遠い昔にライバルの体を貰いあれから百年たった今、ようやく頼もしい
部下も増えていき、今や俺はこうして
この世の王になるのを待っているだけとなっている。

そう本当に「待っているだけ」なのだ。

今の俺のやれる事といえば、仲間を増やすか、命令を下すか、
状況を聞くか、女を食う(性的な意味も含めて)か
それくらいしかない訳で・・・。

しかもその全ては部下達が手配してくれるので
やはり俺は待っているだけなのだ。つまり何が言いたいのか
と言うと・・・・。

(非常に暇だ。)

沢山ある本も全て読みきってしまったし、音楽も映像も
最近では聞き飽きてしまった。何もする事がない俺は
ベットに寝転んで頬杖ついているだけ。仕方ないので時々過去を
思い出し、その想いにふける。

俺には慕ってくれる部下は沢山いるものの、同等な立場の
「友」がいない。因みに俺の言う「友達にならないか」は
部下にならないかという言い回しであって、本当の友ではない。

かつてこんな俺にも「友」と認めた男がいた。
しかしお互いを理解してても「生き方」が全く違っていた為
酒を酌み交わし、語り明かすような事は一度も出来なかった。

そうなのだ。いつも後悔している。反発しあってても
俺のことをよく理解しているのはあいつしかいない。
なぜ早々と俺と同類にしてしまわなかったのだろう。
俺と同じ吸血鬼になってしまえば、奴も考えを改め
共に生きてくれたのではないだろうか。しかしそれと
同時にこうも考える。

いや・・あのクソ真面目な頑固者の事だ、無理に吸血鬼にしてしまえば
自ら進んで太陽の光を浴び自滅する事を望むかもしれない。
それに吸血鬼にしてしまうと
あいつの魅力が大きく損なわれるかも知れない、それも正直
俺を躊躇させた原因の一つだ。

(なんのかんのいっても俺はお前を気に入っているんだな。)

カーテンの中にある水晶玉の中の、かつての「友」が今だ俺の傍に
眠っている事が、奴に執着している何よりの証だ。
何の反応もないがそれは明らかに生きている。
時折動く睫が生きている証拠だ。これがあるのであえて
孤独は感じないのだが、たまに空しくなるときがある。

(語り合えなければな・・・。)

ああ、深く考えれば考えるほど気が滅入りそうだ。気分を替える為
俺は気晴らしに、最近新しい研究をしていると言う実験室へと
足を運んだ。

今、この実験室では仲間を増やす事と、時間の研究に取り組んでいる。
仲間などこの手でじかに増やせばいいのではないかと言われそうだが、
この俺が本当に欲しいのは、優れた能力を持った仲間だ。
誰でも良いなら、それこそ研究など必要ない。しかし優れた能力を
持った者はそうそういる訳ではないし、探すのにもつかまえるのにも
相当な時間と労力を要する。

つまりこの研究は優れた能力を持った者の、クローンを
作るためのものなのだ。
まず下っ端の部下で試したところ、成功はしたが
屋外に出した途端すぐに
死んでしまったらしい。勿論太陽の出ていない時間帯にだ。
次は人間で試したそうだが、これも同じで
外に出た途端死んでしまったと言う。

原因は判らないらしいが、これでは館内でしか活躍できないと研究者も
頭を痛めているらしい。俺が実験室に入るや否や、
長髪の男がいそいそと
近づいてきて深々と頭を下げる。
俺の右腕的存在の男でもある、ヴァニラだ。

「これはDIO様、こんな所までご労足されるとは・・
 して何用でしょうか。」

「いや・・クローンの件は進んでいるのかと思ってな・・。」

「申し訳ございません。相変わらず進んでおりません。以前己
 自身を使ってクローンを作ってみたのですが・・。」

なるほど、己自身を実験に使うとはたいした奴だ。
ヴァニラはかなり頼りになる存在だ。多くいても無駄になる
戦力ではない。しかしクローンが出来たのなら真っ先に
報告に来るだろうがそれがないと言う事は
何か問題でもあったのだろうか。

「ほう・・それで結果は?」

「はい、めでたく私自身のクローンは出来上がりましたが・・・。
 反抗的な態度を示したので、殺してしまいました。」

そのあっさりとした口調からするとクローンとはオリジナルよりも
弱いらしい。しかし反抗心があるとはどういうことなのだろう。
確かに俺に忠誠心がないのならいても邪魔になるだけだが。

「お前のクローンが反抗したのか?」

「ああ、ご心配なさらずに、DIO様にではありません。
 この私めにでございます。いやはや、性格までそっくりで
 少々参りました。実はクローンがDIO様を慕う余り、
 この私が邪魔だと言い始めまして・・・。
 殺しにかかってきましたのでつい・・・返り討ちに。」

「・・・そうか・・・。」

どんな一幕がその時にあったのか少し興味があるが、
今俺がここに来た
目的はそのことを聞くためではない。しかし、今の言葉で
確信したが、誰のクローンでも作れる事は確からしい。しかも
クローンを作るための素材はほんの数センチの皮膚でもあれば
作れると言うことらしいのだ。ふと奴の顔が頭に浮かぶ。
しかし同時に、奴を水晶球に閉じ込めた魔術師の言葉も思い出す。

『これで、この男は首だけのまま生き続けるでしょう。しかし
 一つ注意点がございます。
 この男をいったん水晶球からだしてしまうと、
 再び戻す事はできません。勿論この私でもむりでしょう。
 そうなればこの男は急激に腐敗し、骨と化し灰となります。
 くれぐれもお忘れないように・・・。』

つまり、ジョナサンを水晶球から出して皮膚を摂取すると言うことは、
俺にとっても奴にとっても最後の賭けとなってしまう。
外に出ると死んでしまうなどと言う不完全なクローンを生み出す為に
危ない賭けは正直したくないものだ。

どうしたものかといつもの癖で、左肩を揉み解す。
肩がこるというわけではないのだが、馴染まない
左半身をほぐすためいつも無意識にやっていることだ。

(・・・なじまない・・?そうか・・これは奴の・・。)

ふと、肝心なことを思い出し、その手を止める。。
そうなのだ。忘れがちだがこれは奴の体でもある。
これも賭けだが、試してみても何も問題はないだろう。

俺はおもむろに肩の皮膚を千切る。失敗したときの為の
もう一枚も千切るとそれをヴァニラに渡す。ちなみに
一つの皮膚は星の部分のものだ。

「これで一つ試してくれないか?」

「DIO様!ご自分の体を傷つけるなどと、何と勿体無い!
 しかし、このヴァニラ、DIO様のクローンを作るためなら
 どんな苦労でも・・・。」

ヴァニラは俺から受け取った皮膚を愛おしそうに握り締める。
どうやら俺を作れと言われたと思い、興奮しているらしい。
張り切っている気持ちを削ぐのは悪いのだが、
間違いは訂正しておかないとな。

「・・・いや、その・・ジョナサンが作れるか試したいのだ。」

「・・・?あの男をですか・・?」

ふと、さっきまでの喜びに満ちた顔に曇りがかかり
今から戦いにでも行くような険しい顔立ちになる。
こいつはどうも俺に必要以上にまとわりつく奴を嫌う。
つまりこれから当分俺の相手をして貰う予定の
ジョナサンに嫉妬心を抱いたのだろう。これはひとつ
釘を刺しておかなければ危ないかもな。失敗したフリをして
こっそり殺してしまうかもしれない。

「やってくれるよな?お前は俺の期待を裏切らない男だよな?」

「・・・は・・。DIO様がそう仰るのなら・・・。」

明らかにテンションを低くしながらも俺の要求を呑むと
礼儀正しく一礼して、研究者達の傍へと近づいていった。
俺はそれをしっかり確認すると自室へと戻っていった。


さて、後はまたひたすら「待つ」のみだ。
いつもと同じようにただひたすらに。


そして数週間がたち、ヴァニラが満足そうな顔でやってくる。
しかしその報告は俺が聞き望んでいた事とは大分違っていた。

「・・・ヴァニラよ。俺は自分を作ってくれと頼んだのでは・・。」

「まあ、お待ちください。あの男が出来てないとは言っておりません。
 ただ小事の前の大事と言いましょうか、DIO様のクローンが
 生まれた喜びをどうしてもお伝えしたくて・・・。」

普通大事の前の小事というのではないのだろうか。まあそのくらい
こいつは判っているだろうが、
こいつにとっては俺の方が大事なのだから
わざとそういったのだろうな。正直俺のクローンはどうでもいいのだが
先に聞いてやらないことにはこいつの気が治まらないだろうし、
聞いてやるか。

「で、そのクローンはどうしている?俺に瓜二つなのか?」

「正確に言いますと過去のDIO様にお姿が瓜二つでございます。
 美しさといい、気品さといい完璧ですな・・・。
 今はまだ眠られておりますがもうそろそろ目が覚めると思います。」

ヴァニラはうっとりしながら、俺のクローンを思い出して
悦に浸っているようだ。そんなに気に入っているのなら
プレゼントしてやってもいいかな。俺には要らないし。

「ヴァニラよ。その「俺」の面倒はお前が見てくれないか?して
 ジョナサンの方はどうした?」

「そんな勿体無い!しかしDIO様がどうしてもと仰るなら・・・。
 ふふふ・・・光栄です。あ・・失礼・・・その・・もう一人のあの男の
 ことなのですが・・生まれるには生まれたのですが、どうも
 DIO様とは違い、成長が遅いようでして・・・。やはり
 いろいろと未熟なんでしょうな・・。少年の姿のままずっと
 眠っております。年のころは・・12〜3歳と言ったところ
 でしょう・・・。」

いきなりのプレゼントに喜びを隠せないヴァニラだったが、
俺の冷静な眼差しに気づいて気まずくなったのか
すぐ気を取り直し、先ほどの質問に答える。

12くらいか・・・確かにその位なら話し相手にはなるだろうが
いらない面倒まで俺が見なくてはならなくなりそうだ。

「ふむ・・・もう少し育ってからでも悪くないのだが・・・。」

「しかし、あの少年姿の男をこのまま皆の前にさらすのは
 部下達にとっても目の毒でございます。」

「・・・?なぜだ?」

「なにせ、人間の子供でございますから・・。いやがおうにも
 食欲を激しく刺激されるようで・・・、じつは今までも何回か
 中の子供を食おうとビーカーを壊して奪い取ろうとした事件が
 ありまして・・・。勿論奴らは全員処分しましたが・・・。」

要するにヴァニラはこういいたいのだろう。これ以上放置しておくと
ジョナサンの命が危なくなると。どうやら俺が奴の
面倒を見なくてはいけなくなったらしい。

「・・・。判った。つれて来い。」

「はっ。すぐ連れてまいります。」

かくして俺は子供のジョナサンを相手に奇妙な共同生活を
はじめる事となってしまった。
これから一体どうなってしまうのやら。

 

エピソード1 DIOの章

{久しぶりの再開}



俺が ヴァニラに命令してから一時間たっただろうか。外から
ペチャクチャと子供が騒ぎ立てる声が聞こえてくる。この声は
聞き覚えがある。そう、間違いなく子供の頃の奴のものだ。

コツコツとノックがすると共に、ヴァニラが時折子供を
叱りつけるような怒鳴り声が外から聞こえる。早く出てやらないと
ジョナサンの命が危ないかもな。俺が扉を開けるとそこには
仏頂面をしたヴァニラと、ダンボールに入った・・
いやダンボールを「履いた」子供のジョナサンがいた。

ヴァニラにどういうことか尋ねると、「下着が欲しい。」などと
生意気な事を言ったので、ダンボールを履かせたとのことだ。
確かにビーカーから生まれたままの姿で出てきたのだ。
羞恥心のある年頃であればそれも仕方のない事。しかしなんと
奇妙な格好だ。俺が上から覗こうとすると「覗くな!」と
ちびジョナサンが顔を赤くして怒鳴る。隣にいたヴァニラが
カッとしてジョナサンを殴ろうとしたので俺はその手を止める。
今のジョナサンの体力や防御力がどれ程なのかは知らないが
こいつが殴れば運が良くても大怪我はまのがれないだろう。
俺に看病までさせる気かと、奴を嗜めるとしぶしぶその手を
ゆっくりと下ろした。

とにかくこのままでは面倒なことになりそうなので、ヴァニラを
早々に帰し、ジョナサンのために着れそうな服をさがす。
その間ジョナサンはどうしたかと言うと、
段ボール箱を「履いた」まま
あちこちを珍しそうに見て回っている。俺と目が会うと慌てて
カーテンの中にもぐりこみカーテンの隙間から、ちらちらと
俺の様子を伺う。落ち着きはないものの特に慌てふためく様子もなく、
逃げる様子も見せない。

一体何を考えているのだろう。ここに入ったからには子供の力では
扉は開けられないので、にげることはできないが
何故こうも自由奔放なのか理由を聞きたいものだ。
とりあえずあの格好を何とかしてやらねばならんようだ。


俺はとりあえず自分のハイネックの上着を
ジョナサンに投げつけてやると
慌ててそれを拾い上げ、生意気にもカーテンの中に入り込み
ごそごそと着替え始める。着替え終わると辺りを見回し
チョコチョコとカーテンから出てきて俺に近づいてきた。

当たり前だが凄くぶかぶかで、裾などかなり捲りあげなければ
ならないほどだ。だがハイネックなので首周りも大分余分はあるが
肩からずり落ちる事はなく、丈はひざまで隠れている。

当分はこれで良いだろう。そもそも子供の服など元からないのだ。
嫌だなどと抜かしたら、裸でここに住まわせてやる。

ペタペタと足音をさせながら少しづつ俺に近づいて、ぎこちない
挨拶を交わす。淡い空色のような青い瞳が俺の顔や体を隅から隅まで
映していく。そしてベットに腰掛けている俺の首を覗き込むと
許可もしていないのに勝手に襟首を引っ張った。

「・・・本当だ・・・。」

背後からちびジョナサンの声がする。
俺には見えないが多分「星」の痣を確認したのだろう。
途端に表情が明るくなり俺に握手を求めてくる。
俺が手を握ると、それが嬉しいのか握る小さな手に力をこめる。
俺とは違って暖かく、そして柔らかい。どうやら俺の
吸血鬼である遺伝子はこいつには受け継がなかったようだ。


そういえば俺が正式に奴と握手を交わしたのは、一緒に暮らして
少したってからだ。無論交わしてきたのは親愛での意味の握手
などではない。「親愛のフリ」をした握手だ。あの時は
いつも思っていたものだ、このまま握りつぶせたら面白いのになと。
毒の生えた棘でも生えていれば良いのに、などと。

その後俺は奴の手を握りつぶすくらいの握力は手に入れたが、結局
この手で奴の手どころか首すらも握りつぶす事は出来なかった。

今この手に力をこめればこの小さな塊はいともたやすく
壊れてしまうだろう。昔ならそうしてたかもしれないが
今の俺は違う、そもそも痛めつけるためにこいつを生み出した
訳ではないからな。せいぜい懐いて貰わないと。
そして俺に惚れてもらわないとな。

実は前から試したいと思っていた。もしやり直せるのなら
他の仲間のようにこいつを俺の虜にしてみたいと。
こいつの上手い扱い方は勉強済みだ。優しい自分を演じればいい。
肝心なのは最後まで偽善者と言う事がばれない事だ。
この男は弱者と優しいものに油断しやすい。
それに片親しかいないため
包まれるような愛には飢えているはずだ。

せいぜい俺に甘えろ。俺を好きになれ。
お前が消えてなくなるそのときまで俺はお前を
優しく愛し続けるフリをしてやる。

俺が優しくその小さな頭を撫でるとチビは
更に破顔して甘えるように俺の体に凭れ掛かった。



可愛いものだ。何も知らないというのは。



エピソード1 ジョナサンの章

{目覚めた場所は}


ぬるい。つめたい。あたたかい。

一言では言えない感覚が全身を包んでいる。

かるい。ふわふわ。ゆらゆら。

重みを感じない体。わずかだけど
ゆらゆらと揺れている気がする。
なんだろう、とても懐かしい感じ。遠い遠い昔に
こんな所にいたような・・・。

折角いい気持ちだったのに、
ガコンと大きな音がして突然僕の体に重さと軽い痛みを
感じ、うっすらと目を明ける。すると目の前に丸い
ガラスと何人かの男の人達がいてなにやらぼそぼそと話をしている。

ここはどこだろう。僕は誰だろう。・・・ううん、それは判る。
僕はジョナサン。そして僕の記憶では、常に優しい大人の男の人と、
意地悪な同い年の少年が傍にいたのを覚えている。
でも何故だろう。その人たちの
名前が出てこない。顔は判るのに、その人たちとすごした事は
なんとなく判るのに名前や僕との関係が全然思い出せない。
こんなことってあるのだろうか。

ウィーンと変な音がして目の前のガラスが開く。
途端に肌に外気があたり
改めて自分の今の格好を思い出し赤面する。なんてことだ、
すっぱだかじゃないか!
目の前に女の人たちがいないのは良かったけど
僕を見ている男の人たちはみんな服を着ているし、僕を見ている。

慌てて前を隠すと、無言で髪の長い男の人に
引っ張られる。この人は随分
変な格好をしているんだな。
でももっと恥ずかしい格好をしているのは
僕の方だけど。

「し・・下着をちょうだい!」

長髪の男の人が何も言わないまま、
僕を裸のまま外に連れ出そうとしたので
慌てて止める。僕裸なんだよ?そんな恥ずかしい
格好で外にでれるわけないじゃないか!
紳士はそんなみっともない格好を人前にさらしちゃ
いけないんだぞ!・・・あれ?紳士・・・?どうして僕は今そう
思ったんだろう。

長髪の男の人が僕の言葉に、
面倒くさそうに顔をしかめて辺りを見回す。
ふと僕が出てきて、ビショビショになった床を他の人たちが拭いて
綺麗にしている雑巾を見つめる。

「そんな汚いものが下着の代わりなんて嫌だ!」

そもそも、ばい菌が入らないように下着をはくのに、ばい菌の温床
でもある雑巾を股間にあてがえだなんてどういう神経をしているんだ。
この人は確かに口ではそうとは言ってないが、
その目が「これでいいや。」と言っているんだもん。
それが証拠に男の人は「ちっ」と舌打ちをすると、
しぶしぶ他のものを探し始める。ふと黄土色の
箱のようなものを見つけると、その拳で手早く二つ穴を開ける。
あの・・・それってまさか・・・。

「下着だ。」

差し出した(どう見ても)箱状のものを僕に押し付ける。
露骨に嫌そうな顔をすると凄い顔で睨まれる。

「これ、どうみても下着じゃ・・・。」

「ならこれは何だ?説明してみろ。」

「箱・・・。」

「こんなくにゃくにゃしている箱があると言うのか?」

「うっ・・・。」

確かにその箱みたいなもの見た事のない
素材で出来ていて、布のように折りたたむ事もできるようだ。
その上見た目は箱なのに何故か布よりも暖かい感触だ。
僕が迷っていると「嫌なら裸の王子様にでもなるんだな。」と冷たく
あしらわれた。結局選択肢はないって奴だ。強そうな人だし
ここは悔しいけど従うしかないのかな。裸よりは
きっとマシだ。うん。そう思うことにしよう。
僕は結局長髪の男の人に従い、ついていくことにした。
ふと背後から視線を感じてそっちを振り向く。

金髪の・・・・赤い目をした・・怖い感じの男の人が僕を見ている。
綺麗な顔をしているけど、とても冷たい表情をしている。

でもなぜだろう。懐かしい気もするのは。

そしてその人はなぜずっと僕を見ているのだろう。

突然僕の頭がぐるりと前を向く、長髪の男の人が
無理やり前を向かせたのだ。

「見つめるな。減ったらどうするんだ。」

「どういう意味!?」

大きな扉が開いて僕は外へ連れて行かれる。最後まで扉が閉じる
その瞬間まで金髪の男の人は僕を見ていた。

その後は無言で長髪の人と長い廊下を歩く。辺りには幸いな事に
人はいなく、まばらに通る強面の男の人たちが
長髪の人に敬語で挨拶をしていく。どうやらこの長髪の
人は偉い人らしい。でも、いくら偉い人だからって・・。

「質問位してもいいでしょ・・?」

おしゃべりが嫌いなのは結構だけど、どこに
何の目的で連れて行かれるのか判らないなんて
不安になるじゃないか。長髪の人はあくまで僕を見ずに
ぶっきらぼうに、質問したい内容を勝手に解釈して答えていく。

「今連れて行くのはDIO様の部屋だ。
 DIO様というのは、この世の王になられる偉大な方だ。
 お前は、そのDIO様のお相手をする資格を持った者だ。
 非常に不愉快だが、DIO様がそう望まれるから仕方がない。」

「その人と僕との関係は?」

「不愉快だが、貴様はDIO様の友人と深いかかわりがある。」

「そのご友人って、僕のお父さん?それともお兄さん?」

「そんなことはどうでもいいだろ!お前は今から
 DIO様の寵愛を受けるのだ。
 なのに何の不安があるというのか。全く不愉快な!
 ああ、それとなお前の肩と
 DIO様の肩には同じ痣があるが・・・。まあ、
 それはDIO様が説明する事だ。
 ほら、ついたぞ。くれぐれも迷惑をかけるな。」

長髪の人が突然足を止める。目の前には見上げるほど
大きくて重そうな鉄の扉。それにしてもこの人、喋るたびに
いちいち不愉快ってつけて・・・余程不愉快なんだろうな。

でもそんなことより、僕の肩の痣って・・・もしかして「星」の事かな・・。
その王様にもついてるって言ってたけど、なんか楽しみだな。
このあざを持っている人を他に見た事がないから・・・。
そう、僕が知っているのはこの世に一人だけ。あれ?でも誰だっけ。
その人の名前がどうしても思い出せない。なんでこんなに記憶が
あやふやなんだろう・・・。

僕がぼやっとしていると、薄暗い廊下に光が差す。
隙間から見える豪華な部屋。
部屋の真ん中には大きなベット。
そこに誰か寝ている。背の高そうな男の人。

金色の髪を持ち金色の瞳を持っている人。
あれ?変だな、さっき見た怖い男の人に似ている気がする。
とういうかそっくりだ。兄弟なのかな。

でももっと変だな。そっくりなのにこっちの
男の人の顔は怖いと言う感じは
あまりしない。怒るととても怖そうだけど、
なんだろう不思議とひきつけられる。

長髪の人が丁寧にお辞儀をすると、金髪の男の人が
こちらに近寄ってくる。
そしていきなり僕の箱の中を覗くものだから、つい怒鳴っちゃった。
だって、大事なところを覗くんだもん。いくら男同士だからって・・。

ただ言い方が悪かったとすぐ後悔する。
明らかに長髪の人が怒っている。
「王様に対して無礼者!」とばかりに長髪の人が僕を殴ろうとする。
けど「王様」と呼ばれる男の人はその手を止めてくれる。
よかった。思ったよりもいい人みたいだ。

いやまだ油断は出来ない。「王様」は長髪の男の人を帰し、
僕を部屋へ招き入れる。

わー・・・なんだか不思議なものが一杯・・・。僕は挨拶も忘れて
王様の部屋を見て回る。ふと王様がごそごそと
何かを探し出している。

えっ?何をする気だろう。ピストルとか出して
バーンって撃たれたらどうしよう。
僕がカーテンの中に隠れて様子を伺うと、
王様が黒い自分の服のようなものを
僕に投げつけてきた。せっかくなので着替える事にする。
そうだ一応カーテンの中で着替えよう。
紳士だもの、礼儀をわきまえなくちゃ。

王様がくれた服はやっぱり大きくてぶかぶかだ。
でもさっきの格好より百倍マシだ。
ベルトとマントとブーツがあればどこかの冒険者みたいにも
見えなくもない。
贅沢を言えばパンツとズボンも欲しいけど。
一応お礼は言うべきだよね。

僕は王様に近づいてお礼と挨拶をする。
切れ長の瞳が僕をじっと見つめる。その表情からして怒っている
訳ではないみたいだけど、考えていることがわからない。

それにしても不思議な人。はじめてなのになんか懐かしい匂いがする。

そういえば・・・この人の痣が僕と同じだといってたな。
本当なら断って見せてもらうべきなのについ気持ちがはやって
勝手に後ろに回り肩の辺りを覗く。

そこには間違いなく僕と同じ「星」がついていた。

嬉しい。この人は仲間なんだ。僕が握手を求めると少し微笑んで
その大きな手を差し出してくれた。そしてそっと
優しく握ってくれた。僕より冷たい手だけど・・・
なんだろうこの感触・・・とても安心できる感触だ。

そしてその手を僕の頭に乗せ、くしゃくしゃと撫でてくれた。
なんだかとても嬉しいな。心がホカホカしてきた。

うん、もう大丈夫だ、疑ってごめんね。
王様はいい人だった。僕も王様と仲良くしたい。

これからもよろしくね王様。



エピソード1 ディオの章
{もう一人の俺と謎の少年}

声が聞こえる。
まるで潮騒のようにさわさわと。
ここはどこだろう。
そして体全体を包んでいるこの感触は何なのだろう。

うっすらと目を開ける。
先ず目の前に映るのはガラスのような壁。
見たこともない無機質な鉄の箱の塊が
あちこち置いてある部屋が見える。

俺は薄目のまま更に目を凝らす。
周りに誰かいる。
こちらをじっと見ている。
敵なのか味方なのか全く判らない。
ただ一言言えるのは、全く知らない顔だらけと
いうことだけだ。

俺は誰だ。いや・・俺の名はわかっている。
そして俺自身、普通の人間ではない。
それも判っている。
俺の周りにいた顔もおぼろげだが覚えている。
一人だけ特に鮮明に記憶に残っている人物が
その中にいるが、ただそいつと俺の関係が
どうしても思い出せない。名前も何故か出てこない。

他の奴らとの関係も思い出せないが
そっちは特に気にはならない。

しかしあの男だけはどうして全部思い出さなくては
ならない気がする。そう奴は男だ。
きっときっかけさえあれば思い出すだろう。

とりあえず俺のこれからするべきことは
ここから出て、そして色々聞き出すこと。
そして目の前のモノが「障害物」であれば
すべて・・・・破壊するだけだ。

俺は善人ではない。それだけは確信していえる。

俺が掌ををガラスの壁にそっと当てると
奇妙な音を立てて目の前からそれが消えてなくなる。
俺を包んでいた水のようなものが床下に流れ
急に体に重力を感じバランスを少し崩しながらも
両足で地面をふみしめる。

何故かは知らないが俺は今、全裸のようだ。
目の前の髪の長い、奇妙ななりをした男が深々と
頭を下げ、豪華なローブを俺に差し出す。
必要なものなのでとりあえずそれを
黙って頂戴するが礼は言うつもりはない。
そもそも奴らの真意がわからないからな。
他の連中もとりあえず俺に対してひざまづいているが
本当の忠誠心からの行為かどうか確かめない事には
奴らに気を許すつもりはない。

忠誠心?そうだ、少し思い出してきた。俺には
数多くの部下がいたんだ。俺は奴らを従えて・・
従えて・・・何をしていたんだろうか・・?
決していいことではないとは思うがな。にしても
何故こんなにも記憶があいまいなのだ・・・?
疲れているのか?少しくらくらする。

「・・・如何いたしましょうか・・?ディオ様。」

(・・・・?こいつなぜ俺の名を?)

俺がぼんやりしていると
長髪の男がいきなり俺の名を呼び妙な質問をする。
俺がいぶかしげに奴を見ると、いまだ距離は
保ったまま男は俺に再度同じことを尋ねる。

俺がどういうことか尋ねると、「質問が
あれば答えますがお疲れなら先に休憩を
とってはどうか」ということだったようだ。
正直疲れているが、何も判らないまま休むというのも
ありえない話だろう。俺は迷わず「質問」を選んだ。

長髪の男の話ではこうだ。ここは百年後の世界で
俺は過去から何らかの方法でこの時代に辿り着き
今こうしてここにいるのだと。
そしてここには未来の俺がいて、世界の王に
なろうとしているのだと。

王・・・そうだ思い出した、俺も「王」を
目指していたんだ。そうか、もしこいつの話が
本当なら俺は確実に理想に近づいていっていると
いうことなのだな。悪くない話だ、作り話でなければな。

だが、それではこいつの話からすると俺の出現により
王が二人に増えたということだろうか。
王は二人も要らないのではないだろうか?
少なくとも俺は要らない。俺が未来の王にとってかわることは
できないだろうか。しかしそんな俺の考えなどとっくに
見透かされていたらしく、「万が一、過去が未来を消す様な
真似をすれば自分の未来が消えてなくなってしまうと同じ事」
と先に注意されてしまった。それに心配しなくても今の王は
俺を消すような真似はしないし、俺はいずれ過去の世界に自然に
戻るらしい。待つのは嫌いだが、わざわざ約束された未来を
消すのも馬鹿馬鹿しいからな。それこそ
今までの苦労が水の泡になってしまうと言うわけだ。

長髪の男が言うには、俺がいる間は特別な部屋と
ほしいものは何でも用意をしてくれるらしい。
そこまで言うのならとりあえず信じてみるか。
裏切ったら殺せばいいだけのことだ。

ふと背後から先ほど俺が聞いた妙な機械音がして
辺りが少しざわつき始める。
声のした方を振り向くと俺と同じく丸裸の小僧が
辺りをきょろきょろと見回している。
何だあのガキは。俺と同じような境遇とゆうことは
あいつも過去から来た人間なのか?
長髪の男が俺に一礼すると、その小僧の傍により
何かを話かけている。何を話しているのか良く判らないが
その感じからしてあの小僧は長髪の男にとって
俺のように敬うべき存在ではないらしい。

しかしあの小僧・・・。
なぜだ?どうしても気になる。
あの顔・・・見たことがある。

長髪の男が小僧に箱のようなものを渡すと
再び俺のほうに近づいてくる。

「本当は私めが貴方様のお部屋をご案内したかったのに
 申し訳ありませんが、アレをDIO様のお部屋に
 先に連れて行かなくてはならなくなったようです。
 とりあえず代わりのものをつかわせますのでどうか
 ご勘弁を。・・・申し送れましたが私未来の貴方様の
 忠実な僕、ヴァニラ・アイスと申します。何か
 ございましたら遠慮なくおよびくださいまし。」

そういってやうやうしく挨拶をする男に
俺は生返事をしながらいつまでも小僧の方を
見つめていた。

あの小僧何者だ?後で聞いてみることにしよう。

そして俺は「自分の部下」に案内され
確かに文句のつけようがない美しい部屋を
与えられた。その部下が言う事には
美女が欲しいのならいくらでも連れて来るし、
情報が欲しいのならいくらでも本を持ってくるようだ。
ただし外には出れないので注意して欲しいと釘を刺される。
俺が理由を尋ねると、次元の違う者が外の世界に出ると
すぐ死んでしまうということだ。

ふん・・・。
不便だか仕方ない。わざわざ危険を犯す事はないだろう。
元の世界に帰れる様になるまで待つしかないようだ。
せいぜいそれまで百年後の情報とやらを頭に詰め込むだけ
詰め込んでおく事にしよう。

だがその前に・・・あの小僧の事だけは聞いておきたい。
それと未来の俺とやらに会ってみたいものだ。
それ位はさせてくれるだろう。俺は早速ヴァニラ
とか言う男を連れてくるように命令する。
程なくして先ほどの男がやってくる。

「お呼びでしょうか?なにか所望がございますか?
 お腹がおすきなら飛び切りの美女でも調達
 してきましょうか?」

そう言って深々と頭を下げる男に俺は
わざと意地悪な注文をつきつける。

「腹か・・・そうだな、ならさっきの小僧がいい。
 美女は飽きた。子供を食いたい。」

俺の注文に男は相変わらず頭を下げたまま
顔色一つ変えずに淡々と答える。

「・・子供を所望されているのであれば他の子供を
 攫ってきますが・・・。」

「なぜさっきの子供では駄目なのだ?」

やはり、あの小僧は何か特別な存在らしいな。
うすうす気づいていたがこれで確信した。

「さっきの小僧は未来の貴方様が所望されているからです。
 無論食料としてではありません。
 私個人としてはぜひ食べていただいても構わないのですが。」

男はそう言うと皮肉っぽく笑う。どうやらこいつにとって
あのガキはどうでもいい存在らしい。

「成る程な、「俺の命令」には逆らえないということか。
 なら質問したい。あの小僧は何者だ?」

「詳しくは私も判りかねます。DIO様に関係のある
 者としか申せません。」

「そうか・・・なら未来の俺に会うのは可能なんだろうな?」

もしこいつがここで否定してくるような事を言ったら
無理にでも会いに行くしかあるまい。俺が俺に会いたいと
言っているのだ、問題なぞないはずだ。
しかし男の答えは俺が普通に望んでいたものだった。

「ええ。ですがDIO様はご不在なときも多々ございますので
 会いに行かれる前には必ずこの私めを通してからに
 して頂きたいのです。これは許可ではありませんので
 くれぐれも誤解なさりませんように。過去のディオ様
 にもご面倒をかけさせたくない私からの気配りでございます。」

「・・・ふん。まあいい。なら早速会いたい。
 確認してきてくれないか?」

「仰せの通りにいたします。」

男は再び頭を下げると静かに扉を閉じ足音を遠ざからせていく。
さて・・・どうなることやら、いきなり今はいないなどと
いって俺をがっかりさせないでくれよ。

そして数分後、さっきの男が戻り俺は「王の部屋」に
連れて行かれる。

楽しみだ。

未来の俺はどんな男なのだろう。

そしてあの小僧。

あいつは一体何者なのだろう。


エピソード2に続く





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