扉は開かない3



父さん・・あなたは言いましたね。


僕が小さな頃、自分を憐れんで泣いているとき、


自分を憐れむような情けない男になるなと、


自分に情けをかけるような「弱い」紳士になるなと。


そう約束をして、僕はあなたと誓いの指切りをしました。


僕はあなたの言葉を今まで守り続けてきた。


確かに貴方の言うことは間違っていないと思う。


でも・・・いまだけは・・・


あなたとの「約束」を破ってもいいですか・・・。



今はもう何時になるか判らない。

それほどあたりは深い闇に包まれている。

少年の眼には何も見えない。否、何も見えないのが
せめてもの救いなのかもしれない。

男の低い吐息が少年の耳を掠めその度に震えが走り、
男の低く甘い声が耳に響くたびに瞳が揺れる。

少年には男がどんな顔をしているのか判らない。
金色に輝く瞳さえ見えない深い闇。

次は何をされるのか、どこを触られるのか、
判らない恐怖はあるものの、自分が見えない、
そして、見られていない安心感があるのだけでもましだ。

男の手が少年の薄い胸を優しく揉みしだく。
いっそ、乱暴にしてくれればいいものを
わざとその手は優しく動き、少年から快感を引き出そうとする。

(苦しい・・・苦しい!)

自分に襲い掛かる快感に負けないように必死で手の甲を噛み、
うめき声は勿論のこと、呼吸音すら聞かれないように、
必死で口をふさぐ。

突如男の指が、少年の胸の飾り部分にかかり
そのまま外側の輪郭をくるりと撫でる。

「・・・Iい・・っ・!!」

少年の体はまるで電流が走ったように震え、塞いだはずの口から
堪え切れない悲鳴が漏れる。

男の低く甘い声が、胸の当たりから聞こえる。


「ん?どうした?何かあるなら聞いてやるぞ?」


「・・・・・・!!」


その問いに答えることはできない。男の指は
絶え間なく、胸の飾りの輪郭をくるくるとなぞっているからだ。
口を開けたらきっと、みっともない声を聴かれてしまう。


「・・・何も問題はないようだな。」


男の指が止まり、かわりに熱い吐息が胸にかかる。

次の瞬間、少年の体が弓なりに沿う。

熱く湿った感触が胸の飾りを包み込む。
ぬめりを帯びた熱い舌が、小さな突起を嬲りまわす。
 
「・・・・ううっ!!」

顔中に熱が集まり、固く閉じた瞳から涙があふれる。
襲いくる快感の波に、口を塞ぐ両手の震えが止まらない。

クチャクチャと濡れた音と、自分の口から漏れるうめき声と
苦しそうな呼吸が、一層羞恥心を煽っていく。

(ききたくない・・ききたくない・・!ききたくない!!)

もしも腕がもっとあったなら、耳も塞げるのに。

男の行為を少しでも妨げることが出来るかもしれないのに。

男は散々少年の胸をいたぶったあと、大きな手で、腹を撫でるように
下へ滑らせ、まだ薄い茂みの中へ落としていく。


(・・・そこは!)


今まで頑なに自分の口から離さなかった手を
見えない男を制止するように慌てて伸ばす。

男の小さな含み笑いが聞こえる。


「・・・もう少し上半身を起こさなくては、その手は
 俺の頭にも届かんぞ?ジョジョよ・・・。」



(え・・・?)



少年の腕が止まる。
この男は何と言った?この何も見えない暗闇の中で
自分の何が見えたというのだ?

男の声が耳元で自分の名を呼ぶ。
その途端に瞳が大きく揺れ、体がぞくりとする。


「・・・そんなに俺の声はいいか・・・?」


大人の色気を感じさせるその声に、体が震える。
少年はそのまま
目を開けたまま何もしゃべることが出来ない。


「貴様は俺が囁くたびに、その大きな瞳をゆらす。」


男の顔は相変わらず見えない。
耳元近くで囁いてるのだけは判るが、表情までは読み取れない。
だが次の台詞で男がどんな表情をしているのか、手に取るようにわかっ
た。

「・・・・ククク・・・いや、すまない。これ以上
 騙すのも良くないと思ったものだからな・・・
 意地の悪いことを言ってしまうようだが・・
 俺はどんな闇の中でも、全ての物を見る事が出来るのだ。
 そう、貴様らが普段日中で物を見ると同じようにな。」

そう言いながら、男は少年の鼠蹊部あたりを優しくなでる。
その感触に、少年の意志とは無関係に体が硬直する。


最初男は「優しくしてやる」と少年に言ってきた。
その証拠に絶対に暴力はふらない事と、
辺りを闇にして,何も見えないようにするという条件を
少年に与えた。

少年はそれに納得したわけではないが、
ただ黙ってそれを受けいれる事しかできなかった。
安心という訳ではないが、「闇」の中での行為に
少し恐怖心が和らいだのも確かで。

ただよく考えると、「見えないようにする」とは言っていたが
男は「見ないようにする」と言ったわけではない。

男には見えるのだ、少年の上気した頬も。
濡れた瞳も、愛撫していた箇所も、全てがなにもかも。


少年の体から血の気が引いていく。
体がガタガタ震え、その目には涙をためている。
全て見られていたのだ。見られたくないものすべてが。


心にひびが入る。


自分を支え始めていた何かが、音を立てて崩れていく音がした。


「・・・どうした?何も恥じることはない。羞恥に耐える顔も、 
 その穢れ無き体も、なかなかの上物だ。残念なのはそんなお前自身を
 征服している、俺の顔が見せられない事だけだがな・・・。」


男の手が再び腿の隙間に入る。


「まあ、それも今日だけの事・・次からは嫌というほど見せてやる。
 ・・・ほう・・ここは自分でもあまり「処理」していないようだな
 全く穢れのない色をしている。
そして・・ここも・・・
 やはりな、男を一度も咥えこんでいないから当然といえば
 当然か・・・まあ、心配しなくても簡単に汚れたりするものではない。
 貴様のように簡単に「染まらない者」であれば、いつまでも
 綺麗なままだ。今から試してやろう・・・。力を抜け・・。」

優しいが有無を言わさぬ男の言葉。

言われるがままに言葉で嬲られ、尻を開かされ秘部を
見られている残酷な現実が、自分の目の前で晒されている。
瞳から絶え間なく新しい涙が毀れ、枕を濡らす。

秘部に固いものが当たると
同時に、少年の口から言葉が漏れる。



「・・・・ぃ・・や・・だ・・・」



ゆっくりと男が腰を沈めてくる。少年は天に向って
永遠に来ないであろう、救いの手を求めるように
震える腕を伸ばす。



「嫌だぁぁああ!!!!」



嘆きにも似た少年の絶叫は、むなしくあたりに木霊した。




深紅のカーテンの中。

人の頭より一回り大きな水晶玉。

その中に揺れ動く青い髪。

まるで薬の中のいつまでも色あせない不思議な
標本のように、静かに眠る男の顔。

その瞳は開かず、長い睫毛は伏せたまま。
首から下は勿論無い。

こんな状態で生きてられるのか。

しかし時折動く長い睫毛が
彼がまだ「生きている」ことの証を立てる。

そして彼は今だ「考える事」をやめない。
いや「考える事」を止めることが出来ないのかもしれない。

彼の瞳では確かに「知る」事はできないが
彼の耳では「知る」ことが出来る

そして彼はその耳で「知って」しまった。




二人の息遣いが聞こえてくる部屋の真ん中で
時折悲しく「鳴いている」少年の声。

なすがままに揺さぶられ、その度に
切なく悲鳴を上げる。

確かにあの男は優しく抱いていた。
あの男からしたら、少年の体を労わってやったのかもしれない。
それでもその「行為」自体は、少年の心をズタズタに引き裂いた。
少年の声が出なくなったとき、ようやくあたりに沈黙が流れる。

暫くして男の声が聞こえる。

「・・・また近いうちに会いに来る。しかし優しくしてやるのも
 今日までだ。これからは今以上の感覚に襲われる覚悟をしておくんだ
な。
 逃げようとしても無駄だ。お前はここから逃げられん。
 だがお前に「枷」などいらん。お前の「枷」はこの部屋自体であり、
 このDIOでもある。判ったな・・・逃げても無駄だぞ。
 なあ・・・ジョジョ・・・?」

まるでカーテンの向こうの「なにか」に向って呟くと
さっと身なりを整え、重厚な扉をあけて出ていった。
 
カーテンの中のにある、水晶の中の男の睫毛が、その音に
反応するようにピクリと動いた。




豪華な部屋の真ん中に陣取る大きなベット。

そしてベットの真ん中にぽつんと少年の抜け殻がある。
まるで人形のようにそれは動かない。

何も言わず、どこを見ているのかもわからず
ベットの上にうなだれて座り込んでいる。

その顔色は青白くまるで死人のようだ。

瞳だけが悲しく揺れていた。



ふいに鳴り響く鐘の音。

その途端少年の体がびくりと震え、大きな瞳が開かれる。

カタカタと小さな肩が揺れる。

再び迫りくる闇に「恐怖」しているのだ。


あの時DIOは少年を抱いた後、自分の「仕事」をしに
自分の存在する次元へと戻っていった。そう、この部屋はいうなれば彼

プライベートルーム。次元を超えた特別な部屋なのだ。

この扉を開けられるのは、DIO本人と許された一部の部下だけ。
ここに入るのを許されるのも認められた人間だけ。

今ここにいる少年と・・一回だけ人間の女性が来た。

それと、もう人間とは呼べないのかもしれないけれど首だけになった
今の「ジョナサン」がいる。


※ここからジョナサン(大人)視点になります。



少年は今だ震えるのを止めず、そこから動こうとしない。
口から小さく漏れる呼吸の荒さで、それが見えなくても判る。

昔の「僕」はこんなに弱かっただろうか・・・。

いや・・これは「弱い」なんて簡単な言葉では
片づけられないのかもしれない。

なんとか慰められないだろうか、こんなことを天国の父さんが知ったら
怒られてしまうだろうか・・・

せめて励ましたい。諦めるなと、こんなところで躓いてはいけないと。

彼の心の痛みは計り知れないだろう。せめて恐怖をそして痛みを
変わってあげられたら・・・。

彼の脳にまた呼びかけてみようか・・・上手くいくかもしれない。

彼なら・・・いや「僕」なら立ち直れるはず。


ジョナサンは意識を集中する。
何時ものように夢の中で彼に語りかけるように。



・・・・・・・・・・。



・・・・・・・・・・。





おかしい・・なんだか僕の意識が薄れていくような気がする。

こんなこと初めてだ・・。いけない・・・。

時間が余りないというのに、なのに頭にもやがかかる。

だめだ・・・このままでは・・・。

思考が闇に覆われる。
この時ジョナサンは初めて「考える」ことから解放された。


水晶の中の首の睫毛がピクリとも動かなくなって、数時間が経っただろう
か。

ジョナサンはいつもと違う違和感を覚える。体全体に感じるこの感触。

余りにも遠い過去に感じた懐かしい感触。布の感触、まとわりつく

空気の感触、そして自分の体温。命の鼓動。


「・・・まさか・・・」


ジョナサンは自分の手を見る。あまりにも遠い過去なので忘れてしまっ
たが。
最後にみた手よりも小さな二つの手が目の前にある。

ジョナサンは、自分の胴体とつながっているはずであろう顔を触る。
少し冷たいがまだ柔らかみのある頬の感触。


(まさか・・・通じたのか・・・?)


ジョナサンはさっき自分が「彼と変わってあげたい」
と願った事を思い出し、慌てて鏡台を覗く。

そこには随分懐かしい昔の姿の自分がいた。

(・・なんでこうなったのか正直判らない、しかしこれはまたとない
 チャンスだ!なんとか「僕」を元の世界に戻す方法を考えなくては!)

ジョナサンは早速行動に移そうと、ベットから飛び降りた。

が、その瞬間。

いきなり走る腰の痛み。

臀部の近くの太ももの間からじわりと流れ落ちる、白濁の液体。


途端にジョナサンの体は震えだし、その場で蹲る。
今まで「昔の自分」がされてきたことが
一気に脳裏によみがえる。

DIOにどこをどう愛撫されたか
挿入された生々しい感じも、その時の自分の気持ちも
全て自分の体験として脳裏に焼き付いているのだ。


(・・・・これは・・・きつい・・・!!)



ジョナサンは懸命に頭を振る。

そして自分に必死に言い聞かせる。

(・・・確かに僕はDIOに抱かれた・・・。でも
 よく考えるんだ・・。DIOの体は僕の体でもある・・。
 だが、あれから彼はさらに鍛えて一段と逞しい体になったようだ。
 しかし、根本的には僕の体であることは間違いない。
 だから、「僕」自身を抱いたのは「僕」だ。 )

ジョナサンは何回も「自分自身を愛した。」と言い聞かす。

やがて落ち着つきを取り戻すと、今の自分の状態を
じっくりと見直す。

ところどころに紅い証。泣きはらしたであろう充血した瞳。
髪も少し乱れている。

「・・あの男・・子供の僕にでも容赦なしだな・・・。」

ため息をつくも、すぐ太ももについた液の不快感を思い出し
シャワーへと走り出した。


シャワーを浴びながら実感する。

先ほどまでついていた「男の匂い」が、ようやく取れていく感じに安心す
る。
しかし匂いが気になるということは、それは自分とは無関係の体と
認めてしまうような気がして、何とも言えない気分になる。

大人の時の自分の匂いなんて、あまり覚えているものではないが、
明らかにこれは違う匂いだ。違う男の匂いがする。

「・・・くそっ・・・」

シャワーを水に切り替えて体を冷やす。
体が冷えるまで浴びて、気持ちの高ぶりを押さえる。


(考えてはいけない・・・こんなことはあやふやのままでいいんだ。)


ジョナサンは大きめのタオルで体をふくと
散らかったままのクローゼットを探る。

DIOは「自分」を飼うつもりだったのだから
少年の服くらい置いてあるはず。

しかし今の自分のために置いてある服など一枚もない。

(・・・服を着させないつもりか・・・。)

「ペット」などに服などいらない。
あの男なら言いそうなことだ。

ならば服の代りになるものを探せばいい。DIOの服でも
借りればいいとも思ったが、あの男の匂いのする物を
わざわざ身に着けるのも精神上よくないと思い、
部屋のカーテンなどを代りに身に着けようと
当たりを探る。

勿論「自分の首」がしまわれている場所の
カーテンに目がいかないわけではない。
しかしカーテンをはがせば「自分の首」をみつけてしまう。
この「地獄」から救いたくなってしまう


今この時でも悩んでいる。
もうこのまま眠りたいと。天国で待っているであろう
愛しき妻のもとへ向かいたいと。
早くあの世へ召されたいと。

こんな姿でいつまでも存在していたくない。
こんな姿で不老不死なんて、生き地獄以外の何物でもない。
例えまともな姿であっても、自分は不老不死など望まないだろう。

与えられた期間を精一杯生きて、最後は潔く散るつもりだ。

いつも考えていた。今の自分を「終らせてくれる誰か」が現れないかと。

今の自分ならこの首を持って逃げれば、この地獄から救うことが出来
る。

粉々に壊すのも、火口に投げ捨てるのもどちらでも構わない。
今のこの地獄から、永遠に解放されるのなら。

両手が震える。一か八かの賭けなら自分は賭けてみたい。
でも・・・・

しかしジョナサンは過去のことを思い出す。そう、一度だけ
DIOが女性をここに連れてきたときだった。

DIOは確かに毎日のように、女性を相手にしてるようだったが
ここに連れてきたのは初めてだ。

DIOは確か自分にこう言ってた。

『・・・ジョジョ・・きょうはお前に似た女を見つけた。
 青く短い髪と、瞳の色と、目の形がとてもよく似ている。
 芯も強く、まるで聖女のような女だ。いつまで気に入るかは
 判らんが、今度連れてきてやる』

そしてDIOは彼女を連れてきた。最初は彼を受け入れなかった女性も、
そんなに時間もかからずして、DIOの手に堕ちた。

いや、女性が故に彼を愛してしまったのだろう。
DIOの留守中にも彼女はずっと彼を待ち焦がれ
そわそわしていたのを覚えている。

時折切なそうに彼の名を呼び、落ち着きなく歩き回っていた。
勿論、自分にはその様子は見えない。なんとなく耳でそう感じただけ。

そして彼女は僕を見つけてしまった。
その時彼女の顔がどんな顔だったかなんて、見えないのでわからない。
ただ彼女は一言僕に向って・・・

「・・・あなたさえ・・いなければ・・」

そう恨めしそうに言っていたのを覚えている

DIOは彼女をその腕に抱きながらも、僕のことを言っていた。
多分そのことが彼女の気に触ったのだろう。

何か重い金属のようなものを女性が自分の前まで
引きずっていく。

ああ、きっと彼女は僕を「壊す」気なんだ。
でも恨みはしない。むしろ感謝する。
これでこの苦しみから解放されるのだから。

不思議と心が安らいできたその時だった。
重く床に鳴り響く金属音。

開け放たれる重いドア。

そして聞きなれた低い声。

「・・・・何をしている?「それ」をどうする気だ?
 ・・・フン・・嫉妬か・・・やはり女など
 わざわざここに連れてくることはなかったな。
 いくら奴に似てるとはいえ中身は全然違う。
 もういい。今日で終わりだ。」


あとは何が起こったのかもう判らない。
ただこの日からあの女性の声は聞こえなくなった。
三日もたたなかったと思う。


ただ何故あの時にDIOが戻ってきたのか、不思議でならない。
DIOはあの時間帯は、絶対に帰ってきたことがないはず。
自分には見えないが、時計の鐘の音で時刻のことは判る。
まぐれにしては落ち着いていた。
まるで部屋の中の全てが、別の場所から見えていたかのように。


ジョナサンは何かを決心したように両腕を引く。
そして、ほかのカーテンを引きちぎると体に巻いた。

(とりあえずは・・・これで!)

気になるのは、DIOが今のこの部屋の中の変化に
気付いているかどうかだ。

(あの男が来る前にここから出ないといけない!
 ただ、今のこの非力な僕じゃ、部下にすら歯が立たない。
 一か八かだけどぜひ試してみたいことがある・・・。)

ジョナサンはバスルームに行き、まだ水滴の残る

床に向って両手を広げ呼吸を整える。

「・・・波紋の呼吸法・・・この体では
 どこまでできるか判らないけど」


全神経を集中する。自分の髪が少しづつであるが、上に向って
なびいてる。なんとか行けそうだ。

床の水滴もぶるぶると震えだしやがてそれは地面から離れる。
しかし、水滴は一センチ浮いただけですぐに地面に落ちてはじけた。

(だめか・・・いや、もう少しだ、もう少し粘らなくては。)

大きく深呼吸をすると再び、三度と挑戦する。

小さな水の球が上半身まで浮き、形を変えそれらが集合すると
大きな水玉が出来上がる。次はそれを平たくして激しい回転を加える。

(よし・・・)

ジョナサンはその感覚を見事にものにすると、バスルームから移動して
大きな扉の前に立つ、食器棚に入ってるワインから液体をこぼし、
先ほどの要領で、紅い水の鋭い円盤を作る。

更にひとつ大きく呼吸をすると、思い切り回転させた円盤を、ドアに投げ
つける。
金属をこするようなけたたましい音と、火花を散らしながらそれはドアを
なぞり
床に液体となって毀れる。後はこれを繰り返せばいい。
勿論うまくいく保証はない。しかし部屋の中の異変を
外部の者に知らせることは出来る。

案の定ドタバタと扉に近づく音がする。

「何事だ!!」

大男がドアを開ける。今しかない。

ジョナサンは扉を開けたままの男の頭上を飛び越え、
闇の中の通路を走っていく。

「にげたぞ!!」

「早く捕まえろ!!」

遠くで部下の叫ぶ声がする。

どこをどう行けばいいのか判らない。
 
裸足で冷たい廊下を音を立ててひたすら走る。

光のさす方向へ向かえば何とかなるのではないか。

ひたすらそう願いジョナサンは走り続ける。

ふと闇の中から誰かに腕を掴まれる。

(しまった!!)

その瞬間ジョナサンはその体を深い闇の
中へと放り投げられた。



気絶していたのが、どのくらいだったか判らない。

目を開けると見慣れた、いや、彼からしたら
懐かしい風景がそこに広がっていた。

(ここは・・・僕の家?)

むくりと上体を起こす。
見慣れた広い壁、大きなシャンデリア、女神の像
二階へ続く階段。

(・・・懐かしい)

ジョナサンは過去のことを思い出し、目を潤ませる。
しかし同時に悲しいことも思い出す。

(・・・ここで父さんは・・)

あの日のことは忘れない。ディオに何もかも裏切られ
大事な人をなくしたあの日のことだ。


ただ、ここはいつの時代の自分の家なのだろう。

酷く荒れている。あの後確か火事になったはずではないのか。

正直な所ディオを巻き添えに、炎の海に飛び込んだところまで
覚えているのだが、それから先が思い出せない。

しかしあの後、慌てて鎮火したにしても、焼け焦げひとつ
出来てないのはおかしい。

それに一番重要なのは、ここは「昔の僕」の住んでた家ではないというこ
と。

(違う時間のはざまに落ちてしまったのだろうか。)

何か手がかりがないかあたりを探す。



「・・・探し物は見つかったのか・・・?」


どこかで聞いた声が耳に届く。この声は知っている。
忘れたことなどない。最も「今の彼」の声は
だいぶ変わってしまったが。

いきなり腰を強く抱かれる。驚いて顔を見上げると
そこには、紅い眼をぎらつかせた「かつての宿敵の男」
が聳え立っていた。



「ん・・・?その恰好はどうした?どこぞの三流冒険小説に
 出てくる賢者にでもなったつもりか?」


白く尖った牙を覗かせる。身も心も吸血鬼となった
ディオがそこにいた。

「ディ・・・・」

慌てて彼の名を呼びそうになる。

(呼んではいけない)

ジョナサンの本能が呼びかける。
一瞬ディオの表情が不審を帯びた顔つき替わる。

(まずい・・ばれたか・・?)

しかしすぐ表情を戻すと、ジョナサンを抱きかかえ階段を上っていく。

「な・・なにをする!僕をどこに連れて行こうと・・・」

いきなりの行為にジョナサンは慌ててディオに抗議する。
そんな彼を無視し、ディオは父の部屋のドアノブに手をかける。

「さっきの続きに決まってるだろ?もう邪魔者は
 いなくなった。時間はたっぷりある、父にみてもらうんだろう?
 貴様の「大人」になっていく瞬間を・・・この・・俺の手でな・・」

ガチャリとドアが開く。間違いないここは父の寝室だ。
父の肖像画がテーブルの上に落ちている。まるでベットの先を
見つめるように。

背筋が震える。これから起こるべきことが手に取るように判る。
先ほどのDIOとの体験が脳裏によみがえる。

「くっ!!」

渾身の力でディオから抜け出すと距離をおく。
それを見たディオが堪え切れないといったように笑い出す。

「ハハハハ!面白い!・・・貴様、昔の「小僧の時の
 ジョナサン」ではないな?どうしてそうなったのは判らんが
 な。だが俺には分かるんだよ・・貴様の俺に対する目・・・
 何も知らないガキの奴の目とは全く違う。動きもそうだ。
 全く無駄がない。吸血鬼となった、貴様の復讐相手でも
 あるこのディオをよく知っている目だ。」

ディオがゆっくり近づいていく。ジョナサンは様子を伺いずつも
距離を一定に保つ。

「全く、どんな「奇跡」とやらが起きたか判らんが・・」

じりじりとディオはにじり寄る。紅い眼を不気味に光らせながら。

「こんな美味しい状況を、見逃す事は出来んな・・・」

ジョナサンは落ち着いて相手の動きを伺う。額から冷や汗が
一筋流れる。



「絶対に・・・逃がさん・・・!」



ディオの白い尖った歯が大きく開く。

その瞬間ディオが「本気」で襲い掛かってくる。
かろうじてかわすが、休む隙もなく攻撃してくる。

(やはり・・・この体では攻撃をかわすのが精一杯か!!
 折角練習した波紋もこれでは使えない!)

戦闘のコツをしっかり掴んでいる今のジョナサンでも、
この柔い体に一撃でも受ければ致命傷になる。

防御力も攻撃力もディオの前では皆無に等しい。
ひたすら逃げて「隙」を見つけるしかない。

突然突撃をしかけてきたディオの口元が上がる。

(!?)

ジョナサンがディオの表情の変化に、一瞬だけ気を取られる。

「間抜けが!!」

たった少しの隙を見逃さず、
ディオにそのまま足首を掴まれ、ぐりっと捻られる。

「うぁっ!!」

激しい痛みが走り、ジョナサンは痛みをこらえ
必死に足首を押さえる。

(・・・・くっ!!足が・・・っ!!)

ディオはマントが邪魔だとばかりに放り投げると、蹲る
ジョナサンの顎を掴み自分の方へ向かせる。

「これで本当にお終いだな」

恍惚の表情で苦しむジョナサンを見つめるディオ。

「ディオ・・・!!頼む・・今は・・今だけは・・見逃してくれ!! 
 僕は・・・何としても昔の自分を元の所に戻さなければ・・・っ!!」

必死で痛みに耐え、許しを請うジョナサンを見下ろしながら
ディオは冷たく吐き捨てる。

「ふん・・・ジョナサン・ジョースターともあろう男が命乞いとはな・・。」

ディオが顎から手を離す。

自分から興味を失ってくれたのか。・・・よかった。
彼が興味を失っているうちに、なんとか戻らなくては。

しかし次の瞬間、ジョナサンの身に付けていたカーテンの
切れ端は宙に舞う。かろうじて腰に下着代りに巻いた
布一枚だけを残して。

いきなりの事に戸惑うジョナサンの
背中を、ディオが強引に抱きしめる。

「その根性を俺が叩き直してやろう・・・。今日から貴様は
 俺の奴隷だ。今から俺の「城」へ連れていく。
 生まれたままの姿で、この俺に尽くしてもらおうか。
 お前の魂が汚れて元に戻らなくなるまで、たっぷりと
 遊んでやる・・・。」

「ディオ!!貴様っ!!」

ジョナサンが拳を繰り出すが、片方の手であっさり止められる。

「この手首も折られたいのか?」

「くっ・・・!」


ディオはジョナサンの、悔しそうな顔を楽しみながら
片方の手で胸の輪郭をなぞる。

「・・・・やめッ・・!!」

ゾクッと体を走る感触に思わず抗議の声が漏れる。

ただ輪郭をなぞられただけなのに、先ほどのDIОとの
行為が瞬時に脳裏をよぎり、それから先を体が
予測して敏感に反応してしまう。

目を逸らし、快感に耐えているジョナサンを
眺めながら、ディオは目を細めてその口元を吊り上げる。

「・・・・ほう?先ほどより敏感になっているようだが?
 まだ、俺の指はここにすら触れていないんだぞ?」

そういいながら胸の飾りの外側部分をゆっくりと
撫でる。

「・・・さ・・!さ・・わ・・るな!」

体が震え、足に力が入らない。固く目を閉じたままま
必死に耐えるジョナサンの耳元に
わざと息を吹きかけるようにディオが囁く。
 
「ククク・・・随分俺を煽ってくれるものだな。
 まあ、お楽しみは根城に帰ってからにするか。
 せいぜい良い声で鳴いて、俺を楽しませるんだな。」

自分を見つめ、嘲笑いをするディオを精一杯睨みつける。

「・・・き・・・さ・・ま!!」 


怒りに震えるジョナサンを、ディオは楽しそうに見つめていたが
彼の体のある部分を見つけると、途端にその表情
を恐ろしいものに変えていく。

「・・・貴様・・・この跡は、なんだ・・・?」

ジョナサンが訳も分からず自分の体を確認すると、自分の胸に
首に太ももの当たりに紅い印が残っていたのに気づく。

(・・見られたくないものを・・・!!)

今だDIOの行為が忘れられないジョナサンは、思わずディオから
目を逸らし固く目をつぶる。

しかしディオの思いもしない、次の行動で固く閉じた目は大きく見開かれ
る。

「・・・・・・!!!」

ディオが自分の腰巻の布越しから「急所」を強く掴んでいる。
あまりの痛みに声も出ない。

「返事をしろ・・・「誰に」された・・・・?」

ぎりぎりと、ディオの歯ぎしりが聞こえる。
痛みがひどく言葉など出せない。

「答えろ!俺の前に、誰に足を開いた!?」

掴んでいる手に力を込める。

痛みのあまり目頭が熱くなる。とても彼を見る事も出来ない。
歯を食いしばって必死に激痛に耐える。

「答えなければこのまま捻りつぶす・・・。
 いや・・・・?引きちぎってもいいんだぞ?
 俺には必要がないものだ・・。貴様の「ここ」さえ
 あればな・・・。俺だけが快感を感じれば
 それでいいんだからなぁ・・・!」

そう言いながら狂気を浮かべた形相で、ジョナサンの
尻の間にもう片方の手を滑り込ます。

不意に襲う感覚に驚き、つい口を開いてしまう。

その途端今まで襲っていた激痛が、言葉になって漏れる。

「ぅあああああああ!!!」

悲鳴とゆうより絶叫があたりにこだまする。

ディオは相変わらず力を緩めない。
力を込めたまま、ジョナサンを冷たい表情で見下ろす。

「今から十秒だけ時間を与えてやる・・・。
 慎重に答えを選べよ。返答しだいによっては
 女など抱けない・・・そう・・
 子孫など残せない体にしてやるからな・・・。」

ディオは初めて力を緩める。しかしその手を
そこから退かすことはしない。

ジョナサンは涙目になりながら荒い呼吸を繰り返す。
青ざめた顔にも次第に朱が差していった。

「あと5秒しかないぞ」

ディオの指にかすかに力がこもる。
ディオなら本当に言葉通りにやるだろう。
ジョナサンは意を決してディオに「相手」を
教える。彼が信じてくれるかどうかは、賭けるしかないが。


「・・・お前だ・・」


「なに・・・?」


「未来の・・・おまえだ・・・」


「・・・・。」


ディオの指に再び力がこもる。
再び襲いかかる激痛に何とか堪え、ジョナサンは
息も絶え絶えに真実を伝える。

「!!・・ほ・・本当だっ!・・・だから・・・僕は・・
 いま・・・この体に・・入って・・・!!元の
 ・・・世界に・・戻ろうと・・・・!」


苦しみのあまり、まともなことが言えない。
ふと、ディオの手がそこから離れる。
とてつもない苦痛から解放され、
ディオの腕の中で、ぐったりと力なく体を預けるジョナサン。

ディオは腕の中の、まだ幼さを残すジョナサンの体を見つめながら考え
る。

(・・・未来の俺だと?こいつは苦し紛れにいい加減な
 ことを言って逃げる奴ではない・・・だとしたら
 未来の俺はこのガキの頃のジョジョを、何らかの方法で
 手に入れるということか・・・?)

ディオは再びジョナサンを抱き上げると階段を下りていく。
じつはこの館は、ディオがそっくり再現させて、作らせたものだ。
この荒れ果てた館で、ジョナサンとの決着をつけようと
余興で用意したものだった。

(俺はこいつを今から城へ連れて行くつもりだが・・・
 その時に俺に抱かれたということなのか?いや・・
 違うな、どういう成り行きで大人である奴の精神が、
 ガキの頃のこいつに乗り移ったのかが、どうにも
 判らない。・・・まあいい俺は予定通り、こいつを
 「飼う」つもりだからな・・・。)

腕の中の少年がぶるぶると体を震わせている。
どうやら裸のせいで寒さを感じているようだ。

(仕方ない・・・まあ、これで服を身に付けるのは最後に
 なるだろうから着させてやろうか・・・。)

何故、そんな仏心をおこしたのか判らないが
ディオは、少年の服の代わりになるような物がないかと、
倉庫に向って歩みを進める。

ドアノブに手をかけた瞬間、めまいに似た感覚に思わず
膝をつく。腦の中に不協和音が鳴り響き、目の前が真っ暗になる。

(くっ・・・!!なんだこれは!!)

腦の中の不協和音が更に大きく鳴り響く、ディオは
己を奮い立たせ、思い切りドアを開ける。

その途端あたりが光り、その光はディオを飲み込んでいった。
裸のまま投げ出された少年は、うっすらとその瞳を開ける。
その視線の先はまるで鏡に映ったような
もう一人の自分の姿があった。



ぐったりと横たわる少年は、衣服が破れその顔には疲労が滲んでいる。

ああ・・・「この昔の僕」もひどい目に合わされて・・・

ジョナサンは自分の手を彼の額に当てる。


(全部・・・嫌な記憶は・・・僕が持って帰るから・・・)


少年の記憶が全部ジョナサンへと伝わる。
ディオがした屈辱が、脳裏に新たに刻まれる。

(・・・全く、あの男たちはどこまで「僕ら」を苦しめるんだ。)

ふと横たわっている少年の体が、隣で光を発している
鏡の中に吸い込まれていく様子に驚いて、手を伸ばす。
しかし伸ばした自分の手も徐々に
鏡の中に吸い込まれていく。

光に体が呑み込まれていくほどに、ジョナサンの意識がどんどん
遠ざかる。


(そろそろ『僕』は、ここにはいられないみたいだ・・・父さん
 お願いだ。昔の僕たちを・・・無事に元の世界に届けてくれ・・
 彼らにはまだやることがある。たとえ・・・)


彼らの未来の先に待っているものが
多難なものであるとしても。

素晴らしい仲間が僕たちを待っていると。

素晴らしい女性と結ばれる未来が待っていると。

そして・・・・




その先からは言葉が続かない。



・・・・・・・いや。


ここからさきは・・・






・・・しらないほうがいい・・・







倉庫から一層激しく光を放ち、何かが砕ける音がする。


段々と光が薄れ、あたりを再び薄暗い闇が支配していく。
闇の中から何かが動く。腕から覗くその二つの赤い瞳を
ゆっくりと開き、それは立ち上がる。

「・・・ジョジョ・・?」

男が小さく呟くが、そこには自分以外の気配は
全く感じられず、風が窓を揺らす音しか聞こえなかった。

(幻か・・・?いや違うな・・・確かにあいつはここにいた。
 ・・・・しかし妙な出来事だ、昔の「奴」に遭遇しただけでも
 不可思議なのに・・・・さらに・・・・)

ディオは自分の胸を見る。もうすでに治ったも同然だが
刺された傷あとが、二つかすかに残っている。
ただそのうち一つは自ら刺した傷ではあるが。

「・・・・・・」

ディオは何気なく、先ほどまばゆい光を発した倉庫に
視線を移す。

倉庫は跡形もなく崩れ去っている。
瓦礫は散らかっているが、その下には
人間らしきものは何も隠れていない。


(時空間のねじれでも起きたというのか・・・。
 ・・・興味あるな、今度時間について色々と
 研究を重ねて実験してみよう・・・。なに・・・
 時間は腐るほどある・・・。勿論
 その実験の対象はジョジョ・・・
 お前だ・・・・)

不敵にと笑うと館の扉を開け、ディオは夜の闇へと消えていった。


(・・・・ああ、なぜこうなってしまったのだろう。)

少年は天に向かって手を翳す。

少年が気が付いたときは、何故かバスタブの中にいた。
どうやら眠っていたらしい。窓が開いてたらしく、体を
虫に食われていたようで、紅い印が点々と残っている。
湯は何故か抜けていて、慌てて出ようとした時、足を滑らし
くじいてしまった。

よろよろとバスルームから出て、なんとか服を着るも、
そのままベットに布団もかぶらず寝てしまい、
朝起きたら頭が痛く、熱も出ているという有様である。

父親にだらしがないと怒られ、折角行こうと思っていた
今日のバザールも中止になってしまった。

(楽しみにしてたのにな・・・)

少年は窓の外を見る。

(しかたない・・・素直に寝るか・・・。)

やがて、少年の瞼が静かに閉じていく。

(せめて面白い夢でも見れればな・・・)

意識が白濁としていく中、少年は深い眠りについていった。


その夜ジョナサンは変な夢を見た。


僕は勇気ある考古学者。家の書庫から謎の古文書を
見つけ出す。そこから大冒険は始まる。

ある時、露店商から黄金の小さな刀を買い取る。
それを買い取ってから、次から次へと不思議な事が起こりだす。
海を渡ったり、うっそうと茂った森と、そこにそびえたつ
古城を探索したり。

時には正体不明のモンスターと戦ったり、町の人たちを
悪の手から救ったりと、幾多の困難を乗り越えて
最後の砦へ僕はたどりつく。

目の前に大きな扉があり、僕は手を伸ばす。

しかし扉は開かない。

押しても引いても、ありとあらゆる方法を試したけど
どうにも開かない。

そのうち僕の体は闇の中に吸い込まれていき、
何時もの自分の部屋で目が覚める。


なんて変な夢。


なんで扉は開かないのだろう。



口をとざしたまま。



鳴り響く鐘の音。

重い扉がゆっくりとあいていき、あの男の声がする。

カーテンの向こうの水晶玉の中のある、「彼」の

睫毛がピクリと動く。

あの男の低い声が「彼」に降り注がれる。

「・・・戻ってきたようだな・・。」

男が呟く。でも「彼」にはその男の様子が判らない。

「・・・楽しかったか?久しぶりの外の世界は・・・。」

その言葉に「彼」の睫毛が返事をするかのように動く。

男が笑う。まるで相槌を打った彼の様子に喜ぶように。


「・・・昔の貴様と約束をしてきたぞ、近いうちに
 会う・・・とな、あともう一つ・・・貴様も聞いて
 いたからわかると思うが・・・今度会ったときは
 「俺の顔をじっくり見せて抱いてやる。」ともな・・・・」

地を這うような低い笑い声。男の顔は見えない。
だがどんな表情か想像はできる。

「・・・所詮貴様らは、俺の手から逃げられん。
 ジョジョ・・・今の貴様も、昔の貴様もな・・・ 」

声が一層近くなる。多分男は、歪んだ笑みを
見せているのだろう・・・。今の「自分」に向って。

「貴様らは、この「DIO」という枷から、
 永久に逃れられないのだ。そうだろう?
 扉も開けることもできない、非力な人間よ・・。」

DIOの声が遠ざかる。

再び閉じる重い扉。

 





ああ・・・。


そうだ・・・。


扉は開かない。


口を閉ざしたまま。











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