ・・・。」 「そうねー・・ブチャラティが最近生意気だから ちょっと嫌がらせしようと思ってさー・・・。 手始めにあいつの部下を拉致って脅しかけておこうかと 思ってさ・・・・。そこで一番下っ端のお前に目を付けたんだ。」 「・・・よくもそんなくだらない・・。」 辛うじて正常な意識を保ちながらも 何とか隙を探ろうと無駄口をたたく。 今できるのは隙を作って突破口を探すしかない。 間違ってもブチャラティ達に迷惑をかけるような 失態だけはしたくない。 「下らなくてもそれしか手が思いつかねーんだわ。 二時間くらいで仲間がやってきてお前を連れていくから それまでお前におねんねしてもらおうと思って。」 「おいおい、お前優しいな、二時間こいつの寝ているのを ながめてるってゆうのか?俺は嫌だね、折角だから こいつで遊んで時間を過ごそうと思っているのに・・。」 「遊んで」という言葉にドキリと心臓が跳ねる。 子供のころにもよく言われた、「遊んでやる」と。 そのたびにいつも辛い思いをして泣いていたことを思い出す。 しかしあれから時は立ち「あの人」のお陰で苛めはなくなり 暴力や脅しに対しても屈しない精神をもつようになり 自分の夢のために、それこそ暴力渦巻くこの世界へ 自ら足を踏み入れたのだ。 だから暴力など怖くない、痛みなど怖くない。 蹴る殴るの暴行を受けるのはこの世界に入った瞬間から 覚悟はしていたことだ。 だが果たして今から行われることは暴力だけだろうか。 「・・・そうだな、そういわれるとやりたくなってきた。」 「だろ?俺先ね。」 「俺を先にさせろ、だいたいお前いつも中出しするだろ?」 「滑りをよくしてやってんじゃん。」 はははと下種な笑いを響かせどちらかの手が ジョルノの背中を撫でる。 途端に体中が総毛立ち、冷汗が滲み出る。 「経験」がなくても判る、これから何をされるかを。 この笑いがほんとの冗談であってほしいと願う。 これがすべて夢であってほしいと。 「ジョルノ・・おい、ジョルノ!」 「く・・・!」 不意に手首をつかまれる感覚に驚き思わず 誰かも判らないのに拳を相手めがけて打ち込む。 バシッと乾いた音がして何かにあたるがそれは 自分より少し大きなミスタの手だった。 「おーーーこわ・・・。」 「は・・・!す・・すいませんでした。 ついうとうとして・・・。」 そういうと素早く立ち上がりぺこりとお辞儀をする。 ミスタだから良かったかもしれない、これがアバッキオ だったら何を言われるか分かったものではない。 「・・・うなされてたみてーだな、起こして 正解だったぜ。」 「うなされ・・・そうでしたか・・それなのに僕は・・。」 「一度謝ったんだからもう気にすんなよ。 それより今から見回りの時間だぜ。 今日は俺と一緒だから心強いぜ?」 ニカっと笑って背中をたたくミスタにジョルノは 少しだけ体の力を緩める。 ミスタは元々兄貴肌(?)な所があるらしい。 ナランチャが素で場所を選ばず周りを笑わせるタイプだとしたら ミスタはその場を読んで笑わせたり和ませたりするタイプだ。 本来なら一人で行けと言われても行くべきなのだろうが 正直今は一人で行動はしたくない。 二人なら心強いとジョルノはミスタと共に夜の街を 巡回しに行った。 ミスタといるから心強いものの、自分のそばを通り過ぎる 車の存在に常に肝を冷やさずにはいられなくなる。 あの車は自分の傍で止まらないだろうか、 腕を出して自分を引き入れないだろうか? あの男たちがまた現れたりしないだろうか・・・。 別れ際にあの男たちが言ったセリフが脳裏をよぎる。 「楽しかったぜ?またやらせてくれや・・・。」 そう笑って耳を舐めるあのおぞましい感触は今も忘れない。 途端に全身に悪寒が走り思わず身を震わす。 ふと辺りを見回すとミスタがどこにもいないのに気づく。 一気に焦りが体を駆け抜け必死で辺りを見回す。 すると数十メートル離れたところでミスタが車の持ち主と なにやら話をしていた。 「ミスタ!!危ない!」 思わず大声を出して叫ぶジョルノに ミスタは驚いて目を丸くする。 そして運転席の男に何か一言告げるとジョルノの傍へ駆け寄った。 「どうしたんだよ・・・。運ちゃんと話していただけだぜ?」 「で・・・でも・・もしその人が悪い人だったら・・・ いえ・・・運転手がいい人でも中に悪い人が潜んでいる 可能性だって・・・・。」 「・・・まあ確かにそういう可能性はあるな、因みに さっきの運ちゃんは俺たちの仲間。 安心したか?全く・・そんな死にそうな顔すんなよ・・・。」 そういって心配性の弟でも慰めるように頭をバンバンと叩く。 少し痛いくらいに叩かれるが、優しさを含んだその気遣いが 何よりもジョルノの心を落ち着かさせた。 そして見回り時間も終りの時が来て、二人でアジトへ向かって 歩き出そうと振り向くと途端に大勢の人の流れに 飲み込まれ離れ離れになる。 「おいおい、なんかイベントでもあったのか? おーい、ジョルノー!」 完全に見失ったジョルノをミスタは懸命に人の波を 泳いで探した。 一方見事なまでの人の波に押し流がされ、寂し気な 路地裏にはみ出たジョルノは 同じように必死になってミスタを探す。 ふと後ろから声をかけられ何事かと思いそちらを振り向くと そこにはサングラスをかけ、スーツを着た若い男が立っていた。 「君・・・お小遣い欲しくない?」 あからさまなひっかけっぷりにジョルノはまゆを顰める。 ずいぶんと分かりやすい男だが誰彼構わず声をかけてるのだろうか。 「ノー」と言えば諦めて他を探すのだろうか。 「お小遣いなら足りています。」 「そうかい?これならどうかな?」 男はそう言って手のひらから光るものを取り出す。 幸い銃ではなかったが、十分に殺傷能力のありそうな 良く研ぎ澄まされたナイフだった。 男は片方の手でジョルノの手首を捕まえながら ちらちらとナイフをちらつかす。 「お手手を失いたくはないだろう?なーにちょっと 俺たちに付き合ってくれればいいんだ。 いやね・・・俺がお前に用があるんじゃなくて 俺たちのボスが金髪碧眼のガキをご所望でね・・・・。 やっとお目当てのガキ(お前)を見つけた訳なんだよ。 別にゆうことさえきいてりゃ痛いことはない、 一晩ボスのゆう通りにしてりゃあいいんだ。 運が良ければお前もたんまりお小遣いをもらえるぜ?」 男がにやりと笑うとそれを合図に 後ろの黒い車から二人の男が降りてくる。 途端にジョルノに「昨日の事」が鮮明に思い出される。 「お前、もしブチャラティ達に 見捨てられたらどうなるんだろうな。」 「皆の玩具になるだけなんじゃねーの?この前も 捕まえた小僧がそうなっていたじゃねーか。」 「ああ、あのガキは結構具合がよかったからな ヤられすぎて結局死んじまったけど。」 「・・・お前もなかなか具合がいいぜ? きっとみんなに気に入られるぜ? 生きている間だけはだがな・・・。 はァ・・・もうイきそうだ。」 「本当に具合がいいみたいだな、いつもより 「早い」じゃねーか。早く代われよ、おれの 「遊び時間」が無くなるだろうが。」 吐き気のする会話に体の中に放たれる 受け入れがたい「もの」。 今目の前にいる男たちはやつらではないし 視力を奪われていたあの時ではその容姿など判る筈もない。 だがきっと目の前にいる男もあの男たちと変わらない。 途端に体中に殺意にも似た怒りがこみあげてくる。 「おっとォ?お兄さんたち?そいつは俺の弟だぜ? 連れていかれちゃあ困る、その手を放してくれないかね?」 不意に聞こえるおちゃらけた声に一同が振り返る。 するとそこには笑いながらも銃を構えたミスタが立っていた。 男たちが動こうと身を乗り出すと、銃の中の弾数を 見せびらかし手早くそれをセットすると再び腕を伸ばし構える。 「玩具じゃねーよ?お前らは三人みてーだが 弾は六発だ、三発あれば十分だが 一人二発お見舞いしてやるよ、お望みとあればな。」 口は笑みを作っているが目が笑っていないミスタに 本気を感じたのか、ジョルノを捕まえていた男は 舌打ちをすると、乱暴に突き放し車に乗り込んで去っていく。 ミスタはジョルノに近寄るとさっきのようにまた 頭をボンボンと叩きやんわりと笑った。 「ああいうのもいるから・・・気を付けろや? いい勉強になったろ?」 「・・・ありがとうございます。」 「・・・車で帰ろうか?お前どうも具合が悪いみたいだ。」 「いっ・・いえ・・・歩きで大丈夫です。不甲斐ない所を見せて 迷惑かけて本当にすいませんでした。」 「・・・そっか、俺たち若いもんな。」 明らかに動揺しているジョルノにミスタは気づかない ふりをしてアジトへと戻る。 そして報告と、ある相談をしに ミスタは一人でブチャラティに会いに行った。 「ブチャラティ、特に変なのはいなかったぜ。まあ いつものように「変態」は何人かいたみたいだがな。 ちょっと脅したら逃げちまったぜ。」 「ご苦労、その男たちの動向には今後注意が必要だな。」 「それとなー・・・・ちょっとお前さんと 内密に話したいことがあんだけど?」 チラっと部屋の隅に立っているアバッキオを見ると やれやれといった感じで彼が部屋を出ていく。 ドアを開け彼がいなくなったのをミスタが確認すると ブチャラティの傍に近づいてある相談をし始める。 「ブチャラティ・・・あの事なんだけどよ・・。 お前さんの予感・・・当たっちゃってるかもな。」 「そうか・・・仕方ない。気は進まないが 本人自身に聞いてみるしかないな。」 それだけを話すと二人は立ち上がり、各々の やるべきことをするために自室へと戻っていく。 一方ジョルノは誰もいないシャワー室で 一人シャワーを浴びていた。 シャワーを浴びながら自己嫌悪に陥る。 最近の自分の不甲斐なさは何だ、夢はどうしたんだ こんなことで躓いているようでは先は進めない。 ふと手首に痛みを感じる、目を凝らすとそこから 血がじわじわと流れ出ているのに気づく。 ナイフが当たったのか、どこかぶつけたのかはわからない。 その血は彼の体を伝わり、足を伝わり 排水溝へと流れていく、赤い赤い渦を作りながら。 昨日と似たような赤い渦を。 「ほら見ろ、血が一杯出てきたじゃねーか。 無理やりぶっこむからだぜ?」 「俺は悪くねーよ、こいつが俺の言う通り 力を抜かないから悪いんだ。だが・・ おかげで滑りはよくなったぜ、オラオラっ。 ここがいいのか?あん?・・なんてな!」 「お前ごときの太さで血が出るなんて 余程狭いんだろうな!はははっ。」 「ああ?何抜かす、へっ、男はなあ デカきゃいいってもんじゃねーんだよ!」 「こいつ妊娠するんじゃねーの?」 「バーカ!「あの日」の女だってケツから 入れたからって妊娠するわけではねーだろが。」 あの後男たちの拷問にも似た仕打ちから 何とか逃れたものの「行為」を思い出させる 痕跡を消すのにどれだけ苦労したことか。 べっとりと血が付いたズボンを始末し、 シャワーで体やその「奥」まで念入りに洗う。 時折まわりに漂うむせび返すような「血」の匂いと 男の精の混じった匂いに吐き気を催しながら ただ狂ったように洗い流す。 排水溝に次々と流れる赤い渦を見つめながらひたすらに。 「う・・・。」 途端にこみあげる吐き気に何とか耐える。 シャワーは二つあるが壊れていていま一つしか使えない。 荒い呼吸を何とか落ち着かせると、ほてった体と頭を 冷たい水で一気に冷やす。 その時、不意に後ろのドアを開ける音が聞こえ 慌てて後ろを振り向くとアバッキオが静かに佇んでいた。 「す・・すいません。今でますから。」 素早く蛇口のコックをひねり水を止め、 濡れたままの髪と体もそのままにアバッキオの体の横を すり抜けようとするも腕をつかまれ引き寄せられる。 「・・・なんでしょうか?」 「髪が濡れてほどけると女みてーになるんだな。」 「・・・それをあなたが言うんですか?」 「馬鹿いえ、俺とお前の体格を一緒にすんじゃ ねーよ・・・。」 「・・・そうですね。失礼しました、それでは・・・。」 アバッキオが腕を放さないのにも構わず 強引に出口に出ようとするジョルノを 今度は強引にシャワールームの壁に打ち付ける。 「つ・・!」 「すかしてんじゃねーぞ・・?俺の質問がまだ済んでねーんだ。」 そのまますごい形相で髪をつかまれる。 そしてまたもやよみがえる、忌々しいあの出来事が。 確かもう一人の「手持無沙汰」な男が ジョルノの髪を掴んで鼻歌を歌いながらブラシを通していた。 これから楽しむ行為をさらに面白くするために。 「これでどうかな・・?」 「おお、またグッといい感じ、この長めの髪が めちゃくちゃに乱れた感が 金髪の女とやってる感じがして。」 「ここがもう少しグラマラスだったらなァ・・。」 「でもなでられて感じているみたいだぜ?男のくせに なかなか感度のいい体しているじゃねーか。」 「もっと激しく揺さぶってみるかな・・・。 長めの髪が思い切り跳ね上がるさまなんか すげーいいんだろうな。」 「いいねェ、なんかエロビデオの撮影現場 見学しているみたいで興奮してきた。」 「!!」 いきなりパン・・と頬を叩く高い音がこだまする。 だが叩かれたのはジョルノではなくアバッキオの方だった。 更にそれに驚いたのはアバッキオではなく 叩いた本人ジョルノの方だった。 「す・・すいません、つい・・・驚いて。」 「あやまって済む問題か?」 「おっしゃる通りですね・・・。あなたの好きな 仕返しをしてください。」 「そうかい・・じゃあ俺とちょっと見て欲しいものがあるんだ。 シャワーを済ますから着替えて待ってろや。」 そういうとジョルノをシャワー室から追い出し アバッキオは手早く体を洗い、ジョルノを連れて 自室へと向かっていく。 てっきり蹴る殴るの暴行を覚悟していたが なぜか椅子に座らされ、昨日の質問をされる。 「お前・・・昨日夕方ごろ、見回りに行って 変な連中に捕まったって言ってたよな。」 「・・・・はい。」 「そいつはブチャラティをよく思っていない奴らで お前を人質にして立場を悪くさせようとしていた。 間違っていないよな?」 「はい・・。」 「そこでだ、拷問を受けそうになったところに 連中の新な敵が現れ、お前はその隙に逃げ切ることが できたといってたな・・。 まあ・・・ここまではいい。」 「・・・・・都合がよすぎるといいたいんですか? 僕がブチャラティの情報を「売って」逃がして 貰ったとでも・・・?」 「俺はそう思っているんだが、ブチャラティは そう思っていないんだよ・・・。 まあ・・・「知り合いのスタンド」を使えば 全て判ることだ・・。最後にもう一度聞くが 昨日の証言に嘘偽りはないな?」 「ありません。」 「・・・わかった。じゃあそこで待ってろ 面白いもんをみせてやる。いいか今から質問は 一切なしだ、約束しろ。」 「はい・・。」 アバッキオはそういうとジョルノに目隠しをして ドアを開けるふりをして自分のスタンドを静かに呼び出す。 そしてドアを再び閉めると目隠しを外す。 ジョルノが静かに目を開けると、そこにはもう一人の 裸のアバッキオが立っていた。 「これは・・・。」 「おっと質問はなしだぜ・・・?まあ見てろよ。」 もう一人のアバッキオは、ずかずかと壁の方へ進みよると 何かを壁にどんと打ち付ける仕草をする。 そしてどこからか聞こえるもう一人の声。 そう、まぎれもなくジョルノの声だ。 ほどなくして「パン」という音が響きそれと同時に アバッキオの顔が傾き頬が赤くなる。 そう、これは確かにさっきアバッキオが取った行動だ。 アバッキオはこれだけを見せるとまたジョルノに目隠しをする。 そして今度は目隠しをしたままこれからすることを ジョルノに告げる。 「今見て判ったと思うが、このスタンドはその人間の 過去をそのまんま忠実に再現するスタンドだ。 十分前の俺は裸でてめーに殴られた。 てめーも覚えているだろ?そしててめーの謝罪の声も聞こえたよな。 ・・・これでこれの使い道はわかったと思うが 口を割らせたい人間がいたら、そいつの正体さえ 判っていればこいつで全部情報を理解することだ出来る。 そればかりじゃねえ、運が良ければさっきの会話のように 身近な奴との会話も全て再生される。 ま・・・運が悪きゃ対象人物のあられもない姿が 見られるときもあるがな・・・・。」 「・・・・・。」 「そこでな・・・さっき見てもらいたいといったのは 昨日の夕方からお前が逃げるまでの行動だ。 やましいことはないんだろ?一緒に見ようや・・・。」 アバッキオはそういうとジョルノの目隠しを取る。 あの時は目が見えなかった、きっと薬のせいで。 逃げるころには薬の効き目が切れ、逆に言えば 目が見えるから逃げることができたのかもしれない。 正直、あの時目が見えなくてよかったと思う。 狂った現実が見えなかったからこそ ここまで冷静でいられるのだろうと思うから。 また目が見えなくなればいいのに、 耳もついでに聞こえなくなればいいのに。 ジョルノの願いもむなしく、「本人の再現」が 目の前で繰り広げられる。 どうやら場面は「ジョルノ」がうつぶせで寝かされている 所から始まるようだ。 そして「悪魔」の会話が「ジョルノ」から聞こえてくる。 願わくば二度と聞きたくなんかなかったのに。 「下らなくてもそれしか手が思いつかねーんだわ。 二時間くらいで仲間がやってきてお前を連れていくから それまでお前におねんねしてもらおうと思って。」 「おいおい、お前優しいな、二時間こいつの寝ているのを ながめてるってゆうのか?俺は嫌だね、折角だから こいつで遊んで時間を過ごそうと思っているのに・・。」 聞き覚えのある悪魔どもの声。 突如襲うめまいと頭痛、このまま気を失えれば どんなに楽だろうか。 「・・・そうだな、そういわれるとやりたくなってきた。」 「だろ?俺先ね。」 「ジョルノ」の目が見開かれ、衣服が次々と脱がされる。 「ジョルノ」の体がびくりと動き、瞳をきつく閉じていく。 ズキンと心臓に激痛にも似た痛みが走る。 もうこれ以上は無理だ、耐えられそうにない。 ジョルノは思わず「自分」にかぶさり大声を上げる。 「もう・・やめてください!!・・・僕の負けです。 ・・・・全部本当の事を話しますから!」 「邪魔だ・・そこをどきな。 お前は俺とみるって言ったじゃねーか、最後まで 一緒に見てもらうぜ?」 懇願するジョルノを冷たくあしらうと その体を引きはがそうとするアバッキオの腕を 誰かがつかんで阻止する。 「良かったな、白馬の王子様のご登場だぜ?」 「それを消せ、今すぐだ、判ったな?」 「もっと苛めてやろうと思ったんだがな・・。 判ったよ、そんな顔で睨むんじゃねーよ。」 ブチャラティの気迫に負けたアバッキオがスタンドを消す。 しかしスタンドが消えた今でもジョルノは「自分」を 覆いかぶさった姿のままピクリとも動かないでいた。 「・・・二人で内密に話がしたいんだろ? 部屋貸してやるよ、早く済ませろよな。 俺はねむてーんだ・・・。」 言いながら大きく伸びをしながらアバッキオが 部屋から出ていく。 ブチャラティはそのまま片膝をつくと優しく ジョルノの肩をたたいた。 「本当の事を話してくれるな・・・?」 「はい・・・。」 ジョルノは今だ固まったままの姿勢で 小さくうなずいた。 薄暗い部屋の中、二人はテーブルを挟み 言葉少なに会話する。 観念したジョルノもブチャラティに全てを打ち明ける。 「・・・まずこれだけは信じてください。 最初に言ったブチャラティを陥れようとする 輩に捕まったことと、最後に言った その輩の敵が現れ、そのどさくさに紛れて 逃げることができた・・・これは本当です。」 「判った・・・。 で、偽っていたのは・・・?」 「・・・もう察しがついていると思いますが 残念ながら何もされていないわけではありません。 連中から辱めを受けました・・・。」 「・・・・・。」 「謝っても許されないかもしれません・・・。 でも・・・。」 でも・・・といいかけて口をつぐむ。 これ以上はきっと見苦しい言い訳しか出てこない。 きっとそれを言えば失望されてしまうだろう。 後は彼の判断に任せるしかないと ジョルノはそのまま押し黙る。 暫くの無言のうちブチャラティがジョルノに尋ねる。 「お前は何に対して申し訳なく思っているんだ?」 「それは勿論嘘をついたことと、貴方のメンバーの 一員でありながら、みっともない辱めを受けたことで 貴方とチームメンバーの顔に泥を塗ってしまったこと、 そして貴方にたてつこうとしている連中の情報に ついて何も判らなかったことと、一矢も報いず おめおめ逃げ帰ってきたこと・・・。 取りあえずその四点です・・・。」 「本当にそれだけか?」 「今の僕にはそれしか思い当たりません・・・。」 「・・・・・そうか・・わかった。」 「僕は・・・除名ですか・・・? 挽回のチャンスは与えられませんか・・?」 「これから聞く質問に答えられればな。」 「・・・僕はそれに・・答えるしかないんですね。」 「まあな・・。今からお前を辱めた方法とやらを 教えてもらう、事細かくだ・・・・。」 「!?」 突然の質問に心臓を鷲掴みにされ耳を疑う。 彼は何故そんなことを聞くのだろう。 そんなことを聞いてどうするというのだろう。 ジョルノの体からどんどん熱が奪われていく。 「教えてくれ、お前はベットに貼り付けられ、 服を脱がされ最初はどうされたんだ?」 「ブチャラティ!だ・・・だから辱められたと・・。」 「詳しく言うんだ、出来なければ除名だ。」 「それは・・・!」 「・・・・・・。」 判らないはずがない、言えないはずがない。 忘れたくてもどうしても忘れられないのだから。 でも言わなければ除名されてしまう。 だからと言って言えることだろうか。 信頼してるからこそ言いたくないことだってある。 カチカチと奥歯が震える、口がまるで縫われたかのように 数ミリも開くことができない。 「や・・・・・・。」 「・・・?」 「・・・やめて・・やめてください・・・ お・・・思い出したくないんです・・・ 思い出したく・・・・・・。」 途端に顔を両手で隠しガタガタと震え始める。 顔を隠しているのでわからないがその顔色は きっと血の気を失い、青ざめているのだろう。 「他の罰なら、何でも受けます・・・・。 だからそれだけは・・・。」 「なぜ・・・そんなにいいたくないんだ・・? 思い出したくないだけか・・?」 「・・・・。」 ブチャラティの問いかけにもはや何も 答えることができなくなったのか ジョルノは体を縮ませながら、ただただ震えていた。 いつも気丈な少年がはじめて見せる弱い姿。 どんなに脅されても、殴られても、死ぬような目に合っても そんな姿など一度も見せなかったのに。 それほど今度の事件は 彼の心に深い恐怖を刻んでいったのだろう。 もうこれ以上「鬼」にはなれないようだ。 ブチャラティは椅子から立ち上がり彼の肩を優しく抱いた。 「・・・ジョルノ・・・俺は一番お前に 謝ってほしいことがあるのに お前はそれに気付いていない・・・。 多分このままではずっと気づかないだろう。 だから教えてやる。 ・・・どうしてそこまでの苦しみを 俺に相談してくれなかった?」 「・・・その程度で弱音を吐くような奴、俺たちの チームにはいらない・・・だから言わない・・・ そう思ったからなんだろう・・・?」 「自分の尻ぐらい自分で拭うのが当たり前だ、 泣きごとを言ったところでどうなるのだろう、 頼りないやつと笑われ、嫌われ、離れていく お前はそれが怖いんじゃないのか・・・?」 「ジョルノ・・・俺たちを見損なうなよ? 俺たちはそんなに血も涙もないような 人間に見えるか? いいか・・・俺たちはもう兄弟なんだ。 お前はもし他の兄弟がそんな目にあわされたら どう思う?情けないやつと突き放すか? 悩み事について何も相談してくれなかったら 自分はそんなに信用無いのかと悲しくならないか?」 少し責めながらも、ジョルノの体を優しくさする。 叱りすぎた親が子供を慰めながら犯した罪を諭すように。 「・・・ごめんなさい・・・僕は 貴方たちの事を・・判っていなかったみたいです。 貴方たちの気持ちを傷つけてしまってごめんなさい。」 「・・・またそんな大人びた言い方をして・・・。 いいか?今から愚痴をいえ、情けなくてもいい、 子供っぽくてもいい・・・今回の事件に関係なくてもいい。 今の正直な気持ちを俺に全部教えてくれ・・・ 教えてくれたら除名は免除する。」 そういってジョルノの額を自分の胸に押し当てる。 ジョルノはそのままブチャラティの胸に額を当てたまま ぽつぽつと話し始めた。 「・・・・ぼくは過去に苛められて幼少期を育ちました。 母親にも・・・父親にも愛されず・・・いつも一人ぼっちで・・ いじけた性格のせいで友達もいなく、まわりにいるのは 僕を苛める子供とそれを遠巻きに見る人間たちだけ。 「助けて」と「許して」何度叫んだことか覚えていない位です。 いくら泣いても笑われるだけ、いくら助けを呼んでも 無視されるだけ。 やがて僕は無駄な足掻きをすることをやめました。 余計に滑稽なだけですから・・・何が起こっても それは運命なんだと諦めてすらいました。 でもある人のお陰で困難に立ち向かう勇気をもらい、 人間らしく目標をもち、それに向かって生きる意欲を貰いました。 でも・・・三つ子の魂百までもとはよく言ったものです・・。 良くも悪くも自ら「情け」を求めない人間になってしまったんです。 人に情けをかけても、人に情けは求めない・・・ 人に頼らず生きていくなんて勇ましいことを言っていますが 結局は、勝手に期待して裏切られたくないだけなんですね。 ・・・僕は臆病な人間なんです・・・。」 「もういい、よく判った、いや・・よく言ってくれたな。」 「除名は免除ですか・・?」 「ああ、最初からそのつもりだ。」 「よかった・・・。」 ジョルノの体から力が抜け、彼のため息が ブチャラティの胸にかかる。 安心したようだ、だが彼の体からまだ毒は消えていない。 「悪かったな・・・。」 「え・・・?」 「さっきはお前の心をえぐるようなことを言ってすまなかった。」 「ブ・・・・。」 「苦しかっただろ・・悔しかっただろ。 なんて・・・口でゆうのは簡単だよな・・・。 だがな俺の方こそお前を助けてやれなかったことが くやしくてならないんだ・・・。 すまない・・・俺のせいで・・・すまない・・。 俺がもっと気の回る男だったらな、不甲斐ないリーダーだ。」 彼の肩を両手で抱き、その金髪に額を当て、自分の罪を謝罪する。 なぜこの男は謝るのだろう、不甲斐ない自分のせいで こんなに謝るのだろう。 そして誇り高いこの男を謝らせているのは誰のせいだ。 それは自分のせいだ、自分への怒りを覚える、悔しさを感じる。 だがそれと同時に彼の暖かさがとても苦しい。 辛い思いをした後だからこそ余計に響く優しい痛み。 「・・・やめて下さい・・・それ以上は・・。」 「優しくしないで下さい・・・辛いです・・・。 冷たくされるよりもずっと・・・。」 「どうして・・・もっと冷たくあしらってくれても よかったのに・・・・。」 だんだん語尾が小さくなり、言葉が詰まっていく。 「辛いときは泣け、俺も昔はそうした、いや・・ お前に言わないだけで今もそうしているかもしれないぞ。 そしてこれからも泣くかもしれない・・・。 だからお前も泣きたいときは泣け。」 「命令ですか・・・?」 「そうだ。」 「・・・・・従います・・・。」 そして二十分後、泣き疲れて眠ったジョルノを 彼の部屋まで運ぶと、アバッキオとミスタをよんで 今後の対策をする。 「声の主を探すぞ、これはジョルノだけの問題ではない。 俺の責任でもありいずれはお前たちにも何らかの形で 災難が降りかかってくるかもしれないからな、 それと、フーゴとナランチャはこの事件には 直接的には関わらすな、あいつらだって十分危ないからな。」 「俺の方はオーケーだぜ、俺の為にも、あんたの為にも ジョルノの為にもな。」 「あのガキの事はともかく、舐められっぱなしは ムカつくからな・・んで・・・再生するか・・・?」 「ああ・・・ミスタ・・お前は外に出てもいいぞ?」 ブチャラティがミスタに目配りをする。 彼はまだ未成年なので、配慮したのだろうが そういわれて素直に従うほど彼も子供ではない。 「ガキ扱いすんなよな。怒りゲージは貯めた方が 任務完了時にスカッと爽快感が増すんだよ。」 そしてアバッキオのスタンドでジョルノにとっての 「悪夢」が再現される。 だが、何を思ったか途中でブチャラティがアバッキオを止める。 「もういい、奴らの声は取れた、これ以上は止めろ。」 「なんだよ、これからが濃厚になる所なのに・・・ はいはい、分かったよ・・・冗談だ。 怖いねェ・・・睨むなよ。」 「俺もうそっち向いていい・・・?全く・・・ なんで俺だけ見ちゃダメなんだよ。」 ぶつくさ言いながら今まで壁と対面させられていた ミスタが不満顔で振り返る。 こんなことならドアの外で盗み聞きしても同じだったかもしれない。 「お前がまだ青少年だからだろ、あと二年待ちな坊や。」 「たく・・・馬鹿にしやがって・・。」 「本当に続きはいいんだな?なんか重要な事 ぺらっとしゃべるかもしれないぜ?」 「ああ。」 ブチャラティの返事にアバッキオが停止をする。 ブチャラティの配慮でジョルノの体にはシーツが かけられていたが、乱れた長い髪の隙間からのぞく その悲痛な表情から、彼の苦しみと悲しみが ひしひしと伝わってくるようだった。 可哀想に、心の中では誰かに助けて欲しかったのだろう。 「それは立ち直ったら当人に聞く、これ以上の 見聞きは俺が耐えられない、腸が煮えくり返りそうだ。 いいか・・・これを見たことはジョルノには口が裂けても 言うなよ・・・?アバッキオ判ったな、冗談でも 許さないからな・・・。」 「へいへい・・・。めんどくさいのはご免だしな。」 「俺はアバッキオみたいに念押ししなくても平気だぜ。 俺はこいつと違って、物わかりのいい優しい男だからね。」 「物わかりがいいと、騙されやすいは違うぜ?」 「年よりは猜疑心が強くってヤダねー。」 「てめーー・・・。」 「きゃーーーおまわりさーん!暴漢よ!!」 ミスタが大げさに騒ぎ立てると、下らない挑発に乗って アバッキオがそれを追いかける。 多分殺伐としたこの雰囲気を和ませてくれたのだろう。 半ば呆れつつも、仲間の不器用な思いやりに感謝をする。 そしてひとり立ち上がると、夜の街へと仕事に向かっていった。 あれから三日位経っただろうか。 外は土砂降りの雨だった。 それでも彼らは見回りを怠らない。 まれに見かける転がる死体。 顔見知りの者もいれば、全く知らないものまでいる。 この町はまだまだ治安が良くない。 組織同士の抗争が原因で多くの命が失われる。 ブチャラティ達も組織にいる限りその命は安全ではない。 今日も路地裏に転がる死体に警察と関係者が集まっている。 「正当防衛だったんだな?」 「ああ、そこのお嬢さん達が襲われそうになってたんで 助けたら・・・そいつらが襲い掛かってきたんでな・・・。」 少し離れた所で婦警に見守られながら女性たちが パトカーに乗っていく。 「事情は彼女たちから聞きました、危ない所を 助けてもらったのも、彼らがナイフで襲ってきたのも 本当のようです。」 婦警が刑事に耳打ちすると、ようやくブチャラティと アバッキオは警察の長い尋問から解放される。 「よかったじゃねーか・・仇討ちができて・・。」 転がる二体の死体を冷めた目で見つめるブチャラティの 肩に手を置いてアバッキオは彼の顔を覗き込む。 「彼女たちには感謝だな・・・危険な思いをしたことに 関しては可哀想だと思うがな・・・。」 あれから声を入れたテープを頼りに色々と聞きまわった 結果、遊び人風の何人かの女が彼らの事を知っており 内緒だと約束し、一緒に取った写真も見せてくれた 女にもよく手を出す男たちだという事が分かったので 手を出されそうな女性を何日も見張っていたのだ。 そして都合よく引っかかった二人にようやく一矢 報いを与えてやることができたという事だ。 「アイツに教えて安心させてやるのか?」 「奴らは死んだことは教えるが、安心させるつもりはない。 残念だが他にもああいうやつらが沢山いるからな。」 男たちは自らのナイフで急所を突かれて死んでおり 辺りは血だまりと化し、その血は渦を作って 排水溝へ流れていく。 大量の赤い渦となって。 終 |