扉は開かない1

僕は夢を見るのが好きだ。みんなはどうだろう。どんな人でも夢だけは
公平に見る事が出来る。
貧富の差も、身分も全く関係ない。
夢は神様の最高の贈り物だと思う。

でも嫌な夢は見たくない。願わくば二度と見たくない夢だって
沢山ある。そういうのは、油断をしてる時に大体やってくる。
だから僕は寝る前にその夢を思い出す。
もう見たくない、と自分に言い聞かす。
そうすると、その日はその夢を、見る事はないからだ。

夢は不思議だ。少しだけ寝てたつもりでも
とても長い夢を見る時もあれば、たくさん寝たのに
短い夢しか見れないときもある。


僕にはお気に入りの夢がある。
その中の一つ。ハラハラドキドキのスリルのある
大冒険の夢だ。これはその一つだ。



僕は勇気ある考古学者。家の書庫から謎の古文書を
見つけ出す。そこから大冒険は始まる。

ある時、露店商から黄金の小さな刀を買い取る。
それを買い取ってから、次から次へと不思議な事が起こりだす。
海を渡ったり、うっそうと茂った森と、そこにそびえたつ
古城を探索したり。

時には正体不明のモンスターと戦ったり、町の人たちを
悪の手から救ったりと、幾多の困難を乗り越えて
最後の砦へ僕はたどりつく。

目の前には大きな扉が待ていて、そこから声がする。

「ようこそ勇気ある者よ。お前はこの扉を開けるに相応しい。」

大きな扉がギギギ…と開いていく。中には目を覆わんばかりの
眩い金銀財宝。見たこともないお宝が山のように積み上げられている。
そして僕は謎めいたお宝を胸に、高い高い天窓に映る星々に導かれ
無事仲間のいるところへ帰還する。夢はそこでお終いだけど、
あの朝起きた時の興奮冷めやらぬ充実感は、忘れられない。


まるで面白い冒険の本を
徹夜で読み切った後、興奮が収まらず
じっとしていられない気分だ。
この手の夢はめったに見ないけど、
だからなおさら面白さを感じるのかもしれない。
実は今日もこの夢を見た。朝から縁起がいい
・・・と言いたい所だけど・・・

良い事があれば、必ず悪い事も必ずやってくる。

「はーーーー・・・」

これで何度目だろう。ジョナサンは窓の外を眺めては
ため息ばかりついている。

今日は月に一度のバザールだというのに、
父から外出許可がもらえない。しかもその上
今夜は食事が終わると、厳しい父からの
強制補習授業が待っている。

「勘弁してよ・・・」

ふて腐れながらジョナサンは自らのベットの中へ
もぐりこんだ。
ディオのせいにするべきではないのだが、どうも彼が来てから
ジョナサンの勉強に対する劣等ぶりが目立つように
なってきている。

「ずるいよ・・・」

天井を見上げながら口をとがらせる。
嫉妬は醜いとわかっていても、ジョナサンは不満を
こぼさずにはいられなかった

午後六時。何時もなら駆け足で食堂に向って行くジョナサンが、
部屋からしょんぼり出ていく様を、使用人とメイドたちは
不思議そうに見ていた。

「ご病気かしら」なんて声も聞こえてくる。
そんなに珍しいことなのかな?とジョナサンは
苦笑いをせずにはいられなかった。


ディオは父の関係の社交パーティーに
呼ばれていて、今夜の食事は父と二人だけ。

何故ジョナサンが社交パーティにいけなかったのかというと、
マナーの未熟さが目立つから、という事だった。

もともとディオがいても、食事中はおしゃべり厳禁なので
静かではあるが、それに加えて父は少しご機嫌斜めだ。
今夜は折角ジョナサンの好物ばかりが出ていたのに、
ほとんど味がしなかった。

(・・・何もこんな時に僕の好きなものが出なくても・・・)

気分というものは、食事には欠かせない
調味料のようなものなのだなと
ジョナサンはしみじみかみしめた。

ジョナサンより先に父は食事を終わらせると、ナプキンで口を拭い、
黙って席を立つ。ジョナサンとすれ違いざまに「わかっているな?」と
一言、言って出て行った。

父が扉を出ると同時に、ジョナサンも食事を終える。
メイドがジョナサンにひそひそと
「今日のお食事マナーは80点くらいですよ。」
と、悪戯っぽく笑った。

確かに美味しく感じないのだからガツガツなんて食べられない。
それにしても、あとのマイナス20点は何が原因なんだろうと
ジョナサンは、思わずにはいられなかった。

重い足取り。ドアをノックするのにも躊躇する。

出来れば父が、「今夜はいい」と言ってくれるのを
待っていたい位だが、それは敵わぬ夢というもの。
遅かれ早かれ起こることなら、とっとと済ましておきたい。

大きく息を吸うと扉の向こうの父に「ジョナサンです」と、簡潔に告げた。

コツコツコツコツ・・・

ジョナサンの周りをうろつきまわる父。

ジョナサンは内心静かに待っててほしいと願いながら
筆をすらすらと進める。ジョナサンが筆を止めるのと同時に
問題用紙を奪い取る父親。父の眉がピクリと歪むのを見て
ジョナサンは鞭を覚悟した。

父親は乱暴に用紙を机の上に置く。

ああ・・・これは素直に手を出した方がよさそうだ。

ジョナサンは俯きながら父に手を差し出す。

何発ぶたれるか判らないが、それはもう覚悟の上だ。
無言の時間。それが10秒だったか30秒だったか
よく判らない。父親がジョナサンの手首を掴む。

その瞬間、周りの空気ががらりと変わった



そのまま強引に床に引っ張られ、四つん這いのような
格好を取らされる。けたたましい音を立てて
転がる椅子。

驚いて父を見上げようとする
ジョナサンの背中を、父のくつが踏みつけた。

「父さん!!!?」

信じられない。父はどんなに激高することがあっても、
人を靴で踏みにじるなんて事はしない人間だ。

それに自分だって靴で踏みにじられるような
恥ずべき行動はしていない。
こんなことをする人間なんて父親ではない。

しかしジョナサンの父に対する批難は、鋭く肉を打つ音によって
掻き消される。

「・・・・・っ!!!!」

叫ぶこともできないほどの激痛。悲鳴を上げる隙も与えず、
二度三度とまた激痛が襲う。

(痛い痛い痛い!!)

じわりと臀部から何かが溢れてズボンに
紅く染みを作る。

四度目。

余りの痛みに涙で視界がぼやける。
両手両膝がガクガクと震えだす。

歯が折れるほど食いしばって、必死に耐えるのがやっとだ。
もはやジョナサンの脳内には痛みしか存在しいていない。
悔しさや疑問などが頭に浮かぶ余地などなかった。

クククク・・・

先ほどまで肉を打つ音しか聞こえなかったのに、
突然響きだす不快な声。

そう笑い声だ。それも父の物だけではない。
複数の笑い声。男も女も混じっている。

ジョナサンは固くつぶっていた目を開き
当たりを見回しギョッとする。

使用人が、執事が、メイドが
ジョナサンを見下ろして笑っているのだ。
その表情は何故か暗くて見えないが口元だけが
醜く歪んでいた。

再び鞭を振り上げる音。しかしそれが下されるよりも早く、
ジョナサンは素早く腕立て伏せをする形で体勢を変え、
足蹴にしている父のバランスを狂わす。

そのまま激しく横転する父。むっくりと起き上がるが
その顔にはもう父の面影などない。

ジョナサンはそのままドアに凭れ掛かる。
勿論鍵はかかってる。後ろ手でそれはしっかり確認できた。
正直尻の痛みで頭がまとまらないが、いまここで何とかしなければ
この程度の傷では済まないだろう。

「オシオキハマダダ・・・・」

地の底から響くような、まがまがしい「父の姿をしたもの」
が、うなりながら鞭を握りしめジョナサンに詰め寄る。

(あいつは父さんじゃない!僕の知ってる優しい使用人たちじゃない!
 でも正体がどうのこうの言ってる暇は、僕にはない・・・)

カチャカチャと、ジョナサンの背中あたりから音がする。

「ツカマエロ!ハイツクバラセロ!オシオキサイカイダ!!」

「父の姿をしたもの」は使用人たちに命令をかける。

ジョナサンはドアに凭れ掛かったまま動かない。
じっと前を見据えたままで、相変わらず彼の背中からは
カチャカチャと音がするだけだった。

じりじりと使用人たちが詰め寄る。

(できた!!)

ジョナサンは、寸での所でドアを開け転がるように
外へ出るとそのまま勢いよくドアを閉め、
二つの扉のノブ同士を針金でぐるぐる巻きにした。

ドンドンと扉に体当たりする音が聞こえる。
このままじゃいずれ仲間を呼ばれるかもしれない。
一旦自分の部屋へ戻ろう。ジョナサンは周りを気にしつつ
自分の部屋に走って行った


ジョナサンは、悪戯をしてその罰として
よく部屋に閉じ込められる。しかしそのうち
何回も閉じ込められると、自然とピッキング能力など
というものを、いつの間にか身に付けていた。
父の部屋に行く際も、万が一の為、こっそり持ってきた
針金が役に立ったのだ。

ジョナサンは自分の部屋に滑り込むように入り、素早く鍵をかける。
勿論、あれがまともな父なら、合鍵くらい持ってきて
こじ開けてしまうだろう。

ふとこんな時というのに、先月にバザールで買った黄金の
小さな剣が目に入る。剣と言っても何も切れない
鎖の付いた玩具のような小さい剣。

「これはね凄いお守りなんだよ。これを持っていると
 悪魔を部屋に入れないんだ!ドアのノブにでも
 引っかけておくといい。」

さすがに人を疑うことを知らないジョナサンも
その言葉をうのみにするほど馬鹿ではない。

ましてや歳も、もう15にはなっている。
それでも大好きなあの夢に出てきた、黄金の
短剣に似ていたので購入しただけだった。

(どうせダメもとで・・・)

馬鹿らしいとは思いつつも、ドアノブに黄金の短剣を
ノブにかけようとした。

その時。

勢いよくガチャガチャ回るドアノブに一瞬肝が冷える。

「オシオキだアアアア!!」

響き渡る「父の姿をした者」の叫び声。
ジョナサンは慌ててドアノブにそれをかけると、
何か侵入を防ぐ物はないかと、当たりを見回す。

しかしいつの間にか、ドアを叩く音もノブを回す音も
しなくなる。

ただ、ただ「悪魔ども」の叫び声や怒号が、ジョナサンの
部屋に響くだけだった。


これは夢だ。夢であってほしい。

朝起きたらみんな元にもどっている

厳格でも尊敬できる父さんに戻ってる。

ジョナサンは寝ることもできず、座ることもできず、
ただ必死で、ドアを押さえるしかなかった。


鳥の鳴き声、窓からこぼれる日差し。ジョナサンは何時もの
ベットで目をさます。窓に向けて翡翠色の瞳をゆっくり開けていく。

「朝だ・・・・良かった・・」

やはり夢だったんだ。酷い悪夢だった。もう二度と見たくない。
ジョナサンはうつ伏せから仰向けに体制を変えようとする。
そのとき・・・

「イタっ!!」

尻の方に鋭い痛みが走る。慌てて飛び起き鏡を見る。

その瞬間ジョナサンの体から血の気が引いていく。

臀部の部分に痛々しく走る四つの傷跡。
ぶつけたのではない、刺した傷でもない、
明らかに叩かれた跡だ。

呆然としていると、ジョナサンの部屋がガチャリと
音を立てて開けられる。

「!!!!!」

思わず身構えるジョナサンを、父は怪訝そうに見つめる。
そして未だ寝間着姿のジョナサンに呆れつつ、注意をする。

「いつまで寝ておる。朝飯の時間はとっくに過ぎているぞ。
 今日は朝は抜きだ。いいな?」

暫く父を凝視していたジョナサンだったが、急に俯いて
小さく「はい」と返事をした。

てっきり必死に、言い訳をしてくると思っていたので父親は
少し面を食らう。素直に反省しているのかと少しフォローを入れる。

「反省しているならいい。昼には遅れないように。」

そう告げると部屋から出ようとする父を、ジョナサンが
呼び止める。

「あの・・・父さん・・今日は具合が悪いんだ・・・
もう・・・補習授業はないよね?」

その言葉に父親は首をかしげる。

「補習授業?何か月もやってないのに「もう」とは
 どういうことだ?お前がやりたいのなら、用意はするが」

その言葉にジョナサンは慌てて首を振った。

結局昼飯は部屋で食べることを許され、
サンドイッチを頬張りながら、ジョナサンは色々と考えを巡らす。

(皆、普通だ。父さんも優しい使用人たちも・・・
 昨日のあれは何だったんだろう・・・
 悪夢で済ますのなら簡単だ。だとしたらこの酷い
 傷の存在はどういうことだ。 )

今ジョナサンが座っているのは椅子ではない。

尻が痛くて椅子などに座れないのだ。ジョナサンは
今ベットに座りながら食事をとっている。

痛みが走るたびに昨日の出来事が「夢」では
ないと実感してしまう。

(あの露店主が言っていた退魔の剣がもし本当なら、
 僕の部屋に、結局入ってこれなかった理由が、
 彼らが「悪魔」だったからだろうか。 
 あれは父さんたちに化けた悪魔なのか・・それとも
 取りついた悪魔なのか・・・そこをどうしてもはっきり
 させたい。悪魔がばけているのなら、やっつけてやる・・・でも・・
 ただ憑りついているだけなら・・危害は加えられない。)


そんなことを考えているせいか、いつもはペロリと
平らげてしまう食事も、今日はなかなか進まない。
無理やり飲み物で流し込んで、ようやくすべてを平らげる。
せめてトレーを料理人たちに自分で返しに行こうと、
寝間着姿のまま食堂へ向かう。

厨房では「私共がお下げしますのに!」
と、料理人たちが心底申し訳なさそうに謝ってくる。

こっちこそ、折角美味しく作ってくれた料理を
味わえずにごめん、とジョナサンは申し訳なく思った。


ふと自室に戻ると、大きな窓から温室が目に入る。
ジョナサンは、温室が割とお気に入りだ。

綺麗な花や珍しい植物がある、さらに色々な果物がある。
そして何より仲良しのベグがいる。

ベグというのは父さんが雇った使用人だ。
可愛そうに、サーカスで見世物だったうえに
仲間に虐げられて、檻の片隅で怯えて生活していたようだ。

父さんが哀れに思いベグを使用人として
大金と引き換えに雇用した。

最初は仕事は真面目なものの、なかなか使用人達にも
心を開けず、一人ぼっちで温室に閉じこもっていた
ベグだったが、ジョナサンの優しさに凍っていた心も
溶け、今ではすっかり他の仲間とも打ち解けていた。

それでもまだ言葉はぎこちなく、強面な顔もなかなか
緩めようとしないベグだったが、ジョナサンだけには
笑顔をよく見せるようになっていた。

ジョナサンもベグが大好きで、
父があまりしてくれないことを、よく
彼にしてもらった。肩車して走り回ったり、
その逞しい腕にぶら下げてもらったり、時には
量腕を掴んでフルスイングしてくれる時もあった。

ベグは顔も体も厳ついが、心根はとても清らかで優しい男。
ジョナサンの一句一句を、とても真剣に聞いてくれる。

ジョナサンは何かに導かれるように、温室の方へ足を運んでいく。

(ベグと話がしたいなあ)

勿論ジョナサンは昨夜のことなど話す気は毛頭にない。
そんなことを言ったら彼にひどく心配させてしまう。
一緒にいてくれるだけでいい。一緒に花を見たり
果物を食べたり、たわいのない話をしてくれるだけでいい。

ジョナサンが温室のノブに手をかけると同時に、それは大きく開かれ
る。

「ぼ・・・・ぼっちゃん・・・?」

そこにいる人間がジョナサンと判った瞬間、ベグは
くにゃりと固い表情を綻ばせた。

大きなごつごつした温かい手が、ジョナサンを温室に招き入れる。
相変わらず花の匂いと果物の甘いにおいが充満した
安らぎの空間がそこにあったた。

ジョナサンは思い切り深呼吸をする。

自分の中の全ての空気と気分を入れ替えるように。

ベグは慌てて椅子を用意してくる。その様子に
ジョナサンはビクッと硬直する。

(うわ・・・椅子は・・・ちょっと・・・)

椅子には薄いクッションがついているが、
ベットに座っても痛みは感じるのだ。

何とか表情を歪めずに椅子に座れるだろうか、
ぎこちない笑顔で座ろうとするジョナサンを
ベグが覗き込む。

「ぼっちゃん・・・ひょっとして尻・・痛いだか?」

そういわれてジョナサンは体を強張らせる。

慌てて「ぶつけちゃって」と言い訳をするが、
真剣なまなざしのベグの顔が、ジョナサンの作り笑いを止める。

「坊ちゃん・・・嘘言っちゃあいけないだ・・・」

ベグはいきなりジョナサンを抱きかかえると、ズボンを下着ごと
めくる。尻の部分が冷たい空気にさらされる。

「ベグ!!」

恥ずかしいのと驚きで、慌ててベグの腕を振りほどき
ずり下されたズボンをはき直す。
恥ずかしさのせいで頬を赤くしながらベグを見る。

ベグは呆然として

「やっぱりだ・・・」

と一言つぶやいだ。

次の瞬間ジョナサンの肩をベグの
ゴツゴツした両手が強くつかんだ。

「やっぱりだ!!その傷はぶたれた後だ!!しかも容赦なく思い切り
だ!
 ぼっちゃん!!誤魔化さねえでくれ!!誰だ!!誰がやったん
だ!!」

ベグは鬼のような形相をして壊そうかというほどの勢いで
ジョナサンの肩をつかむ。

「・・・痛い・・!」

ジョナサンの訴えも届かないのか、ベグは必死で彼を問い詰める。

「おらも昔よくぶたれたからわかる!!だから誤魔化さねえでくれ!!
 おら・・おらあ許せねえ!!坊ちゃんをいじめる奴は・・・!! 

「痛い!!痛いよ!苦しいよ!ベグ!!」」

ジョナサンの必死の訴えが伝わったのか、ジョナサンの
肩からようやくベグがその手を離す。

自分のしたことと、ジョナサンが受けた仕打ちに酷くショックを
受けているようだ。自分の両手を悲しげに見つめている。

ジョナサンはその様子を見て胸が痛んだ。

心配させたくなかったのに・・・

こうなれば、もう仕方ないのかもしれない。
ベグには本当のことを話そう。このままだとベグは
勝手に犯人探しをして、とりかえしのつかないことを
してしまうかもしれない。

ジョナサンは絶対に口外しないことと、自分の為に
無茶なことをしない事を条件で、ベグに真実をはなした。

ベグはさっきよりも落ち着いたが、表情は硬いままだ。
ベグは腕を組み何か考え込む。

「坊ちゃん、朝が来るまでここにいろ。」

「え・・・?だって・・・」

「おら・・・坊ちゃんが心配だ・・おらが坊ちゃんの
 部屋に用心棒としていたいけど・・・それはあまりにも
 失礼だ。坊ちゃんをこんなおらの汚い寝床なんぞに
 置きたくねえけど・・・おら・・坊ちゃんから目を離したくねえ。
 怖いんだ・・・また坊ちゃんが痛い目にあうのが・・・」

ベグは心底心配してくれている。ジョナサンはそれが痛いほど
よく伝わった。本当は彼を巻き込みたくない。

ジョナサンは正直、まだ迷っている。
ベグは確かに使用人仲間の中では、かなりの強さを持っている。

その力は「悪魔」にでもかなうのかもしれない。

でも、もし彼に何かあったら?しかもそれが自分のせいなら
果たして責任をとれるのだろうか?

「ねえ・・ベグ・・・」

もう一度考え直さないかと尋ねようと
ジョナサンは顔を上げる。
しかしベグはいない。

どこに行ったのだろうか。


どうしよう・・・。
このまま彼に迷惑をかけたくないのなら
そのまま黙って立ち去るべきか。

でもベグはそれでまた、傷ついたりしないだろうか。
 
そのまま佇んで、自問自答を繰り返すジョナサンの耳に、
勢いよくドアを開ける音が聞こえる。

「はあはあ・・・だ・・旦那様に許可取ってきただ。
 ・・・ふう・・大丈夫だ・・昨夜のことは話してねえだ・・」

相当大急ぎで伝言してきたようで、息がすごく荒い。
疲れているだろうに、何か思い出したように顔を上げると
また駆け足でハーブ園の方に向っていく。

手には赤色のハーブが、山ほど抱き抱えれていた。

ジョナサンがポカンとしていると、いきなり腕を引っ張られ
彼の寝室へ連れて行かれる。

そのままジョナサンを軽く抱っこすると、寝床の上に
優しくうつ伏せに置いた。

ジョナサンが驚いて上半身を起こそうとすると、
優しくそれを制される。

「大丈夫だ。おらが治療するだ。」

そう言ってまたジョナサンのズボンを下着ごと脱がす。

「ベ・・ベグ!!ま・・・まってよ・・・!!」

いくら男同士とはいえ、いきなりそういう所を
見られるのは・・・

確かにさっき見られたが、さっきのは一瞬で
じわじわ見られるのとはわけが違う。

再び顔を赤くしてベグを軽く睨む。

ベグは心底不思議そうな顔をして
ジョナサンを見つめる。

「坊ちゃんは男じゃなく、女の子か?」

突拍子もない質問に、ジョナサンが言葉を詰まらす。
そんなジョナサンを気にも留めすベグは言葉を続ける。

「違うべ?おらも男だし尻はついてる。何が恥ずかしいだ?」

うつ伏せになりながら、ジョナサンは「確かに・・・
恥ずかしがる方が恥ずかしいのかも・・・」
と、腑に落ちないところがあるものの、妙に納得
してしまった。

お医者さんにもし、「怪我した尻を見せてごらん」なんて
言われたら「恥ずかしいから嫌です」なんて言えないし
看護婦さんに「おしりに注射しますからね」といわれて
「そこはやめてください」と断れないのと同じで。

そんなことを考えてると、頭上から笑い声が聞こえる。

「それに坊ちゃんの尻は、赤ん坊のみてえで可愛いだ!」

ジョナサンはそれを聞いて、さらに顔を赤くする。

折角割り切ることが出来たと言うのに、なんて
意地悪なことを言うんだ。
少し機嫌を損ねるジョナサンだったが
突然、尻に走る軽い痛みに眉をひそめる。

ギュウと何かを絞る音。
ポタポタと其れの雫が傷に落ちていく。

「痛いだが?すまねえ。我慢してくれ、これが一番痛みの
 ましな奴なんだ。でも効き目は早いぞ。」

絞る音が聞こえなくなったのと同時に
「お終いだ」とベグの声がふりかかる。

急いでズボンをなおそうとするも、ベグにすぐ止められる。

「ちょっとそのまま置かなきゃだめだ。・・・坊ちゃんは恥ずかしがり屋 
 だなあ・・仕方ねえだ。おらこっち向いてるから、坊ちゃんはそのまま
 気にせず寝ていてくれ。」

ベグはそういうと、ベットの近くに椅子を置き、
ジョナサンの姿が目に入らないように
反対に座る。ベグの優しさに感謝しながらも
、彼の頭のニット帽をぼんやり見つめる。


昔、ベグに自分がプレゼントしたものだ。ベグは昔から、
前頭部から後頭部にかけて包帯を巻いている。
パッとしか見なくてよく判らないのだが、彼の頭はひどく歪んでいた。

ジョナサンが昔そのことを聞いたら、彼はひどく傷ついた顔をした。
だからせめてものお詫びとして、彼にプレゼントしたものだ。
ベグはそれを、毎日宝物のように身につけてくれている。

今度・・・もう一着違うのをプレゼントしようかな・・
そんなことを考えてるときだった。

「そんなに見つめるなよ・・・」

ベグから声がする。

ジョナサンは慌ててベグに謝る。ひょっとして
しつこく頭を見ていたのが気に障ったのかと。

「ご・・・ごめんそんなつもりじゃ・・・」

しかし、ジョナサンの突然の侘びの言葉に、ベグは
驚いて振り返る。

「ぼ・・・坊ちゃんいきなりどうしただ?」

その顔はひどく驚いてるようだった。

ジョナサンも驚いて目を見開く。
あれは確かにベグの声だった。
おそるおそる尋ねる。

「だって、あまり見るなって・・・」

そういったよね?と上目づかいで訴える。
ベグはその途端顔を曇らせる。

しかし、すぐ表情を和らげるとジョナサンに

「気のせいだ!」

と言って、自分の机の大輪のバラを見せる。

ジョナサンは、わあ・・・と思わず
ため息を漏らす。

そのくらい大きくて見事なバラだった。

へへへ・・とベグは得意そうに笑うと、それを一本取って
ジョナサンに渡す。

「坊ちゃんにあげるだ。後で一輪挿しにでも刺して
 へやにかざってくれ。」

ジョナサンは、喜んで受け取るが、自分の部屋に
一輪挿しがないのに気付いて気を落とす。

一応ベンに聞いてみる。一輪挿しを貸してもらえないかと。

無ければ、コップにでも刺しておこうと思ったが
やはりこの花を引き立たせるなら、一輪挿しがあった方がいい。

「うーん・・・いいのがあるべか・・・」

取りあえず探してくるだと、言って後ろを振り向くベグ。
その時だった。

「あるじゃねえか・・・自慢のでかいのが・・・」

その言葉に二人の体が固まる。空耳ではない。
それが証拠にベグも体を固めたまま動けない。

「なあ、そろそろ交代しようや・・・」

動けないことをいいことに、声は話を続ける。
ベグは急に頭を押さえ苦しみだした


「うああああ!!出てくるな!!おめえは出てくるな!!」

呻きながら必死で頭を押さえるベグ。声はなおも続ける。

「いいや、これから俺の出番だ。」

「ぼっちゃん!!にげろ!!逃げてくれ!!」

「逃がさねえよ。」

「ぼっちゃん!!俺を・・俺をなぐ・・」

突然震えていたベグの体が止まる。

口を開け、苦悶の表情を浮かべたまま
ベグは自分の頭をつかみ・・・

「あーーーらよっと。」

とグキキキ・・と嫌な音を立てて、首を180度
反対に回した。

「はーい。皆様?二面男のベグでございまーす。」

うやうやしく丁寧にお辞儀するベグ。

ジョナサンは何が何だかわからないまま、そこから動けない。

もう一人のベグはニット帽を投げ捨て、包帯をしゅるしゅると取る。
信じられない事に、そこにはもう一つのベグの顔があった。
しかしその顔はベグとは似ても
似つかない、醜悪な表情を浮かべた男の顔だった。

包帯が落ちるの呆然と見ていたジョナサンだったが、
ベグの「逃げろ」という言葉を思い出し
慌ててベットから降りようとする。しかし
その隙を見逃さず首根っこを掴み、ベットへ
引きずり戻される。

ベグの重く硬い体がジョナサンにのしかかる。
おもわずうめき声が漏れる。
 
「おっと・・・つぶしちゃ悪いかな・・・へへ・・」

厭味な笑い方をしながらジョナサンを胡坐の書いた
自分の膝の上に乗せた。

気味の悪い低い声が、耳元で囁く。

「お客様ぁ?治療代をお忘れですよ?ああそうだ、見物代もね?」

一方ジョナサンは男の左腕で胸と首の当たりを、がっちり
押さえられ身動きが取れないでもがいていた。

その姿を見てベグが一人でしゃべり続ける。

「いますぐお払い下さい。3,2,1。ハイ時間切れです。
 仕方ありません。お金がない方は体で払っていただきます。」

それを聞いて、じたばたともがいているジョナサンの体が固まる。
ベグはもう片方の手でジョナサンの手を掴むと
無理やり自分の股間に押し付ける。

勿論他人の、しかも大人の男の物など触ったことのない
ジョナサンは、いきなりそれを押し付けられて
ぞくっと身震いをした。それは異常なほどの熱さと
固さをもっている。

突然クチャ・・と耳の中にぬめっとしたものが
侵入し、ジョナサンはさらに体を強張らせる。

「・・・ぼっちゃん?さっき「一輪挿し」が欲しいっていったよな?
 これが俺の「一輪挿し」だよ、固くて大きくて立派だろ?入るかなあ・・
 坊ちゃんの中に・・・・」

下衆な含み笑いが耳に障る。

ぞわ・・・ジョナサンの体全身に鳥肌が立つ。男は
なおも楽しそうに話つづける。傍らに落ちているバラを
一本取り、ジョナサンにとげの付いている茎の部分を
見せびらかすようにちらつかせる。

「・・・これ・・・どうするか判るか?さて質問です?
 これは尻の中に入ると思いますか?いいえ違います。
 これは今から坊ちゃんの「一輪挿し」にはいります。」

その一言に心臓がギュッと縮まる。

ポタリポタリと、ジョナサンの額から冷や汗が流れる。
視線の先はバラの茎を捉えたまま、目を閉じることもできなかった。

「ああ?このバラのとげ?そりゃ刺されば痛いよな。
 うーん。どうしようかな・・そうだ!ぼっちゃんが
 可愛く腰を振って、泣いておすがりしてきたら棘をとって
 あげようかな?どう?いい案だと思わないか・・・?」

馬鹿にしたような含み笑いが聞こえる。その瞬間に
ジョナサンの中にある「何か」が切れた。体中の
血液が沸騰するような感覚が全身を巡る。

「この・・・っ・・・」

ジョナサンの手が男の腕をゆっくりだが引きはがす。
男が少し驚いて気をゆるんだその隙に、
素早く肘が動いて、ベグの顔面を強打した


思わずよろ・・と巨体がよろける。
鼻から出る血を押さえながらベグはジョナサンを
凄い形相で睨みつける。

「・・・このガキ・・・優しくしてやりゃあ・・」

ジョナサンは次の攻撃に向けて、「構え」を取る。
 
「もう、泣こうが叫ぼうが、棘付きで
 このバラを突っ込んでやる!!
 ぐりぐりと擦り付けてなあ!いてえぞ・・
 いてえぞ?ひゃははははは!!」

ジョナサンは傍に置いてある木の棒を掴み。
男に向って構えを取りなおす。破壊力は向こうが上だろうが、
素早さならこっちが上だ。

ベグの動きを注意深く見る。ジョナサンも伊達に
喧嘩なれはしていない。最も彼は、正当な理由もなしに
喧嘩を吹っかけたりはしないのだけど。

だが相手はベグだ。今の男は救いようのない悪魔のような男だが、
本当の体の持ち主は心根の優しい男の物だ。

出来ればダメージは最小限に抑えたい。
しかしそれでも難しい場合は逃げるしかない。


じりじりと間合いを取ってベグの隙が出来るのを待つ。

ベグの拳がドアを突き破る。ジョナサンはそれをかわし
そのままドアの隙間から外へ転がり込んだ。

外へ出たらこっちのものだ。ベグはあの体だ。
巨体を揺らし襲ってくるが、追い付かれる気配は一切ない。

あとはこのまま自分の部屋に逃げ込むだけだ。
果たしてベグも悪魔の仕業なのか判らないが。
一か八かに賭けるしかない。

階段を駆け上り、自分の部屋に駆け込もうとした時
誰かが部屋の前にたたずんでいる。

蒼い髪、いつも見たことのある横顔。
しかしその横顔には、何時もの優しい眼差しはない。
昨夜の思い出したくもない、暗く禍々しい表情がそこにあった。

目と目が合う。心臓が一気に冷やされる。

下から「バン」と扉が大きく開けられる。
「ぼォオオっちゃんんン!!どこかなアアアア?」

重い足音を立て階段をゆっくり上っていく。

自分の部屋の前では、「父の姿をしたもの」が待ち構えている。

どうすればいい?どうすれば。

その時どこかのドアが少し開いた。

「ジョジョ。こっちだ。」

ドアの中から伸びた白い手が、ジョナサンを引っ張り
部屋の中に引き込んだ。

半ば投げ出される感じでジョジョは柔らかい絨毯に尻もちをつく。
痛みで眉をひそめていると、すっと白い手が差し伸べられる。

ジョナサンは自分と同じくらいのその手を掴み返し、
彼の力を借りて立ち上がる。

ジョナサンと同じくらいの年ごろの少年は、ドアにかちゃりと鍵をかけ
た。

「・・・ディオ?」

「・・・外でバタバタとうるさい足音がしたんで
 何かと思ったら、君が青ざめた顔で立ち往生していたから・・」

「あ・・・」

「最初はお父さんに怒られてるのかなって思って、
 放っておこうかと思ったんだけど・・・君の
 姿が尋常じゃなかったから・・・」

ディオに言われてジョナサンは慌てて自分の姿を
確認する。泥はついてるわ、ベグの返り血はついてるわ
ところどころ擦り傷はあるわ、散々なものだった。

「ご・・・ごめん汚い姿で君の部屋に・・・」

ディオと仲直りはしたものの、ディオは今だ
自分の考え方は変えない。

卑怯な面こそ見せないが、いいものはいい、
だめなものはダメ、と頑固な一面もまだ残っていた。

ディオは綺麗好きだ。ジョナサンが汚い格好で
自分の部屋に入ったのを、あまりよくは思っていないだろう。

気まずさを感じてジョナサンが謝る。

「ご・・・ごめん・・すぐ出ていくから。」

そう言って震える手でドアノブを掴むと、
白い手がそれを阻む。


「君は追われているんだろう?誰にだか知らないけど・・
 そうじゃなきゃこんな時分に君を入れたりしないよ。」

半ば困ったような呆れたような顔でディオは、洗いたての
寝間着をジョナサンに渡す。

「シャワーはあっちね。浴びて着替えておいでよ。
 ・・・・その寝間着はもう捨てたほうがいいね。
 酷い匂いだ。」

ジョナサンは、いてもたってもいられず短くディオに
お礼を言うと、シャワー室へかけていく。


その姿を後目に、ディオはベットのそばの読みかけの本を
棚に戻した。

(今夜はこの本を読むのは止めにして
 怯えるジョジョを観察して楽しもうかな・・)

ふふふ・・と口元に笑いを浮かべながら
彼の為にココアと焼き菓子を置いてやる。


(あのまま放っておいてもよかったけど
俺の知らない所で不幸になっても面白くない。
出来ることなら俺の手でじわじわと不幸に
陥れてやりたい。勿論お前に、俺は最後まで
真人間だったと信じ込ませた上で。)

「・・・どうやって煽ってやろうかな・・・
 あいつが受けた恐怖を・・・・」

誰の耳にも届かない小さな声で呟き
マシュマロをココアに入れる。

(出来るだけ優しい言葉をかけてやろう。
 知らずに傷つけたふりをしてあいつに謝ろう。
 あいつが良心の呵責にいちいち苛まれる
 姿を見て楽しもう。
 ああ遅いな・・・早く出ろ。
 俺は待たされるのが嫌いなんだ。)

くるくると回すとマシュマロは溶けて
白い渦を描く。そのうちマシュマロは
ココアに同化されて跡形もなくなる。

(このマシュマロはお前の未来を暗示している
 みたいだな・・・ジョジョ・・・。)

くす・・・と笑いスプーンを容器に入れる。
かちゃんという音とドアの開くが同時に耳に入る。

(ふん。全く長々と・・・)

ジョナサンがため息をついて出てくる。
髪はまだ乾ききっておらず、いくつかの
雫が頬を伝って流れ落ちる。

顔は熱気で赤らんで健康な少年のそれだが、
彼の大きな瞳はどこか暗さをはらんでいた。

ディオは優しくジョナサンの肩を掴む。
しかしジョナサンはそれに対してつい
体を強張らせてしまう。
ディオはさも申し訳なさそうに謝る。
ジョナサンもそれに対して心底申し訳なく思い
その度に彼に謝った。

(ああ、面白い・・・。俺の偽りの謝罪に対して
 こいつときたら・・)

ジョナサンはココアを震えた両手で支えている。

余程精神的ダメージが残っているらしい。

それでも口をきつく結んでいるのは、
必死で立ち直ろうとしている証拠なのだろう。

ディオはそれを見ないふりをして、キャンディーを一つとると
包装紙を開き、青みがかった緑色のそれを口の中に入れ
コリコリと噛み砕く。それをぼんやり見ていたジョナサンが
ふいに尋ねる。

「ディオは、必ずその緑色の飴は舐めないで噛み砕くんだね。
 あんまり好きじゃないの?」

ジョナサンがぎこちない笑顔を作り、ディオに
話しかける。

ディオはジョナサンに微笑み返しをすると、ごくりと
それを飲み込んで首を横に振る。

「逆さ。大好きだよ。特にこの味が。すぐ噛み砕いてしまうのは
 これが口の中で壊れた時の香りが堪らないからね。我慢できないの
さ。」

「ああ・・!何となくわかるよその気持ち。」

ようやく素を取り戻しつつあるジョナサンに、ディオは 
にっこりとした笑顔で微笑んでやる。

(食い意地のはったお坊ちゃまはこれだからな・・・
 この色は俺にとってのお前のイメージカラーなんだよ。
 だからすぐに噛み砕きたくて堪らないのさ。
 粉々に砕いて飲み込んでやる。その感触が大のお気に入り
 なのさ。)

突然雷が鳴る。ジョナサンの体がビクッと震える。
窓の外を見る彼の瞳は、どこか怯えている。
勿論普段の彼は、雷ごときでこんなに怯えない。
その姿を見てディオの口角が上がる。

(さあ・・・まだ恐怖の効果が効いてる内に
 たたみ掛けてやろうか。)

ディオはジョナサンと共に寝ようと提案する。
だが先ほどのベットでの出来事を思い出し
青ざめて首を振るジョナサン。

自分は床かソファーで構わないと言い張るが、
ディオの悲しそうな顔を見て仕方なく
共にねることを決意する。

ディオはジョナサンの背中を見つめ冷たく笑う。
ジョナサンの背中はどこかまだ強張ってる。

(体を密着させたらどんな反応をするだろう。
 手を腰のあたりに置いたら・・・
 太もものあたりに置いたら?
 ああ面白い。さっき読んでいた本よりは楽しめそうだ。)

一方のジョナサンは、雷といつ来るか判らない恐怖に対して
一向に眠れないでいた。





今日も、長い夜が来る。



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