魂をおかすもの
 

 

血なまぐさい城内。

一片の日の光もさすこともなくろうそくの小さな炎だけが彼の体を照らす。
自分の足音と何かの叫び声だけがかすかに響く中ジョナサンは
傷ついた体を奮い立たせながら一歩一歩確実に、彼の所へ近づいていく。

もう終わらせなければ。

彼も、この悲惨な現実も何もかも。


がくん



思わず片膝が折れる。

戦い続きの中疲労もピークに達している。

いけない。

こんな情けないことでは・・・・。

 疲れているのは皆だって同じこと。それにここで僕が疲れに負けてしまった
 ら全てがお終いだ。

 彼を・・・彼の狂気を終わらせるまで…負ける訳にはいかない。
ふと後ろを振り返る。スピードワゴンやツェペリは無事だろうか。


 『大丈夫だ!すぐ追いつくから!ま・・・追い付いたからって手助けなんか
 ろくにできねえかもしれないが・・・俺とおっさんを信じてくれよ!』


そう言ってツェペリと共に、スピードワゴンは雑魚を相手に戦いながら僕に
血路を作ってくれた。

それなのに心配なんかしていたら彼らに失礼だ。
僕は僕の出来ることをやるべきだ。

もう一度気を奮い立たせると、
ジョナサンは力強くその歩みを進めていった。




 《魂を犯す者》






相変わらずむせ返るほどの血の匂いに
気分が悪くなりながらも周りの気配に
精神を集中する。


ふわ・・・

何かやわらかそうなものが視線に入った。


柱の陰に見覚えのある金髪と、
さらにその下に白いドレスと白い足が見える。


 「・・・エリナ・・?」


いる訳がないのにいるはずがないのに、つい彼女の名前が口に出る。
すると彼女はその言葉を合図に、何も言わず走り去るようにして闇の中へ
消えていった。

 「ま・・・待ってくれ!!」

ジョナサンは思わず彼女のあとを追いかけた。

似ている。彼女にそっくりだ。

なぜここに?捕らわれたのか?
奴のことだ。彼女を人質に僕を不利に
追い込むことぐらい平気でするだろう。


それとも罠か?


 彼女そっくりの誰かを使って僕を誘い込む為の・・・。


どちらにせよ、助けてあげなければ・・・。
ディオに脅されているのかもしれない。

 疲れた体に鞭を打ち闇の中の更なる空間へと足を延ばす。


 一気に空気が変わる。
 冷たく、邪悪でまがまがしいものに。


 「はあ・・・はあっ・・・」

 息が苦しい。疲労からではない。
この場所に入ってからというもの急に呼吸が苦しくなったのだ。



ガオーーン・・・


重々しい音が背後からこだまする。
うすうす判ってはいたが、閉じ込められたようだ。

 「ディオ!いるんだろう!判ってるぞ!出てこい!」

ジョナサンは何とか呼吸を整えると、
闇の中にいるであろう彼に向って叫んだ。

しかしその答えに帰ってきたのは美しくも怪しい女性の含み笑いだった。
目がだんだん暗闇に慣れてきて、ぼんやりと人影が見えてくる。

人影はふたつ。先ほどの女性とそして・・・ディオ本人だった。
女性はうっとりするような顔でディオの顔を見上げている。
かなりの美女であったがよく見るとエリナにはあまり似ていない。
最もこんな暗がりで彼女の顔をはっきり見ることなんで不可能だが。

会いたいと思う心が見せてしまった眩惑なのか。

ジョナサンは自分の不甲斐なさに歯噛みをし、ディオを睨んだ。

 「ふふふ・・・まさかと思ったが、ここまで容易く引っかかってくれるとは・・」

うっとりしてしがみつく女性を無視して、
凍てつくような紅い瞳でジョナサンを見つめる。

 「もういいだろ・・彼女を開放して、僕と戦うんだディオ!!」

いきり立って叫ぶジョナサンを見つめたままディオは口元を歪めると

「・・・そうだな・・。」

そういって彼女をやさしく引き離す。そして初めて彼女を見つめ・・



「というわけで、さよならだ・・・」



 「え・・・待っ・・・」

そう彼女が言い切る前に困惑したままの彼女の顔は宙に舞う。
ジョナサンが瞬きする暇もなくそれは彼の足音にボトリと落ちた。

 目を見開いたそれにみつめられていたジョナサンはしばらく言葉をなくし
た。


 「・・・・何の関係もない彼女になんてことを!!・・・といわないのか・・・?
  え・・・?ジョジョ・・・・・。」


 冷ややかな言葉に一瞬我に返りキツくディオを睨むジョナサン。

 「ついでにいただくか・・・」

そんなジョナサンを無視してディオは首をなくした胴体に指を突き刺す。
 見る間に美しくみずみずしい体は干からびていった。

 「ディオっ・・・!!貴様!!」

ぎりぎりと睨みつけるジョナサンを楽しそうに眺めながらディオは
不敵に笑った。

「ふん・・・確か貴様に言ったことがあったよな・・・俺は媚びるものが
 大嫌いだと・・・。ああ・・・確かお前のばか犬が・・・・」

 「貴様あああああ!!許さん!!」

 呼吸が苦しいのも忘れて鋭いこぶしを繰り出すジョナサンの一撃をディオ

 あっさり受け止めると、首筋に重い一撃をジョナサンにお見舞いした。

 「があ・・・っ!」

ドスっと彼が地面に落ちるのと同時にディオは彼の体に蹴りをいれる。
そのまま地面を滑るようにジョナサンは転がっていった。

 「くそ・・・.はあっ・・はあっ・・」

 仰向けの体制から起き上がろうとしたジョナサンの体を
 ディオの足が踏みつける。

「ぐうっ・・・・」

このままさらに踏みつけると思いきや、ディオはにやりと笑いながら
 すっとその足をどけた。そのままジョナサンに背を向けると

「こい。」

と一言だけ言葉を発した。

連続攻撃を覚悟していたので、最初は面を食らうジョナサンだったが
きっと卑怯な手を使わずに自分と戦うつもりなのかと
体勢を立て直そうとした。

が、間一髪ディオが口をはさむ。

 「・・・まあ・・その前にたてればの話だが・・?」

ディオの含み笑いが聞こえる。
不審に思ったジョナサンが腕に力を入れたその時、


ひやり・・・


手首にあたる冷たい感触。片方だけではない地中から出た太い鉄の輪。
先ほどまでこんなものはなかったはずなのに・・・彼が輪から手を抜こうと
した瞬間きゅっと彼の両手首をそれは締め付けた。

ありったけの力を込める・・。しかし外れない。たぶん無理なのだろう。
何よりも自分を不敵な笑いを受かべて見下ろしているディオの姿で
それを思い知らされた。

「ディオ・・・!何故だ!何故正々堂々と戦わない!お前は必ず僕に勝つん
 じゃなかったのか!
 こんなプライドも何もない勝ち方でお前はそれでいいのか!!」

こんな状況でもジョナサンはディオを強く睨みつけるのを止めない。この後
ディオは必ず自分を嬲り殺しに来るだろう。正直恐怖がないわけじゃないが
それよりも彼に対する憎しみが、彼を倒すという
正義感が恐怖を払いのける。

ディオはジョナサンの傍らに片膝を立てる形ですわり、彼の頬に自分の
手を滑らす。このまま目をつぶすのか、
喉を締め付けるのかぶん殴るのか。

ジョナサンはあらゆる攻撃を覚悟した。だが視線はディオを捉えたままきつ
く睨んだままで。

ディオは薄く笑うと頬を撫でていた手を
首にスライドさせ鎖骨の所まで待っていくと
指を一本立てそのまま左胸上部から右胸上部まで滑らせた。

 「・・・・っ!」

 軽くではあるがナイフで軽く切られたかのように紅い筋が一本入る。
すぐに鮮血が浮き出てきたそれをディオは指で掬い取り自分の口に
運んだ。


 「ふふ・・・お前の血は飲めば飲むほど力が漲ってきそうだ。」

 綺麗だが残酷な笑いを浮かべディオは自分を見下ろす。

このまま血を吸われてしまうのか。自分も吸血鬼になってしまうのか。
そして罪もない人を襲ってしまうのか。そんな考えが頭をぐるぐる回る。
そんなジョナサンの考えを察したのかディオはさらに赤い線を一本
彼の体に作り、手についたそれをまた口に運びながら呟く。

 「吸血鬼にされると思ったか?ばかな・・そんなことはしない。」

ならばどうする気なのだと考えを巡らせながらもなんとか隙が出来ないかと
 ジョナサンはしきりに様子を伺っていた。

そんな時自分の肩あたりからぷつ・・・と何かが外れる音がした。
顔だけ向けると自分のショルダーパットをつなぐ胸当ての

ベルトがいつの間にか切られている。そして反対の肩からも
それが切れる音がした。

 「邪魔だ」

無表情でディオが胸当てを引きはがし投げ捨てる。
それはむなしい音を立て遠くへ転がった。

途端に胸に冷たい空気が当たり身震いする。

あんな胸当てでもあるのとないのでは大きな違いだ。
いくら鍛えあげられた人間でも皮膚というものは脆く、紙一枚だけでも
体に傷を残せる。先ほど簡単につけられた二本の傷がいい証拠だ。

このままディオは自分の体を裂きにかかるのだろうか。

 心臓を抉り出すのか内臓を引きずり出すのか、彼なら躊躇わない
 だろう。勿論そんなことをされれば全てが終わりだ。

だめだ。彼をこのまま生かしたまま残して死ぬのは。
 相打ちなら構わない。なにか・・・なにかないのか突破口は・・。

ディオは相変わらずそんなジョナサンの考えを知ってか知らずか
睨みつける彼の顔を満足そうに笑いながら見つめ、手だけを
体にはわせる。

 「・・・!!」

ジョナサンの体が思わず跳ねる。大きなその目が動揺で見開くのを
ディオは見逃さなかった。

 「・・・どうかしたかな・・・?」

ディオはわざと優しい顔でジョナサンを覗き込む。
その手を左胸に置いたまま。

 「・・・・・。」

思わずディオから目をそらす。
顔は見えないがディオがまた笑った気がした。

 「なんでもないならいい・・。」

そのまま左胸を掌でくるりと回す。

 「!!」

またジョナサンの体が跳ねる。

 「おいおい・・・ほんとにどうしたというんだ?」

ディオが馬鹿にしたように笑う。

 「心音が随分と早くなっているようだが・・・。」

それを言われてジョナサンの頭のなかは真っ白になった。
ディオは自分の胸に手を置いているから、自分が動揺しているのを
いくら隠してもばれてしまう。

正直自分がどうしてこうなっているのかわからない。不快といえば不快だが
奇妙な感覚が体を支配しているのも事実で。
性にあまりも疎い彼の体は少しの刺激ですぐ反応してしまう。

 「黙っていたらわからんな。・・・んー?」

ディオは彼の胸から掌を離すと、その鋭利な爪でジョナサンの
胸の突起を軽くひっかく。

そのたびにジョナサンを歯を食いしばり必死に耐える。

 「や・・・やめ・・ろ!!」

 「なぜだ?」

 「不快だからだ・・・っつ!!」

 「なにが?どう不快なのだ?」

 「・・・きさまっ・・わかってッ!!ひ・・一思いに攻撃しろ!」

苦しい。いっそズタズタに引き裂かれたほうがどんなにましか。
死にたいと思ったことは何度かあったが、今日ほど思わされる
ことはなかった。快楽の合間になんとか手首に力を込める。

しかし力を込めれば込めるほど何故か呼吸は苦しくなる。

 「はあ・・・っ!!はあっ・・」

思わず顔が苦痛にゆがむ。息がしずらくてくるしいのと訳の判らない

感覚と屈辱。一瞬涙が浮かぶ。それが悔しさでかどうか判らないが。

 「ふふ・・」

ディオの冷たい笑いでジョナサンは我に返りきつく彼を睨む。

その時ディオは口元を一層深く歪めた。

 「その瞳だ・・・」

ディオが引っ掻いてた指を止める。

 「・・・?」

いきなり頭をわしづかみにし息がかかるほど近くに顔を近づけるディオ。

 「その瞳を見ると堪らなく興奮するのだ・・・堕ちそうになりながらも
 すぐ力強い輝きを取り戻すその瞳が!」

そう叫ぶともう片方の手で一気にズボンを引き摺り下ろす。

 「なにを!!正気か!!」

ジョナサンはおもわず鉄の輪に両手
が嵌まっていることも忘れ上体を思い切り
持ち上げようとする。しかしディオの手と鉄の輪にそれはすぐ阻まれる。

ディオの手が無情にもジョナサンの口を塞ぐ。

「俺にまだ正気が残っているとでも思ったか?この間抜けが・・・
人間を止めた時から俺には正気など必要なくなった・・・。」

くくくとジョナサンを見下ろしながら冷酷に笑うディオ。

息が苦しい上にさらに口を塞がれる。苦しくて涙目になりながらも
ディオの視線から逃げることなく力強く睨むジョナサン。

ディオは凶気に歪んだ顔で満足そうにそんな彼を見ながら
両足を自分の膝の上に持ち上げる。体を、ほぼ、
くの字に曲げられる圧迫感に思わずジョナサンは呻く。

ディオは不敵な笑いを浮かべたままジョナサンに語りかける。

 「昔からお前はそうだったな。何度も何度も陥れても決して落ちぶれもせず
 何度も何度も痛い目にあっても決して弱音を吐かず諦めず・・・」

 「絶対お前を泣かしてやると思っていた・・・このおれの手で・・・」

 「それなのに俺が先にお前に涙を見せるという失態を見せてしまっ
た・・・。」

 「だがある日お前はとうとう涙を見せた。俺の前でないた。」

 「覚えているだろう?忘れるはずがないよな・・・あの犬の命日を」

 そういわれた瞬間。

一気にジョナサンの体の熱が上がる。頭に血が上る。苦しいのも忘れ
強い怒りを露わにし目をカッと見開いた。

泣いたことを馬鹿にされて怒ってる訳じゃない。大切なあの愛犬を
彼のくだらない都合で無残に殺されたことを思い出して腸の煮えくり返る
ような怒りにわなわなと体を震わせる。この手が動けば・・・
この戒めが外れれば。

だがいくらそう思っていても神は彼に味方はしてくれなかった。

ディオはそんなジョナサンをせせら笑うように太ももから臀部にかけて
手を這わせる。その瞬間ジョナサンは突然冷や水を体に浴びさせられる
感覚に陥った。体が硬直する。いくら性に疎くてもこれから起こるであろう
おぞましい行為を考えるとジョナサンは鳥肌が立った。

ディオはちら・・と視線だけジョナサンの顔に向ける。
そして笑みを浮かべたままさらに話しかけた。




その愛犬の命日のことを・・・


あの時ダニーを失ったジョナサンは
夕飯も口にせず自室に閉じこもっていた。

ベットに突っ伏し声を殺して泣いた。一生懸命声を殺して。

その時ディオが入ってきた。

むろんジョナサンはディオに対して「出て行ってくれ!」と怒鳴った。
その当時ディオの仕業だという証拠はなかったし、
ディオにもアリバイがあった。

ディオがダニーに対し酷いことをしたことは忘れていないしはっきりと
彼の口から「犬は嫌い」と言うことも聞いた。動悸は十分にあるが
はっきりそれを目撃した人間はいない。彼が「違う」と言えば嘘だ
と言い返すこともできない。それが関係あろうがなかろうがディオはどうせ、
また嫌味の一つでも言いに来たのかとジョナサンはひたすら
「出て行ってくれ」の一点張りしか言わなかった。

しばしの沈黙

ディオが口を開いた。

 「僕を殴ればいい・・・」

 「!」

 突然の発言に思わず涙に濡れた目で彼を見つめる。

目と目があった瞬間ジョナサンは自分がみっともなく
泣いてたことを思い出しすぐ顔を彼から背けた。

いったい彼の発言はどういう意味を・・・?

あれこれ勘ぐりする間もなくディオが話を続ける。

「ダニーのこと僕を疑っているんだろ。でもこれだけは
 はっきり言おう。確かにぼくはあの犬が嫌いだったし
 酷いこともした。でも殺すことなんかできない。
 僕の命に誓ってもいいよ・・・。」

まっすぐな目でジョナサンに力強く言い放つディオ。
何も言えないジョナサンに静かに近づく。

「なら何故殴れって言ってんだと思ってるんだろうね?
 いわばこれは今までの罪滅ぼし・・・。ジョジョ・・
 今までの僕は本当にひねくれ者だった・・君と
 過ごしていくうちに段々と気づいていったよ。
  僕は心のきれいな君に嫉妬していたのだなと思う。
 ・・・でも反省して済むことじゃない・・・今までの
 君に与えた苦痛をお返しされるべきだと思う・・」

そういうとディオは両手を広げた。
そしてまっすぐジョナサンを見つめたまま
いまだ、嗚咽を続けている彼の背中に向けて
言い放った。

「さあ!僕を犯人だと思って怒りをぶつけて。
 僕は一切抵抗はしない。君の気が済むまで
 殴り続けるがいい。」

さっきまで黙っていたジョナサンだったが
ついに重い口を開く。

 「・・・はずがない・・」

 「・・え・・・?」

 「そこまでいうのなら君には何の罪もない・・・
 僕は君を信じる・・・君がやれるはずがない・・」

 「ジョジョ・・・」

 「握手・・・してくれるかい・・?」

いまだ涙の渇き切らない顔でジョナサンはディオに握手を求める。

 一生懸命涙をこらえて。一生懸命笑顔を作って。

 「ありがとう・・・」

そういってディオはジョナサンの手を固く握り返した。

 「ごめん・・これから立派な紳士になろうって決意したのに
  こんなみっともない・・・」

ジョナサンは鼻をすすってハンカチで拭きながらベットに腰掛ける。

ディオは「となりいいかい?」といって彼の横にすわると

 その肩に手を回した。

 「我慢することないよ・・・。」

 「え・・・?」

 「こういう時は思いっきり泣いたほうがいい。」

 「でも紳士が・・・。」

 「ああ、みっともないね。けどね、それはどうでもいいとき
 に泣いた場合だと思うよ。痛かったときとか、くだらない
 自尊心が傷ついたときとか・・・あ・・やだな自分が
 みっともないって認めちゃったよ・・・。」

そういうとふふっと困ったようにディオは笑った。

ジョナサンが慌てて否定すると「やさしいんだね。」

と微笑み返した。今までにないディオの優しさに
また泣きそうになるジョナサンを見てディオが
言いづらそうに口を開く。

 「君が我慢しているのを見るのはつらいよ・・・。」

 「・・・・!」

 「君は強い奴だ。それは僕もわかる。だけどね
  たまには弱いところも見せてくれよ。そうじゃなきゃ
 僕の立場がないじゃないか。」

そう言ってばつが悪そうに頭をかく。
きっとジョナサンに殴られて泣いたときのことを
いっているのだろう。そんなディオを見ていた
ジョナサンは一気に気が緩み・・

「そ・・そうかな・・はは・・・うっ・・うう・・」

 大きな瞳から大粒の涙がこぼれる。

 「うわあああああああああああ!!」

そして彼はディオに肩を抱かれながら一心に泣き続けた。

ジョナサンには見えないディオの顔が、
邪悪にゆがんでいることも知らずに・・・。



 『・・・・ああなんて快感なんだろう。この優越感。君の今の姿は
凄く可愛そうでなんて惨めなんだろう・・・。でもきみはまた
時間がたてばあの強い輝きを取り戻すんだろうね。そうしてまた深く
傷ついてはまた一層輝く・・・。ああ楽しいよ・・・』




 『いつか君の輝きがもう戻らないくらい壊せる日が来ると思うと・・・』

 『どうかその輝きを壊す者が』

 『僕でありますように・・・』





「あの時はほんとに・・」

ディオの声がジョナサンの意識を呼び戻す

「最高に快感だったぞ!」

ディオが叫ぶと同時に下半身に鋭い痛みが走る。

 「!!!!!!」

外部から感じる衝撃とは違う未知の痛み。嫌な音。何かが切れる音。
中から血がじわりと出てくるのがわかる。

 息ができない。一気に体の温度が下がる。

大きな瞳がさらに大きく見開かれる。
体が震えだし硬直する。

 「・・・俺がなぜお前を生きる屍にしないか判るか?」

今だ声も発することもできないジョナサンに向って
話しかける。見開かれた大きな瞳がかろうじて

 ディオの狂気の表情を捉える。

 「俺はな、魂の汚れたお前なんか見たくないんだ・・」

そのままディオが体を動かす。ゾクッとくる感触。
未知の痛み。外部の痛みならどんなものでも耐えられる。

でもこれは・・・・

「俺は美しく強い魂を持つお前に強く惹かれ・・・」

 「そしてその魂をじわじわと傷つけて
 再起不能になるまで追い込んでやるのが・・・」

 「何よりも快感なのよォ!」



またディオが体を動かす。
その度にくる痛み。悔し涙。そして・・・・耐え難い屈辱。

この手が自由なら体を掻き毟ってでも
この痛みを屈辱を和らげることができる。

 屈辱のある痛みからただの痛みに変えることができる。
 少しだけ動く手を地面にぶつける。だがすぐにその動きは封じられる

 ディオの顔が近い。鋭い牙を覗かせる。



 「大丈夫だ・・・。そんなことをしなくてもお前は快楽に負けたりしない。」



 金の前髪がジョナサンの顔に当たるくらいの距離でディオが言い放つ。


 「それに、お前は快楽など感じなくていい。
 ただ俺に女のように支配される屈辱と
 痛みを味わえばいいんだ。俺を憎め、何もできない自分を憎め!」

 「俺を浅ましく求めたりするな・・・?その時はあの女共と同じだとみなす。
  勿論そんな奴はこの俺が殺す。ああいう風にな」



そういって、ディオは指だけさしたその方向にはあの女の首が
恨めしそうにこっちを見ていた。


思わず目をそらし首を背ける。恐怖からではない。哀れで
とても見ていられないからだ。だがディオに無理やり顔を女のほうに
持っていかされる。ディオが耳元で囁く。

 「あの女、口が利けたらこういうだろうよ。自分を差し置いて・・男のくせに
 ディオ様に抱かれるなんてなんて厚かましい!浅ましい!・・・とな。。」


いままで目をつぶってディオから顔を逸らしていたジョナサンだったが
それを聞いた途端燃えるような目でディオを睨みつける。


 「その目・・・貴様・・本当に俺を興奮させるのがうまいな!」


なお動きを速めるディオにもう悲鳴しかでてこなくなったジョナサンだったが
再度女の顔と目があい、襲いくる痛みと屈辱の中、彼女のことを思った。

もしディオがいなかったら、僕がディオを止められていたなら

彼女はこんな惨めな最期を遂げただろうか・・・子供ができて幸せな
家庭を築き上げて・・


ごめん・・・ほんとうに・・・


やりきれない悲しい気持ちが彼の頬を濡らす。


その時だった。


ディオの両手がジョナサンの首を絞めるのと同時だったのは。


 「うぐ・・・!!」


ディオの声が更にドスを効いたものに変わる。


 「貴様・・・今何を思って泣いた・・・?」

 「っつ・・・・!」

 「あんなどうでもいい女に対して涙を見せたのか・・!!同情か!え
え!?」

答えを聞きたいのか聞きたくないのか、
ディオはジョナサンの首を絞め続ける。


 「あんなくだらないことで涙をみせるなあっ!」

 「いいか・・・お前の泣きっ面はおれが・・・・・」


ディオが何か言っている・・・・。だめだ意識が遠のいていく・・・。

ディオはこれから俺をどうするんだろう。このまま殺すんだろうか。

だめだ・・・まだ死ねない・・・まだ・・・


 まだ・・・・


 ま・・・・


そして僕の意識はそこで途絶えた。



「ジョー・・・さんジョースターさん!!」



 聞きなれた声。ぼんやりと映る影。見たことのある帽子、長い髪。

いきなりジョナサンが目を覚ますと逆に驚いて跳ね返るスピードワゴン。


 「びっくりしたーそんないきなり目をカッと見開かなくても」


いつものようにおどけた拍子で頭を彼はぼりぼりと掻いた。


 「・・・・・!!」


いきなりばっと飛び起き自分を見直す。ズボン・・・履いているし・・

胸当ては・・・ない!

夢では・・・悪夢ではなかった。胸に2本の小さな傷。腰の痛み。

立つと引き裂かれるような内部の痛み、そして出血。

悪夢であって欲しかった。これから僕はどんな顔して
皆と向き合えばいい・・・?

今だ呆然としているジョナサンを、
スピードワゴンは心配そうに見ていたかと思うと
はっと思い出したかのように胸当てを彼に渡した。

 「あ、これ向こうに落ちてたから・・・」

相変わらず彼らしい笑顔でニッと笑ってジョナサンを促す。

 「さ、ツェペリの旦那がまってるぜ。」

スピードワゴンは帽子をかぶり直すと光のあるほうへと向かう。

ふと自分が立っていた位置に血だまりが出来ていたことに気付く。
いくら出血したとはいえここまでの血は流れていないはずだ。
ふと暗い中目を凝らすと小さな黒い化け物が死んでいるのがわかった。

どうも血だまりはこの化け物のらしい。

ジョナサンはそこに座っていたらしく
ズボンの尻から太ももにかけて血がべったりついていた。

それともうひとつおかしなことに気付いた。あれほど希薄だった空気が今は
元に戻っているのだ。

ジョナサンはスピードワゴンに問いかける。

 「この化け物君が?」

しかしその質問にスピードワゴンは

「え?ジョースターさんじゃなかったんで?」

と、いぶかしそうに首をかしげた。

スピードワゴンが言うことにはそこの扉を開けた時には
ジョナサンが血だまりに倒れていてその傍らに化け物の
死体があったそうだ。聞きづらかったがおそるおそる
衣服のことを聞いてみたが、胸当てがはずれていたこと以外
何の変化もなかったらしい。彼は嘘をつける人間ではないし
このまま信じたいとジョナサンは思った。

それにしてもあれは本当にディオだったのか。この化け物の
仕業じゃないんだろうか。

情けない・・・まだ認めたくない自分がいる。

ぼんやりと考えているとスピードワゴンがジョナサンを
大声で促す。ジョナサンはむりやり頭を切り替えると

 スピードワゴンの所へ走って行った。







綺麗な装飾のしてある。美しい部屋。仄暗い光が
怪しく二人の体を照らす。

しかしそのうちの一人は叫び声を上げそのまま
その身をベットに沈めて行った。

 「ふん・・・つまらん・・・。」

「食事」をおえ、ディオがガウンを羽織った。
扉の向こうから声が聞こえる。

 「どうでしたか?今日の極上品は」

 下種な声に眉を顰めながらディオは鼻を鳴らし
扉の向こうにいるであろう部下に冷たく言い放つ。

 「別に・・何時ものようにつまらんものだった」

その反応に慌てて部下は言い訳する。

 「そ・・・そんな筈は!一国の王が大金をはたいて買ったような女ですよ。」

ディオは不機嫌を露わにした声で部下に尋ねる。

「きさま・・・俺に文句でもあるというのか?もういい
食事などそこら辺の売女で充分。さっさとこれを処分してとっとと戻れ。」

 部下は「は・・はい」と怯えながら死体を運んでいく。



 全くつまらん・・・外見が細く美しいからなんだというのだ。肌が
絹のようになめらかで柔らかいからそれがどうしたというのだ。

くだらない。愛もただの快楽も。

俺が満たされたいのは征服欲。征服する相手が強ければ強いほどいい。
魂が気高く美しくあればあるほどよい。

今日は楽しかったぞ・・思い出しても興奮する。
多分俺を満足させる奴はお前を置いていないだろう。

もしお前が死んだら・・・まあ俺の手で殺すつもりだが・・
もしお前の血を受け継ぐ子孫たちがいたら・・・
お前の穢れ無き魂を受け継ぐ者がいたら・・・
同じ目に合わすのもまた一興だな・・・

その時お前は・・・あの世でどんな顔をするだろうか・・・

 くくくとディオは笑い大きな窓を勢いよくあけた。





 早く俺のもとへ来い。


まだ足りない。


 俺の手で


 その強く、宝石のような美しい魂を


少しづつ砕いていってやる。


 犯してやる。


お前の穢れ無き魂を。






 終わり



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