![]() 一体これはどうした事だろう。自分の記憶が正しければ、この先は廊下 に通じているはず ではなかったか。力の限り目の前の何かを どかそうと押したり引いたりする。 今の病に冒されている体ではたいした力が出せないのは 自分自身も良く判っているが、それにしても 全くうんともすんとも言わない障害物にジョセフは 悪戦苦闘する。 ドアの前で馬鹿げたパフォーマンスを繰り広げて いる彼を見兼ねた承太郎が、溜息をつきながら近寄る。 『なに馬鹿げた事してんだよ。うっとおしいな。』 承太郎がホワイトボードに書いた文字をジョセフに 見せると、ジョセフは涙目になりながら自分専用の ホワイトボードに殴り書きをして承太郎に見せる。 『遊んでんじゃねーよ!!ここから出られねーんだよ! 変な障害物が邪魔をして!』 半ギレして訴えるジョセフの背中から見えるドアの 先に「何か」が塞いでいることを目視すると承太郎 は彼と同じようにそれを押したり引いてみたりする。 自分も具合が悪くて力がでないのは承知の上なのだが それだけが原因で障害物をどかせない訳ではないらしい。 多分通常の状態でもこれをどかすのは困難だろう。 問題は今までない筈の障害物が誰によって 置かれたかと言う事だが、思い当たる人間は 一人しかいない。 『DIOの野郎だな・・・・。どういうつもりだ。』 『やっぱりか、どこまで嫌がらせすりゃあ気が済むんだ。 畜生・・・どうしよう・・・。』 『今は外にでるのは諦めるんだな。』 そうボードに書くと承太郎は踵を返し ベットに戻ろうとするが、ジョセフは何故か そこから離れようとせず、せわしなく体を 捩じらせていた。 『まさかと思うが・・・便所か・・・?』 『ビンゴ・・・。さっきから小便したくて・・。 ちょっと、切羽詰っているんだけど・・・。』 『バカか、部屋のトイレ使えば良いだろう?』 『それがあればそうしてるよ!ないから外に出ようと して・・・その結果がこれだよ!俺ピンチ!!』 そう書きながらも股間を押さえ足踏みをしている ジョセフを無視して部屋を見渡す。 確かに少し前までは仮眠室にトイレがあったのに 今はついてないようだ。そう、まえの病院の仮眠室には 確かにあったはずだ。 ふいに承太郎は移転する間際に院長から言われた 注意事項を思い出す。 『さて、壊れてしまった思い出にいつまでも すがり付いていないで心機一転して仕事に励もう ではないか。あ、そうそうお前らに一つ言っておくが この新しい病院には以前ついていたオプションが かけている部屋もあるから良く覚えて置くように。』 つまりまさしくこの部屋は以前付いていた、「トイレ」 が欠けているのだ。この仮眠室を初めて使うみんなが そのことをよく理解していないのは仕方のない事だった。 確かに、部屋を出てその階にあるトイレを使えにいけば いいことなので、必然性がないと言えばないのだが、 あくまでそれは廊下に出られると言う条件がついているから なのである。 『膀胱炎になる〜!』 『「喉痛ぇ」とかいってレモネードガバガバ飲むからだ!』 『こんな事になるって判ってたら、そんなことしねーよ!』 お互いにボードに文句を書きあって喧嘩して いたが、ふいに承太郎の目に窓が映る。 ココは三階で外に出られないが、幸いな事に 自分達は男だし窓の外にすればいいじゃないか、 そう思ってそのことを文章に書くと、 ジョセフは気まずそうに首を横に振る。 『それ困る・・目の前に新しいオフィスビル 立ってるし、外歩いている奴まだ一杯いるし、 グー×ルとかにうっかり写されたらどうすんだよ! そんな事になった日にゃ、おれ火山口に身を投げに いかなきゃならねーだろ!』 『多分それが映っているのがわかったら削除にかかると 思うぜ。たく・・・一つ手があるが・・頼んでみるか・・。』 承太郎はそう書き終えると、ボードをベットの傍らに置き、 目を閉じて集中する。背後にうっすらと、承太郎のスタンドが 浮かび上がってきた。そして くだらない事とは思いつつもボードに頼みごとを書く。 『くだらねーこと頼んで悪いんだが、そこの障害物どかせるか? ジョセフが便所いけなくて困ってんだ。』 「俺や便所の事は別に言わなくてもいいじゃねーか」 と、ジョセフが睨んでいる中スタープラチナは黙って 頷くと、オラオラと障害物を殴りだした。 やがてズガンと大きな音がして障害物が移動する。 ジョセフはスタープラチナに礼を言うとマッハで トイレまで走っていった 程なくしてジョセフが 戻ってくるが、彼が部屋に入ると同時にズガンと 音がして障害物が元に戻る。 二人とも目を丸くして障害物を見ていると、そこからスッと DIOのスタンドが現れ、腕を組みながらスタープラチナを 睨みつけていた。どうやら障害物を元に戻したのは 彼の仕業らしい。 『やっつけちまえ!スタープラチナ!』 勝手に命令するジョセフに従ったかどうかは判らないが スタープラチナもやる気満々らしくザ・ワールドと 睨みあう。そして次の瞬間、病に伏せている承太郎達に 気を使ったのか二人のスタンドは(窓をぶっこわして) 外へ飛び出していった。 『おいっ!スタプラとザ・ワールドは同じ近距離型タイプ じゃあなかったっけ?どこ行ったんだよ!』 『・・・の筈だが、しらねぇよ!奴らだって進化したんだろ!?』 「さ・・・さむい・・・」 いきなり風通しが良くなり、寝ていたジョルノが思わず 体を震わす。タダでさえ風邪で悪寒が走る上に、季節は まだ二月。冷たい北風が三人に容赦なく降りかかった。 このままだと、入院してしまう事態になるため しかたなく、重いベットを承太郎とジョセフで動かし盾にして 風を防いだが、部屋の中はなかなか温まる事がなかった。 一方副院長のジョナサンはどうなったかと言うと。 「ごほっ・・ごほっ・・・ハァハァ・・・」 感冒の魔の手は、ばっちりジョナサンにも襲い掛かっており 高熱と咳と悪寒が彼の体を蝕んでいた。ただ副院長の 立場ゆえ、他の三人のように体を休める訳にはいかない のでDIOの反対を押し切って仕事を懸命にこなしていた。 殆ど気力と根性で動いてはいるが、数歩歩いては 時折壁にもたれかかり、止まらない咳に苦しんでいた。 薬を飲んで一時的には良くなるものの その効果は長続きせずとうとう壁にもたれかかる事も 出来ずしゃがみ込んでしまった。 (くそっ・・・しっかりするんだ。僕まで倒れたら この病院で動けるのはDIOだけになってしまう・・。) DIOは「俺一人でも少しの期間位なら余裕だ」と言って いたが、人手がタダでさえ足りないこの病院の激務 (戦闘的な意味で)を一人でこなすなど、まさに命がけだ。 半分はDIOが暴走しないかの心配だったが、残り半分は 純粋に彼を気遣っての心配だった。 「・・・くたばりぞこないが、 まだうろちょろしてたのか。」 突然頭上へ降りかかる憎まれ口に、ジョナサンはよろよろ と立ち上がり、DIOを睨む。 「君一人に・・ごほっ・・まかせる・・ごほっ!」 喋るたびに誘発される咳に、DIOは呆れながら ぼそりと呟く。 「・・・全く、人間とはほんとに弱いものよ。 お前達も俺のように吸血鬼になってしまえば こんなに苦しまなくても済むのに・・・。」 「簡単に・・ごほっ!いわな・・!ゴホゴホっ!」 「・・喋るな、聞き苦しい。だが、お前の言いたい事は 手に取るように判る。・・・うむ・・・。まあ 俺の役にたちたいというお前の気持ちは 痛いほど伝わる・・・。ぶっちゃけ俺も、全員の 患者の相手はめんどくさ・・いや・・大変だしな。 ・・・そうだ。ものは試しだ。おいジョナサン。 お前他の部下達の為に犠牲になる気はあるか?」 DIOの一方的な解釈を含んだお喋りに、さっきから 突っ込みたくて仕方ないジョナサンだったが 突然言われた提案にハッと我にかえり、真剣な面持ちの 彼を見つめる。仲間達を救えるいい手があると 言うなら、ぜひ聞きたい。どんな犠牲でも払う 覚悟はある。ジョナサンは力強く彼に頷いた。 「・・・よく言った。それでこそ俺の認めた男よ。 いっとくが本当に冗談で言っている訳ではないから 真面目に聞くように。あのな、 俺達吸血鬼は病気にならないだろ。多分それは俺の 体を流れる吸血鬼のエキスのせいだと思うのだ。 しかし吸血鬼のエキスをお前達に送るのは余りにも 危険だし、お前達も頑なに嫌がってるし・・・ そこで俺は考えたんだが、吸血鬼のエキスより 弱いエキスを送り込んでやればどうかなと・・・。 」 「つまり・・ごほっ。それって・・ごほっ。」 片手で咳を堪えながらジョナサンが見つめる。 DIOはそれに答えるように、赤い舌を見せた。 「???」 「つまり唾液だ。勿論確証はない。だが お前は俺の吸血鬼のエキスを多少なら 放出できたよな?だから失敗しても吸血鬼には ならないと思うのだ。賭けになってしまうが・・。 どうだ?試す勇気はあるか?」 ジョナサンはその言葉に少し考えるも、 みんなの為になるならと覚悟を決めた。 その決意をDIOは確認するとジョナサンの顎を 掴み自分の顔を近づける。 「口・・ごほっ。あけて・・ごほっ。」 いきなりのジョナサンの大胆な申し出に DIOは少し驚くも、「ようやく誘い受け 体勢ができてきたのだな」などと感心し、初心者 サービスのつもりで目を閉じてやる。 するといきなり唇の中に丸いものが押し込められ 口腔内に甘く硬いものが入ってくる。 驚いて目を開けると、ジョナサンがDIOの 口の下で手のひらを突き出していた。 「噛まないでね。ゴホッゴホっ、そのまま出して?」 「・・・飴玉か?どういうことだ。」 にっこりして、手を突き出したままのジョナサンが DIOの問いに答える。 「だからゴホッ・・君の唾液のゴホッ、ついた 飴玉をぼくがゴホッ食べれ・・。」 つまり、ジョナサンはDIOが舐めて、唾液の ついた飴を自分が舐めればいいと考えている様で 突き出した手は、口から出した飴の受け取り皿代わり らしい。 「・・・・・。(ゴリゴリ・・・)」 「か・・ゴホッ噛まないでって言ったのに!ゴホッゴホッ!!」 「・・少しでも大人になったと感心した俺が バカだったな。もういい。遠まわしに説明して 判らんやつには体に教えるしかないな。それが 俺のやり方だ。」 そう言うなりジョナサンの頭をわしづかみにするDIOに 慌ててオーバードライブの構えを取るが、呼吸がキチンと 整ってこそ発動する必殺技なので、まともに話す事すら 出来ない状態な今の自分には無理な事を すっかり忘れて、呼吸法の合間にも咳き込んでしまう。 「もう諦めろ。承太郎やジョルノはともかく、呼吸法でしか 波紋を練れないお前とジョセフでは、話にすらならん。 これ以上くだらん抵抗をするなら、それ以上の事を試すぞ。」 その言葉に恐怖を感じたのか、みんなを助けたいと言う一心での 覚悟かは判らないがジョナサンは黙って目を硬く閉じた。 一分半経過 「君は僕を何度殺そうとすれば気が済むんだ!」 涙目になりながら荒い呼吸を繰り返している ジョナサンを後目に「お前だって過去に 俺を何度も殺す目にあわせているぞ。」 としれっと言い返した。 なぜ、ジョナサンが死ぬ目に会ったのかと言うと、 DIOがジョナサンに強要した熱いキッスの 時間が長すぎて、呼吸がろくに出来ずに息が 止まりそうになったからだ。 「お前が俺に合わせてキスをしないから息が 出来んのだ。映画のキスシーンを見てみろ。 お互い息を合わせながら長いキスをしているだろう?」 「え・・・うわー!思い出しちゃったじゃないか!」 顔を真っ赤にして両手で顔を隠すジョナサンの 初心ぶりにDIOは改めて大きな溜息をついた。 しかしそれと同時に、「調教のし甲斐はありそうだな」 などと不埒な事も考えていた。 「・・・取り合えず治ったようだな。どうだ体調は。」 「え・・?あ・・そういえば体だるくないし。喉の 痛みも嘘のように取れてるみたい。熱も引いた みたいだし・・・すごいね。君のキスは・・・。」 喉や額を触りながら素直に礼を言うジョナサンに 手応えを感じたDIOは他のメンバーにも実行 してみるので彼らのアフターケアを頼むと言い残し そのまま仮眠室へと向かった。その背中に 向かってジョナサンが叫ぶ。 「DIOー。なるべく短く済ませてあげてねー。 ・・・それからさっきみたいに口の中を 舌でくすぐったりしないようにー。」 「・・・・(舌でくすぐるとか・・・。 本当に幼稚だな、あいつの表現は・・。後で くすぐられた時の詳しい感想でも聞いてやるか・・。)」 DIOはジョナサンの忠告を背中に受け仮眠室へ 向かった。 一方仮眠室ではベットで窓を塞いだものの 部屋の中はすっかり隙間風で冷え切り、三人とも 必死で寒さに耐えていた。 余りにも寒いので、ジョセフなどはジョルノの ベットと自分のベットををくっつけて一緒に寝る 有様であった。馴れ合うのを余り好まない承太郎は 頑張って一人で寝ていたが、頭痛がひどくなる一方で とうとう我慢出来ず、薬を取りにいく為によろよろと 立ち上がり出口へ向かう。しかしドアの前で肝心な 事を思い出す。 (・・・!ち・・そういえば入り口が塞がれていた ままだったぜ・・。あれから、俺のスタープラチナも DIOのザ・ワールドもかえってこねーし・・・ くそ・・・どうしたら・・。) ズキンズキンと激しく痛む頭痛に顔をしかめながら 悩んでいる承太郎の背後から声がかかる。 「・・・承太郎さん・・。出たいんですか?・・・。 そういえば塞がれているんですよね・・出口が・・。 僕のスタンドを使ってください。・・頼む ゴールド・エクスペリエンス・・その出口の 障害物を壊してくれないか?」 ジョルノがそう願うと彼の背後から華奢な スタンドが現れる。彼はスーッと承太郎の 前に進んでいくと障害物に向かって打撃を与えた。 さっきより威力は落ちるものの、その物体は次第に へこみはじめ、承太郎一人が通れるくらいの 隙間ができはじめた。承太郎がジョルノと そのスタンドに手をあげて礼を言い、その隙間から 外に出ようとすると、いきなりザ・ワールドが 現れ、承太郎の行く先を阻んだ。 (くっ・・・こいつ・・DIOの・・・まさか俺の スタープラチナが・・・?) ぜひ聞き出したいが、声が出ないのでボードに書いて スタープラチナの所在を聞いてみる事にした。 しかし、ザ・ワールドはその文章には目を通すものの やれやれといった風に首を横に振る。 「口で言え。まどろっこしい。」 自分達の症状をよく理解している筈なのに嫌みったらしく 振舞うそのさまに承太郎が思わずキレる。 「(・・・この野郎・・!)」 スタンドと睨みあう承太郎の前にジョルノのスタンドが かばうように割り込む。彼が代わりに睨みつけると DIOのスタンドがにやりと笑い、そしてそれを合図に さっきと同じく二人のスタンドは、窓の外へと (新たな大穴をあけて)飛んでいった。 もはや隙間風のレベルではない冷たい強風が 辺りを取り囲む。 「じ・・じぬぅ・・・!ゴホッ!ゴホ!!」 「・・・ぅぅ・・すいません・・僕のスタンドが。」 「(・・・別室探した方がいいな・・・。)」 確か開いている病室があったので、三人は しぶしぶそこから移動する事にした。 そこは病室なので当然トイレも暖房もついていたので 先ほどよりも、ゆっくりと休む事ができた。 ところかわってここは談話室のある廊下。 「(うーー・・・さむ・・さてと飴ちゃん飴ちゃん)」 喉飴を一袋食い尽くしてしてしまったジョセフは、新しい 飴を取りに談話室へと震えながら向かう。 ただ談話室は誰もいないのか、電気が消えて中は真っ暗だった。 「(あれ?誰もいないのか、そういや副院長は大丈夫かな。 無理をしてなきゃ良いけど・・。早く治って手助けしないとな。)」 ジョナサンの身を案じながら手探りでスイッチを探す。ふと 人の体のような感触を手のひらに感じ、ビクッとする。 もしこれがジョナサンなら何らかの反応を示すはずだが、何の 反応もない。そーっとその手を離そうとするといきなり手首を 掴まれる。 「△★◎■〜!!」 「騒ぐな、俺だ。」 聞き覚えのある低い声。声の主はすぐにわかったが 同時に安心できる人間ではない事が判り、悲鳴を上げる。 「◎△■★!!」 「どういう意味だ。それにお前人間だろ? 人の言葉を話せ。」 何とか手首を自分からはなすとその場でゴホゴホと咽び込む ジョセフにDIOは呆れながらも電気をつける。 ぜえぜえと苦しそうにしながらも息を整えDIOに 指差して尋ねる。 「・・な・・なん。」 「何でここにいるんだ?か・・それはこっちの台詞だ。 仮眠室にいないと思ったら。お前らは随時動き回って いなきゃ気がすまないのか?」 「お・・・あ・・・べ・・・。」 苦しそうに自分のロッカーに向かって指を刺す ジョセフをみてDIOは大体の事を理解した。 「・・・成る程な飴でも取りに来たということか。どれ・・。」 そういうと勝手にジョセフのロッカーをあけ、荷物から 飴を取り出す。突然の事にジョセフは慌てたが、他のものには目もくれ ず 飴だけを取り出してロッカーを閉めたことに思わずキョトンと してしまう。たまにはいいとこあるんだなと感心していたのも つかの間、勝手に飴をひとつ取り出し、自分の口の中に放り込んでし まう。 「(あーーーー!!ドロボー!!)」 「ふん、たかが飴の一つで狼狽しおって、望み 通り返してやる。」 そう言うなり怒って口を開けたままにしているジョセフの 口の中に、目も留まらぬ速さで飴を吹き入れる。 飴玉は見事に口内だけではなく喉にまでホールインして してしまう。 「ゴク!げほっ!げほっ!!(バカヤロー! 舐めかけのもんを人の口の中にいれんじゃねー!)」 「・・・・・。」 「ご・・・て・・・!!(ごルァ!てめー何とか言え!)。」 「・・・やはりこれでは駄目なようだな。」 「??」 てっきり怒っている自分をバカにしてくると思いきや、 意外と真面目な顔をして見つめてくるDIOに ジョセフは困惑する。何の事だ?と聞こうとする前に DIOがジョセフに質問をする。 「今から質問するから、頷くか、首を振るかで答えろ。」 「・・・?(コクリ)」 「よし、お前さっきの恋人とキスは、もうしているよな?」 「!?(それってシーザーのことか?なんで!!)」 「真面目な質問だ。答えろ。」 尋ねてくるDIOの顔に確かにふざけた様子は見られない。 戸惑いながらもジョセフが小さく頷く。 「(コクリ(そりゃ・・まあな・・。)」 「ディープキスは?」 「!!(ちょ・・セクハラ?)」 「それあんたが聞いて得なの!?」と思いながらも 再びDIOの顔色を伺うが、真面目に聞いているのは 変わりがないらしい。 「どうなのだ?」 「・・・・・(困)。(ど・・どうしても言わなきゃ駄目なのか??)」 「・・・。(睨)」 凄みのある目で睨まれ、つい頷いてしまう。 「・・・・。(コクリ(・・・多分あれがそうとは思うんだけど・・ てゆーか俺に聞くなァ!!俺はあいつとしか経験ないんだよ! そんな細かい事聞かれてもわからねーっつーの!!)」 茹蛸の様に顔を真っ赤にして半ばやけくそ気味で答える ジョセフを前にDIOは数十秒考え込むと ようやくその口を開く。 「そうか・・なら思い残す事はないな?」 「え!?(なにそれ!俺ひょっとして殺されるの!?)」 恐怖を思わせるその口ぶりに、ジョセフはさっきまで 赤かった顔を一気に青くした。 「そう怯えるな。仕方ない、今から何をするのか話してやろう。 実はなさっきジョナサンの風邪を治すために俺がキスをしたら 奴の風邪が治ったんだ。くれぐれも言っとくが「愛の力」とやら だけではないぞ。ふっ(照)。俺の殺菌ウィルスがジョナサンの風邪を 撃退したんだ。嘘だと思うなら後でジョナサンに聞け。まあ いまお前にするんだから結果など聞きに行かなくても十分か・・。」 そう言いながらじりじりと自分に近づいてくるDIOに 後ろに、逃げ場がない事も承知の上で後ずさっていく。 「!(いや・・あの・・・。)」 「心配するな。俺は上手いから。」 ジョセフの顔の横を掠め壁に手が置かれる。 その衝撃で壁にひびが入り、それが彼の恐怖心を 一層煽った。 「(そそそそそ、そう言う問題じゃなくて!)」 「いい男にされるんだし何の問題もないだろう?」 「!!(ぎゃーーー!!!そういうことじゃないってばよ!!)」 数分後、様子を見に来たジョナサンが放心状態のジョセフを 見つけて、懸命にアフターケアをしてあげた。 一方DIOは次なるターゲットを探しに部屋を探す。 ふと、聞いたことのある小さなうめき声が部屋から聞こえてくる。 少年のようなその声は間違いなく、じぶんの息子のようだ。 (次はジョルノにするか・・・。) そのまま黙ってガラリとドアを開けると、ジョルノにじろりと睨まれる。 他に誰もいなく、どういうわけかジョルノしか寝ていないようだ。 「・・・ノック位してください・・。親子だから良いんだとか・・ 言わないでくださいね・・・。ところで・・何かようですか・・。 また何か奪いにきたんですか・・・?」 ハアハアと苦しそうに息をしているジョルノにDIOは 黙って近寄りその様子を見下ろす。 「俺の息子の割には弱いな。」 「普通の人間ですから・・・これでもね・・。 副院長の遺伝子の方が・・多めだからでしょう・・?」 「ふん・・。確かに強がりなトコはあいつにそっくりだ。」 そういいながらDIOはその頬に触れようとするが、 ジョルノにそれを阻まれる。 「・・・何か用ですか?三度目は言わせないでください・・。」 「判った。俺も一度しか言わない。今しがたジョナサンと ジョセフの風邪を俺のキスで治した。だから今から お前にも実行しようと思う。・・これでいいか?」 その言葉に口では答えないものの、その目で「嘘でしょ。」 と訴える息子にDIOは更に顔を近づける。 「嘘ではない。お前こそ俺に二度も同じことを言わせるな。」 さっきのお返しとばかりに皮肉を言い、DIOは にやりと不敵な笑みを彼に向ける。 暫く考え込んでいたジョルノだったが、意を決したように その瞳を閉じた。 「ほぅ・・・。潔くて結構。さすが俺の息子だな。」 ジョセフやジョナサンと違い、慌てふためかない 落ち着いたその行動にDIOは心底感心する。 「・・・そんなことはどうでもいいです・・・。 早く済ませてください・・・。」 「ふん・・・生意気いいおって。」 「で・・・額にするんですか・・?頬にするんですか? ・・・首は止めてくださいね・・。そこは恋人だけが する所です・・・・。」 そういうと布団で首の部分を隠す。そのまま一向に キスをしてこないDIOにジョルノは不審な顔をする。 「どうしました・・・?さっきも言いましたが・・ するんなら・・・とっとと・・・。」 「・・・どうやらお前にキチンと説明しない 俺にも問題があるようだな・・・。」 そしてその数分後、ジョナサンとジョセフは何故か 部屋の前で何もせず突っ立っているDIOを発見する。 「DIO!どうしたんだ?そんなところで花瓶なんか かぶってふざけて・・・。」 「・・・俺には刺さっているように見えるけど・・。」 ジョナサンのボケっぷりに突っ込みを入れるジョセフ。 DIOは二人に近づいていくと大きく溜息をつく。 「お前らの遺伝は、どうも諦めの悪い事に定評があるようだな。」 「いきなりどうしたんだ?DIO。ジョセフ以外の子達は 治してあげられたのか?」 「・・・。うーん。その刺さり具合からするとジョルノかな? 承太郎ならもっと容赦しねーだろうし・・・。キスを強要して 思い切り拒まれた結果がこれだよ・・って感じ?」 相変わらず何にも判っていないジョナサンに対し、ジョセフは ビシビシとその推理でDIOの今の状態を解明していく。 「悔しいが、全てお前の言うとおりだ。おいジョナサン。 何とかしろ。風邪への抵抗力もないくせに俺への抵抗力は 信じられん位ある。このまま無理やり力づくも良いが、 後々面倒になるのはごめんだ。」 ポンっと頭から花瓶を取るとジョナサンに渡し、部屋に入り説得を するように命令する。仕方がないのでジョナサンは言うとおりに 部屋の中に入っていく、そこには布団を頭まで被ったジョルノが いた。 「・・・副院長ですか・・?」 「そうだよ。何も言葉を発していないのに判るの?すごいな。」 「・・・周りの空気で判るんです。院長の空気は禍々しいですから。」 本人達は小さな声で話しているようだが、その会話は外の二人にも ばっちり聞こえていた。 「(どういう意味だ。)」 「(俺に言われても・・・。(まあ、ジョルノの言いたい事は よく判るけど・・・・。))」 ジョナサンは心配しながら彼の額に手を当てる。その額の熱さに 眉をひそめ、慌てて冷たいタオルに取り替える。ひんやりと 伝わる冷たさにジョルノは気持ちよさそうに目をとじた。 とりあえず彼が落ち着いているのを確認するとジョナサンは 申し分けなさそうに本題に入る。 「ごめんね・・・。詳しい事は良く判らないけど、DIOは決して ふざけている訳じゃないんだ。彼のキスは本当に僕達の 風邪に効いたんだ。それだけは信じてあげてくれ。」 「・・そ・・それはなんとなく判りましたけど・・・いきなり 口をこじ開けようとして・・・。「これから舌をいれるぞ」とか 「恋人とはもうキス位したんだろ」とか・・・。あんまりです。 そんな言葉で人を蹂躙するようなことを・・・。」 「ああ・・・。ごめんね・・。その・・彼・・・多分、そういうつもりで いったんではなくて・・・。彼なりの配慮・・だと思うんだ。」 しどろもどろになりながらDIOを一生懸命フォローする ジョナサンの言い方に当の本人は顔をしかめる。 「(不器用め!俺をフォローするならもっとスムーズに弁解しろ。)」 「(副院長なりの精一杯な優しさだろ?おたくだって不器用だよ。 あ・・・嘘です。睨まないで・・・。)」 そんな廊下の二人のやり取りにかまわずにジョナサンは真面目な顔で ゆっくりとジョルノに言い聞かす。 「ジョルノ・・・僕は君に無理強いは出来ない。君がこのやり方に 恐怖を覚えるようなら、時間はかかるかもしれないけど、ゆっくり 寝て治しても良いよ?君はまだ子供だし・・怖いよね?」 「・・・いいです。大丈夫です・・。ジョセフさんもされたんでしょう? 僕だけが逃げるわけにはいきません。それに何よりこれ以上皆さん に 迷惑をかけたくないんです。でも・・ひとつだけ我がままを言わせて 貰らうと・・・副院長も傍にいて欲しいんです。その・・手を握って 貰えると・・・多分耐えられる気がします。」 「・・・そんなことで良いんならいくらでも握って良いよ。」 そう言うとジョナサンはその手を握りながら、ジョルノの覚悟が 決まっているうちにDIOを呼ぶ。 二人の会話が最初から最後まで丸聞こえだったDIOは 不満そうな顔をして入ってきた。 「そんなにパパのキスは嫌か。」 「DIO!!ジョルノはそんな事言っているんじゃないんだ! 君がどうこうとかじゃなくて、そう言うことになれてない子は 行為自体が怖いんだよ。」 「恋人がいるのに、慣れてないとか笑わすな。」 馬鹿馬鹿しいとばかりに鼻を鳴らすDIOに ジョルノは何かいいたげにもごもごと口ごもる。 彼が考えているほど、性的なことはしていないと その瞳で訴えているようだった。だがそれを口に出すと また何かセクハラまがいな事をいわれるかもしれないと 恐れて、何も言えなかったのだ。 「一途な恋だからこそ、他の男にキスされるのに抵抗あるんだよ。 もー・・判らないかな、あんただって嫌だろ?恋人以外の 男にキスされるの。」 そんなジョルノがかわいそうだと思ったジョセフが、判りやすいように DIOに説明する。しかしそれに対する返答はいかにも彼らしい マイペースな答えだった。 「好きなタイプなら構わん。」 「じゃあ!副院長が他の男とキスしたらあんたどうなの!?(半ギレ)」 「え・・!?なんのこと?」 完全に自分は蚊帳の外だと思っていたジョナサンが いきなり引き合いに出されたことに思わず驚く。 「許すわけないだろう?勿論、女ともな。」 「つまりあんたは副院長と他の誰かがキスするのを 許せないと言うわけだろ?俺たちだって恋人が 他の奴とキスするところなんて想像したくないし許せないんだ。 もし副院長があんたの為だけに貞操を守ったら正直嬉しいだろ? 相手を裏切らない行為、それこそが恋人のあるべき姿なんだよ。 な!副院長!」 ジョセフは爽やかに笑うと、ジョナサンの肩をポンと叩く。 何故かすでにDIOの恋人確定にされてしまった事に 戸惑いを隠せなかったが、今はそれを突っ込む時ではない 事くらいジョナサンも理解は出来た。ぎこちない 笑顔でDIOに微笑む。 「え?あ?う・・うん!その通りだよ!判ったかい?DIO。」 「ああ。(少なくともお前よりはな。)」 気を取り直し向きを変えると、再びDIOはジョルノの顔を両手で 包む。同時にジョルノがギュッと何かに耐えるようにジョナサンの手を 強く掴んできたので、ジョナサンもそれを励ますように彼の手を 優しく握り締める。 「・・目を閉じていろ。今からキスするのは俺じゃない。 お前の恋人だと思え。判ったな。」 そう言いながら片手でジョルノの視界を塞ぎ、静かに その唇を塞ぐ。三十秒くらいして、ゆっくりと唇から 自分のものを離す。まるで恋愛映画のワンシーンのような ムードのある一幕にジョナサンとジョセフはつい見とれてしまった。 (え・・・なに・・。DIO、かっこいい・・・。) (ち・・・畜生。不覚にもかっこいいと思っちまった・・。) 「何だお前ら、顔が赤いぞ?ふ・・そうか。俺に惚れ直したわけか。 別に構わんぞ、欲しくなったらいつでも来い。」 自分を見つめてくる熱い視線に気づくと 不適に笑いながら余裕綽々な態度で、DIOは部屋を後にする。 残されたジョセフとジョナサンは暫くポカンとしていたが のこる承太郎のことを思い出し慌てて、DIOを追いかける。 「ば・・・バカヤロー!だれが惚れるか!(ほんのちょこっと だけかっこいいと思ったのは認めるけど・・。)ごめん、 副院長。俺,、承太郎が心配だから院長についていくよ。」 「あ?え?う・・うん!僕もすぐ追いかけるから・・・!」 完全に動揺しまくっているジョナサンは、とりあえず気持ちを 落ち着けるために深呼吸をする。ジョルノといえば、顔を すっぽり布団の中に潜り込ませずっと押し黙ったままだ。 「ジョ、ジョ・・・ジョルノ・・大丈夫?」 「・・・はい・・。少し動揺していますけど・・。 その・・副院長こそ大丈夫ですか・・・?」 顔は見えないはずなのに、自分の心境を見透かされている事に 不思議に思ったが、ふとジョルノを握り締めていた手が震えて いる事に気づき、慌てて手を離す。 「ご・・ごめんね。僕の動揺が君にも伝わっちゃったみたいだね。」 「そ・・そう言うわけではないんで謝らないでください。副院長は ジョセフさんを追いかけてください。承太郎さんが心配です。 僕は・・その・・ちょっとだけ気持ちの整理をしたいんでこのまま でいさせてもらえますか?僕もすぐ追いかけますから。」 「うん。無理はしないで。僕とジョセフだけでも何とかできるから。」 ジョナサンはそう言いながら布団の上からジョルノを撫でると そそくさと退室し、先にでていった二人を追いかけた。 同時刻倉庫置き場にて (・・・くっそ・・なんてこった・・。) 頭痛薬を取りにいった承太郎が何故こんなところに いるのかと言うと、必死に魔の手から逃れた 結果この場所に避難せざるを得なかったからだ。 だが魔の手はDIOの事ではなく、ここの患者達の事だった。 外からドタバタと、自分を探すために走り回る音がする。 『おい!そっちいたか!』 『いや・・いねー。あのガキ・・どこへ行きやがった。』 耳障りな声を聞きながら承太郎は息を潜め身を隠す。 普段なら堂々とこちらから出て行って叩きのめしてやるのに 今の体では逆に叩きのめされる身になってしまう。 この病院に勤めてからうすうす危惧はしていた。 荒くれ者の患者が相手なのだ、いずれはこういうことが起こると。 百戦錬磨の彼らでも油断をすればやられるのは判っていたが まさかそれが今日になるとは考えもつかなかった。 (しかもあいつら、ジョセフ担当の患者どもじゃねーか・・。) 本当なら、ジョセフに恨みをぶつけたいのだろうが 彼が見当たらないので、手始めに最初に見つけた承太郎に 今までの恨みをぶつけようとしているのだろう。どうせろくでもない 連中なのだ。弱い立場の人間を見つけたらだれかれ構わず 襲い掛かるつもりなのだろう。そう考えると途端に、他の 病に苦しんでいる仲間が心配になってきた。多分恨みを晴らそうと している患者は彼らだけではない。ひょっとしたら既に徘徊して 弱った彼らを見つけて痛めつけているかもしれない。 しかし今のスタンドもいない自分に何が出来るのだろうか。 非力な今の立場の歯がゆさの余りつい、ドンと床を殴る。 その途端、外で走り回っていた足音が止まる。 しまった・・・と思ったがもう遅い。自分の隠れている 倉庫に足音が近づいてくるのが感じられる。このまま身を隠して やり過ごすか、一か八かですり抜けて逃げるか痛む頭で懸命に 考える。そうこう考えているうちにドアノブが回る音がして 反射的に身構えるが自分にかけられた声に少しだけ力を抜く。 「承太郎。無事?」 そっとドアが開き見覚えのある茶髪と緑の瞳が自分を覗き込む。 知った顔だと判ると、承太郎は安心してジョセフの傍へと寄った。 「さっきのあいつらの事なら心配いらねーよ。なーに、 「いままで色々と有難うよ!」って言いながら襲い掛かって きたんでこっちも「どーいたしまして!」って言って 返り討ちにしといたから。まあ、そう不思議な顔するなって。 治ったんだよ、俺もジョルノも副院長も。・・・後はお前だけだな。」 最初はニコニコと話していたのに何故か、段々表情を曇らせていく ジョセフを不思議に思いながらも、治った理由を聞こうとするが 自分の声が出ない事を思い出し溜息をつく。 「どうやって治したんだってききたいんだろ?言わなくても 判るし、お前の考えていることも判るよ。俺は先読みが 出来るからな。と言うわけで俺が代弁してやるから、後は DIOと話して?」 そう言いながら何故か承太郎の背後に回るジョセフ。 そして目の前にはいつ近寄ってきたのかDIOが立っていた。 「!!」 ビクッと体を強張らせ、激しくDIOを睨む承太郎の様子を 伺いながらジョセフが「実況」をはじめる。 「えー、これからは俺が代弁します。「てめーいつの間に!」」 「普段のお前なら気づくのにな、そんな足手まといな状態で 人の迷惑も顧みず、よくうろちょろ出来るものだな。 せっかく、悪い患者どもに痛めつけられないように、 部屋の入り口を塞いどいたのに、お前らときたら・・。」 どうやら部屋を塞いだのはDIOの仕業で間違いないようだ。 彼なりの配慮だろうが、そう言うことはあらかじめ 教えて欲しいものだと、ジョセフと承太郎は思わずに いられなかった。しかも塞いである物体がロードローラー だったのが尚更不思議で仕方ない。 「迷惑かけたのは認めるが、テメーにだけはいわれたくねー。 それに俺のスタープラチナとジョルノのゴールド・Eはどうしたんだよ。 早く返せ。どこにいるのかはしらねーが。」 「あれらには足りない人手を補って働いて貰っている。早く返して 欲しければお前らが体調を整え職務に取り掛かることだ。」 「ええっ!スタンドってそんなことができるのか!?あ・・ ごめん!これ、俺の意見ね。えー・・「判った、ところで こいつらはどうやって治ったんだよ?」」 「俺が治した。今からそれを実行する。」 ずい・・と一歩DIOが近づくと、承太郎が片手を伸ばしそれを制止する。 「「どうやって」か聞いてからだ。」 「その必要はない。実行すれば判ることだ。」 DIOは有無を言わさぬ迫力でじりじりと近づいていく。 承太郎もまた、じりじりとその気迫に押され後退していく。 DIOは、すぐ後ろのジョセフに「捕まえろ」と目で 指示を出す。ジョセフは承太郎とDIOを見比べると 小さく溜息をつき彼に近づいていく。 「うーん・・承太郎・・。気持ちはわかるけど、俺たちも やられたんだ。お前だけ逃げるのはどうかと・・・。」 「やられた」という言葉に承太郎は不穏な響きを感じる。 ジョセフは申し訳なさそうに両手を広げて退路を塞ぐ。 どうやら自分の味方はここにはいないと悟った承太郎は 具合が悪いのにもかかわらずジョセフの高い身長を飛び越えて 華麗に走り去っていった。 「あっ!あいつ・・・具合悪いくせに・・・。」 「間抜けめ!仕方ない・・・俺が追いかける。全く手間とらせおって。 だが面白い・・・!面白いぞ!お前たちには大分手加減させられた からな・・・。女でもないくせに、やれ優しくしろだの、 早く終わらせろだの・・・。自分を押し殺す行為がどんなに 大変だった事か。獣のように攻めるのが俺の本来のやり方だ。 あいつはどうせ恋人とやらはいないのだろう?なら遠慮する事は 何もないよな。ははは、逃げろ怯えろ!最高にハイって奴だ!」 高笑いをしながら承太郎を追いかけるDIOに流石にこれは マズイと感じたジョセフは慌ててジョナサンを呼びにいった。 そしてすぐにジョナサンと合流してDIO達の足取りをたどる。 だがジョセフの能力を使わずとも、廊下の惨状で彼らの行き先が 手に取るように把握できた。 「あーあ・・・、片付けて置かないとなー・・・。」 「それもそうだけど・・。今は承太郎の方が心配だよ。 全く・・・、さっきの大人っぽい対応はどうしたんだよ。 (折角少し惚れ直したって言うのに・・・。) 未成年には優しくしてっていつも言ってるのに・・。あ、いた! DIO!乱暴はしないって言っただろ!なんて事するんだ!」 壁際に追い込まれ顎を?まれて、まさにピンチを迎えている 承太郎とその獲物をイビる愉しみを味わうかのような表情を うかべるDIOに向かってジョナサンが叱咤する。 その声が耳に届くと、承太郎の顎を?んだまま 邪魔をするなと言うように、ジョナサンたちを睨む。 「乱暴だと?これは治療行為だ。」 「今まで皆には優しくやってくれたじゃないか! さっきも言ったけどこういう事に慣れていない子は・・!」 「いい加減にしろ。女でもないくせにお前らさっきから ピュアな事ばかり要求しおって。俺の下半身事情の 事も少しは考えろ。キスだけでなんとか我慢している俺の 気持ちがわかるか?だからキス位好きにさせてもらおう。 ・・・それともこの下半身のもやもや感をお前が解消 してくれるというのか?」 ねっとりとジョナサンを見つめてくるDIOに さすがの鈍い彼も、何を自分に要求されているのかが 判ったらしく半分やけくそのようにその要求を呑む。 自分の身を犠牲にしても仲間達だけは助けるとゆう やり方は彼のポリシーでありそれを曲げる事はできない。 「えっ・・・え、え、え、・・くっ!・・わ・・判ったよ! 解消してあげるから彼には優しくしてあげてくれ!(泣)」 「・・・聞いたか!院長に承太郎!副院長の覚悟を 判ってやれないなんてお前ら鬼だぞ!」 同情の涙をハンカチで拭いながらジョセフは DIOと承太郎を責める。 「覚悟とはどういう意味だ。ふー・・まあいい。 そんなに熱烈に俺の事が欲しいと言われてしまっては、 無視するわけにはいかんな。ふん・・ジョナサンに 感謝するんだな。」 きっと反論したくてたまらないであろうジョナサンを 無視してDIOは再び承太郎の方へと向きなおす。 さっきまで凄い形相で睨見返していた承太郎もジョナサンの 自己犠牲申請を申し訳なく思ったのか、半ば諦めたように DIOを拒んでいた腕の力を抜く。 「覚悟は出来たようだな、よろしい。優しくしてやる。 怖いなら俺を見るな。目を閉じるのも勝手だ。 舌を入れるがそれ位我慢できるな?」 大人の男の対応で出来るだけ優しく接しようとDIOは試みる。 だが、いくら精悍で整った顔立とはいっても、相手は男で しかも苦手な院長だ。鼻と鼻が近づく距離になると クールが売りの承太郎の顔にもじわじわ焦りが見え始める。 「!?(きいてねーぞ・・・おい!・・畜生 割り切るしかねーのか・・・。)」 みっともないとは思いながらも顔を横に 逸らして逃げようとする承太郎に ジョセフがアドバイスをなげる。 「承太郎!!人工呼吸されていると思え! (あ・・・でも、あれって意識ないときに やられるもんだよな・・。)」 まさに唇と唇がくっつくその手前になぜか DIOはその動きを止め、承太郎を睨む。 だが本人は目を硬く閉じているのでDIOが 睨んでいる事など判らない。 「・・・・。オイ、さっき俺の言った事覚えているよな。 舌を入れるといった筈だが、こう歯でブロックされていては 入れることが出来んのだがな・・・。」 静まり返った廊下にぎりぎりと歯軋りが聞こえる。 それは紛れもなく承太郎が歯を食いしばっている音だった。 「・・・。(んなこと判ってる・・。だが頭で判っていても 体の方がゆうこときかねーんだよ!)」 「力づくでこじ開けてもいいか?」 業を煮やしたDIOがジョナサンに許可を求める。 しかしジョナサンは断じて許可はしない。 「無理やりは不許可だよ。可愛そうだろ?でも・・・ 多分頭では理解してても体がゆうこときかないんだろうね。 どうしよう・・・。困ったな。」 ジョナサンはいい案が思いつかずジョセフに助言を求める。 「んー・・・そうだな。あ、ちょっと間はいるぜ。おい、承太郎! 恨まないでくれよ?これがお前が抵抗なく治療を受けられる 最善の方法だと思うから・・・。」 そう言うなや、二人の間に入り込むと ジョセフは承太郎の両肩に手を置き、少し強めの 波紋を流し込む。その瞬間驚いて目を開いて、次第に意識を失い 承太郎はそのままずるずると床に崩れ落ちていった。 「一丁あがり。副作用のない簡単麻酔ね。最初からこれを 使えばよかったんだよな。」 崩れ落ちた承太郎を抱きかかえながら DIOが愚痴をぶつぶつとこぼす。 「どいつもこいつも、手間のかかる。・・・て、おい。 こいつ意識もないくせにまだ歯を閉じたままだぞ。 ジョナサン!お前らの血筋はどうなっているんだ! 本当に俺への抵抗力だけはハンパないな。今度から お前らなんかに手加減などしてやらんからな!」 負け惜しみのような捨て台詞を吐きながら、結局口をこじ開け 承太郎にキスをするDIOを眺めながらジョナサンは ようやく事態が一件落着した事の安堵感と共に これからの自分に身に降りかかる災難に対する 不安がごっちゃの複雑な心境に駆られていた。 皆が完全に元気を取り戻して二週間たった頃。 今度は患者達が、風邪になり病院はいっそう忙しくなる。 「ひゃー・・!ウチの担当の患者、ほぼ全滅だよ!」 「俺のところもだ。まあ、大人しくなっている分は助かるが。」 「でも、この風邪悪化すると命に関わるそうなので油断は出来ませ ん。」 バタバタとせわしなく走り回り会話を交わすジョセフと承太郎と ジョルノだったが、ふとあることを思い出しその動きを止める。 (院長だ!!) 三人とも同じ事を考えていたらしく、 そのまま意気投合すると院長室へ向かう。 そこにはカルテに目を通す院長が三人の思惑など 何も知らずにどっかりと座っていた。 「何かようか?暇なら仕事しろ。俺が欲しいなら 夜にしろ。」 回る椅子をキイキイと動かしながら、相変わらずの シモネタトークをかますDIOに、いつもは 突っ込みの嵐を吹き荒らす彼らだが今回だけは 勝手が違った。 「いやいや・・・院長先生はそんな暇ないでしょ? キスする相手が山ほどいるんだから・・・。」 「・・・ほう・・?それはどういうことかな?」 「あんた、キスで風邪を治せたよな。」 ジョセフと承太郎が含みのある言い方をしてくるので 何がいいたいのかはすぐ読めたが、あえて冷静に 素直な受け答えをしてやる。 「そうだな。」 「今風邪で苦しんでいる患者さん、沢山いるんです。 院長として治してあげるのは勤めではないのでは?」 「ああ、つまりこの俺にキスしてまわれと言うのだな? 風邪をひいた患者達に。」 つまりこの連中は自分がした嫌がらせに対する 復讐をしたいというのだろう。 わざとにこやかに笑うとジョセフが調子付いて 相槌を打ってくる。 「そうそう!」 「だが断る。」 「何故ですか?」 不思議そうにジョルノが首をかしげる。 彼は他の二人とは違って、嫌がらせ目的ではなく 素で聞いてきているようだが、批判は承知の上で DIOは正直な胸のうちを明かす。 「不細工とキスは嫌だ。俺の見る限りではキスが出来るような 顔の患者は今の段階では一人もいない。以上だ。これ以上 この事では何も話す事はない。とっとと仕事に戻れ。」 野良犬でも追い出すように、手でぱっぱと払うと そのままディスクに散らばっているカルテに 再度目を通す。そんなDIOの後ろからボキボキと 指を鳴らしながら承太郎達が迫ってくる。 「そうは問屋がおろさねーな・・・。」 三人に囲まれ、逃げ場のなくなったDIOだが 特段あせりもせずゆっくりと立ち上がると 今から戦う前の準備運動でもするかのように 首をコキコキと鳴らし彼らを睨みかえす。 「ふん・・・捕まえてみるか、この俺を。 捕まえられなかったときの覚悟は出来ているんだろうな? 三人なら勝てるなどという甘い考えなら捨てるんだな。」 三対一で火花を散らし、リアル鬼こっこが始まる最中 ジョナサンは一人で皆の分の患者達の面倒を見なければ ならない事態に陥った。 終わり ![]() |