第二章

DIOの章
{過去との対面}
さて・・・望んでいたジョナサンは「出来」た。
話し相手も出来た。後は俺を好きにさせる手はずだが
特に邪魔がなければ何とかなりそうだ。

ただ問題は・・・・
            

一応頭の中では考えていたが、いざ面を向かってきかれると
困ってしまうものだな。そう、ジョナサンが聞いてきたのは
ごく当たり前の質問、「自分はどこから来たのか」だ。
これからのことを考えると作られた者ということは
伏せた方がいいかもしれない。俺はとりあえず過去から
来た者だと言うことにしておいた。案の定驚きを見せる
ジョナサン。本来なら当然疑うだろうが
そこは奴の「不思議を信じる心」を持っていることを
期待するしかない。どこか夢見がちな所があった男だ。
多分いけるだろう・・・と思う。

ジョナサンは思い切り頭をひねる。俺の答えに
疑問を抱いているというよりも、新たに出てきた
疑問に頭を悩ませているといった感じだろう。
ジョナサンは俺に「自分が抜けた過去は
どうなるのか」と聞いてきた。
なるほど、それも当たり前の疑問だな。
俺はとりあえず
全てのものの時間が止まると説明をした。

次にジョナサンは過去に置いてきた自分達の
周りの大事な人間達を心配してきた。
きっと止まっている時間で彼らに何か負担が
かかるのではないかと心配してるのだろう。

万物は時間と共に各々の生命活動を
続ける、その時間が止まれば生命活動も止まる。
「終わらす」のではなく止まるのだ。だが
これを子供のジョナサンに言って判ってくれるだろうか。
正直俺もこれが本当に正しい説明かわからなくなってきた。
そこで俺は写真の静止画を例えにして教えてみた。
納得しているような、いまだ納得できないような
複雑な返事をしたが、これ以上このことで押し問答を
したくない。俺は何とか他に興味をそらそうと
部屋の探索を許す。触れられたくない所はどうせ鍵が
掛かっているから手はだせん。その途端に
ジョナサンは目を輝かす。やはり探索したくて
うずうずしていたようだな。

だが・・・。探索と言っても外は許可できない。
ああ・・・この事についても「なんで?」と
きいてくるのだろうな、そして案の定疑問が飛んでくる。

俺はとりあえず思いついた
答えをジョナサンに与えてやる。
これは無論嘘だ。そもそもお前は
過去から来たものではないからな。
だが納得はしたようだ。やれやれ・・・
何でこんなに気疲れしなければならないのだ・・。

そしてそれから一〜二時間経った。


今俺の目の前にはジョナサンはいない。
正確に言えばじっとしていない。
俺の部屋をくまなく探索中だ。あちこちから
感嘆の声が聞こえてくる。時折「あれはなに?」
「これはどういうもの?」などといった質問も
しばしば飛びまくってくる。
たしかあいつの将来の夢は考古学者だったな。
早くもその素質が芽生えていると言うわけだ。

だいたい予想はしていた。
子供のジョナサンができたと言われたときから。
ジョナサンは好奇心の強い男だと言う事は知っている。
そして完全に対立する手前まで
好奇心の強い性格をしていたのを覚えている。
というかその好奇心のせいで、対立する羽目になって
しまったのだが。

つまり何が言いたいのかというと
大人のあいつが出来ても、多分今と同じ
事をしているかもしれん。

別に気まずいものを隠しているわけではないから
構わないがしいて言うなら奴の首の入った水晶球が危ないか。
とりあえず戸棚に鍵はかけてある。ロックナンバー
式だからあいつには無理だろう。

しかしこれからどうするか。
どうやって俺に興味を持たせよう。
手っ取り早く愛撫が一番効くだろうか?
少なくとも女は必ずこれで落ちる。
だが微妙な年齢だ。下手をすると怖がられ嫌われてしまう。

別に嫌われる事が怖いわけじゃないが一度嫌われてしまうと
後々めんどくさい事になりそうだから困るだけだ。
奴に強引な手は逆効果だ。優しく接しながら懐に入り
こめるまで距離を縮めるしかない。
仕方ないこの手でいくか・・・。

だが・・・・。
俺は何でこんなに気を使っているんだ・・・?
これではまるで親子ではないか。
因みに俺は奴と親子のような関係を築きたい訳じゃない。

あちらこちらで走り回る足音と、ゴソゴソガチャガチャ
探しまくる音をぼんやりと聞きながらすごしていると
後ろからノックの音が聞こえる。

この扉を叩けるものは緊急事態でなければ僅かな部下だけだ。
多分ヴァニラだろう。
俺が入るように促すと、静かにヴァニラが入ってきて一礼をし
俺に耳打ちをする。ジョナサンが部屋の向こうからこっそり覗くが
ヴァニラがそれを見逃さずキッと奴を睨む。
そんなヴァニラが怖いのか空気をよんだのか判らないが
(多分前者の方だと思われるが)部屋の奥へ引っ込んでしまった。

「・・・DIO様・・・。過去の貴方様が是非会いたいと
 おっしゃられておりますが・・・。」

「・・・やはりな・・・。かまわん、断っても強引に
 会いに来るだろうしな。俺からも釘を刺しておきたい事が
 山ほどあるしな・・・。それで・・・奴にはなんと言ってある?」

「はっ・・・あの方には、創られた者ということは伏せて
 過去からこられたと言う説明をしました。そして
 過去が未来を消すことは自分の死にも繋がるとも・・。」

なるほどな、もし作られたなんていったら「俺」のことだ。
あのプライドからして暴れるかもしれないからな。
そして迷いなく俺を殺すだろう。俺のこの今の立場に
取って代わるためにな。さすがヴァニラだ、機転が利く。

「奴はそれで納得を?」

「真の心は読めませんがおそらく・・・。」

「まあ探りはいれない方がいい、「俺の性格」からしてつむじを
 曲げるかもしれんからな。よし、お前はこれ以上
 奴に説明する事はない。俺の口から全部話す。
 言いづらい事もあるだろう?」

「そうですか・・・すこし寂しい気もしますが・・。
 DIO様がそう仰るのでしたら・・・。あ・・・
 それともう一つ大事な事が・・・。あの小僧の事です。
 あのお方がとても気にされていました。DIO様の
 目の届くうちは大丈夫かと思いますが・・・。
 少し用心された方がよろしいかと・・・。
 ご自分の立場をうすうすと思い出されているようなので
 小僧に聞かれてはまずい事をお話になるかもしれません。
 そちらの方もご注意なさってください。因みに
 小僧のことはDIO様に関係のある者としか
 説明しておりませんので・・・。」

そうだな・・手を出される事もさながら
俺の過去を色々とばらされてしまっては
元も子もない。・・・ここはスタンドを使って
色々と試してみるか・・・・。

「判った。その説明も俺の方からしよう。お前には
 その後詳しく報告する。」

「ありがとうございます。そうしていただけると助かります。」

そういうとヴァニラは俺にお辞儀をし部屋を出て行った。
俺はちらちらと壁から覗いているジョナサンを呼び
つける。

「ジョナサンこっちへ来い。」

「・・・はーい・・。王様・・・なあに?」

ヴァニラがいなくなったので安心したのか
洗面所に隠れていたジョナサンがちょこちょこと
近づいてくる。

「・・・・これからもう一人の俺が来る・・。だがそれは
 悪い心の俺かもしれない。意味がわからないかもしれないが
 簡単に言えば「悪魔」のような存在だ。
 お前を色々惑わしたりするかもしれないが
 その言葉に耳を貸すんじゃないぞ?まあ、俺がいるときは
 お前を守ってやるから安心しろ。」

「ええ?王様はその悪魔をやっつけられないの?」

困惑しながらジョナサンは俺に尋ねてくる。
俺が強そうに見えるからなのか、王様だから何でもできると
思っているのか判らないが、初対面の相手に
随分な期待を抱くものだな。

「難しい問題だな、ただお前の命が危険にさらされ
 そうになったらやっつけるかもしれないな。
 それだけは約束しよう。」

「う・・・うん。信じるよ。」

俺がなだめるように頭を撫でると、ジョナサンも
まだ不安げな顔をしているが納得はしてくれたようだ。

「よしお前にガーディアンをつけてやる。
 俺がいないとき助けてくれる。
 姿が見えなくてもこいつはお前の傍にいて
 守ってくれるぞ。」

ガーディアンというのは勿論俺のスタンドの事だ。
さっき既にコンタクトをとっておいた。

「え?それって妖精みたいなもの?それとも
 守護天使様?かっこいい!」

途端に目をきらきらと輝かせテンションをあげる
ジョナサン。この頃の子供というのは
やはりそう言うものに憧れを抱くものなのだな。
こいつは俺のようにすれていないから尚更純粋に
信じ込む傾向があるようだ。まあこいつのいい所だな。
だが俺はこいつの悪いところも
知っている。それは調子に乗ってしまう所だ。
なので一応釘を刺しておいた。

「まぁな・・・強さは折り紙つきだ。だが
 くれぐれも調子に乗って「悪魔」を挑発
 したりするんじゃないぞ?その時は
 どうなってしまうか俺にも判らないからな。」

「う・・うん。僕自重するよ。」

さっきまではしゃいでいたジョナサンだったが
図星をつかれて、少しテンションを下げる。
やはり・・忠告してよかったな。

「よし、約束だ。いいか俺を信じろ何があっても
 何を言われてもな。」

「うん。」

よし・・これでいい。問題は俺がこいつから
遠く離れなければならない時だ。その時は
ヴァニラのスタンドを使えるか頼んでみるしかないな。

「・・・今からその人来るの?」

ジョナサンが少し不安げな瞳で俺を覗き込んでくる。
「怖いか?」と尋ねると「ほんのちょっとだけ」と
答えた。頭を撫でてやると少し表情が和らぐ、
しかし何かを訴えるようにじっと俺を見つづける。
さっきから自分のシャツの裾を引っ張っているが
どうしたと言うのだろうか。

「・・・便所に行きたいならそこに・・・。」

「ち・・・違うよ!そうじゃなくて・・やっぱり
 下着が欲しいかな・・・って・・・。」

「見えないからいいではないか。」

「ででででも・・・しゃがんだときに見えたら
 恥ずかしいよ・・・・。どんな下着でもいいから
 欲しい・・・。」

今までは平気だったのに、多分今から来る
「悪魔」に警戒をしているのだろう。
確かに気持ち的に下着がないというのは
落ち着かんかもしれん。

「・・・しかし子供のサイズのパンツなど・・・。」

当たり前だが俺の部下に子供はいない。小男は何人かいるが
そいつの下着を穿かすのも抵抗がある。
かといって衣服店に乗り込み、子供用の下着を奪って
こいと部下にいうのも間抜けな話だ。

ちらりと自分の衣装ダンスの方を見る。
下ろしたての下着が何着かあるがサイズはどうだろう。
伸縮性のある下着なのでこいつにもあうだろうが
確実に前はぶかぶかになるだろうな。

俺はタンスから下着を何着か取るとそれをジョナサンに渡す。
ジョナサンは喜んでそれを袋から取り出すが
ふと下着の部分の後ろを見て表情を強張らせる。
そして俺をいぶかしげに見る。

まあ言いたい事は判る。俺もこいつも百年前は
トランクスのような下着が主流だったからな。
今の俺の下着はハイレグ仕様だ。判りやすく言えば
しりの部分丸出しパンツと言ってもいい。

「王様・・・この下着、おしりの部分が・・・。」

「そう言う下着なんだ。悪いがそのタイプしかない。」

「ぅう・・・・。」

「お前は下着姿を誰かに披露したいのか?そう言う性癖が
 あるのなら仕方ないがそうではないだろう?」

「う・・・うん。アリガト・・・。」

納得はいかないもののとりあえず他に下着がないと
思って諦めたのか、少しうなだれながらカーテンの中に
入っていく。
そしてすぐカーテンから出てくるが、時折しりの部分に
手を当てる仕草をしている所を見ると
臀部の間に食い込んだ布が気になって仕方ないのだろうな。

あからか様に困った顔をしながらもぞもぞと体をくねらせ
後ろを気にしている。前々から思っていたが
本当に見てて飽きない奴だ。

素直に認めたくはないが、こういう所も実は気に入ってたかも
しれないな。俺がジョナサンを観察して楽しんでいると
突然後ろのドアが開き誰かの気配がする。
気配など感じなくてもノックもしないような無礼者は
このおれの配下にはいない。つまり扉を開けた奴は・・・。

そう、ジョジョと最後の戦いをしたときまで健在だった
五体満足な・・・おれ自身だった。

「お前が俺か。」

「・・・そうだな・・・。」

「お前の・・・息子か・・・?」

「ふ・・・そう見えるか・・・?」

懐かしいな、何もかも昔の俺だ。その振る舞いも喋り方も。
ふと「俺」の肩越しからヴァニラが覗き申し訳なさそうに
頭を下げる。俺は奴に手で合図するとそのまま扉を閉めさせた。

一方ジョナサンはと言うといつの間にか俺の後ろに倒れていた。
恐怖で気絶したわけではないようだ。俺のスタンドが
気絶させたようだ。これで気を使わずに昔の俺と話せるな。

「俺はそのガキに見覚えがある・・・。さっき思い出したが
 そいつを俺はジョジョと呼んでいた。・・・しぶとい男よ。
 俺の全てを壊し邪魔をする・・・。なんども死線を
 くぐり抜け、行く先々に現れる・・・。いつも思っている。
 あいつの息の根を止めてやりたいとな。」

昔の俺がちびのジョナサンをきつく睨む。
今こそ恨みなど薄れてしまったが当時は
相当憎たらしかったようだな、だがそれは過去の話。
もう、お前の憎んでいる
ジョナサンはここにはいないのだ。
それをまず判らせないといけないな。

「・・・・なら聞くが、そのジョジョは吸血鬼になったのか?」

「あの男が?奴がそれを望むわけがないだろう?
 意味がわからんな。なぜそんなことを聞く?
 だいたいそういうことは未来のお前が一番判って・・。」

「俺が百年後もこの場に君臨している。それでもお前の憎むべき
 相手はここにいるというのか?」

「と・・したら・・俺は・・・勝った・・・のか・・?」

「負けていたらこの場にいないだろうな。」

喜びはしないものの、先ほどより表情は柔らかくなったようだ。
こいつはまだ自分自身で勝利を掴んでいないからな、
実感が湧かないのだろう。しかしそれだけではなさそうだ、
まだ何かつっかかりがあるのだろうか。

「・・・・なるほどな。説得力がある。だが死んだかどうか
 がはっきりせんな・・・。それに今お前はまだ「活動中」だ。
 部下もせわしなくバタバタと動き回っているではないか。
 つまり・・まだ「障害物」が残っているという事だ。」

「確かに・・・残念ながら奴の子孫はいる。だが奴はもういない。
 それだけは、はっきり言っておこう。」

「なぜ消さん?邪魔をしているのだろう?」

「お前と同じ理由だ、恥ずかしい話だがてこずっているのよ。」

そう、今の時代はジョナサンの孫とその孫が俺の大きな障害だ。
ジョースターの血はとことん俺を追い詰める、かつてのライバル
ジョナサンのように。お前だってよく判っているだろう?

「ふん・・・いやみか?だが真実だから仕方ない。ぜひ手助け
 してやりたいところだが・・・。」

「それはありがたいが無理だ。第一外には出られん。ヴァニラから
 きいたろう?出るとお前は死ぬぞ。」

どういう風に死ぬのか判らんがその命がなくなるのは確かだ。
別に死んでも俺には何の影響もないが、自分が死ぬ所など
余り想像したくないものだ。

「なら俺はいつまでここにいればいいのだ?それに元いた俺の世界は
 どうなる。俺がいなくてはあの世界の征服がありえなくなるのだぞ?
 お前の未来にも関わるのではないか?」

当たり前の質問に俺はあらかじめ作っておいた答えを出す。
勿論百パーセント嘘だ、そもそもお前も作られた者なのだから。

「・・・お前が消えた事でその世界の時の流れは止まる。お前が戻れば
 時間は動き出す。何も変わらないから心配するな。どういった仕組みか
 はきくなよ?俺も詳しくは良く判らん。お前がいつ帰れるかも判らん。
 そんなに長くいれないと思うがな。質問は以上か?」

「とりあえずはな。」

納得はしたようだな、次は俺の番だ。

「なら今度は俺からの「お願い」だ、お前にはすでに自室が
 与えられていると思うが、女を食うときや寝るときは全て
 そこで行え。部下達が速やかに用意してくれる。
「俺の好み」位判っているからハズレはない、安心しろ。」

ここで女と情事などされてはジョナサンの「教育」に
支障が起こる。奴はまだ子供だ。かく言う俺も
ここでは我慢しなければならないがな。

「ほう?ガキへの配慮か?第一そのガキは何だ?」

「過去から来たものだ。」

いつか来るだろう質問に迷いながらもそう答える。
もし「作られた者」ということがわかってしまえば
同じような境遇の自分も「作られた者」ではないかと
勘ぐりしてしまうだろう。そうなれば過去の俺との
死闘は逃れられない。まあ、負ける気はしないが。

しかし昔の俺はそれを聞くなや表情を鬼のように
変貌させる。だがこいつがそうゆう反応を見せるのも
予測していた事だ。

「やはり・・ジョジョか・・・!そいつをよこせ。」

その手を俺の後ろに隠れている
ジョナサンを今にも鷲づかみにして、引き寄せようと
するように伸ばしてくる。

「断る。殺すためにつれてきた訳じゃない。こいつに
 色々と試したい事があるのでな。」

「今更か?それで俺に何の得があるというのだ?」

「お前を喜ばすためにやっているのではない。
 もしお前が逆の立場だったらそうしているか?」

いきり立つ昔の俺に「正論」を投げつる。
「俺」なら判るはずだ、言っている事の意味が。

「・・・・・。それでそいつをどうするのだ?」

不満そうに顔を歪めながらも俺に尋ねる。きっと
 納得しているように見せておいて
「あからさまには手を出さない」つもりでいるのだろうな。

「お前には関係ないだろう?懐かしい我が友と
 仲良く過ごしてみようと思っただけだ。まあ
 本当は大人のジョナサンという設定だったがな。
 馬鹿げた事だろう?だからお前はこれに関しては
 何も口出ししなくていい。・・・まあ
 させないがな・・・。」

「ほう・・それはどうい・・・」

突然昔の俺が驚いて口に両手を当てる。
見えない何かの腕を引き剥がすように。
奴の口は今俺のスタンドが塞いでいる。
だが今の奴には
どうあがいても引き剥がすことなどできん。

「こういうことだ・・・。」

「!!」

一生懸命見えないスタンドに抗うが、無駄なことだ。
俺が目で合図をすると、スタンドはそのままスッと
奴から手を離す。昔の俺は苦々しく舌打ちをしながら
辺りを見回す。

「・・・何だ今の力は・・口を何かに塞がれたぞ?
 これは・・・新しいお前の能力か?」

「・・・ああ。だから余計な事は言うな、するな。今のお前では
 これはどうする事もできん。この二つを守れば「これ」は
 お前に何もしない。だだそれだけのことよ。」

気を取り直した昔の俺が後で寝ているジョナサンを見つめる。
そして何を思ったか、その口を歪めると
不適な笑みをつくり意味深な事を言ってきた。

「・・・ふん、気に食わないが従うしかないようだな。
 まあいい。お前の気まぐれに合わせてやる。・・・
 しかし奇妙な事を考えるもんだな・・・。ライバルと
 仲良くしたいなどと・・・・。ふふ・・・だがそれも
 面白いかもな。俺も是非仲良くしたいものだな・・・。
 こいつとな・・・・。」

「痛めつける事は許さん、俺の計画の邪魔になる。」

「まさか・・・こいつはまだ子供だ、せいぜい可愛がるさ。
 そんな訳だ、俺も「ここ」で過ごす。」

これは想定外だったな、そこまでジョナサンに
思い入れがあるとは。
だが、はっきりいって邪魔だ。俺にもジョナサンにも。

「断るといったら?」

「何度でも尋ねてやるだけだ。別にいいだろう?痛めつけるわけじゃない。
 それから、女を「食らう」ときは自分の自室でやるから心配するな。
 お前が「食らう」ときは俺の自室を使うといい。・・・じゃあな、
 また来るぞ・・・。」

昔の俺はそう言うときびすを返し自室へと戻る。
多分奴のいうとおり、この部屋で俺達と共同生活を送るか
あしげに通ってくるかのどちらかを選ぶだろう。

「全く、めんどくさい事になってきたな。俺のクローンなど
 作るもんじゃないな。」

俺はジョナサンをベットに寝かすと
その邪気のない寝顔を眺めながら呟いた。


                 ジョナサンの章
                 {王様と悪魔}

僕はいま王様と一緒にすごしている。ここには不思議なものが一杯だ。
目に付くもの全てに、触ってみたい、眺めてみたい
感じてみたい。でも・・・その前に一番大事なことを
しなくてはいけない。「聞かなくてはならない」事だ。

「王様、僕はどこから来たの?」

恥ずかしながら僕は尋ねる。そんなこと自分がよく
判っていなきゃならないと思うんだけど。どうしても
思い出せないんだ。それに目覚めたところが
見たこともないような所だし。
すると王様は過去からやってきた者だと答えた。

えっ?僕時間旅行しちゃったの?でもどうしよう、僕の周りに
大事な人たちが一杯いた気がするんだ。
その人たちきっと心配するし
僕も帰らなきゃならない、王様にそのことを伝えると
丁寧にそれに答えてくれた。

「ジョナサン。良く聞け、今お前がここにいることで過去に
 影響など何もない。なぜならお前の抜けた過去は
 時が止まってしまっているからだ。」

「ええっ?じゃあ僕のいた時代の人達は
 魔女に石化されたようになっちゃってるの!?
 大変じゃないか!」

「安心しろ、止まっている間の生き物への負担は何もない。
 人はおろか、周りの虫も動物も植物も
 皆止まる。もちろん流れていくはずの季節も
 時間もな。たとえお前が何年もここにいようが
 あちらでは一秒もたったことにはならん。」

「うーーーん。難しいなあ・・・。そんなことって
 あるの・・・?」

「そうだな、例えばこの写真だが・・・。」

王様はそう言うと一枚の写真を取り出す。
そこには綺麗な風景と動物達が映っている。
これって写真・・・だよね・・?すごい・・・
色がついていて、まるで窓から景色を
眺めているみたいだ。
僕が驚いていると王様の手がいろんな動物達を
一匹づつ指していく。そしておかしなことを僕に聞く。

「このウサギや鳥は今は止まっているだろう?」

「?・・・うん。だって写真だから・・・。」

「つまりお前の抜けた過去は、この写真のよう
 なっているという事だ。」

「え・・・。」

「しかしこの写真のウサギや鳥は動けなくて
 苦しいと思っていると思うか?」

「その・・・でも・・えーと・・・。
 うーーーん・・・たしかに・・・?」

まさかそんなことを聞かれるなんて思ってない
僕の頭は完全に混乱状態だ。ただでさえ
難しい事を考えるのは苦手なのに・・・・。
王様はそんな僕を見て少し困ったように笑った。

「そう難しく考えるな、俺も実はよくは判らん。
 これ以上聞くな。ただ、さっきも言ったが
 お前が抜けたことで過去の世界は何も変わらんし
 誰も苦しい思いもしない、後はお前が俺の言葉を
 信じるか信じないかだが・・・。」

王様はそう言いながら僕をじっと見つめる。
その目は真面目そのものだ。そうだよね・・・。
僕にはその意味が正直よく判らないけど
王様を信じたいと思う。

「信じるよ、王様を信じる。」

「そうか・・・助かる。」

王様は一言だけそう言うと、部屋の方々を指差す。

「・・・さっきから色々と気になっているのではないか?
 いいんだぞ?色々と探索しても。ここはお前の部屋も
 当然だ。ただし、鍵のついているところと外は駄目だ。」

え?色々探っていいの?嬉しいな!でも・・・一つ
気になる事がある、鍵のついているところが駄目っていうのは
わかるけど、何で外は駄目なの?僕は王様に聞いてみる。
すると王様の顔がさっきよりも怖い顔つきになった。

「いいかジョナサン。お前は次元の違うものだ。
 そういう者が外に出てしまうと歴史が狂い、
 大変な事になってしまう。外に出たい気持ちは
 良く判るが、お前の身勝手で今生きている人間達を
 苦しめることにもなってしまう、もしそれでも出ると
 言い張るのなら、「時」がお前を殺しに来るだろう。」

「「時」・・・・?でも僕が殺されたらどうなるの?
 過去に戻ることになるの?」

「いいや戻れないだろうな。お前自身が過去から抹消され
 別の誰かがお前の役を果たす。お前はそれでいいのか?」

誰かって誰なんだろう・・・。
「時が殺す」ってどういう意味なんだろう。
僕の代わりって・・・?
判らない事だらけだ・・・。
でも僕は戻るんなら生きて戻りたい。
死ぬなんて嫌だし、みんなの記憶から消して
欲しくない。その思いが自然に口から出る。

「い・・いやだ。」

「だろう?だから外には出るな、この約束を破ると
 俺でもお前を救う事はできん。わかったな?」

王様は相変わらず怖い顔で僕に言い聞かせてくる。
本当は外に出たいけど・・・命に関わるのなら
仕方ない。それに僕のせいで苦しむ人が出るのも嫌だ。
僕は黙って小指を出すと、王様も小指を出して
絡めてきた。うん、約束するよ、外には出ない。
 
指切りを済ませると僕は広い部屋を再度見渡す。
色々とびっくりしたけど、怖いびっくりより
楽しいびっくりの方がいいや。折角王様が
許可してくれたんだもん!さーーー、一杯探るぞー!
何を見ようかな?本も沢山あるし、見たことの
ないものが沢山ある!それともう一つ・・・
おやつやご飯はどんなものが出るのかな?
王様の食べるものだもんね。きっと見たことのない
美味しいものがたくさん出るんだろうな。
おやつとご飯を食べたらまた探索開始だ。

今から胸がドキドキする。きっと今日は眠れそうもない。
だから僕、夜更かしするかも。そのときは王様は
許してくれるかな?

無我夢中で色んなものを探索しているとドアから
ノックをする音がする。僕がそっと
壁から覗くと、すぐ怒る長髪の男の人が
王様と何かヒソヒソと話をしていた。

何を話しているか気になって、こっそりと
耳を傾けると、長髪の男の人がすかさず睨む。
・・・・ほら、また怒る。判ったよ。
邪魔しなきゃいいんだろ?ぼくは
再び探索を続ける。ただし音は立てないように
こっそりと・・・。

やがて扉が閉まる音、王様がすかさず僕を呼ぶと
真面目顔で僕に伝えた。
王様の言うことには悪魔のような人が今からくるみたい。
きっとさっきの王様似の怖いお兄さんだ。王様は僕を
守るといってくれているから安心だけど
倒せないのかな・・・強そうに見えるんだけど。
その思いを思わず口に出してしまい、困った顔をされる。
ごめんなさい・・、王様だって無理な事はあるよね。

でも王様は僕にガーディアンというものを
つけてくれるという。なんだろうそれ、
なんかカッコいい響き!神話や御伽噺に出てくる
妖精や神様みたいなものかな!
うわーー憧れてたんだ、そういうの。
王様にどういうものか尋ねると、目に見えないけど
とてもとても強い人なんだって。
目に見えないのは残念だなー。でもこれで
悪魔なんか怖くないぞ!喧嘩を吹っかけられたって
何にも怖くなんかないぞ、返り討ちにしてやる。

でもそんな僕の心を読んでいたのか、王様に
くれぐれも調子に乗って軽はずみな事はしないように
と釘を刺されてしまった。

何で判るんだろう。王様ってやっぱり凄い。

王様もいるし、ガーディアンもついてくれるっていうけど
やっぱり怖い。王様にも聞かれたので正直に少しだけ
怖いと答える。王様が頭を撫でてくれて少しは恐怖が
和らいだけど、何だろうこの不安。
下半身がスースーするし・・・ってそういえば
僕パンツはいてない!だから気持ちが引き締まらないんだ。
確かにシャツの丈は長いけど、しゃがんだら確実に
見えちゃうよね、これ・・・。

うわーー恥ずかしい!それは恥ずかしい!
同性とか異性とかそれ以上に、人にそんな姿を
見られるのは僕の紳士論に反する!
やっぱり王様に下着を貰おう、布でも良いや。
僕がもじもじしてると王様がトイレの場所を
教えてくれる。

違うよ!トイレはもう場所知ってるし!
僕が下着を欲しがると王様は困った顔をして
衣装棚の中をさがし始める。

うう・・・無理言ってごめんなさい。
でもこれだけは無理を言わせて。

王様は見つけた下着のようなものを僕に何着か投げる。
うわーー・・色が派手・・・。でもこれ大人の
人用のパンツなのに小さい、王様は僕よりは
おしりとか大きいけどこんな小さいので入るのかな?
とにかくこれならつけられそう!僕は急いで袋から出す。
そのパンツはひっぱるとびよーんと伸びる。

へーーー便利な素材だな。だけどこのパンツ
随分と形が変・・・。逆二等辺三角形の形をしているし
それに・・・ああっ!このパンツ・・・お尻の布の
部分が・・・・ない。というか紐のような布
しかついてない。これ欠陥品じゃないの?

僕が顔をしかめて王様を見ると「そう言うパンツで
それしかない」と言われてしまった。
更にトドメに「お前は下着姿をみせたいのか?」とも
言われてしまった。た・・確かに・・・。
ぐうの音も出ません・・・。下着というものは
見せるためのものではないよね・・正論だよ。
うう・・・・。

例え自分の望んだイメージに合わなくても、貰った以上は
お礼を言わなきゃ・・・そして着替えるならカーテンの
中で・・・。
僕はお礼を言い、カーテンの中で着替える。
前の方はぶかぶかだけど仕方ない、
思い切り上まで上げると胸の下まで伸びた。

多分見た目は最高に悪いと思う、でもこの形だと
キチンと上に上げないと、はみ出そうなんだもん。
それとお尻の部分に食い込む布が・・・
うーーん、どうしても気になるよ〜!

王様と話している時も気になって僕はもじもじ
していた。・・・かっこ悪いな・・・とほほ。
こんど王様から布を貰ってパンツを作ってみようかな?
多分出来ると思う・・・。

僕が馴染まない下着と格闘していると、突然ドアが
開く音がして王様が振り返る。

あ・・・やっぱりあの人だ、王様と僕を睨んでいる。
王様が僕をかばうように悪魔に立ちはだかる。
がんばれ王様、何かあったら僕もたたか・・・?

折角王様と共に、戦う気満々だったのに
急に頭にピリッとした刺激が襲ったと思ったら
そのまま意識が薄れていくのを感じ、その場に
倒れてしまった。

あれからどれだけたったんだろうか。
うっすらと目を明けると王様が僕をベットで
介抱してくれていた。
体はどこも痛くないけど頭がまだぼんやりする。
あれ・・・なんかいい匂いがする。ご飯の支度かな。
うーんでも・・・また眠りそう。

王様・・・心配かけてごめん、僕は大丈夫だよ。
だからご飯が来たら起こしてね・・・。




                  ディオの章
                 (チビの正体)


長い髪の男が俺を王の間へ導いていく。
長い廊下を歩きながら俺はぼんやり考える。
どうも記憶が曖昧としているのは気持ちが悪い。
俺が世界を征服しようとしているのは覚えている。
だが世界を征服しようとしたきっかけは何だ。
そもそも俺は今こそこんな力を得ているが、元々は
ただの人間だったはず。
何がきっかけでこんな力を得た?
そうだ石仮面だ。
ならそれをどこで手に入れた?
それは俺の・・・・そうだ、俺の住処だ。
だが正確には俺の住処ではない、いずれ俺の住処に
なる場所だった屋敷だ。
その屋敷はどうなった?燃えたんだ、全て瓦礫と化した。
それがもとで俺は死にそうな目に遭い、奴も酷い怪我を負った。

しかし奴は生きている。

俺の邪魔をする為に。

そうだ・・・ジョジョ、奴の名はジョジョだ。
だがジョジョはあだ名だ、正式な名前は
ジョナサン・ジョースターだ。

よし・・・少し思い出せたぞ。

しかしなぜ俺は敵である奴の名前をあだ名で呼んでいるんだ?
親しかったのか?いや、親しかったら敵ではないはず。
それとも親しかったのに裏切ったから敵に回ったのか?
いや、裏切ったのはあいつではなく俺だ。

俺はあいつを裏切るために共に生きていたんだ・・。

「・・・・様・・・ディオ様!」

ふと後ろから聞こえる髪の長い男の声に我に返る。
気が付くと俺は大きな扉の前に立ち、その扉に手を当てていた。
長い髪の男の様子からするとどうやらこの大きな扉が
王の間らしいな。
俺はそのまま男の制止も待たず、力を入れ扉を開ける。
そして目の前に佇む男との初のご対面をする。

目の前の男は確かに俺と同じ金の髪を持ち
凄まじい威圧感を身にまとっている。

これが・・・未来の俺か。

しかし何か違和感を感じる、俺と同じ体なのに変だ。
さらにおかしい事に、未来の俺なはずなのに
懐かしい感じを覚えるのは何故だろう。

まあいい、判らないことは聞けばいい。
だが、残念ながら二人きりでという訳ではないらしい。
未来の俺の後ろに隠れている小さな「もうひとり」。

そう、さっき会った小僧だ。

奴の体からちらほらと俺を覗いている。
恐怖と好奇心の入り交じった目でこちらを伺っている。

お前も俺が気になるのか?
ああ、俺もだよ。

お前はやつに似ているんだ・・・。
思い出したんだよ、ジョジョに似ているんだ。
ジョジョの・・・ガキの頃に・・そっくりなんだよ。

ぜひこっちに来てほしいのだが、奴がそれを許さないだろう。
顔色一つかえないものの、奴の視線が、
奴の体に纏わりつく「気」が俺を近づけない。
もし俺が小僧に何かしようものなら、
今度は威嚇ではなく、力そのもので俺を阻止しに来るだろう。

理由は判らないが余程大事な存在らしい。
まあこれ以上悩むより色々と疑問をぶつけていく方が早いな。
しかし俺が口を開こうとすると同時に奴の背後から
ドサッと何かが倒れ込む音がする。
奴の足元から見えるくせ毛の頭と二つの素足。
何故かは知らんが突然小僧が倒れたようだ。
奴はちらりとだけ背後の様子を伺うと正面を
向き直し俺の質問を待つ。

成程気を失っただけのようだ、何故かはしらんがな。
まあどうでもいい、俺はまず奴とその小僧の関係を聞く。
取りあえず親子ではないようだ。
それはそうだ、ジョジョに似ている小僧が俺の息子な訳がない。
ジョジョ・・・そうだ・・・あいつだ。
ジョジョは一体どうなったんだ?一番知りたいことだ。
しかし奴が言うにはここは百年後の未来で
俺と同じ活動を今も続けているという。
つまりはただの人間のジョジョが、百年後の現在まで
生きている訳がないと言うのだ。
確かにな、もし生きているとしても、いつ死んでも
おかしくない、よぼよぼの爺だろう。
しかし現在はジョジョの子孫が新たな障害になっているらしい。
やはりジョジョは子孫を残して死んだのか。
確かに子を産むのは女の役目だ。
ジョジョが生きていなくてもできることだろう。

とにかくこれまでで一つ確実に判ったことは、
ジョジョに勝てた事。
これだけは素直に喜ばなければならないようだ。
だが礼は言わん、「俺」がこれから成し遂げることなのだから。

しかし喜ばしくない事も一つ判った。
ジョジョの子孫の事も勿論だが
先ほど長い髪の男にも言われた「外に出ることは
死に繋がる」ことだ。
奴らの言葉を鵜呑みにするのも癪に障るが、
試しついでにこんな所で死ぬのはご免だ。
この城にはそこそこの暇つぶしもあるようだし
無理に出なくても、いつかは元の世界にも戻れると奴は言うし
大人しくしておいてやろうではないか。
ひとしきり質問も済んで押し黙ると
大体の事は理解したと確信したのか、奴は俺に
奇妙な事を命令してくる。
それは「女」と「食事」をとるときは自室でやれと言うことだ。
早い話「教育」の妨げになるようなことを
小僧の前でやるなというのだろう。

馬鹿馬鹿しい、なぜ俺がこの小僧に気を使わねばならん。
この俺ともあろう者が、そこまでそいつに入れ込む理由が判らん。
俺は思い切って聞いてみる、その小僧の正体を。

「過去から来たものだ・・・。」

あくまでもその名を語ろうとはしないが
奴の口から出た言葉で全てを理解し思い出す。
全てというのはその小僧の全てだ。
その小僧は間違いない・・・ジョジョ本人だ。

それがわかった途端、俺の頭に血が上る。
何故だ、何故そいつがそこにいる?
そして何故、そいつを殺さない?
今の俺の世界征服の最大の壁はジョジョなのだ。
そんなことは判っているだろう?
俺が感情に任せてジョジョに向かって手を伸ばすと
奴がジョジョを守るかのように再び立ちふさがる。
理由を尋ねると、なんと愚かな事か、仲良くなりたい
からだとほざいてきた。
その狂言ともいえる発言に思わず罵詈雑言を
浴びせそうになるが、それと同時に今までの奴の発言との
矛盾を感じ、俺は少し考え込む。
奴は世界征服を今も続けているという。
それなのにジョジョと仲良くなりたいと言っている。
ジョジョと仲良くなりたいのならそれは無理だ。
あの正義感の塊に、悪に寝返れと言っても不可能だろう。

だが「俺の正体」がばれなければそれは可能だ。
「俺」がいい人だと奴に信じ込ませればそれは可能だ。
外に出て「俺」の情報が耳に入ってこなければ可能だ。
そして都合のいいことに小僧は外に出られない、俺と同じように。

しかし何故ジョジョにそこまで気を使わなければならない?
優しい自分を演じなくても、力だけで簡単に
ねじ伏せることができるはずだ。
恐怖でいう事を聞かせて奴隷のように扱えばいいのでは?
とにかく俺はこいつの為に優しい自分を演じる気はない。
だがそんな俺の気持ちなどとっくに見通していたのか
奴が俺に忠告をする、口は出させないと。

これは驚いたな、俺がそれに従うとでも?
などと思って鷹をくくっていたが突然訳の分からない
強烈な力がいきなり俺の口を塞ぎ、俺の体を拘束する。
まるでもう一人の俺が出てきて、体を拘束しているみたいだ。
俺は力の限り抵抗するが、びくともしない。
奴はというと抗っている俺をただ黙って見つめている。

いや正確には俺の後ろの「何か」を見つめているのだ。

そして俺が観念した素振りを見せると同時に戒めが解かれる。
もう俺を束縛している物の気配も圧力も感じない。
だがしかし、きっとこれで終わらせる気などないだろう。
再度暴れれば、また俺は束縛される、今のは試しに警告した
とでも言う所なのだろうな。
どうやらこの不可思議な力は俺の新しい能力らしい。
悔しいが、今の俺ではまだ使いこなせない代物のようだ。
結局俺はこいつに従わなくてはならなくなったようだな。
まあ・・・いい、不愉快だがこいつは未来の俺なのだからな。
過去より未来の方が優れていてくれないと困るしな。

俺は床に倒れている幼いジョジョを見つめる。
俺がであって間もないころのガキのジョジョだ。
同年代の時は、煩わしい以外は何とも思わなかったが
年が離れてみるとなかなか、か弱く可愛らしくも見える。
きっと身も心も純粋で綺麗なままなのだろうな。
俺の奥底にあるどす黒い感情がうずき出す。
仲良くか・・・ふふ、それもいいかもな。
なんだか俺も可愛がりたくなってきた。
苛めはしないさ、たっぷり俺流の愛を教えてやろう。
優しく圧力をかけて・・・その身と心を支配してやろう。
もし俺が戻った時、お前はどう変わっているのかな?
俺に寵愛を求めずにいられなくなっていたらどうしてやろうか。
ああ、俺は別に構わない、お前を受け入れてやる。
昔のよしみだ、たっぷり可愛がってやる。
せいぜい堕ちてみろ、情けなく俺にすがれ、俺を求めろ。
俺はあざけりながらお前を可愛がってやろう。

半ば強引この部屋に押しかけることを前提として、
奴の提案に便乗すると踵を返し自室へと戻る。

静かな自室のベットの上で寝ころびながら俺は考える。
さて・・・楽しみは増えたものの、どうやって
ジョジョに手を出すかだ・・・。
多分奴も俺の好きにさせる気はないだろう。
アイツの見えない力について少し知る必要があるな。
すると・・・さっきの男が一番適任だな・・。
俺の事をえらく慕っているからな・・よく判っているはずだ。
俺はさっそくヴァニラという男を呼んでくるように
近くを歩く部下に命令する。
ほどなくしてヴァニラが俺の元へと現れる。

「ディオ様、どういったご用件でしょう。」

深々と頭を下げる男を招き入れると椅子に座らせ
質問を始める。
質問は勿論、「俺」の事だ。
お前は知らないはずがない。
そうじゃなきゃ「俺」についていかないはずだ。

「お前は何故「俺」を慕う?」

「貴方の生き方に感慨深いものを感じたからです。
 その魂に強く魅せられた・・・とでも言っておきましょう。
 あまり言わせないでください、私めにもまだ
 照れ臭いという感情が残っておりますので・・。」

「俺の為になら、たやすくその命を手放すか?」

「死ぬ気はありません、ああ、誤解なさらないように。
 命が惜しいのではありません、少なくとも
 役に立たずして死ねないという事を申し上げたいだけです。
 DIO様をがっかりさせるような死に方だけは出来ません。」

流石にこいつは重要なポジションについている者だけあって
雑魚供とは考え方が違うようだ。
そう言えば「俺」もこいつには心を許しているのか
他の部下たちよりも目にかけているようだ。

「俺を熟知しているようだな。」

「熟知だなど恐れ多い、まだまだ私めなどには
 理解できないことの方が多いのです。
 ですがその謎めいた所がまた一層私や部下どもを
 惹きつけてやまないのでしょう。」

「お前も・・・いやお前らもあの力を使えるのか?」

「力と言いますと?」

俺はさっき体験した不思議な力について話す。
男は「ああ・・」と相槌を打つと
俺にその力について語り始める。

「それは「スタンド」ですね。誰もが使える
 訳ではございません。素質のあるごくわずかなものだけが
 使えます。かくいう私めも一応スタンド能力は持っております。
 憎きジョースター一族とその仲間も能力が備わっています。
 まあ、そんな能力でもない限り、ただの人間如きが
 我々に叶うはずがないですけどね・・・・。
 そしてそのスタンドの中でも頂点に立つ強さを誇るのが
 我が主DIO様のスタンドになります。 」

「その技の能力は?」

「そんな意地悪な質問はなさらないでください。
 私如きにそのようなことを知る権利はございません。
 私にわかるのは最高にして最強のスタンドだと
 いう事だけです。」

そう言いながら困ったように笑ってはぐらかすが
本当は教えないように言われているだけなのだろう。
しかし何の根拠もなしに「嘘だ」とも言えないし
どうやら奴のスタンドについては自分で色々と
理解していくしかないようだ、
これ以上の奴の質問は無意味だと感じた俺は話を変える。

「質問を変えよう、お前のスタンドとやらの能力は・・?」

「私のスタンドですか?DIO様に比べたら
 取るに足りませんがそれでもよければ
 教えて差し上げましょう。」

そういうとヴァニラは俺に丁寧に
スタンドとやらの能力を教える。
ついでにほかの奴らのも知ってる限り教えてもらう。
成程・・・特性についてはなんとなく判ったが
一番興味を持ったのは、そのスタンドの行動範囲の事だな。
遠距離型もいれば短距離型もいるらしい。
ただヴァニラという男は奴のスタンドがどっちかは
教えてくれなかったが、それも自分で調べるしかない。

まあいい、人まかせすぎるのも面白くない。
俺はヴァニラを帰すと、再びベットに寝ころび目を閉じる。

明日から、さっそく試してみるか。
頼むから目が覚めたら過去に戻されたなんて
つまらない結果にはならないでくれよ?

三章へ続く




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