「ジョルノ、レストランへ行こうか?」

「ジョルノ、映画をみんなで見に行こうか?」

「ジョルノ、動物は好きかい?みんなで
 動物園にいこうとおもうんだけど・・・。」

病院を始める前にそれぞれに一か月の休暇を与えた。
これから鬼のように忙しくなるのだ、その位は
与えてやらんとな。

そして俺とジョナサンとジョルノは無論家族として
共に暮らしている。
俺たちが親子として暮らし始めてもう一週間たった。
しかし何というか・・・目に余るのだ、ジョナサンの
ジョルノに対する構いっぷりが・・。
ジョルノも顔には出さないものの大分参っているだろう。
お互い気を遣うものだから、よけいなのだろうな。


{似たもの親子2}


「ジョルノ、遊園地に・・・。」

「あ・・あの・・・僕今日は・・・。」

「そ・・・そうか・・ごめんね。君だって
 都合があるものね。」

ジョルノが困って断ると、ジョナサンが申し訳なさそうに謝る。
それに対してジョルノも気を遣う、それの繰り返しだ。
これが俺だったら、ジョルノも気を遣わずはっきり断るだろう。
それが証拠に・・・。

「ジョルノ、今夜どうだ?」

お断りします。

みろ、この通りだ。
息子というものはどうせ母親の味方だ。
俺も母親の方が大事だったからな、気持ちは判る。
まあ親父がアレでは誰でもそうなのだろうがな。
それに今息子は思春期真っ盛りだ。
最も小憎らしく、やりずらい時期なのだ。

「ねェ、DIO明日皆でショッピングに
 行こうと思うんだけど。」

町の情報雑誌を見ながらジョナサンは
クッキーなど頬張りながら俺にここはどうかと聞いてくる。
めでたく俺と家族を築き上げたというのに
俺とイチャることにはまったく触れず、新しくできた
息子の事ばかり。
子供ができると妻は急に夫に冷たくなるというが
まさにこれの事なのだろうな。

「あの子、何がすきかな・・・?」

「おい、ジョナサン。」

「ん?何か言ったかい?」

全く悪気の無い無邪気な顔で俺に尋ねる。
それはそうだ、こいつは悪気なんて全くない。
どんなに棘のある奴もこの笑顔には逆らえない。
だが、いくら無償の愛でも笑顔の押し売りが
続けば耐えられなくなる。

「お前少しジョルノにかまいすぎじゃないのか?」

「え・・・?」

「アイツ・・・少し参ってきてるぞ?
 お前がしつこいから・・・。」

「そ・・・そうなの・・?」

俺の言葉が余程こたえたのか、ジョナサンは
そのまま俯いて押し黙ってしまった。
そしてぼそりぼそりと話し始める。

「・・・僕は・・ダメな親だね・・。
 あの子を今までの分愛してあげたいと思っているから
 いろいろ考えてたんだけど、ただの自己満足だったんだ。
 それが逆にあの子を苦しめていたなんて・・・。」

まずい、勝手に自己完結してしまったようだ。
ジョナサンはぶるぶると震えておもむろに
立ち上がると自室へと駆け込んで鍵をかけてしまった。

「ジョナサン!開けろ!」

「ごめん!一人にしておいてくれ!
 じっくり反省したいんだ!そして考えたいんだ!
 今後の事を!!」

いや・・普通夫婦で考えるものだろ?
それにこの部屋はジョナサンの部屋でもあるが
俺の部屋でもあるのだ。
俺はこれからお前とイチャイチャする予定だったのに
お前に触れられないのではエッチのしようがないではないか!
俺が力づくで開けようとしても強力な波紋を流されていて
扉に触れることもままならない。

何て仕打ちだ、俺が何をしたというのだ。
俺はしぶしぶ居間に戻ると、後片付けをして
ジョルノの部屋へ向かった。
一応ノックだけしてドアノブを回す。
だがなぜか鍵がかかっているのかあかない。

「ジョルノ開けろ。」

「嫌です。」

・・・・・・・。
思春期というのはどこまでやりずらいのだ。
しかし理由もないのに断るのは腑に落ちん。
俺はドアの向こうにいるジョルノに問いかける。

「何故嫌なのか理由を言ってみろ。」

「このまえ自分がしたことを覚えていないんですか?」

そう言われて首をひねる。
この前?何かしただろうか。
確か親子のスキンシップを図ろうと、アイツを
ベットに押し付けて・・・・・。
でもあの後なぜかG・Eで殴られたし・・・。
うむ、アイツが怒る理由が思い当たらん。
仕方ない思春期の子供というのは難癖つけて
親に反抗したがるものだ。

「知らんな。」

「判るまで開けません。」

全く・・この言い方、ジョナサンそっくりだ。
ジョナサン・・・そうだ俺はジョナサンの事で
こいつと話がしたいんだ。
俺がそのことを伝えると、ジョルノは慎重に
扉を開け俺を迎え入れた。

「母さんの事で・・・ですか?」

「今、ジョナサンはいない。だからお前に聞きたい。
 お前ジョナサンの事をどう思っている?
 正直にいえ。」

「優しい人です・・。でも優しすぎるかもしれません。
 正直その優しさが辛いです。あの人はとても
 気を使ってくれてます、嬉しい反面それがとても
 辛いのです。父さんのようにもう少し自分の
 思うがままに生きてくれてもいいのに・・・。」

やはりな、だいたい予想はしていた。
ジョナサンもジョルノも似ているのだ。
自分の気持ちよりもまず相手の気持ちを優先したい。
気を遣う事は好んでするが、気を使われることは
苦手なのだ、相手の重荷になるのが嫌なのだ。

「ジョナサンもお前の事で悩んでいた。」

「え・・・?」

「お前が嫌いとかだからではない、お前に
 構いすぎている自分が本当に正しいか
 どうか悩んでいるのだ。
 自分の愛がお前に負担になっていないかと。」

「・・・・・。」

ジョルノは何も言えず押し黙る。
そしてしばらく黙ったのち、一言だけ言った。

「一人にしてください。」

・・・・・・・・。
無言の圧力で俺は押し出される。
今日はお前の部屋に泊まらせてもらおうと思ってたのに。
ついでに親子のスキンシップも図ろうと思っていたのに。
くそ・・・今日は何もかもからぶりだ。
仕方ない今夜は長いすで寝るしかない。
夫と言う生き物はどこまで辛い思いをするのだろうか。

そして翌朝。
俺たちは食事を終えると各々好きなことを始める。
ジョナサンとジョルノは何やら話しているようだ。
だが様子からすると昨日の話とは関係のない
事のようだ。

「そっか・・判ったよ、君を信じる。」

「ありがとうございます。」

そう短く言うとジョルノは鞄を持ってどこかに出かける。
ジョナサンに聞くと、マフィアのボスとしての
会合があるらしいとのことだが・・・。
おかしいな・・・あいつは確か・・・。
俺は遠くから息子を見送るジョナサンに詳しく聞いてみる。

「どういうことだ?アイツは病院で看護師として
 働くんだぞ?そういう約束で恋人・・・
 いや友達を助けてやったのだ。」

「それは判っているけど、ほっとけないんだって。
 看護師としてちゃんと働くけどマフィアのボスとしての
 役職も続けたいって・・・・。」
 
ジョナサンは必死に俺を説得するが俺は耳を貸さない。
俺はジョナサンと昼食をとったあと、出かけると一言告げると
ある場所へと赴いていった。

そして夜、予想通り俺はジョルノに呼び出される。

「父さん!あなたは何の権利があってそんな・・!」

「何の権利だと?お前の親という権利だ。」

俺は初めて息子と面と向かって喧嘩をしている。
喧嘩の理由はただ一つ、俺がジョルノが
仕切っているマフィアに直接行って
ボスの座を辞退させたからだ。

ジョルノは仲間からそのことを伝えられ
まさに寝耳に水だったのだろう。
信じられないといった感じで俺を責め立てる。

「僕がボスの座につくのにどれほどの苦労と犠牲を
 払ったか判っているんですか!?」

「悪の組織に入るのには苦労と犠牲はつきものだろうな。」

「あんたは何もわかっていない・・・。
 マフィア=悪。僕はその現実を変えたいから
 ボスになったんだ・・・。
 弱いものを救いたいから・・・。」

今まで敬語しか使わなかった、ジョルノの
言葉使いが急に荒くなる。
しかし構わない、俺は建前の言葉など聞きたくない。
どんなに口汚くても本音の言葉を聞きたいんだ。

「母さんはこのことを話したら信じてくれた!
 あんたはしんじてくれないのか!
 母さんはボスを続けることを許可してくれた!
 あんたは許可してくれないのか!」

俺にマフィアの事を教えてくれたのはジョナサンだ。
確かにジョナサンは許可したと言っていた。
だが、それを話すアイツの顔は曇っていた。
考え直してほしいと声が聞こえてくるようだった。
残念だがジョルノにはジョナサンの心の声が
届かなかったようだが。

「信じるだと・・・?お前、ジョナサンが
 どんな思いでお前に許可したと思っているんだ?
 本当はさせたくないが、お前の悲しむ顔を
 見たくないから許可したんだ・・・。
 お前の生き方を尊重したいから無理に許可したんだ。」

「母さんも・・・信じてくれなかったのか?」

信じてくれないという言葉に急に怒りを覚え
拳に力を入れる。
俺は今何に対して怒りを覚えたんだろうか。
しかし、ここは感情的になってはいけない。
怒りに身を任せてやった行いは全て失敗に終わっているしな。
そもそも力で従わせるのはジョナサンが一番嫌う行動だ。

「・・・お前はやはりそこが子供だな・・・。
 いいか・・・?ジョナサンはお前を信じてる。
 だがな、親は子供に危ない仕事をしてほしくないんだ。
 町を守る?それは立派だ、弱きものを救う?
 それについても文句はない。」

「ならどうして・・・。」

「だがなお前が仕切ろうとしている組織はマフィアだ。
 お前がどんなに正義のマフィアを作ろうとしても
 いずれ犠牲は出るんだ、それは敵でも仲間でもあり、
 何の関係もない一般市民でもあるんだ。」

「・・・・。」

ジョルノは黙り込む、言い返せないのだろう。
真実だから、判っていることだから黙っているのだ。
こいつは馬鹿ではない、弱いわけでもない。
一人前に立派な覚悟を持っている、それは認めよう。
だがどうしても一つだけないものがある。
俺はそれを判らすために説教を続ける。

「お前が争いを望んでなくても、争いを望む者は
 外部に大勢いる。その時お前はどうするんだ?
 仲間と共に争うだろう?話し合いで解決するなんて
 甘い考えなど通用しないのは判っているだろう?」

「・・・・。」

「俺はジョナサンに以前聞いたことがある。
 兵士として募集があったらどうするかと。
 あいつは国と平和の為なら戦うと答えた。
 だが俺は無理だと笑ってやった。
 争いと試合は違う、ルールなぞない。
 降参したからと見逃してくれるわけでもない。
 相手が死ぬまで戦うんだ、それがお前の身に
 いずれか降りかかってくる争いだ。
 いいか?争いにおいて一番必要なのは勇気か?
 力か?知恵か?いいや一番大事なのは非情さだ。
 あいつにはそれがない・・・・。そしてお前もな。」

「僕はもうすでに何人か殺めています・・・。
 聖人じゃありません!非情になれたからできたんです!」

いままで俺に言われるままだったジョルノが再び食い下がる。
だがそれ以上は聞きたくない、お前の言いたいことなぞ判る。
それにお前は「非情」という意味をはき違えている。

「それは、罪深き者どもにであって罪なきものにではない。」
 お前が今外に行って罪なき人を殺めてこれたら
 マフィアのボスとして認めよう、どうだ?出来るか?
 ・・・因みに俺ならできる。例えばお前とジョナサンの
 為にどうしても必要とあればな・・・。」

「そんな・・・極論すぎます!」

ジョルノがむきになって俺に抗議をする。
だがジョルノを非情というならジョナサンだってそうだ。
敵である者の多くの命を殺めている。
だがそれでもアイツの心は聖人のように美しく清らかだ。
それは無益な殺生を決してしない所にある。
たとえ自分が死ぬような目に合ってもだ。
それに非情という言葉は己の為に
無益な殺生が平気で出来る者に使う言葉だ。
例えば以前の俺のようにな。

「争いとはそういうものだ。
 向かって来るものすべてが悪ではない。
 家族のために仕方なく参加するものだっている。
 無垢な人間を爆弾として利用する時だってある。
 お前はどうやってそれを見極めるんだ?
 いちいち聞くのか?戦っている理由を・・。
 殺される、このまま仲間が死ぬかもしれない・・
 でも、相手は無垢な子供だ・・・殺せない。
 そうなったらお前は何を犠牲にする・・・?
 答えは判っている、お前は自分を犠牲にするだろうな。
 だがもし・・・お前の愛する者がわが身を犠牲にしたら
 お前はどう思う?相手を憎むだろ?関わったもの
 全てを憎むだろ?・・・少なくとも俺は許さない。
 かかわったものすべてを皆殺しにするだろう。」

「父さん・・・貴方は・・・。」

「俺はな・・・お前とジョナサンの
 その気高く優しく美しい魂が好きだ。
 そしてそんな二人を家族に持つことを誇りに思っている。
 俺の勝手なわがままだと思ってくれても構わない。
 俺を嫌うのなら好きにするがいい。
 だが俺はお前達の魂を争いなどで汚したくないんだ。
 争いのために命を失って欲しくないんだ。
 だから・・・そんな仕事からはもう足は洗え。
 ・・・俺の言いたいことはこれだけだ・・・。
 邪魔したな・・・。
 残念だが今日は部屋から出さんぞ。
 よく考えるんだ、お前を大事に思っている人間の事を。」

うつむいたままで無言のジョルノをそのままに
俺は部屋をでる。
全く・・・くだらないことを言わせおって・・・。
だが自分も変わったものだ、愛を知らない頃の俺なら
こんな青臭いことなど絶対言わないのにな。
ふと頭にコツンと何かが当たる。
見上げるとジョナサンがよく冷えたシャンパンを
俺の頭の上に掲げていた。

「飲もうか、嫌ならいいけど・・・。」

「・・・貰おう、そのために出したんだろう?」

俺たちはそのままリビングに向かうと二人でグラスを
傾け乾杯をした。

「DIOありがとう、そしておめでとう。」

ありがとうは判る、しかしおめでとうとは何だろう。
取りあえず判っているがありがとうの意味を聞いてみる。

「僕の気持ちを代弁してくれてありがとうってこと。
 それと君は僕に判らせてくれたことがあるんだよ?」

「なんだ?お前への俺の計り知れない愛の重さか?」

折角真面目に言ったのにジョナサンは苦笑いする。
失礼な奴め、俺の真意がわからない所はジョルノそっくりだ。

「・・・・・全く・・・判らないのかい?
 それとも冗談で言っているのかい?
 君は気づかせてくれたじゃないか、甘やかす事だけが
 愛ではないって、否定することのすべてが悪い訳
 じゃないって。」

「・・・やはりお前も反対か・・。」

ジョナサンは一見大雑把に見えるが、
気の使い方だけはとても繊細だ。
相手によって自分の本音を器用に隠すことができる。
だが、俺にはわかる。
何せ俺たちは本音をぶつけあいながら生きていたんだからな。
ジョナサンはグラスに注がれた酒を見つめながら
寂しそうにぽつぽつと話し始める。

「僕はね・・戦いなんて嫌いなんだ、争いなんて
 できればしたくないんだ。だからニュースで子供が
 戦争に参加している国があるって聞いてすごく胸が痛む。
 子供は親や友達に囲まれて笑って過ごしていればいいのに
 どうしてそんなことをしなければならないのかって。
 その責任は誰にあるんだろう、国にも問題はあるけど
 親にもある。僕はいつも思うよ、君が父親に愛されていたら
 どうなっていたんだろうって。」

「俺は変わらん・・・。」

「嘘ばっかり・・・君は変わったよ。
 現に君は変わったじゃないか、その点では
 僕は君を愛せた事に後悔はしていないよ。」

酒を飲み干そうと口元まで
持っていったグラスを思わず止める。
今・・・何か素晴らしいキーワードが聞けたような
気がしたが・・・。
俺はのみかけの酒を置きジョナサンに詰め寄る。

「そこら辺をもっと詳しくいってみろ。」

「嫌だよ、恥ずかしい、もう判っているんだろう?
 あ、そうそう君におめでとうって言ったけど
 どうして言われたか判った?判らないから僕に
 聞こうと思ってたんだろ?どうだい?」

「憎たらしい言い方しおって、だがその通りだ。
 どういう意味だ?教えろ。」 

「君は立派におとうさんになった。
 だからおめでとうって君に言ったんだ。」

にこりと笑って俺の頭を撫でる。
俺を子供扱いとはいい度胸だな。
だが酒が入っての行動だと今日は許してやる。
しかし父になったとはどういう意味だ?
もともとジョルノの父でありお前の夫だぞ?

「判らないって顔してるね?何故なら
 君のあの子に対する真剣な思いが聞けたからだよ。
 家族を大事に思う君の気持ちが聞けたからだよ。
 君は立派にお父さんだった、僕は君を誇りに思うよ。」

少し照れくさそうに笑いながらジョナサンは言う。
どこで盗み聞ぎしていたか判らないが
ばっちり俺とジョルノのやり取りを聞いていたようだな。
だが・・・それだけか?
まだ言い足りない所があるんじゃないか?

「ならお前に対する俺の真剣な気持ちも聞けただろう?」

「ごめん、そこは判らなかった。」

「ほう・・・やはり体で判ってもらうしかないか・・。」

明らかに照れ隠しをするジョナサンを
そのまま長椅子に押し倒す。
祝いの言葉より、やはり褒美の方がいい。
俺は少しだけ抵抗するジョナサンを担ぎあげ
自分たちの「愛」の巣へと向かっていった。
全く・・酔った時にしか素直に俺を受け入れんのだから。
だが・・・そこもいい。

そして深夜、ジョナサンがむくりと起き上がり
いそいそとリビングへ向かっていく。
多分ジョルノに差し入れでもするんだろうな。
だが別に構わない、出るなとは言ったが
誰ともしゃべるなとは言っていないのだからな。
それに俺はジョナサンの行動に異論などない。
アイツの事を信頼しているからな。

「(いたたた・・・もう少し手加減してくれないかな。
 あれでも手加減しているって言ってたけどホントかな?
 あれ?なんだDIOの奴・・ジョルノを出さないなんて
 言っておいて、閉じ込めたりはしないんだな・・・。
 いいとこあるじゃないかすこしは。) 
 ジョルノ・・僕だよ?差し入れ・・貰ってくれるかい?」
 
「・・・母さんですか?・・・頂きます。」

「ジョルノ?扉は空いてるよ?DIOのいった罰なんか
 守らなくても大丈夫だよ?なんならリビングへ行くかい?」

「だめです・・父さんのスタンドが見張ってますから。」

「あーーーー・・・成程ね・・。全くDIOの奴・・
 見直して損した。

「母さん・・・僕・・・。」

「・・・。結局は君の決めることだけど・・・
 確かに僕は君が傷ついたら悲しいし、
 君を失ったら一生悔やむかもしれない。
 その気持ちだけは正直に伝えるよ。
 ・・・それとねDIOも多分同じだよ。
 彼は不器用な人だけど言いたいことは
 はっきりと言う人なんだ。
 今日君に言ったことは
 決して偽りで言ったことじゃないから
 それだけは信じてあげて?」

「はい・・・最初は正直頭に来ましたけど・・・
 父さんの思いは確かに伝わりました。
 僕・・・明日けじめをつけてきます・・。」

「そうか・・・DIOにそう話しておく。
 最後に・・・僕たちは君を愛しているから。
 義理なんかじゃなく心からね、お休み・・。」

「・・・お休みなさい・・・。」

やがてジョナサンが戻ってきてベットの中に潜り込む。
俺が寝ていて気づかないと思って安心したのか
すぐに寝息を立て眠りにつく。

そして翌朝、ジョルノは鞄を持って出かける。
そして夕方帰ってくる、俺と共に。

「ジョルノ!大丈夫だったかい?嫌味言われたり
 冷たくされたりしなかったかい?」

ジョナサンは帰ってきたジョルノに慌てて駆け寄り
心配そうに顔を覗き込む。
ジョルノは悪いものでもとれたかのような
さわやかな笑顔でジョナサンに応える。

「大丈夫ですよ。みんな快く受け入れてくれました。
 仲間もこれからもずっと友達でいようって
 言ってくれました。」 

「そ・・・そうか!僕はそれが一番心配だったんだ。
 君がやめることで築き上げてきた友情を
 失ってしまうのが・・・。」

おい・・・さっきから二人で盛り上がっているようだが
誰か大事な男を忘れてはいまいか?

「ジョナサン、俺には何も言うことはないのか?」

あるよ!まさかジョルノの隣で睨み効かせたんじゃ
 ないだろうね?君はマフィアより恐ろしい人だから
 無理やり組織の人たちに誓わせたりしてないかって
 心配で心配で・・・。

「何て言い草だ、俺は外で待たされてたというのに。」

本当は保護者として一緒に乗り込んで・・・
いや、奴らと話をつけたいと思ったのだが
ジョルノに強烈に拒否されて仕方なくアジトの外で
見張・・・いや・・待っていたのだ。
しかも話し合いに一時間の猶予まで与えてやったんだ。
なんて寛大な男なんだと褒めてもらいたいくらいだ。

「本当はどっかの店で待っててほしいって言ったのに
 聞いてくれないんです。事と次第によっては
 アジトごと破壊してやるって言って。
 ひやひやしました、本当にやりそうでしたから。」

「俺は決めたことは実行するタイプでな。」

「確かに本当にやるだろうね、彼ならね。」

「・・・やっぱり、血なんですね。
 そういう所・・似ているかもしれません。」

それからというもののジョルノも自分の都合をはっきり
言うようになり、ジョナサンも
それを素直に受け入れるようになった。
相変わらず二人とも俺とのスキンシップには消極的だが
いずれ俺が積極的になるように変えていってやろう。

俺は決めたことは実行する男だからな。









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                  おまけ
             新ボスは誰だ。


ジョルノがボスをやめた後マフィアはどうなったか。
ブチャラティが代わりにボスになったという訳ではなく
彼は最高幹部になり、その仲間たちもそれなりの
位置についている。
ジョルノがボスの座を退いたという事は
実は一部の者にしか知らされておらず、
実際の所ほかの連中には他言無用となっている。
つまり今のボスの座は空白で誰も
いない状態・・という訳でなく・・。

「今日は久しぶりの会議だと。」

「めんどくせーなー・・・。」

突然の呼び出しに他の幹部メンバーが
気怠そうに会議室へと赴く。
ジョルノがボスから身を引いたことを
知らない連中はまだ多くいる上に
彼の顔すら見たことない連中も少なくない。

「お前新ボスの顔見た?」

「ああ、あん時お前って仕事で出られなかったっけ。」

「ディアボロと比べてどうよ?」

「てんでてんで!多分見たらお前心配で夜も寝れねーよ。」

男の一人が馬鹿にしたようにヘラヘラと笑う。

「ちょ・・・大丈夫かよ!」

「・・・だが、そのディアボロを倒したんだって
 もっぱらの噂だぜ。見た目でごまかされちゃ
 いけねーかもな。」

いつまでも勿体ぶった言い方をして
肝心の要点を話さない男に
相手の男が少しイライラし始める。

「どんな奴か、とっとと教えやがれ!」

「へいへい、判った判った、大人しそうで
 細身の奴だ。」

「なんだ優男って奴か・・・へー・・。
 じゃあ俺の女でも使って
 落としてみるかな・・・・。」

マフィアである彼等にはその立場や金を目当てに
女が言い寄ってくることが多々ある。
中には連れの女を利用して、幹部の男たちに
取り入れさせ、その地位を奪おうとする輩も少なくない。
ニヤニヤした下種な笑みを浮かべる男に
相手の男は舌を出して小馬鹿にする。

「残念でした、あっちの趣味らしいぜ?」

マフィアの世界では同性との関係を望むものも
少なくないという噂もあるが、
女よけの為にわざと周りに吹聴している男たちもいる。
因みにジョルノも同性愛好者ではないがブチャラティと
出来ているという事は周りには既に公認済みである。
その方が女性が寄ってこないし、また女性が
利用されないという事で、あえてオープンにしているのだ。

「うへっ!マジかよ!!男ならいいってか?
 おい、ところでそいつの写真とかねーのかよ。」

「持ってるぜ、ほらよ。」

そういうと、他の幹部から貰ったであろう写真を
相手の男に見せる。
自分が想像していた姿よりもずっと若く幼いその容姿に
男が思わず落胆の声をあげる。

「なんだよ!ガキじゃねーか!若輩にも程があるぜ!」

「十五位だとよ。参るぜ・・・こんな尻の青い
 ガキに命令されるなんてよ。」

「・・・・・・ふーん。」

となりでぼやいていると、相手の男が
食い入るように写真を眺めているので
何を考え込んでいるのか尋ねてみる。

「どうした・・・?」

「なあ、こいつあっち趣味なんだろ?
 だったら俺達にもチャンスねーか?」

チャンスというのは勿論、おとすチャンスだ。
相手がまだ子供で美形だという事がこの男にとっては
同性でも女のように受け入れられるというのだろう。

「おいおい・・・。いきなりお前な・・。」

「俺はイケるな・・・うん、イケるイケる。
 よし・・・何とかこいつに近づいて・・・。
 なーに・・女抱くのとあまり大差ないだろ。
 ガキは快感の誘惑に弱いっていうしな。」

ニヤニヤ笑いながらポケットに入ってる
櫛で髪型を整える男を呆れながら見つつ
もう一人の男が扉を開ける。
皆は既に集まっているが
会議室はまるで波を打ったように静まり返っている。
どうしたというのだろう、少しくらいの騒めきは
いつもはしているというのに。

周りを見回しても、ボスらしき人間はまだおらず、
会議も始まっていないというのに
この緊迫したムードはなんなのだろう。
頭に「?」を浮かべた男たちがぎこちなく椅子に座ると
すぐ後にどこかのチームの幹部が大声で号令をかける。

「起立!」

号令と共にザッと音がして全員立ち上がる。
いつもより緊迫した号令に最後に来た男たちも
皆の波長に合わせて慌てて立ち上がる。

「全員そろっているな。」

突如響き渡る凛とした太い声。
幹部達が「はっ!」とその声に返事をすると
それを合図にボスが入ってくる。

!!!!?????

思わず男たちの目がボスの姿にくぎつけになる。
それもその筈で確かに写真と同じ髪型に髪の色だが
明らかに違う身長と、その大人びた顔つき。
写真で見た華奢な体つきとは似ても似つかぬ
自分らより頑丈そうな肉体。
鋭い眼光と威圧的なオーラをまとった男。
その男が新しいボス、ジョルノだというのだから。

写真と違うじゃねーか!!

ディアボロより怖ぇーー!!

男が思わず隣の相方のわき腹を小突く。
目立たないようにやったつもりが、
ボスにはしっかり見られたようで
獣のような鋭い眼光が二人をとらえる。

「落ち着かない者がいるようだな・・・。」

も・・・申し訳ありません!!

本能が謝らないと危険と察したのか
男たちが机に頭をぶつける勢いでお詫びをする。
ボスはフンと鼻を鳴らすと、皆を席に座らせる。
するとブチャラティが隣の席に同席し
今回の会合の趣旨を説明する。
勿論二人の男はブチャラティの話など
耳に入ってこない状態で
青ざめながら冷や汗を流し、気絶しそうになりながら
必死で会議が終わるのを待っていた。

そして会議も終わり誰もいなくなった頃
ブチャラティがボスに礼を言う。

「お疲れ様でした。いつもありがとうございます。」

「・・・あいつに頼まれているからな仕方ない。
 何か危険なことがあったら俺に言うんだぞ?
 危険なことは俺がすべてやる。
 お前らに何かあったら俺はジョルノに恨まれてしまうし
 ジョナサンにも怒られてしまうからな。」

ブチャラティと話しているボスである
この男は実はDIOだ。
何故、DIOがマフィアのボスをしているのかというと
自分がボスを辞退する条件として、代わりにボスを
努めてほしいとジョルノに頼まれていたのだ。
DIOもたまにならという条件で(※院長の仕事があるので)、
この役を引き受けている。
もともと、ボスとして多くの仲間を束ねていた男なので
病院の院長よりも、今の仕事の方が適任というべきだろう。
だがこのマフィアのボスはまだジョルノなので
あえてジョルノの恰好をしてボスをしているという訳だ。
勿論周りは違和感に気付いているが、意見の言える
度胸のあるものは一人もいない。

「おーい!ブチャラティ!終わった・・・
 げっ・・・す・・すんませんでした!!

運悪く入ってきたミスタが、DIOを目ざとく見つけて
ばつが悪そうに慌てて謝ると控室の方にひっこむ。
DIOは何も見なかったかのように
ブチャラティとの会話を続ける。

「ふん・・・これから遊びにでも行くのか?
 ジョルノも誘うのか?」

「ええ、確か彼は今日非番ですよね。」

「良く知っているな、まあいい。だが
 泣かしたり苛めたりしたら許さんからな。
 じゃ・・俺は帰るぞ。」

「ご苦労様でした。」

ブチャラティが深くお辞儀をすると、ようやく終わったと
言わんばかりに首をコキコキと鳴らしながら
DIOが帰っていく。
そのタイミングを逃さずミスタたちが
会議室へと入ってくる。

「こえーー!!ジョルノの父ちゃん
 マジ迫力あるよな!」

「ディアボロより怖ぇよ。」

ナランチャとミスタがDIOが出ていった
扉を見つめながら騒ぎ立てる。
ナランチャたちだけではない、フーゴもアバッキオも
DIOの話で持ち切りだ。

「どうりでジョルノが恐怖に動じないと
 思ったら、あんな恐ろしそうな人が
 父親だったからなんですね。」

フーゴがため息をつきながら感心する。
多分DIOのせいで性格が逞しくなった訳では
ないと思うが、そんな噂を勝手に掻き立てている
皆をブチャラティはたしなめる。

「何を言っているんだ、あの人は家族思いのいい人だ。
 それに皆はあの人のお陰でこうして気楽に
 騒いでいられるんだぞ?今度皆で改めてお礼に
 行くからな?」

ブチャラティの言う通りミスタ以外は全員DIOの
お陰で、こうして元気にしゃべっていられるのだ。
ブチャラティの命令に皆一堂に苦笑いをしながらも承諾する。

「あんなおっかない「義父」を持つ覚悟のあるお前が
 実際一番逞しいのかもな。」

そう言いながらアバッキオはブチャラティの肩を叩いた。






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