夜も更け、鳥と虫の声が静かに響きだす中で
少年が分厚い本を机の上にひろげ、羽ペンを
片手に頬杖を付く。


{形見の日記}

Ю月Ж日


ジョナサン・ジョースター

 


先日お父さんから日記をつけなさいと
厚い日記帳を貰いました。だけど今日は風邪を引いて、
「一日中寝てました。」としか書けません。
だから今日はさっき見た変な夢の話を書こうと思います。

僕は夢の中でひたすら長い階段を上っています。
周りは真っ暗です。階段を上るたびに僕の体は
少しづつ大きくなっていきます。大きくなるたび
体が苦しくなります。何故かは判りません。
そして僕が大人の体になりきったとき
突然階段が途切れます。目の前は暗く深い闇。
足を伸ばそうとしても体が動かなくなります。
そして後ろには続いていたはずの
長い階段がなくなっています。


僕は慌てています。このままでは
奈落に落ちてしまうと。しかし、
再び前を見ると男の人が立っていました。
たくましい体格の男の人です。でも顔は見えません。
男の人は僕を無言で抱きかかえます。
その男の人は大人の僕より少し大きめの人でした。

「助けてくれるの?」

「・・・・・・」

男の人は黙ったまま僕を抱えて歩きます。
聞こえてないのかなと再び三度とはなしかけるも
黙ったまま。


やがて闇の中に光が見えます。
でも男の人は光のほうへは行ってくれません。

「光のほうに連れて行って欲しい。」

僕は男の人に頼みます。でも男の人は
押し黙ったままです。
それもその筈で僕の「声」が口から出てこないのです。
パクパクと口が動くだけで、自分の耳にすら
声は届きません。
それに何だがまぶたが重くなって来て、
目を開けていられません。
体がふわりと軽くなっていきます。
まるでこれから深い眠りに入るかのように。


でも最後に一つだけしりたかったな。

  
あのひとは誰だったのだろう。


ここで僕の夢は終わります。怖いような
怖くないような不思議な夢でした。




×月△日

ディオ・ブランドー


ジョースター卿に日記を進められ、
煩わしいと思いながらも、
何年も書き続けている自分が不思議だ。

いつもはジョジョの悪口や失態等を書いて埋まるページも
今日に限って何もない。だから最近見ている奇妙な夢に
ついて書こうと思う。

俺はよくジョジョが窮地に陥る夢を見るのだが、
その結果は面白くないものばかり。
何が起きても、だいたい奴は九死に一生を得る。
必ず「天の助け」が入るのだ。
夢でぐらいあいつが死ぬ様を見せて
貰いたいものなのだが。

今日も、あいつが川の濁流に飲まれて
死にそうになる夢を見る。
俺は勿論木の陰から見物しているだけ。
あいつが激流に飲まれ
顔すら見えなくなったときまた「邪魔」が入る。
大きな男がジョジョの伸ばしている手を引き上げる。
そのまま川岸へ持ち上げ、あいつを横たわらせる。


また、「奴」か。


最近いつもそうだ。
あのなぞの男がジョジョを窮地から救い出す。
あの男が神だかなんだかしらない。
しかしこいつのせいでいつも
不愉快な思いをさせられる。
俺は懐のナイフに手を伸ばす。


殺してしまおう。


この男を殺して、ジョジョを濁流に放り投げてやる。
俺は川から転々と浮き出ている石を踏み台にして、
あの男とジョジョのいる川岸へと移動する。

男は背中を向けたままジョジョを見つめている。
ジョジョは気を失ったままだ。
俺は男の背中にナイフを突き立てるため、
その手を振り下ろそうとする。

しかし男の手が俺の手首を掴む。
そしてナイフを握る手をはたき落とし
睨みつける俺に向かって一言だけ短く言い放つ。

「焦る事はない。」

そういうとジョジョを抱え上げ
どこかに立ち去ろうとする。

「まて!そいつは置いてゆけ!お前には関係のないものだ!」

俺はそいつに掴みかかろうとするが、足が動かない。
男はジョジョを抱いたまま俺の目の前から遠ざかっていく。


俺は思わず叫ぶ。


「貴様は誰だ!」


大きな背中が視界から消えるまで俺は叫び、
そこで夢は終わる。

夢が終わると俺はいつも思う。



願わくば、あいつがジョジョの「死神」であればいいと。




◎月※日

ジョナサン・ジョースター


あれから幾年が過ぎ、ディオが吸血鬼と化し、
彼と対峙するようになって何日たっただろうか。
今は二人の頼もしい仲間と、美しいエリナが僕を
暖かく見守ってくれている。

こんなところまで、日記を持ってくる僕も
どうかと思うが、宿に泊まっている時くらいしか
つける暇はないだろうから、
たまっている数日分を書こうと思う。

何せ父さんが買ってくれた最後の日記帳だから。
最初は面倒臭かったけど
書けないとなんか物足りない気がして
・・・ぶつくさいいながらも続けている
自分に苦笑いする。

ここ数日は書くことが一杯あったけど、
やはり何もない一日と言うのもまれにある。
またそこで、この前見た夢の話でも書こうかなと思う。

夢の中の僕はサンタクロースをまだ信じていた
小さいときの僕だった。
クリスマスの当日、彼にぜひ会いたいと
一晩中眠らずに我慢をしていた夜のことだ。

朦朧としている意識の中、誰かの手が頭に触れる。
サンタさんが来たのかと目を大きく見開くと、そこには
一人のフードをかぶった男が空に浮いている。

男の手にはプレゼントらしき箱が握られていた。
男は無言で僕にそれを渡す。

「僕にくれるの?貴方はサンタさん?」

小さな僕は目の前の男に尋ねる。男は黙って首を振る。

「じゃあ、誰?何故僕にプレゼントをくれるの?」

男の顔は見えない。フードの中だからなのか、
外が暗かったせいなのか判らないが。

男の口がかすかに動く。小さな僕は彼の
言葉を聞き逃すまいと耳を傾ける。

「お前が幸薄い少年だからだ。」

「幸・・・薄い・・・?」

その当時ならその言葉の意味は判らなかっただろう。
でも今の僕になら理解できる。僕は男に尋ねる。

「不幸せってこと?どうして?不幸せだと物がもらえるの?」

「哀れな者に程、施しが必要だろう?
 サンタさんとやらもそうではないのか?
 恵まれた子供より、貧しく可愛そうな
 子供のほうにプレゼントを渡すものだろう?」

「う・・・うん。そうだよね・・。
 で・・でも僕は貧しくないよ?
 それでもかわいそうな子供なの?
 お母さんがいないから?」

僕は男に理由を尋ねる。
何故自分はかわいそうなのか、少なくとも父には愛され
使用人たちにも愛され、不自由なことなど何もないはずなのに。

「・・・・儚い命よ。さらばだ・・・。」

男はそう短く呟いて、闇の中に姿を消す。
僕は部屋にひとり残される。
ふと手元の白い箱が気になり、
ベットのふちに腰掛け開けてみる。
そこには人の頭ほどの
クリスタルの水晶球が入っていた。

とても美しい水晶球だが特に仕掛けがあるはずでもなく
ただ、自分の頭部が映っているだけ。
あの男は何故子供の僕にこんな物をくれたのだろう。
いろんな角度からそれを眺める。しかし次の瞬間
その水晶球は僕の顔を映したまま地面に落ち
儚く割れた。


夢はここで終わりだ。あんまりいい気分はしないが
不思議な夢だと思う。
さあ、明日も早い、もう寝よう。
願わくば仲間と共に無事な一日が過ごせますように。



■月▲日

ディオ・ブランドー


俺は人間を止めたにもかかわらず、未だこうして
日記などつけているのは、
悲しき習慣と言う奴なのだろうな。

今日は先ほど見た夢の話でも書いておこうか。
最初のほうは愉快な内容だったが・・・
後のほうは・・・。
まあいい、とにかく奇妙な夢だった。
記録に残しておいてもいいだろう。


俺は自分の城で、とうとう憎きあのジョジョを
自分の配下に置く事ができた。
あの最後のときの、ジョジョの
悲しみと絶望に満ちた顔は今も忘れられない。
最高に快感を感じたと言っても過言ではないだろう。


ジョジョは今、俺の隣にかしづいている。
いままで決して屈しなかった男が
今や忠実な下僕だ。
満たされていく征服感。ああ、愉快だ。
最高に気分がいい。

しかし、少しだけ不満なこともある。
ジョジョは俺の命令には黙って従うものの、
言葉を全く発さず、その瞳は閉じたまま。
眉さえも動かさず
その唇も動くことがない。まるで顔だけつくりものに
置き換えた、文字通り生きた人形だ。

その顔に触れても氷のように冷たく、石像のように硬い。
そのくせ体は暖かく、まだ柔らかみもある。

なぜだ?考えるほどに満足感が削がれていく。
貴様の声が聞きたいのに、貴様の瞳が見たいのに
なぜ、貴様は俺にそれをみせようとしない?
貴様が俺にどう思っているのか、どう思っていたのか
聞きたいのに声はおろか、表情すら読めない。


イライラする。

なぜだろう。

きっとこんな筈ではなかった・・ということなのだろうか。


他の下僕達がジョジョを戦いに参加させるべきだと
提案するが俺はどうしてもそれを聞き入れられない。
確かにこいつはどの下僕よりも強いだろう。
俺が最も嫌いな「無駄な時間」を省くことが出来る。
しかし俺の目からこいつを離す事には、
どうしても抵抗がある。
周りの下僕からは「役立たずの
ただの動く人形」と馬鹿にされている。
勿論俺には役立たずな部下は必要ない。
それは自分でもよく判っている。

しかし、こいつだけは別だ。
今まで一緒だった愛着もあるのかもしれない。
それに苦労して手に入れたからこそ、
手放したくないのかもしれない。

いうなれば自分だけの宝物と同じ。
他人が役に立たないと思っていても
自分には魅力的なものなのだ。
傍においてあるだけでいい。
それだけで心が満たされる。

だからこそ無くなって欲しくない。

目の前からそれが永遠に失われると思うと
不安で仕方ない。

ならどうすればいいか。

目の前に常に置いておけばいい。
他の奴がどう思おうが、おれが満足できればそれでいい。


そんなある時、俺がジョジョから目を離した時だ。
ふと俺の目の前をフードをかぶったような人影が
通り過ぎていく。
その人影はまるで実体がないかのように、
ゆらゆらとゆらめいていた。
まるで幽霊のようなその人影は、
俺の部屋にスーッと侵入していった。

嫌な予感がする。
俺はらしくもなく慌てて自室に引き返す。
フードの人影は、俺の部屋に静かにたたずんでいる。
しかしさっきと違う所は、
フードの下に肉体があることが確認できることだ。

「何者だ。貴様。」

俺はお決まりの台詞を吐きながら、奴に近寄る。
しかし奴の手元にある見覚えのあるそれに、
俺の体は固まってしまった。
その手に、青い髪の、
閉じたままの瞳のジョジョの首を掴んでいたからだ。

自分の宝物が、壊されて盗まれる。
そう思って焦ったのかもしれない。
頭に血が上り、奴に掴みかかる。

「顔を見せろ!」

俺は男をむりやり振り向かす。
しかしそこで見た顔は俺を見つめる自分の顔だった。
いや・・・、フードの男は顔面の部分に
鏡のようなものをはめていたのだ。
自分の顔が映るのは当たり前だ。

俺は気を取り直し、フードの男の肩部分を爪で切り裂く。
しかしその下にあったものは、
見覚えのあるちいさな星の形。

「ジョ・・・・」

俺の動きが思わず止まる。フードの男は俺を見つめる。

鏡に映る俺と同じ顔で。

そして男はジョジョの首を抱えたまま消えていく。
俺は何も出来ないまま
「彼ら」を見送ることしか出来なかった。


この夢は何を暗示しているのだろう。

あの男は誰なのだろう。

なぜ、顔面に鏡をはめていた?

なぜジョジョを攫っていったのか?

ジョジョの体を自分の物にして。

わからない。全く不思議な夢だった。



☆月Ф日

ジョナサン・ジョースター


親愛なる父さんへ。
父さんが買ってきてくれた、この日記のページも
これで最後の一枚です。
でも、僕は日記は書き続けていこうと思います。
これからすばらしい出来事が、
きっと沢山起こるでしょうから。

僕はエリナともめでたく結婚し、明日から新婚旅行です。
どうぞ、僕達を見守っててください。

ちょっと、初めての新婚旅行で緊張しています。
それでもやっぱりうれしい気持ちで一杯です。
僕は今、誰よりも幸せ者かもしれません。
でもあまり幸せすぎると逆に
悪い夢を見てしまうものなのですね。

縁起の悪い夢なので
気にもしたくないのですがあくまで夢は夢です。 
過去こんな夢もみたんだなあと、
思い返してみるのも悪くないでしょう。 
だからあえて僕はこのページに綴ります。

僕はエリナと結婚式をあげ、綺麗な庭園で休んでいた。
そこへ男がやってきた。大きな体のフードの男だ。
以前もちょくちょく僕の夢に出てきた男だ。
相変わらず顔はわからない。
いぶかしそうに見つめていると
エリナが僕より先に男に声をかけた。

「あの・・・なんでしょう?」

男は黙って小さな箱をエリナに渡す。
エリナはそれを受け取ると、
中には宝石で出来た綺麗な亀の形のブローチが入っていた。

「素敵・・・でも見ず知らずの方にこんな・・・。」

エリナがこまってプレゼントを返そうとすると
男は首を振り、今度は僕に小さな箱を渡す。
箱の中には虫の形をしたブローチが入っていた。
クリスタルで出来たそれはとても綺麗で蝉の形をしていた。

「僕にくれるのですか?しかし・・・」

男は黙って頷くと、
僕の次の言葉も待たずして去っていく。
僕は追いかける。彼はいったい誰だろう。

前から知りたかった。

それになぜ僕達にプレゼントをくれたのだろう。
結婚式のお祝いのつもりだろうか。
エリナの言うとおり見ず知らずの人に
物をもらうなんて気が引ける。
理由を知ってからお礼を言うなり返すなりしたい。

男は人気のない庭園の出口で静かに佇んでいる。
僕は彼に声をかける。貴方は誰なのかと。

「・・・知らないほうがいい。」

男は僕の質問には答えず、振り向かずにこう短く告げる。
次の言葉を選んでいると、ふとに僕に質問する。

「亀の意味を知っているか?」

「亀・・・?」

あのエリナにあげたのブローチのことを
言っているのだろうか。
色々考えていると男が答えをまたずに
僕に意味を教えてきた。

「亀は長寿の意味を持つ。末永く生きられると言う
 目出度い言い伝えだ。」

「あ・・・だから・・・」

だからエリナに渡してくれたのだろうか
だとしたらいい人だ。
僕はお礼を言おうと口を開くと男が
次の質問を投げかけてくる。

「なら・・・蝉は?」

「え・・・?」

今度は僕にくれた蝉のクリスタル細工のことだろうか。
でも蝉の言い伝えなんて聞いたことがない。
僕が悩んでいると男がこう言って来る。

「・・・蝉の命は儚い。子孫を残す役目を終えたら
 その子の顔を見ることもなく
 その命を散らす。まるで・・・」

男の口元が歪んでいる。思わず背筋がぞっとした。
手に握られていた蝉の形のクリスタル細工にひびが入る。
それは僕の手元から
硝子の雨のように地面へと落ちていく。

「あ・・・・!」

手のひらのクリスタルはもう粉々で
蝉の形などしていない。

そして一陣の風が吹き手のひらの
最後の一欠けらまで奪っていく。
それだけでなく、周りの綺麗な花々は一気に色を失い
辺りは闇に包まれる。

「貴様の一生は、虫の一生と同じで儚いものよ。」

背後から男の声がする。

「かわいそうなジョナサン。お前の一生は、
 魚よりもトカゲよりも短く、そして脆く儚い。」

男に両肩を掴まれる。その途端体から一気に力が抜け
僕はがくりと膝を折る。

声が出ない。
否定したいのに、怒鳴りたいのに声が出ない。

まぶたが重い、意識が薄れていく。
自分の体が軽くなる。男に抱かれているのが判る。

「哀れな若者よ。せめて美しくその命を散らせ。
 だが安心しろ。おまえは俺と・・・・」

男が何か言っているようだがもう聞こえない。

冷たい。体が冷たい・・・。

もう僕の顔は氷のように冷たくなっている。

僕は死ぬのか?死にたくない・・死にたく・・・

そこで僕は目覚める。どうやらうたた寝してたらしい。
全く縁起でもない夢だ。

でもきっと笑い話で語る日が来る。
エリナにはだまっておこう。心配させるといけない。
そうだ。明日辺りに彼女に僕の日記を見てもらおう。
彼女の知らない僕達の活躍を教えてあげたい。

勿論この不吉な文面だけは除いて。


☆月Ф日

エリナ・ジョースター


ジョナサンも私と同じで
毎日日記を綴っているということを聞いて
正直驚きと喜びで一杯です。

でもあの方と目出度く結ばれて、幸せの絶頂だったのに
こんな夢を見てしまうなんて、私自身を呪いたいですわ。

それは昨日の夢でした。
私とジョナサンは小船に乗って
湖に浮かんで夜空を見上げていました。

ジョナサンは私の膝の上で寝ています。
それはとても安らかな寝顔で。

私はそれを優しく見守っています。
ふと小船が傾きます。
驚いて顔を見上げるとフードを被った男性が私達を
見下ろしています。その方の顔は判りません。
男性は私に尋ねます。

「お前は幸せか?」

私は迷わず答えます。「勿論です」と。
男性はまた私に尋ねます。

「その男は幸せか?」

私はジョナサンの顔を見ます。

「幸せです。いいえ。私が幸せにしてみせます。」

やはり私の答えに迷いはありません。
それを聞いた男性が少し笑ったように見えました。

「俺も分けてもらおう、お前の幸せを。」

いきなり、男性のぞっとする声が耳に届きます。
私は思わずジョナサンを抱きしめその男性を睨みます。

「お前は男の子供を育てる幸せを、
 俺はその男の「未来の幸せ」を貰う。」

「させません!両方とも私の幸せです!」

「無駄だ、もう俺の手中にある。」

その言葉に私は心臓に冷や水を浴びせられたようになり、
驚いて自分の膝を見ます。

そこには彼の姿も温もりもどこにもありません。
恐る恐る男性のほうを向くと、
ジョナサンがいつのまにか彼の腕に抱かれていました。
その顔にもう安らぎはありません。
まるで魂を抜かれたような
生気のない憂いを含んだ瞳が私をじっと見ていました。

「返してください!!
 彼なしの幸せなど私にはありません!」

私は必死で手を伸ばそうとします。
でもどうしても伸ばすことが出来ません。
何故なら私の腕にはいつの間にか
赤ん坊が抱かれていたからです。

「お前はこの男の子供を育てる幸せを。」

男性が呟きながら遠ざかって行きます。
私の「幸せ」を奪ったまま。

「俺にはこの男の幸せを。」

その言葉を最後に男性と愛しい人は
闇の中に消えていきました。

私は赤ん坊と共に泣き叫びます。
もう姿も見えない愛しき人に向かって。

目が覚めたとき私は泣いていました。
ジョナサンが心配そうに私に理由を尋ねましたが
いえる筈がありません。

でもいずれはいえる日が来る、私はそう信じています。

明日も彼と共に笑える一日を過ごせますように。










暗闇の中、ふと思う。
あの俺の夢に出てきたフードの男は、
きっと自分だったのだろうと。
ジョナサンにとっては「預言者」であり「死神」でも
あったのだろうな。

俺はジョナサンの懐にしまってあった日記を読み返す。
最後のページに書かれていた「夢の中」の預言者は
多分俺のことだろう。不思議なこともあるものだ。
お前も「俺」に夢で会っていたなんて。

俺は日記を閉じ、再び懐にしまう。
もうこれはすでに奴の「形見」。
しかし、大事に取っておいてやろうと思う。

「最高のライバルの遺品だものな・・ジョジョよ・・・。」


俺は隣の冷たい氷の塊に視線を移す。
そこにはもう一つの「形見」そのものが
静かに眠っている。

「俺はお前に尊敬の念を抱いている。
 だからこそ無下に出来ないのだ。
 理解してくれるよな、わが友よ。」

俺は氷の塊を撫でる。
冷たく固い感触が手に伝わる。

かわいそうなジョナサン。

きっと魂はさまよい、天国にはいけないのだろうな。

なぜならこの俺が、いや・・「死神」が

お前の体と魂を奪い去ってしまったのだから。



俺はジョナサンの胸に手を置く。

かすかだが奴の血の流れと命の鼓動を

手のひらに感じる。



かわいそうなジョナサン。

死神に魅入られてしまって。

俺もどうせ天国にはいけない。

なら一緒にこの世をさまよってくれてもいいだろう?

俺と共に墜ちてくれ。

親友の頼みだろう?断れるはずがないよな?

こう見えて俺は寂しがりやなんだ。

俺を孤独にしないでくれ。

共に生きようわが友よ。



今は眠ろう。深い眠りへつくとしよう。




俺は最後に目を閉じる前に、氷の塊の中に静かに眠る

男を見る。




かわいそうなジョナサン。

俺はいつか目覚めるが

お前は永遠に、その瞳を開けることはないのだろうな。

ゆっくりと眠れ。わが友よ。

そしてようこそわが肉体よ。










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