![]() カツンカツンと足音を響かせ誰もいない廊下を歩く二人の看護師。 前回起きた病院の崩壊事故にもめげず、(というか日常茶飯事なので) 彼らはけなげに仕事に励んでいた。 ジョジョ病院へようこそ2 「いやーー・・あれは面白かったな!!」 カルテを胸に抱えたジョセフが、承太郎にさも愉快そうに 話しかける。一方の承太郎は、楽しそうに 語る彼とは対照的に不愉快そうに答える。 「・・・冗談じゃないぜ。あんなことはもう二度と御免だ。」 彼らが言う「あれ」や「あんなこと」は別に崩壊事故のことではなく、 2週間「看護婦」になるという、無茶苦茶な決まりごとのせいで 無理やり看護婦をやらされてしまったことだった。 「だがまあ、これにこりて二度と患者達も 血迷いごとを言わなくなっただろうな。」 「まあな・・・一部の患者達には評判良かったみたいだけどな。」 確かにもう一度やってくれなどという声もあった。 ジョルノなどは他のメンバーとは違い、線も細く 看護婦としての違和感も少なかったので、なかなか 評価が高かったらしい。 ジョセフとしても女装は趣味ではないが、ノリとしては 嫌いではないので、すこしはウケたことにまんざらでも ないようだ。 「・・・そいつには精神鑑定を激しくお勧めするぜ・・。」 そういうと舌打ちを一つしながら 苦虫を噛み潰したような顔をして承太郎は目を伏せた。 思い出したくもない嫌な思い出が頭に浮かんで離れないのであろう。 実は今回の「看護婦」のことは、患者達が要望したことだった。 ただし彼らに女装しろとはいってはいない。 なぜならはこの病院には看護婦(女性)がいない。それで患者達が 「女の医者をいれろ!看護婦を入れろ!」と騒ぎ立てたので DIO院長が当て付けと嫌がらせも兼ねて、看護師達に 「看護婦になりきりプレイをやれ」と命令したのだ。 勿論周囲の看護士達は猛反対したが、 「バニーとどちらがいい?」と半ば脅迫じみた選択をさせられたので しぶしぶ看護婦を選んだいうことだ。 因みに承太郎は最後まで抵抗した口だったが、結局は力勝負まで 持ち込んだものの、見事に負けてしまってこの前の悲劇を実行 させられることになった。 今では姉妹病院へいった他の2人も いきなりそんなことをすることになり、 その時は大層困惑していたという。 因みに徐倫は、承太郎(ここでは兄の設定)に たまたま会いに行ったついでに、 看護婦を少しやってみたいという申しでをしたので、 やらしてみただけのようで、女の子ではあるが本当の 看護婦ではないし病院で働く職員でもない。 姉妹病院には女性もいるが、このジョジョ病院には一人もいない。 それどころか患者も全て男だ。だが、それには深い訳があった。 「ところでよー、303号室の患者がまた暴れたらしいぜ。」 「あそこの担当はジョルノだろ?あの程度の患者なら あいつ一人で何とかなるだろ。しかし凝りねぇな・・。 あの患者も・・・。」 承太郎が「やれやれだぜ」と言いながらため息をつく。 「俺の担当の奴なんか、テレビは壊すわ、冷蔵庫は壊すわ・・・ まー・・しばいといたけど・・・。」 「嘘でも大人しいフリをしてりゃ、直ぐ出られるのにな・・ いらねえ怪我なんか作っても、入院が伸びるだけなのに。 まあ出れても、大体の奴が監獄に戻るだけだけどな・・。」 そんな物騒なことを軽く話し合いながら長い廊下を歩く。 新築したばかりのはずの廊下も、気のせいかヒビが入っている。 どうしてこのような状態なのかは、この物騒な話に多少関係がある。 実はこの病院は、罪人の患者専門の病院なのであった。 罪人といっても小悪党から大悪党まで揃っているが、大体が 手のつけられないような大悪党ばかりなので、彼らのような 強い看護師達がどうしても必要になってくるのだ。 前回のスピードワゴンのような小悪党だが 心根は綺麗な人間も入ってくるが、それは非常に 稀なケースであり、殆どが極悪犯で、看護をしながら 応戦しなければならない毎日を彼らは送っているのであり、 またこれらは強い彼らしか出来ない仕事でもある。 普段は彼らの強さにあわせた患者を担当させるように しているのだが、時と場合により二人がかりで面倒を 見なければならない患者もたまに入ってくる。 幸いなことに、そういう患者は大体院長が面倒を見るか、 副院長(ジョナサン)と院長でタッグを組んで 面倒を見るかしてくれているので 下っ端の彼らにはそう言う役目はなかなか回ってこないのだが。 要するにこんな物騒な病院に、患者にしても職員にしても 女性が置けるわけがないのである。 「いやーしかし寒いなー早く、談話室に入って菓子でも 食って、茶でもすすろうや。」 「じじーか、てめーわ。」 冷たい目で睨まれながらもそれを微塵も気にせず 「さぶさぶ」などといいながらもジョセフは 体を震わせ、談話室のドアを開ける。 だがそこには、いないはずの看護婦がいて、 二人は一瞬身を固めた。しかし、よく見るとそれは 机に顔を突っ伏して休んでいたジョルノだった。 クルクルと丸めた前髪を伸ばしてピンで留めていたので 彼だと気づかなかったのだ。 目を丸くするジョセフとは対照的に、顔色が青ざめた承太郎 が、恐る恐るジョルノに尋ねる。 「・・・まさか・・また看護婦になるって言うお達しが きたんじゃねーだろーな・・・。」 承太郎の声にハッと気づき顔を上げたジョルノが 慌てて首を横に振る。 「あ・・・こんな格好でごめんなさい。・・・安心してください。 これは患者さんの要望でこういう格好をしているだけなんです。 ・・・そうしないとゆうこと聞かないって言うので・・・。」 そう言って困ったように笑うが、少し元気がないようだ。 気のせいか少し頬が赤い。 「お前甘いなー。力づくでゆうこと聞かせりゃいいじゃん。」 そう言いながらも机の上においてある菓子を手に取り 手早く包装紙を開けると、口の中に放り込みながら ジョセフは席に着いた。承太郎もその隣に座り ポットから急須にお湯を注ぐ。 「甘やかすと付け上がるぜ・・・。」 「そうそう、まあ、確かにお前にはその格好似合うけど。 なあ、承太郎。」 パリパリと煎餅を齧りながらジョセフは承太郎に同意を求める。 確かに自分達よりも一回りも体が小さく、華奢な体の彼には 似合うかもしれない。以前の彼を見たときも違和感が余り 湧かなかったのも事実だ。そう、自分達と比べるとなお更に。 「・・・そりゃあ、俺達より千倍はマシだな・・。」 「「達」ってなんだよ。俺もはいってんのか?」 承太郎の言い草に、少しムッとしたジョセフが尋ねる。 「・・・・まさかてめーは似合うと思ってんのか? 自分のあのみっともねー格好を?」 「別に本気でそうは思ってはいねーけどさー! お前が言うと、なんか棘があんだよな!棘が!」 眉を顰めたまま、承太郎がジョセフを睨み返すので、 空気が気まずくなったのを感じてジョルノが 慌てて二人をフォローする。 「あの・・・お二人も以外に似合うって言ってましたよ?」 それを聞いてジョセフはホラみろとばかりに 承太郎の肩を叩く。一方の承太郎は飲みこみかけのお茶を 豪快に吹いた。 「きたねーな!肩叩いたくらいでリアクション オーバーじゃね?」 咳き込みながら片手で口を押さえ、もう片方の手で 机の上を布巾で拭きながら承太郎は「うるせえ」と ばかりにジョセフを睨む。そして自分達の反応を 伺っているであろうジョルノに素朴な疑問をぶつける。 「誰が言った・・?」 故意ではないが、少し怖い目でジョルノを睨む。 しかしここで働いている人間は、そんなもので ビビるほどやわではない。 「僕の恋人です。」 そう言ってにっこり笑うと横でジョセフが「ああ」 と手を叩いた。 「ブチャブチャ君だろ?」 自信満々に自分の恋人の名を間違って言い当てる ジョセフに、思わずジョルノが苦笑いする。 「ぶ・・ブチャラティです。(困)言いずらいかも しれませんが・・・。」 「あ、ごめんな!珍しい名前なもんで・・・つい!」 そう言って頭をかいて謝るジョセフだが、本当に悪気は ないらしく、どうやら素で間違えたようだ。 承太郎は「珍しいなら逆に間違えないと思うが。」などと 思いながら隣で黙々とお茶を飲んでいた。 「シーザーみたいにありきたりな名前だったらな。」 「ジョセフさんはその後、彼と会えてます?」 「おう、合間を縫ってなんとかな。あいつ「たらし」 だから、他に遊んでる奴がいるんじゃねぇかと思うと 冷や冷やするぜ。その点お前の彼氏は誠実なんだろ? いいなあ・・・。」 「おい、まてよ。お前らのそっち趣味に今更ガタガタいわねーが、 俺の前ではおのろけ対話だけはやめてくれねーか。」 二人が彼氏自慢をしそうになったので、承太郎がこれはたまらないと ばかりに話に割ってはいる。しかし言い方がまずかったのか ジョセフが承太郎をギロリと睨んだ。 「そっち趣味ってなんだよ!男しか興味ないみたいに言うな! 俺だってフツーにキレーなねーちゃんは好きだよ! いっとくけどな、俺はあいつという人間が好きだから 惚れてんだ!男だからあいつを選んだんじゃねぇ!いいか・・・!? あいつは・・」 「俺が悪かった。謝る。(棒)ところでジョルノ。お前が 彼氏に見せたのか?メールとかで。」 これ以上熱弁されても困ると感じた承太郎は、渋々ながらも さっさとジョセフに詫びを入れ、本題に入るべくジョルノに 質問をする。するとジョルノはスマホを取り出し承太郎に見せる。 そこには看護婦となったみんなが記念写真をとられていた ものが写っていた。 そこに移っている承太郎は思いっきり不機嫌な顔をして うつっていたが、他のメンバーはまんざらでもなさそうだ。 悪乗りしているメンバーさえもいる。多分これが二週間も つづくなどと思っていなかったからだろうが。 しかしこの写真はジョルノも写っているので、ジョルノが 撮ったのではない。写真を撮られたことだけは判っているが 承太郎にもジョセフにもこの写真は 送られてこなかったし、そんな話もなかった。 なぜ、彼だけがこの写真を持っているのか、 どうして気を使う彼が他のメンバーの写っている写真を送ったのかが、 どうにも承太郎は腑におちなかった。 そんな承太郎の心情を汲み取ったのか、ジョルノが 彼の疑問に答える。 「実はそれを勝手に彼のメールに送った人がいるんです。 僕のフリをして。」 その言葉に承太郎とジョセフは直ぐある人物が思い浮かぶ。 「院長の野郎か・・・なるほど合点がいったぜ・・(怒)」 ボキボキと指を鳴らす承太郎の横でジョセフが スマホの写真を眺めながら、「うーん」と唸る。 「でも、院長だからって流石に他人のメールとか操作するのって 犯罪なんじゃね?」 「残念ながら・・・親子ですから・・・。」 「あ・・・。」 思わず同時に二人の口が開いてしまう。 忘れがちだがこの二人は親子なのだ。 更に忘れがちだが、副院長(ジョナサン)と 同じ血と遺伝子も入っているので、正確にはあの二人の 子供ということになる。院長が言うには自分が父親で ジョナサンが母親だと言う事でごり押しを してしまってるようだ。ジョルノ自身も (院長に関しては不満はあるが)それで 一応納得はしているようだが。 だが親子だからと勿論許されるわけないが、 逆に肉親であるからこそ大事になることも ないわけで、それに良く考えたら、ジョセフも 承太郎も院長とは理屈上では同じ血が流れているので 全くの他人とはいえないのだ。もはやこの病院は 親戚だけで経営してるようなものだ。 「これからは携帯要チェックしなきゃならねーようだな。」 そう言いながら承太郎はポケットから携帯を取り出し確認する。 一方ジョセフはジョルノにその写真を自分に送るように頼む。 ジョルノがすぐさまそれを送ると、ジョセフも素早い手つきで スマホを操作し送信音鳴らした。 その音にハッとして承太郎がジョセフに詰め寄る。 「おい!今の誰かに送ったんじゃねーだろうな!」 「おう!送ったぜ!」 ばちこんとウィンクするジョセフに思わず大声を あげる。出来れば秘密に、更に言えば記憶からも 消し去りたい自分のあの姿を、関係ない人間とはいえ 誰にも見られたくないからだ。承太郎は ジョセフの肩をつかんでスマホを覗き込む。 「写真修正はしたんだろうな!」 「めんどい。まんまにきまってるだろ?」 「バカ野郎!・・・おい返事が来たぜ。」 軽快な音楽が鳴ったので、機嫌よくそれを ジョセフが開ける。相手は勿論シーザーが 送ったものだったが、内容は後ろで見ている 承太郎にも直ぐ判る簡潔な言葉だった。 【あほ】 その一言にジョセフも承太郎も目を細める。 思わず笑いそうになるのを堪え、承太郎が バカにするようにジョセフの頭を指で小突く。 「・・・・てめーのことよく理解してるじゃねーか。 おい、今どんな気持ちだ?」 「・・うるせーやい!あいつめ、素直にほめりゃあ・・あれ また来た・・・「すまない」だって・・。なんだよ 最初から素直な気持ちでメールすりゃあ・・・。」 ブツブツいいながらも、まんざらではなさそうにジョセフは メールを開く。そこにはまた簡潔な言葉でこう綴られていた。 【「ド」をつけるのを忘れていた。】 「・・・・・・・。」 「・・・・・・。」 ムスッとジョセフの表情が不機嫌にかわる。 別に褒められる事を期待してたわけじゃないが、余りにも 突っ込みの少ない恋人の反応に少し不満を抱いたようだ。 その後ろでクックッと承太郎が笑いを必死で押し殺している中、 ジョルノは慌てて「仕事に戻る」といい、部屋を出た。 その直ぐ後、怒声と共にドアがガタガタと揺れ始めた。 当分部屋の中には入れそうにない。 「はぁ・・・う・・・寒い。」 露出の高いナースの格好をしたまま出てきてしまったので いくら暖房が効いているとはいえ今は二月だし、冷たい 空気が彼の体をつつむ。 しかも病院には金はあるくせに、院長がけちで 暖房を低めに設定してある。 もともと暑さに弱い男性ばっかりなので、 どうしても低めに設定されて しまうのもあったが、寒気がするのはジョルノの 今の体調にも少し関係があった。 (風邪・・だろうか・・・) どうも体がだるいし顔が熱い。彼の特殊能力なら 大抵のことは回復してしまうが、 ウィルスに関しては別のようだ。 ぶるぶると体を震わせていると、急に背中に 柔らかく暖かいものがかかる。 「副院長・・・」 後ろを振り向くと見覚えのある顔が優しく微笑んでいる。 毛糸のカーディガンをかけてくれた人物は、いつの間にか後ろに 近づいていたジョナサンだった。 「どうしてナースのカッコなんか・・・。 まさか・・DIOが強要して・・・」 ジョナサンの口癖なのかいつも「DIOが?」という。 それ程問題を起こしているDIOにも責任はあるが。 「いえ・・・患者さんの強い要望で・・・。」 「困った患者さんだね。ここはコスプレパブではないって 僕から説明しておこうか?」 ジョナサンは他のメンバーと比べたらかなり温厚なほうだが、 それでも、わからずやに対しては力づくになることがある。 ただ、ジョルノが相手をしている「看護婦姿希望」の患者は 死んだ「看護婦だった彼女」に似ているからという理由で 彼にコスプレを希望しているのだ。それが証拠に何かやましい ことをする訳でもなく、その格好をしているときだけ子供の 様に素直になるという。それをジョナサンに説明すると 彼は一言「判ったよ。君の思うままにするといい。」と 優しく笑った。そのまま部屋に入るべくノブを 手にかけようとするがジョルノは慌てて止める。 「あ・・・今は危険です。もすこし待ったほうが・・・。」 「・・・・もう・・。またあの二人ケンカしてるんだね。 こまったな・・・。大丈夫任せて。・・・それとジョルノ、君 具合悪いんじゃない?その仕事が終わったらもう寝るといいよ。 君の担当の患者達の面倒は、罰として中にいる二人にさせるから。」 困り顔をしながらジョナサンは微笑んで、最後に 「DIOには見つからないようにね。」とジョルノに付け足す。 そして勢いよくドアを開けると「こらっ!」と大きな声で 中にいる二人を叱った。 きっと中では言い訳をしてるジョセフと、ムスッとしている 承太郎がジョナサンに叱られているのだろう。 それを想像すると少し可笑しくて笑みがこぼれた。 ジョナサンの言うとおり、仕事が終わったら休もう。 他の皆に移すといけない。院長だけは別だが。 ジョルノはそう考えると足早に患者の待つ病室へと 向かっていった。 そして消灯の時間になり談話室の灯りもすっかり消えた頃、 治療室では、DIOとジョナサンが何やら取り込んでいた。 時折ジョナサンの悲鳴に似た声が部屋から聞こえてくる。 「痛いだろっ・・・!動かないで!」 「・・・無理言うな、お前が動かんのに 俺にじっとしてろというのか?ほら・・。」 「だっ・・だから止めてくれっ!」 「手が震えているぞ。そんなに冷や汗もかいて・・ そんなんで続けられるのか?」 「・・・バカにしないでくれっ!仕方ないだろう? 君と違って・・・僕は・・・。」 「フン。お綺麗な事だ。だが、少し思い切りが 足りないのと違うか?」 「お・・お願いだから、僕のペースでやらせてくれ・・。」 「・・・やれやれ・・。困った奴だ。 いいだろう。しかし早く進めろ。」 「わ・・判ったから協力してくれ。」 「・・・なあジョナサン。」 「え?」 「もっと深く思い切りいれろ。」 「む・・無理だよ!」 「いいからいれるんだ!」 「ああっ!痛いよっ!!」 「・・・まったく・・。手間をとらせおって・・。 ほら・・出てきたぞ。後始末をしろ。」 「ううっ・・判ったよ。・・・今・・拭くから・・。 はい・・終わったよ。」 傍から聞いたら怪しげな会話ではあるが、ここは治療室なわけで 今行っていた行為は本当にただの治療だった。 「ああ・・・疲れた・・。」 ジョナサンが疲労感の漂う表情で DIOの腕に包帯をクルクルと巻く。 「本当にお前という奴は・・・俺の腕の中の ガラスの破片を取るのにどれだけ手間取っているんだ。」 呆れながらDIOは自分の血で塗れたメスを、指の腹で拭う。 それを見たジョナサンが青い顔をしてまた悲鳴を上げる。 「だからそう言う危ない事をするのを止めろってば!! 見てるだけで痛いんだよ!君は麻酔もしてないんだぞ!」 慌ててDIOからメスを奪い取ると、彼の指と メスを消毒ガーゼで丁寧に拭う。 「何度も言うようだが、俺は別に痛くないんだ。勿論 お前もな。それなのにお前と来たらまるで自分が 刺さって痛いみたいに・・・。」 「僕は君に昔散々味あわされた痛みを良く知っているからね! 他の人がそう言う目に会うと嫌でも共感できるんだよ!」 ジョナサンは嫌みを言って睨むが、その返事を待っていたかのように DIOは嫌味を嫌味で返してくる。 「それなら俺を波紋で攻撃するのは止めろ。あれは 結構キツいんだ。」 「君が悪い事しなきゃそんなことしないよ!子供じゃないんだから 判るだろ!?もう・・・さ・・院長室に戻って仕事仕事!」 さっさと部屋から出るように背中を押すジョナサンに対し DIOは怪訝な顔をする。 「俺一人でか?」 「もう僕に用はないだろ?頼むからこういう事は 余り頼まないでくれ。本当苦手なんだからこういうの。」 「今までの会話でなにか・・こう・・もやもや する事とかはなかったのか?(下半身とか)」 何かを目で訴えてくるDIOにジョナサンは意味がわからず 首をかしげる。 「痛々しくて、やってて疲れたということではあるけど・・?」 「つまらんヤツめ・・・。これだからお約束は嫌いだ。」 くそまじめな答えをするジョナサンにあてつけるように鼻を鳴らして そっけない態度DIOは部屋を出て行く。あんまりなその様子に ジョナサンはドアの外のDIOに腹を立てる。 「なんだよ!人に頼んでおいてその態度は! 全く・・何を考えているんだか・・・。 ・・・でも今まで緊張していたからよく 判らなかったけど・・・今夜は冷えるなあ・・。」 ジョルノに貸してしまったために、羽織る上着がないので 懸命に両腕をこする。風邪なんか引かないようにしなきゃと 用心したのもつかの間、それはフラグとして発生する。 数日後 とある一室にて。 「ごめんなさい・・・僕のせいですね・・。」 「ごほっ・・・じ・・じかたね・・・ごほっ!ごほっ!!」 実はこの二人が話しているこの場所は仮眠室で 本当なら各個人によって使う時間帯が 決まっており、一人以上が同じ時間で使っていることは 余りないのだが、今日に限っては 三人も埋まっている有様であった。 「ぜぇぜぇ・・・」 「・・・無理して喋らないほうがいいですよ。」 さっきから呼吸を苦しそうにしているジョセフの隣には ぐったりしているジョルノがいる。 そしてその隣にはマスクをつけた承太郎がいた。 実はジョルノは悪性の風邪にかかっており、その症状は 高熱、めまい、ヒドイせき、クシャミ、頭痛、呼吸困難などで、 高熱はジョルノで、ヒドイ咳と呼吸困難がジョセフ。 同じく酷い咳に加え頭痛、そして声すら 出なくなったのが承太郎だ。 言葉が出せない承太郎が白いボードにペンを滑らす。 【ジョルノの言うとおりだ。無理して喋んじゃねぇよ。】 そう書いてジョセフに見せる。ジョセフが見た事を確認すると さっさとそれを消して横になる。時折苦しそうに眉間にしわを寄せる。 相当頭痛がひどいようだ。しかも咳をするたび頭痛がするようで かなり辛そうだ。 それを見たジョルノが更に表情を暗くするので、ジョセフが慌てて、 自分もボードを持ってきてペンを滑らした。 【気にすんなよ。病院は感染がつき物だ!お前がならなくたって 誰かがなってたらうつってたし、 なった奴が悪いわけじゃないんだから!な?】 そう書いてジョルノをフォローする。ふとそんなジョセフの ポケットのスマホが電話が来たことを伝える。 (あ・・!シーザーからじゃん!さては俺のこと心配して・・。) ジョセフがさっき「風邪で死にそう」とメールをしたので、 シーザーが心配して電話をかけてきたのだろう。つい嬉しくて いつものように通話ボタンを押してしまう。話せる状態じゃ ないこともすっかり忘れて。 (あ・・・やば・・・・) (あほ・・・) スマホを耳に当てたまま固まるジョセフを承太郎が 呆れたように見つめる。スマホからはシーザーが 「もしもし?もしもし!」と声をかけている。 それを見かねたジョルノがジョセフのスマホを 受け取る。 「もしもし・・・?あ・・僕ジョルノと言います。 ええ、はい・・・。そうです、同僚の・・・というか 従兄弟の・・・。あの・・ジョセフさんなんですが、 聞こえますよね?彼の咳・・。彼咳が酷くてとても話せる 状態じゃなくて・・・。え?勿論嘘じゃないですよ・・ ふふ・・。信じてあげてください・・・。はい・・・ 彼は熱はそれほどではないんですが、呼吸困難と咳が・・ ちょっと元気もないです・・。ええ・・・。はい・・。」 ジョルノとシーザーが話しているのを盗み聞きしながら 一喜一憂しているジョセフをぼんやり見ていた承太郎だったが 突然気配を感じ、ドアの方へ視線を向ける。 がちゃりと静かに音が開く音がして「それ」は入ってきたが、 話に夢中になっている二人には「それ」が傍に 近づいてきたことすら判らなかった。 「え?お見舞い・・・?でもここは危険な所ですから。 ジョセフさんもそう言ってますし・・・。ええ、彼は 貴方のその気持ちだけで有難いっていってま・・・」 ジョルノの言葉がふいに途切れる。それもそのはずでいつのまにか こっそり入ってきたDIOにスマホを取り上げられたからだ。 DIOは目を見開いて自分を見つめる二人を バカにしたように見下ろしながら、スマホから聞こえる 「もしもし?」という問いかけに答える。 「もしもし?ん?俺か?ここの院長だ。聞いた通り ジョセフは死にそうだが、面会は謝絶だ。 なんだと?本当のことを言えだと?俺は真実 しか言わん。」 DIOの傍若無人な会話ぶりに痙攣を起こして倒れていた ジョセフだったが、すぐ我にかえり彼からスマホを 奪い取ろうとする。しかし普段でもかなわないのに、 更に具合の悪い今の体で彼に敵うはずもなく、頭を 鷲づかみにされベッドへと押し込められる。 苦しそうに咳き込むジョセフを後目にDIOはシーザーと 会話を続ける。 「ふん・・暴れずに大人しくベットで寝ておれば いいものを・・なに?ああ・・ 気にするなこっちの話だ・・。え?今話してた奴か?勿論 ジョセフだが?ん?乱暴だと?どっちの意味の 「乱暴」だ?ふふふ・・。なに?手を出したら許さない? 親戚同士なのだからとくに問題はないだろ? 赤の他人のお前にそんなこと言う資格はない。じゃあな。」 そう、無情に答えるとピッと通話終了のボタンを押して わなわなと震えているジョセフを小ばかにするように見下ろす。 「だとよ。大分心配してくれてるようだな。この幸せ者が。」 それを聞いたジョセフがおもむろにホワイトボードに がつがつと殴り書きをする。そして怒りに任せて それをDIOの顔面先ににつきつける。 【何が幸せ者だ!!この鬼!悪魔!! お前の父ちゃん超外道!!】 「俺の親父が超外道だということを良く知ってたな。」 ほう、と感心しながら何故かジョセフのスマホを懐にしまう。 判りきっていたが、ちっとも堪えないDIOに ジョセフはがっくりと肩を落とす。 「あんまりではないですか・・ まあ、貴方に何を言っても無駄ですけど・・・」 ジョルノが落ち込んでいるジョセフを哀れに思いフォローする。 「ふん。具合が悪いのにスマホなんぞで会話しているからだ。 ジョルノ、お前のも没収するぞ。「パパ」によこすんだ。」 「・・・「パパ」とか言わないでください(怒)。 ・・・・具合が悪化しそうです。」 「パパが恥ずかしいなら、「お父様」でもいい。」 「・・・・・。治ったら絶対一撃 お見舞いしますからね。」 そう、恨めしそうに言いながら、ジョルノはDIOに スマホを渡す。ここで抵抗すれば返って 受けなくてもいいセクハラを受けそうになりそうだからだ。 「さてと・・・」 ジョルノのスマホを懐にしまい、チロリと鋭い眼光を さっきから自分にかたくなに背を見せている承太郎に向ける。 「聞こえたよな、そこの高校生。携帯だ。」 明らかに自分に向けらていわれたのは判るが そのままそばに寄ってこられるのが嫌なのか 承太郎は手早くボードに字を書くとDIOに そっけなく見せる。 【今もってねーよ。】 「・・・ほう・・・身体検査をして貰いたいのか? どれ・・・」 含み笑いとともにDIOが近づいて来たので 慌てて上半身を起こす。 【マジでもってねーんだよ!!(怒)】 そう書くと自分の体をスミから隅まで叩いて、 「何も持ってない」アピールを必死でする承太郎。 その瞬間強く叩きすぎたせいか思い切り咳き込んでしまう。 「ふん。芝居ではなさそうだな。まぁ、今のか弱いお前らを 苛めるのも可愛そうだから、許してやるか。 俺は神の様な男だろう?」 ふふふと悪びれもなく笑うDIOにジョセフと承太郎が 思い切り速いスピードでボードに字を書いてそれを見せる。 【破壊神だろm9(`皿´)】 【死神だろm9(@皿@)】 「否定はしない。」 二人の嫌味に全く動じずキリッとキメ顔を 見せるとそのまま高笑いをして仮眠室を去っていった。 残された三人は一気に力が抜ける。ジョセフにいたっては ことさら頭にきたらしく ボードを地面に勢いよく叩き付けた。 「・・・悔しいのは判りますが、今の僕達には 何も出来ないのは事実です。まあ、スマホを 取られてしまったのは痛いですが、働けと 言われたわけではないですから、早く回復して 院長に目にものをみせてやりましょう・・・」 そういうとジョルノは力なく目を閉じた。 どうやら体力が限界に近くなったらしい。 40度も熱があるのだから仕方ない。いかに彼らの 体力が人並みはずれていても風邪にだけは勝てないようだ。 承太郎もかなりキツいらしく咳き込みながら布団を 頭までかぶる。そんな二人を見てジョセフも気分が 優れなくなったのか、ベットの中に潜り込もうとする。 しかし、ふと何かを思い出したように立ち上がり 仮眠室のドアノブを捻る。 (え・・・?) ドアを開けたら見えるはずの廊下が見えない。 そっとそれに触れると、冷たい鉄の感触が手のひらに 伝わってきた。 戻る ![]() |